1.事案の概要
(1)本件は、発明の名称を「軟骨下関節表面支持体を備えた 骨折固定システム」とする特許(本件特許)に係る権利者であ るXが、Yが製造販売する製品(Y製品)は、本件特許発明の技 術的範囲に属するものであり、Y製品を生産・譲渡等すること は本件特許権を侵害すると主張して、Yに対し、特許法102条1 項及び同条2項等に基づき、Y製品の生産・譲渡等の差止及 び廃棄並びに損害賠償金の支払を求めた事案です。原判決と 本判決とで、特許法102条2項1 の適用の可否について判断が 別れましたので、本稿ではその点を取り上げます。
(2)本件の特徴として、X自身は、本件特許発明を実施してい なかったという点が挙げられます。すなわち、Xは米国法人で あるZimmer Biomet Holdings, Inc.を最終親会社とする ジンマー・バイオメットグループ(Zグループ)に属する会社で あったところ、Zグループにおいて、本件特許はXが保有・管 理していたものの、本件特許発明を利用した製品(X製品。実 施品でありY製品と競合します。)の製造及び販売は、それぞ れZグループの別の会社(Z2やZ3)が行っており、X自身は、 X製品の製造も販売も行っていませんでした。
2.原判決-特許法102条2項の適用否定
原判決は、Y製品の一部について、生産・譲渡等の差止及び 廃棄請求を認容しましたが、損害賠償請求については、Xが本 件特許発明を実施しておらず、Yによる本件特許権の侵害行為 がなかったならばXが利益を得られたであろうという事情を認 めることはできないとして、特許法102条2項の適用を否定した うえ、同条3項に基づき、損害賠償額を約70万円の限度で一部 認容しました。
3.本判決-特許法102条2項の適用肯定
原判決に対し、XY双方が控訴したところ、知財高裁は、以下 のように述べて特許法102条2項の適用を肯定し、約454万円ま で損害賠償額を増額しました(下線等は筆者)。
- 特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったな らば利益が得られたであろうという事情が存在する場合 には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきで ある。
- 本件についてみると、X製品を販売するのはZ3であって特 許権者であるXではないものの、①Xは、その株式の100% を間接的に保有するZZの管理及び指示の下で本件特許 権の管理及び権利行使をしていること、②Xのグループ会 社であるZ2が、ZZの管理及び指示の下で、本件特許権を 利用して製造したX製品を、同一グループに属するZ3が、 ZZの管理及び指示の下で、本件特許権を利用してX製品 の販売をしていることから、Zグループは、本件特許権の侵 害が問題とされている期間、ZZの管理及び指示の下でグ ループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行して いると評価することができる。
そうすると、Zグループにおいては、本件特許権の侵害行 為であるY製品の販売がなかったならば、Y製品を販売す ることによる利益が得られたであろう事情があるといえる。 そして、Xは、Zグループにおいて、同グループのために、本 件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行 使することができる立場にあるものとされており、そのよう な立場から、同グループにおける利益を追求するために本 件特許権について権利行使をしているということができ、 上記のとおり、ZグループにおいてXの外に本件特許権に 係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮す れば、本件について、特許法102条2項を適用することが できるというべきである。
4.本判決の意義
特許法102条2項の適用要件については、既に知財高判平 成25年2月1日〔ごみ貯蔵機器大合議事件〕において、「特許権 者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が 得られたであろうという事情」が存在すれば適用要件としては 足り、「特許権者において当該特許発明を実施していること」ま では不要であるとの規範が示されています。
本判決もこれと同様の判断枠組によるものといえますが、① 「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば 利益が得られたであろうという事情」を肯定するうえで、Zグルー プ全体で本件特許権を利用した事業を遂行していると評価で きる点を考慮し、X単体としてではなく、Zグループとして、当該事 情が存在するとしている点、そして②Xの権利行使がそうしたZ グループの利益を代表するものであり、かつX以外に権利行使 できる主体が存在しない点を理由に、特許法102条2項の適用 を認めた点に特徴があるといえます。
グループ会社においては特定の子会社にグループの知的財 産権の管理・帰属を集中させる体制をとることがありますが、そ ういった体制下で当該子会社が権利行使を行う場合には、仮 に当該子会社単体では「特許権者に、侵害者による特許権侵 害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」 が肯定できない場合でも、グループ全体で当該事情が認めら れ、特許法102条2項の適用の余地があることを判示している 点で、本判決は参照価値があると考え、紹介する次第です
