【平成28年(行ケ)第10245号(知財高裁H29・7・19)】

【判旨】 本願商標に係る特許庁の不服2015-3135号事件について商標法4条1項10号の判断は正当であるとして、請求を棄却した事案である。 【キーワード】 商標の周知性,南三陸キラキラ丼,南三陸キラキラいくら丼,南三陸キラキラうに丼,南三陸キラキラ秋旨丼,商標法4条1項10号

事案の概要

 原告は,平成25年7月2日,指定役務を第43類「南三陸産の海産物を使用した海鮮丼物の提供,南三陸産の具材を含む丼物を主とする飲食物の提供」(以下「本願役務」という。)として,「南三陸キラキラ丼」(標準文字)商標の登録出願をした(以下「本願商標」という。商願2013-050903号。)が,平成26年10月31日付けで拒絶査定を受けた(甲38)ので,平成27年1月30日,拒絶査定不服審判を請求した(不服2015-3135号)。 特許庁は,平成28年9月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年10月23日,原告に送達された。

特許庁の判断の要旨

 平成21年12月頃から,宮城県本吉郡南三陸町(以下「南三陸町」という。)地域の提供店の団体が,「南三陸キラキラいくら丼」(以下「引用商標1」という。)を使用して「南三陸産の具材を含む丼物の提供」(以下「引用役務」という。)を開始し,その後,「南三陸キラキラ丼」(以下「引用商標2」という。)シリーズとして,引用商標1,「南三陸キラキラ春つげ丼」(以下「引用商標3」という。),「南三陸キラキラうに丼」(以下「引用商標4」という。)及び「南三陸キラキラ秋旨丼」(以下「引用商標5」という。引用商標1~5を合わせて「引用商標」ということがある。)を使用した引用役務の提供を行うようになった。そして,引用商標2は,宣伝広告活動及び報道によって,本願商標の登録出願時には,少なくとも宮城県及びその近隣県において,南三陸町地域を中心とする提供店の団体の業務に係る引用役務を表すものとして需要者の間で広く認識され,その周知性は現在まで継続している。 本願商標と引用商標2とは,同一又は類似する商標であり,本願役務と引用役務とは,同一又は類似する役務である。 よって,本願商標は,商標法第4条第1項第10号に該当するものであるから,登録することができない。

争点

 争点は,引用商標の周知性の認定(使用主体についても争っている。)について,原告による引用商標の使用事実について,引用商標の類否の認定,判断についてと,大きく3つである。本解説では,引用商標の周知性に係る要件について検討する。

判旨抜粋(証拠番号等は適宜削除した。)

第5 当裁判所の判断 1 認定事実 証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告を含む南三陸町内のホテルや飲食店6店は,平成21年12月から平成22年2月にかけて,引用商標1を使用して,イクラを中心の食材とした引用役務(以下「引用役務1」という。)の提供を行った。同年3月からは,提供店が7店となり,同年4月にかけて,「『キラキラ丼』シリーズ第2弾」として,引用商標3を使用して,春が旬の地元の魚介類や野菜を中心の食材とした引用役務(以下「引用役務3」という。)の提供を行った。提供店7店は,同年4月から8月にかけて,「『南三陸キラキラ丼』シリーズの第3弾」として,引用商標4を使用して,ウニを中心の食材とした引用役務(以下「引用役務4」という。)の提供を行い,遅くともこの頃までに,「南三陸キラキラ丼」(引用商標2)との商標が用いられるようになった。同年9月からは,提供店が8店となり,同年10月にかけて,「『南三陸キラキラ丼』の第4弾」として,引用商標5を使用して,地元の魚介類と米を中心の食材とした引用役務(以下「引用役務5」という。)の提供を行った。提供店8店は,同年10月から平成23年1月にかけて引用役務1の,同年2月からは引用役務3の提供を行った。上記の提供店は,平成21年12月から平成22年末までに,提供した丼を4万5000食売り上げた。 そして,この間,別紙11 のとおり,季節ごとの提供開始や,試食会開催などについての報道がなされると共に,広告宣伝活動が行われた。 (2) 平成23年3月11日の震災により,提供店の1店の経営者が犠牲となるなど,南三陸町志津川地区も大きな被害を受けたが,平成24年2月25日の仮設商店街「南三陸さんさん商店街」のオープンに合わせて,同仮設商店街などで営業を再開した店舗や,原告ホテルなど9店で,「復活 南三陸キラキラ丼」などと称して,引用役務の提供が開始された。それ以後,季節ごとに,旬の魚介類などを用いた引用役務の提供が行われた。 そして,本願商標の登録出願(平成25年7月2日)までに,別紙2のとおり,引用役務の提供等についての報道や,広告宣伝活動がなされた。 (3) Aは,平成24年11月29日,指定商品を第30類「南三陸産の海鮮丼,南三陸産の海産物を具材として含む丼物」として,「南三陸キラキラ丼」(標準文字)商標の登録出願をし(商願2012-100892号),平成25年5月2日,その設定登録を受けた(別件商標。)。 (4) 原告は,平成25年7月2日,本願商標の登録出願をした。 そして,上記出願後,平成28年9月13日の審決までの間に,別紙3のとおり,引用役務の提供等についての報道や,広告宣伝活動がなされた。 2 取消事由1(引用商標の周知性を認定した誤り)について (1) 引用商標の特定を欠いていることの誤りについて 原告は,審決が,①引用商標1,3~5を用いて,引用商標2の周知性を認定した点,②「南三陸キラキラ丼シリーズ」「キラキラ丼」など引用商標1~5以外の商標も使用されているのに,恣意的に引用商標1~5のみを抽出した点に,それぞれ違法があると主張する。 しかし,①については,引用商標2は,「『南三陸キラキラ丼』シリーズの第3弾として,『南三陸キラキラうに丼』が5月1日,お目見えする。」,・・・のように用いられ,「シリーズ」には「連続性を持つ一連のもの」(広辞苑第6版,乙84)の意味があることも考慮すれば,引用商標2は,引用役務1,3~5をまとめた総称的意味で用いられていると認められる。・・・このように,総称的な引用商標2の周知性を認定するに当たっては,類似する各別の商標である引用商標1,3~5の使用状況を考慮することは当然である。 次に,②について,上記の「シリーズ」の意味や使用状況に照らせば,「南三陸キラキラ丼シリーズ」との記載に接した需要者は,「南三陸キラキラ丼」と「シリーズ」に分けて認識すると考えられ・・・そうだとすれば,「南三陸キラキラ丼シリーズ」との記載から,「南三陸キラキラ丼」の部分を抽出して,引用商標2の使用と認定することは許されると考える。・・・引用外商標が引用商標1~5と共に使用されていれば,「南三陸」の部分を省略した引用商標1~5の略称であることは容易に理解でき・・・以上のとおり,審決が,恣意的に引用商標1~5のみを抽出したものとは認められない。 以上のとおり,審決に原告が主張する違法はない。 (2) 使用主体の認定の誤りについて ア 原告は,審決が,南三陸町地域を中心とする飲食店の団体が「他人」に該当するとしたのに対し,飲食店が同じ地域にたまたま複数存在して,その中の一部がバラバラに商標を使用していたというだけでは,それらを未登録商標を使用する団体(主体)とすることはできない,震災前(第一段階),震災から本願商標の登録出願まで(第二段階),本願商標の登録出願から審決まで(第三段階)の各段階において,それぞれ引用役務の提供者が異なっているから,第一段階における引用商標の使用に関する証拠は,第二段階及び第三段階の���知性を認定するための証拠とならないし,第二段階における引用商標の使用に関する証拠は,第三段階の周知性を認定するための証拠とならない旨主張する。 イ まず,南三陸町地域を中心とする飲食店の団体が,「他人」となり得るかを検討する。 商標法4条1項10号の規定の趣旨は,需要者保護の観点から当該指定商品・役務についての出所の混同を防止するとともに,一定の信用を蓄積した他人の未登録周知商標について既得の利益をも保護するものと解されることからすると,同号所定の「他人」には,単一の者だけではなく,特定の商標の持つ出所識別機能及び品質保証機能を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれるものと解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。 前記認定事実によれば,引用役務の提供店は,第一段階においても,一定の具材を使用することや値段を一定以上にすることなど共通ルールを作成していること,提供店を網羅した共通のパンフレットを作成していること,共通の連絡先があること,共同して試食会を行ったことなど,引用商標1~5の出所識別機能及び品質保証機能を保護発展させるという共通の目的のもとに結束をしていたといえる。第二段階以降も,参加条件を定めていること,提供店を網羅したパンフレットを作成していること,共通の問い合わせ先があること,ウェブサイトでの情報発信など,同様に一定の結束をしていたといえる(なお,原告の主張によれば,南三陸さんさん商店街内に引用商標の使用のキャンペーンの事務局が設けられたとされる。)。 よって,南三陸町地域を中心とする飲食店の団体は,「他人」に該当すると認められる。 (中略) ウ したがって,第一段階から第三段階の各段階を区別することなく,引用商標の周知性を判断できるものと解される。 (3) 周知性の範囲 商標法4条1項10号にいう「広く認識されている」とは,全国的に知られているまでの必要性はないものの,一地方,すなわち,一県の全域及び隣接の数県を含む程度の地理的範囲で知られていることが必要と解される。 そして,前記1の認定事実によれば,震災前においても,引用役務は,引用商標1~5と共に,河北新報で6回,東京読売新聞で4回,三陸新報で1回,日本農業新聞で1回と,全国紙や地方紙に複数回取り上げられ,複数回テレビ局の取材も受け,旅行雑誌やキャンペーンのガイドブックに紹介されるなどしており,提供した丼を年間4万5000食を売り上げるなど,相応の知名度を有していたというべきである。 震災により,引用役務の提供は中断されていたが,引用役務の提供を再開するに当たって,震災によって大きな被害を受けたと広く知られていた南三陸地域の復興と関連付けて全国紙,地方紙,テレビで大きく報道された。すなわち,平成24年2月の提供再開から,平成25年7月2日までの約1年5か月の短期間に,河北新報で6回,東京読売新聞で3回,東京新聞で1回,日本経済新聞で1回,毎日新聞で1回,朝日新聞で2回(,テレビ朝日「スーパーJチャンネル」で1回,TBS「みのもんたの朝ズバッ!」で1回(,仙台放送「とうほく食文化応援団2013~宮城に乾杯~」で1回,「サンデー毎日」で1回と大量の報道がなされた。報道内容を見ても,多くの記事・番組で,見出しに引用商標2が用いられるなど,読者・視聴者に引用商標2の印象が残る内容となっている。 (中略) 引用役務では,平成24年2月の販売再開から約2か月で1万食の丼を売り上げ,平成25年4月から6月の3か月間で約5万食の丼を売り上げた。 (中略) 以上によれば,本願商標が登録出願された平成25年7月2日の時点で,引用商標2は,提供店の団体の業務に係る商標として,少なくとも宮城県及びその近隣地域の需要者の間に広く認識されていたというべきである。 (4) 周知性の継続 その後,審決までの間も,東京読売新聞で5回,中日新聞で1回,東京新聞で1回(,日刊工業新聞で1回,朝日新聞で1回,FujiSankei Business i.で1回,河北新報で1回,電気新聞で1回,TBS「Nスタ」,日本テレビ「ウェークアップ!ぷらす」,TBS「中村雅俊が行く伊達な海道探訪~みやぎでのふれあいを求めて~」など,マスコミに取り上げられたり,観光キャンペーンで紹介されたりした。また,「第1回全国丼グランプリ」,「フード・アクション・ニッポンアワード2014」を受賞している。 そして,「週末になると,この丼を目当てに県内外から観光客が足を運ぶ。」・・・などと,人気が続いていることがうかがわれる。 以上によれば,審決の間までも,周知性は継続していたと認められる。

解説

 本件は、商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、上記引用商標について類似しているとして、商標法4条1項10号2にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所は当該判断を追認した。 本件において,原告(出願人)は,商標法4条1項10号に関して,以下の主張を行った。 ① 引用商標の特定を欠いていること ② 使用主体の認定の誤り ③ 周知性について(範囲,時期)

 原告は,①について,引用商標1,3~5を用いて引用商標23を認定したこと,及び 「南三陸キラキラ丼シリーズ」「キラキラ丼」など,引用商標以外の商標も使用されているのに,引用商標1~5のみを抽出したことを違法と主張した。 しかし,裁判所は,前者に関しては,「総称的な引用商標2の周知性を認定するに当たっては,類似する各別の商標である引用商標1,3~5の使用状況を考慮することは当然である」とし,後者に関しては,「引用商標2の使用と認定することは許されると考える」し,「『南三陸』の部分を省略した引用商標1~5の略称であることは容易に理解でき」るとして原告の主張を排斥した。 原告は,②については,「飲食店が同じ地域にたまたま複数存在して,その中の一部がバラバラに商標を使用していたというだけでは,それらを未登録商標を使用する団体(主体)とすることはできない」つまり「他人」に該当しないと主張し,「震災前(第一段階),震災から本願商標の登録出願まで(第二段階),本願商標の登録出願から審決まで(第三段階)の各段階において,それぞれ引用役務の提供者が異なっている」ことから,各段階で,「他人」が異なる旨主張した。裁判所は,これに対して,最高裁の規範を用いて,具体的な事情(一定の具材を使用すること等)から,出所識別機能及び品質保証機能を保護発展させるという共通の目的のもとに結束していたと認めて,役務を提供していた各店舗は,商標法4条1項10号の「他人」であるとした。なお,裁判所は,「未登録周知商標を有する『他人』と無関係な者が,従前蓄積されていた商標の信用にただ乗りすることは,上記の出所混同の防止との点からも,既得の利益の保護との点からも,許されないと」と述べて,上記認定を行った後に,上記第一段階から第二段階及び上記第二段階から第三段階における,使用役務提供者の構成及び目的を詳細に認定し,当該ただ乗りしているものがいないことを認定した。 最後に,裁判所は,③について,最高裁の規範を引用した上で,報道等を詳細に認定した上で,「本願商標が登録出願された平成25年7月2日の時点で,引用商標2は,提供店の団体の業務に係る商標として,少なくとも宮城県及びその近隣地域の需要者の間に広く認識されていたというべきである」として,さらに,審決までの間においても,報道を詳細に認定し,「人気が続いていることがうかがわれる」として,周知性を認定した。 本件は,商標法第4条1項10号に係る複数の論点が問題となった事案であり,事例判断ではあるものの,実務上参考になると思われる。