台湾の著名アパレルブランド「iROO」を展開する原告が、フィットネスウェアブランド「AROO」を展開する被告に対し、商標権侵害およびドメイン名の登録抹消等を求めた訴訟の控訴審判決を紹介する。本件は、被告が「自社の登録商標を使用している」と抗弁したものの、実際の使用態様が当該登録商標と異なることを理由に侵害が認定された事例である。一方で、ドメイン名の抹消請求については、要件である原告商標の「著名性」を満たさないとして、棄却された。

裁判所は、一審判決[1]を一部変更し、以下の通り判断した[2]。
1. 登録商標の「変形使用」と過失の認定
被告は「自社の登録商標(AROO+図形)を使用しているため、商標権侵害にはあたらない」と主張した。これに対し裁判所は、被告がウェブサイトや商品において、図形部分を使用せず、文字「AROO」のみを強調して使用している事実を認定した上で、以下の通り判示した。
裁判所は、商標権者が商標を使用する際は、その使用方法が登録の範囲に合致しているか常に注意を払う必要があり、他人の登録商標と同一または類似し、混同を生じさせるような構成を避けるべきであると指摘した。その上で、被告が自身の商標を変形して(文字部分のみを)使用した行為は、結果として原告商標との誤認混同のおそれを生じさせるような使用を行った以上、たとえ刑事事件で不起訴処分(故意の立証不十分)となっていたとしても、民事上は善良な管理者の注意義務を欠く「過失」があると認定した。
2. 商標の類否と誤認混同の認定
裁判所は、原告商標「iROO」と被告使用標章「AROO」について、以下の理由から類似すると判断した。
• 外観:「ROO」の部分は完全に同一である。先頭の「A」と「i」は異なるが、原告商標の「i」は斜体で表記されており、視覚的に「A」と近似する効果がある。
• 称呼:両者とも2音節であり、後半の「ROO」が長音となる点で共通しており、聴覚上も類似する。
• 混同の可能性:市場調査(アンケート)の結果、50%以上の消費者が両者を「同一または関連する出所」と認識したことから、誤認混同を生じさせるおそれがあると認められる[3]。
以上の理由により、被告による商品やウェブサイト上の「AROO」の使用は、商標法第68条第3号に基づく侵害行為と認定された。
3. 商品の類否
被告は、原告が女性用服飾、被告が男性用運動服飾であるため異なると主張するが、いずれも人体に着用するものであり、一般通念上、類似の商品に属すると判断された。
4. ドメイン名・アカウント名における「商標的使用」の否定
原告は、被告がドメイン名(aroo.com.tw)やSNSのアカウント名を使用する行為についても差止を求めた。これに対し裁判所は、本件におけるドメイン名やプラットフォームのアカウント名は、一般的に「営業主体(被告自身)を識別するための記述(屋号的使用)」として認識されるものであり、商品・役務の出所を表示する「商標の使用(商標法第5条)」には該当しないと認定した。商標の使用に該当しない以上、第68条(誤認混同)に基づく侵害は成立しない。
5. 「著名商標」の該当性とドメイン名(請求棄却の要因)
原告は、商標法第70条第2項(著名商標の文字をドメイン名等として使用する行為の擬制侵害)の適用も主張したが、裁判所は原告提出の資料が特定のイベントに関するものに過ぎず、市場調査での認知度も約30%にとどまることから、原告商標の著名性を否定した。 結果として、商標的使用に該当しないドメイン名等への使用について、著名商標としての保護も及ばず、登録抹消請求等は棄却された。
6. 損害賠償と代表者の連帯責任
裁判所は商標法第71条第1項第3号[4]に基づき、イ号製品の小売単価の倍数(本件では販売総額)を用いて損害額を算定した。また、被告会社の代表者は業務執行の範囲内で侵害行為を行ったとして、会社法第23条第2項に基づき、会社と連帯して250万台湾ドル(約1,250万円)の賠償責任を負うと判断された。
当所コメント
本判決は、2025年12月に最高裁判所にて調停が成立し確定しているが、以下の点で日本企業の実務に重要な示唆を与える。
1. 「使用態様」に合致した権利化の重要性
ロゴと文字の結合商標を取得していても、実務上「文字のみ」を使用する場合、その登録商標は侵害の抗弁として機能しないばかりか、過失の認定根拠(注意義務違反)となり得る。実際に使用する態様(文字商標)での出願・登録が必須である。
2. 商標的使用」と「屋号的使用」の境界
本判決は、ウェブサイト上のロゴ表示(商標的使用)と、ドメイン名・アカウント名(主体表示)を明確に区別した。ドメイン名紛争において、商標権者の商標が「著名(台湾実務では極めて高い認知度が必要)」でない場合、商標権に基づく差止は困難である点が実務上の大きな留意点となる。
3. アンケート調査の実務
混同の立証においてアンケートは強力な証拠となるが、被告のように独自調査を提出しても排斥されるリスクが高い。裁判所の指揮下で、双方が合意した調査機関・設問を用いることが勝訴への鍵となる。
