【令和元年(行ケ)第10086号(知財高裁R元・11・26)】

【判旨】

本件商標につき商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】

商標法第3条第1項第3号,同条第2項,同法4条1項18号,同項7号,ランプシェード

手続の概要

以下,証拠番号等は,適宜省略する。

被告は,別紙のとおりの構成からなる下記の立体商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。

登録番号 商標登録第5825191号

出願日 平成25年12月13日

登録審決日 平成27年12月15日

設定登録日 平成28年2月12日

指定商品 第11類「ランプシェード」

原告は,平成29年3月31日,本件商標について商標登録無効審判を請求した。

特許庁は,上記請求を無効2017-890023号事件として審理し,令和元年5月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と 

の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月24日,原告に送達された。

原告は,令和元年6月14日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

争点

争点は,商標法第3条第2項該当性,同法4条1項18号,同項7号該当性である

判旨抜粋

証拠番号等は適宜省略する。

1 取消事由1(本件商標の商標法3条2項該当性の判断の誤り)について

(1) 本件商標の商標法3条1項3号該当性について

本件商標は,別紙のとおり,上部に小さな凸部を有する5層構造のランプシェードの立体的形状からなり,上から1層目の円筒状の形状 と2層目から5層目が組み合わさった4枚のシェ ードの形状から構成されたものであり,本件商標の指定商品「ランプシェード」の形状を普 通に用いられる方法で表示したもののみからなる商標であるから,商標法3条1項3号に該当する。

(2) 商標法3条2項該当性について

ア 認定事実

証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 

(中略)

イ 検討

前記アの認定事実を総合すると,ヘニングセンがデザインした本件商品の立体的形状は,被告による本件商品の販売が日本で開始され た1976年(昭和51年)当時,独自の特徴を有しており,しかも,本件商品が上記販売開始後本件商標の登録出願日(平成25年1 2月13日)までの約40年間の長期間にわたり日本国内において継続して販売され,この間本件商品は,ヘニングセンがデザインした世界 のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていること及び本件商品は被告(「ルイスポールセン社」)が製造販売元であることを印象づけ るような広告宣伝が継続して繰り返し行われた結果,本件商標の登録出願時までには,本件商品が日本国内の広範囲にわたる照明器 具,インテリアの取引業者及び照明器具,インテリアに関心のある一般消費者の間で被告が製造販売するランプシェードとして広く知られる ようになり,本件商品の立体的形状は,周知著名となり,自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至ったものと認められ る。 

そうすると,本件商品の立体的形状である本件商標が本件商品に長年使用された結果,本件商標は,本件商標の登録出願時及び 登録査定時(登録審決日・平成27年12月15日)において,被告の業務に係る商品であることを表示するものとして,日本国内における 需要者の間に広く認識されていたことが認められるから,本件商標は,商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務 に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するものと認められる。

2 取消事由2(本件商標の商標法4条1項18号該当性の判断の誤り)について 

(1) 原告は,本件商標の立体的形状のうち,いずれの構成が欠けても,ランプシェードとしての最適な光のコントロールは得られないから,本 件商標の立体的形状は,全ての構成がランプシェードの機能(「周辺の人の顔がはっきりと認識できる明るさを保ちつつ,光源のまぶしさによ る不快感をほぼ完全に排除し,手元にも必要十分に明るくすることができるという機能」)を発揮させるために不可欠であることからすると, 本件商標は,本件商品が当然に備える特徴のみからなる商標であるといえるから,本件商標は,商標法4条1項18号に該当する旨主 張する。

しかしながら,本件商標は,別紙のとおり,上部に小さな凸部を有する5層構造のランプシェードの立体的形状からなり,上から1層目の 円筒状の形状と2層目から5層目が組み合わさった4枚のシェードの形状から構成されたものであるところ,原告主張の上記機能を発揮す るためのランプシェードの立体的形状は,シェードの枚数,形状,向き又はそれらの組合せなどにおいて本件商標の立体的形状以外にも 様々な構成を採り得ることは明らかであるから,本件商標の立体的形状は,上記機能を発揮させるために不可欠な形状であると認めるこ とはできない。 

したがって,原告の上記主張は理由がない

(2) 以上によれば,本件商標が商標法4条1項18号に該当するものではないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消 事由2は理由がない。

3 取消事由3(本件商標の商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について

(1) 原告は,①PH5に係る商標権,著作権等の知的財産権はヘニングセンに帰属するから,PH5の立体的形状について,商標登録を 取得できるのは,ヘニングセン及びその相続人のみであるところ,被告は,商標権の権利承継を証明していないから,被告による本件商標の 商標登録出願は,いわば他人の商標の盗用であり,国際信義を著しく損なうものであること,②PH5の立体的形状は,創作者であるデザ イナーのへニングセン及びその相続人によってすら商標登録されておらず,PH5は,イギリスなどヨーロッパ諸国でレプリカが堂々と販売され, 世界の市場で商標権のないものとして広く流通し,パブリックドメインとして認識されていることに照らすと,PH5の立体的形状は,国際社会 において,商標権を取得できない立体的形状であるといえるのに,このような立体的形状について,日本のみで,しかも,デザイナーから権利 承継もしていない被告の商標として商標登録が認められることになると,輸入障壁により,健全な競争原理が働かなくなり,「正規品」を購 入しなければならない日本国の消費者及び世界各国の事業者に不利益を被らせ,日本国の貿易及び知的財産権に対する信頼を著しく 毀損し,国際信義に反する結果となること,③被告が指定商品を「照明用器具」から「ランプシェード」に自ら変更した本件商標の出願経 過によれば,本件商標の商標権の効力は「ランプシェード」にのみ及び,「照明用器具」に及ばないと解すべきであるのに,被告は,原告及 びその関連会社に対し,原告の製造に係る「照明用器具」の商品等の輸入差止め等を行う目的で本件商標の商標登録を受けたもので あるから,被告による本件商標の商標登録出願は,原告を害する目的でされたものであること,以上の①ないし③によれば,本件商標は, 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるといえるから,商標法4条1項7号に該当する旨主張する。 

しかしながら,商標法上,他人の著作権と抵触する商標について,商標登録を受けることができない旨を定めた規定は存在しない。一方 で,商標権と著作権が抵触する場合の規律に関し,同法29条は,商標権者は,指定商品又は指定役務についての登録商標の使用が その使用の態様によりその商標登録出願前に生じた他人の著作権又は著作隣接権と抵触するときは,指定商品又は指定役務のうち抵 触する部分についてその態様により使用することができない旨を定めており,同条の規定は,他人の著作権と登録商標が抵触する場合が あることを前提とするものであるから,商標法上,他人の著作物について商標登録出願を行うことを禁止するものではないものと解される。 そうすると,仮にPH5の立体的形状について本件商標の登録出願日前にヘニングセンの著作権が成立していたとしても,商標法上,PH 5の立体的形状についてヘニングセン以外の第三者が商標登録出願を行うことが禁止されるものではないから,PH5の立体的形状につい て商標登録を取得できるのは,ヘニングセン及びその相続人のみであることを前提とする原告の上記①及び②の主張は,その前提におい て,採用することができない。

また,仮にPH5の立体的形状が外国で商標登録されていないとしても,外国で商標登録されていない立体的形状について,日本におい て商標登録出願をし,その商標登録を受けることが直ちに国際信義に反するものとはいえないから,この点においても,原告の上記②の主 張は理由がない。

さらに,指定商品に類似する商品についての登録商標又はこれに類似する商標の使用は,当該登録商標の商標権の侵害とみなされ (同法37条1号),指定商品に類似する商品についても商標権の禁止権が及ぶこと,被告は,被告の業務を表示するものとして周知著 名な商品等表示に当たるものと自ら認識していた本件商品の立体的形状(本件商標)について商標登録出願をし,本件商標の商標登 録を受けた後,平成28年9月2日付けで,関税法69条の13第1項に基づき,東京税関長に対し,「侵害すると認める物品」を本件商 標又はこれに類似する商標を付した電球及び照明用器具類,「予想される輸入者」を原告として,輸入差止めの申立てをしたこと(甲7, 19)に照らすと,本件商標の出願経過において,被告が指定商品を「ランプシェード」に補正した経過があること(甲15)を勘案しても,被 告が原告の製造に係る「照明用器具」の商品等の輸入差止め等を行う目的で本件商標の商標登録出願を行ったことは,社会的相当性 を欠くものとはいえないから,原告の上記③の主張は理由がない。

以上のとおり,原告の上記①ないし③の主張はいずれも理由がないから,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商 標であるとの原告の主張は採用することができない。 

(2) 以上によれば,本件商標が商標法4条1項7号に該当するものではないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事 由3は理由がない。 

解説

本件は、商標登録無効審判請求 を不成立とした審決に対する取消訴訟である。 

商標法第3条第1項第3号及び同条2項 ,第4条第1項第18号及び同7号 が問題となった事案である。

本件では,裁判所は,まず商標法第3条関連では同条第1項第3号該当性を認めた上で,本件商標に係る商品である本件商品の販 売状況,本件商品の広告宣伝,本件商品の受賞歴等を勘案した上で,同条第2項に該当するとし,同法第4条第1項第18号に関し ては,本件商標の立体的形状以外にも様々な構成を採り得るとして原告の請求を棄却した。

さらに,裁判所は,原告の公序良俗違反に係る①~②つまり,本件商品に係る商標権,著作権等の知的財産権は,本件商品のデザ イナーであるヘニングセン又はその相続人に帰属すべきであるとの主張に対しては,商標権と著作権に関しては,商標法第29条において抵 触しうる可能性があることを前提に規定しており,商標法は,他人の著作物について商標登録出願を行うことを禁止するものではないと判 断し,また本件商標の登録に係る経緯についても,社会的相当性を欠くものではないとして,原告の請求を棄却した。

本件は,筆者が以前紹介した,東京地方裁判所平成29年(ワ)第22543号事件判決(東京地裁H30・12・27)と一連の事件 (前回紹介した事件は,同じ商標権による権利行使であり,特許権者である本件被告の請求が認められた事件である。)であり,参考にな ると思われる。