1.事案の概要

本件は、まつげエクステンション(まつげエクステ。人工毛を 接着剤でまつげに付ける手法。)の専門店を営むXが、Xの元従 業員Y(退職後別のまつげエクステサロンに勤務)に対し、同人 がXの顧客に関する情報を取得した行為が不正競争行為であ るとして、損害賠償等を求めた事案です(なお、Yの再就職先の 共同経営者も提訴されています。)。具体的には、Yが、Xの従業 員に依頼し、Xの顧客カルテより特定の顧客の施術履歴(施術 した太さ・本数、地まつげの状態等)の撮影画像をLINEで受信 した行為(本件行為)が、不正競争防止法2条1項4号の営業秘 密の不正取得にあたるとXが主張し、Yがこれを争いました。 

2.裁判所の判断

(1)原判決(東京地裁令和2年11月17日1 )が、当該施術履歴は 秘密として管理されておらず、営業秘密にあたらないとして、 Xの請求を棄却したため、Xが控訴したところ、知財高裁は概 ね原審と同様の以下の事情を指摘し、当該施術履歴の秘密 管理性を否定して、Xの請求を退けました(控訴棄却)。

  • 施術履歴等を記載した顧客カルテは、Xの従業員であれば 誰でも自由に見ることができたこと。
  • 顧客カルテを共有する目的で、Xの全従業員をメンバーとす るLINEグループが作成されており、そこでは、必要に応じて 従業員の私用スマートフォン等で撮影した顧客カルテの画 像が共有されていたこと。また、共有された画像について、従 業員に画像を保存しない・削除するような指示はされていな かったこと。

(2) もっとも、本件行為に際し、YがLINEで「Eっていう私の友達 のカルテ、もらえたりしないかな?誰にもバレずに」等と送信 し、その後「私に友達のカルテ送ったことだけは内緒でお願 いします!」等と送信していた点に関し、Xがこれを秘密管理 性の根拠として主張していたことについて、原判決は、これら の事実からYにおいて、直ちに秘密管理性の認識があったと いうことはできないとの判断を示していました。

この判断について、知財高裁は、「秘密管理性は、従業員 全体の認識可能性も含めて客観的観点から定めるべきもの であり、従業員個々人が実際にどのような認識であったか否 かに影響されるものではないから、Yにおいて本件施術履歴 をXの営業秘密と考えていたか否かは、秘密管理性の有無 についての結論を左右しない。」と判示しました。

3.秘密管理性について

営業秘密の要件である「秘密として管理されていること」と は、「外部者及び従業員から認識可能な程度に客観的に秘密 として管理されていることを指す」等といわれています(知財高 裁平成23年9月27日判決〔ポリカーボネート樹脂製造装置事 件〕。太字等は筆者。)。すなわち、行為者が主観的に秘密として 認識していたかではなく、あくまでも客観的に秘密として管理し ていると認識できる状態にあるかが重要と解されています。本 判決は、新しい判断を示したものではありませんが、秘密管理 性の考え方を確認するうえで有意義であると考え、紹介する次 第です。