近年、内部通報制度の重要性はますます高まっており、内部通報制度が存在しないと いう上場企業はほとんどありません。他方で、内部通報制度が十分に機能していない等 の理由から長期間にわたって重大な法令違反が見過ごされている例も散見されます。 そのような状況を踏まえて、2020 年 6 月、公益通報者保護法の一部を改正する法律 (以下「改正法」といい、改正法による改正を「本改正」といいます。)が公布され、 2022 年 6 月までに施行されることとなりました。本改正では、内部通報制度がより実 効的に構築・運用されるよう、法律の構成自体が抜本的に変更されました。正に内部通 報制度のターニングポイントともいうべき法改正であり、事業者にとっては、改正法を 踏まえて対応すべき事項が少なくありません。 現在のところ 2022 年 6 月 1 日の施行に向けて準備が進められている改正法につい て、消費者庁は、2021 年 10 月 13 日、事業者が改正法を踏まえてとるべき措置の具体 的内容を示すものとして、「公益通報者保護法に基づく指針(令和 3 年内閣府告示第 118 号)の解説」(以下「本解説」といいます。)を公表しました。 以下、本指針の策定に至る経緯、本解説の内容のポイントと実務上の対応について述 べます。 Ⅱ.本指針の策定に至る経緯 1.本改正 本改正は、①公益通報の範囲の拡大、②事業者に対する公益通報に適切に対応する ために必要な体制の整備等の義務付け、③公益通報者を保護するための要件の拡充、 森・濱田松本法律事務所 弁護士 山内 洋嗣 TEL. 03 6266 8579 [email protected] 弁護士 山田 徹 TEL. 03 6266 8747 [email protected] 弁護士 西本 良輔 TEL. 06 6377 9408 [email protected] 弁護士 奥田 敦貴 TEL. 03 5293 4845 [email protected] CRISIS MANAGEMENT NEWSLETTER 当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。 © 2021 Mori Hamada & Matsumoto. All rights reserved. 2 を 3 つの大きな柱としています。このうち、本解説は主に②に関するものです。 改正法に基づいて、②の体制整備等に関する法的義務を負うのは常時使用する労 働者の数が 301 人以上の事業者ですが、労働者の数が 300 人以下の事業者において も、改正法や本解説を踏まえたより実効的な内部通報制度を構築することにより、企 業価値を一層高めることが可能となります。 2.検討会を踏まえた本指針及び本解説の公表 上記 1 の②のとおり、事業者には、公益通報対応業務従事者(以下「従事者」とい います。)を定めること(改正法 11 条 1 項)及び通報に適切に対応するために必要 な体制の整備その他の必要な措置をとること(同条 2 項)が義務付けられることに なりました。もっとも、事業者に求められる措置の具体的内容は、個々の事業者の実 情や社会的背景等に応じて異なるところであり、一律に規定することは困難です。 そして、事業者がとるべき措置の指針(改正法 11 条 4 項)を策定するため、消費 者庁に設置された「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」が、指針とし て定めるべき内容について検討を行いました。その後、消費者庁は、指針案をとりま とめるとともに、その背景となる考え方を示すべく報告書を作成し、2021 年 8 月 20 日に「公益通報者保護法第 11 条第 1 項及び第 2 項の規定に基づき事業者がとるべき 措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(以下「本指針」 といいます。)を公表し、続いて、2021 年 10 月 13 日に本解説を公表しました。 Ⅲ. 本解説の概要 1.本指針の概要 本指針は、①従事者の定め方、及び②内部公益通報対応体制の整備等の大枠につい て、下表のとおり定めています。
本解説は、事業者がとるべき措置を画一的に定め、一律に対応を求めるものではな く、事業者がとるべき措置の具体例を示したものです。そのため、事業者は、本解説 の内容を踏まえつつ、事業者の実情に即したオーダーメイドの対応を検討すること ができます。 本解説は、その検討の後押しをすべく、本指針を遵守するために必要な措置の具体 例だけでなく、推奨される措置の具体例も記載しています。また、本解説には、事業 者に推奨される事項を記載した「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・ CRISIS MANAGEMENT NEWSLETTER 当事務所は、本書において法的アドバイスを提供するものではありません。具体的案件については個別の状況に応じて弁護士にご相談頂きますようお願い申し上げます。 © 2021 Mori Hamada & Matsumoto. All rights reserved. 4 運用に関する民間事業者向けガイドライン」(平成 28 年 12 月 9 日消費者庁)の内 容も盛り込まれています。 以下では、本解説のうち、実務的に特筆すべきと考えられる事項について説明しま す。 2.従事者の定め 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益 通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項 を伝達される者を、従事者として定めなければならないとされています(本指針第 3.1・2 頁)。 これを、本解説の内容を踏まえてブレークダウンしますと、事業者が、従事者とし て定めなければならないのは以下の 3 つの要件を満たす者ということになります。 ①内部公益通報受付窓口を経由する内部公益通報についての対応を行う者である こと ②その受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及 び当該業務の重要部分について関与する業務を行う者であること ③当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者であること まず、①に関して、上司等への報告や内部公益通報受付窓口以外への通報も「内部 公益通報」にはなり得るものの、内部公益通報受付窓口を経由していない以上、その ような報告・通報を受けた上司等を直ちに従事者として定めなければならないわけ ではありません。 そのため、通報の受け皿が「内部公益通報受付窓口」に該当するかが重要となると ころ、その該当性は、その名称ではなく、部門横断的に内部公益通報を受け付けると いう実質の有無により判断されます(本解説第 3.Ⅱ.1.(1).③・7 頁)。すなわち、事 業者が内部公益通報受付窓口に設定するかどうかだけで判断されるものではないこ とに注意が必要です。この点、扱いが難しいのが、少なくない企業が設けている人事 や労働問題に関する相談窓口です。こうした窓口を内部公益通報受付窓口とは別に 設定したとしても、労働基準法に反する時間外労働等をはじめとする内部公益通報 がなされることが合理的に想定される場合に、当該窓口が内部公益通報受付窓口と 評価される可能性がないかということは慎重に見定める必要があります。仮に、内部 公益通報受付窓口と評価される場合には、事業者は当該窓口担当者を従事者として 定めておく必要がありましょう。 次に、②に関して、例えば、通報を受けて行われる社内調査等におけるヒアリング の対象者、職場環境を改善する措置に職場内において参加する労働者等、製造物の品 質不正事案に関する社内調査において品質の再検査を行う者等であって、公益通報 の内容を伝えられたにとどまる者等は、その調査に主体的に関与するものでも、重要 部分に関与するものでもなく、従事者とする必要はありません(本解説脚注8・6頁)。 最後に、③に関して、「公益通報者を特定させる事項」とは、公益通報をした人物
