1.事案の概要
(1)本件は、控訴人(原告。X1)が、著作権等管理事業法(事業 法)2条3項による著作権等管理事業者(管理事業者)である 被控訴人(JASRAC。被告。Y)に対して、ライブハウス(本件店 舗) での演奏利用許諾の申込みをした(この申込みの中に は、X自身が作詞作曲をした楽曲も含まれていました)とこ ろ、本件店舗はYが管理する楽曲の著作権使用料相当額の 清算が未了であることを理由としてYより許諾が拒否された ため、Xは、本件店舗で予定していたライブの中止を余儀なく された等とし、Xの演奏者としての権利等が侵害されたとし て、不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料等を請 求するなどした事案です(以下、YによるXの利用許諾申込み の拒否を「本件拒否」といいます。)。
(2)本件の前提として、本件店舗とYの間では、本件店舗におい てYが管理する楽曲が無断で演奏されていることを理由に、 Yから本件店舗の経営者Aらに対し、本件店舗における演奏 の差止め及び損害賠償等を求める訴訟(別件訴訟〔ファン キー末吉事件〕)が提起されていました。その審理では、経営 者のAらが、本件店舗における楽曲の演奏主体(著作権侵害 主体)であるかが争われていましたが、Yが本件拒否をした 当時、既に別件訴訟では、Aらの演奏主体性を肯定し、Aらに 差止め及び損害賠償を命じる一審判決(別件一審判決)が 言い渡されていました2。この別件一審判決について、Aらは ホームページ等で不服があることを明らかにするとともに、今 後本件店舗でYの管理楽曲を演奏する場合には、出演者自 身がYに利用許諾を申込むことを案内していました。Yに対 する利用許諾の申込みを、本件店舗の出演者個人であるXが直接行っているのは、以上のような背景によるものです。
(3)本件の原審はXの請求を全部棄却したため、Xが控訴しまし たが、知財高裁(本判決)もXの請求には理由がないとして、 控訴を棄却しました。本稿では、管理事業者による利用許諾 申込みの拒否が不法行為を構成する場合について、本判決 が示した考え方を紹介します。
2.裁判所の判断
(1)権利侵害の内容について
まず、知財高裁は、Yのような管理事業者による利用許諾申 込みの拒否が不法行為を構成する場合について、以下のよ うに判示しました(下線等は筆者。一部要約あり。以下同 じ。)。
- 管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著 作物等の利用の許諾を拒んではならないとされている(事業 法16条)から、演奏家は、Yが管理する楽曲について、このよ うな法規制に裏付けられた運用を通じて、希望するYの管理 楽曲を演奏することができる利益を有している。
- こうした利益は、表現の自由として保護される演奏家の自 己表現又は自己実現に関わる人格的利益と位置付け得るも のであるから、民法709条の「法律上保護される利益」である といえる。
- そうすると、楽曲の著作者から委託を受けて著作権等を管 理するYが演奏家の希望する楽曲の利用の許諾を拒否する 行為は、事業法16条が規定する「正当な理由」がない限り、 上記の意味での人格的利益を侵害する行為であって、不法 行為を構成するというべきである。
(2)「正当な理由」の判断方法
次に、本判決は、事業法16条の「正当な理由」の判断方法 について以下のように判示しました。
- 著作権者等は、多くの利用者に著作物等の利用をしてもら うことによって多くの使用料の分配を受けることを期待して、 管理事業者に著作権等の管理を委託しているから、管理事 業者が利用者の申込みを自由に拒絶することは、委託者の 合理的意思に反するのみならず、著作物には代替性がない ものも多くあって、著作物の円滑な利用が阻害されることとな ることから、事業法16条の規定は、管理事業者は、原則とし て、著作物等の利用を許諾すべきことが定められたものと解 される。このような規定の趣旨に鑑みれば、利用者からの申 込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反する 場合には、同条の「正当な理由」があるというべきであり、例 えば、利用者が過去又は将来の使用料を支払おうとしない 場合が考えられる。
- また、著作権等管理事業の制度趣旨に基づき、Yが多数の 委託者からの委託を受けて楽曲に係る著作権等を集中的に 管理しており、委託者も広く楽曲の利用がされることを期待し てYによる楽曲に係る著作権等の集中管理を前提とした委託 をしている以上、通常の委託者の合理的意思を検討するに 当たっては、Yによる楽曲全体の著作権等に関する適正な管 理と管理団体としての業務全般への信頼の維持という観点 を軽視することは相当でない。そうすると、利用者からの申込 みを拒絶することについて「正当な理由」があるか否かは、 個々の委託者の利害や実情にとどまらず、著作権等に関する 適正な管理と管理団体業務への信頼の維持の必要性等に ついても勘案した上で、利用者からの演奏利用許諾の申込 みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反するか 否かの観点から判断されるべきである。
(3)本件拒否について
そのうえで、本判決は、本件拒否は以下の理由により「正当 な理由」があるとして、不法行為を構成しないとしました。
- 本件では以下の次のような事情が認められる。
- 本件店舗においては長期間にわたってY管理楽曲が無許諾で使用されていたにもかかわらず、過去の使用料が 全く清算されておらず、Aらは別件一審判決に従わない旨 を表明していた。
- Xの利用申込みは、Aらが演奏主体であるにもかかわら ず、形式的に演奏の利用主体を出演者としてYに利用許諾 を求める本件店舗のホームページ等の呼びかけに応じた 形でされたものである。
- Xは、本件店舗に21回程度出演しY管理楽曲を演奏して おり、別件一審判決直後も無許諾で演奏していた。
- このような客観的、外形的状況に照らせば、Yとしては、Xの 申込みにつき、著作権の管理に係るYの方針に従わず、無許 諾で長期間にわたってY管理楽曲を利用してきた本件店舗 の運営姿勢に賛同し、支援するものであると受け止めざるを 得ないのであって、こうした利用申込みに許諾を与えること は、通常の委託者の合理的意思に反するものであり、Yの管 理団体としての業務の信頼を損ねかねないものでもあるか ら、このような疑念を払拭するに足りる特段の事情が認めら れない限り、本件拒否は不合理とは言えない。
3.本判決の意義
本判決は、①著作権等管理事業者が、利用許諾の申込み を、「正当な理由」(事業法16条)なく拒んだ場合には不法行為 を構成すること、及び②「個々の委託者の利害や実情にとどま らず、著作権等に関する適正な管理と管理団体業務への信頼 の維持の必要性等についても勘案した上」、当該申込みを許諾 することが「通常の委託者の合理的意思」に反する場合には、 「正当な理由」があること(逆に言えばそうでない場合には許諾 をしなければならないこと)を明示した点に意義があります。直 接に問題となる例は少ないと考えられますが、先例的価値があ るかと考え、紹介する次第です。
