2021年4月22日、アモイ知的財産権法廷は、エマソン・エレクトリック社(以下、「エマソン」といいます)がA社等を訴えた不正競争紛争事件の第一審判決を下し、被告1のA社、被告2のH社、及び2社の事実上の管理者である被告3のWに対し、10年近くエマソンに対し行った大量の冒認出願(商標の抜け駆け登録)行為を停止するよう命じ、冒認出願対応に要した弁護士費用の損失を賠償するとともに、影響を排除するための声明を発表するよう命じました。また、被告3者の商標代理機構に対しても、侵害幇助に該当するとし、エマソンに対し損害を賠償するよう命じました。

本件は、冒認出願行為が不正競争に該当すると認定し、侵害行為の停止、損害賠償、影響の排除を命じた中国初の事例であり、悪意の冒認出願を抑制する上で積極的な意義があります。金杜[1]は2014年6月以来、当該商標の行政訴訟手続及び新たな冒認出願の異議申立・無効審判手続を担当し、2015年12月、クライアントのために行政訴訟で勝訴を勝ち取り、エマソンをサポートして冒認商標に対する異議申立・無効審判手続を成功させました。本件で勝訴したことで、冒認出願対応に要した弁護士費用の損失を全額賠償させることができました。

事件の概要

“爱适易In Sink Erator”は世界的に有名な生ごみ処理機のブランドです。エマソンは、1994年と1998年に英語と中国語による「爱适易In Sink Erator」の登録を出願しており、長期間にわたって大量に使用し、2010年にはすでに中国で高い知名度を得ていました。

A社は2008年に設立され、冒認商標出願や有名ブランドの模倣を行っており、19区分で208件の商標を登録しています。その中には「ダイムラー」、「ダウ・ケミカル」、「DJI」など国内外の著名な商標が含まれています。2010年以降、A社は「爱适易In Sink Erator」に対して10以上の区分で冒認出願を行っており、エマソンは異議申立や異議申立の復審手続の対応を続けるとともに、行政訴訟を提起してきました。2015年12月、北京高級人民法院はこれらのうち4件について、終審判決を下しました。終審判決では、A社の行為が商標法の規定に違反しており、冒認商標の大量出願に当たるとされました。A社の事実上の管理者であるWは、裁判所がA社の冒認出願行為の性質を確認した後も、所有するH社を通じて、同じ図形に基づいた同じ区分での冒認出願を継続的に行っていました。A社とH社は、2020年3月の時点で、「爱适易In Sink Erator」という商標と同一又は類似の商標を14区分で48件登録しており、そのうち47件は同じ商標代理機構であるX社が代理しています。エマソンは2020年3月、アモイ中級人民法院に訴訟を提起し、法院に対し、被告の冒認出願行為の停止と、冒認出願行為に対処するために要した弁護士費用500万元の賠償金の支払を命じるよう求めました。

一審判決

2021年4月22日、アモイ知的財産裁判所は、本紛争について公開判決を下し、その中で以下のルールを明確化しました。

  1. 本紛争は、原告が、被告の冒認出願行為により原告の民事上の権利・利益が侵害され、原告が経済的損失を被ったと主張する不正競争紛争である。提訴された商標登録行為による財産関係に起因する、侵害の民事責任を問う訴訟は、民事訴訟の受理範囲内である。本件の審理と、行政機関が法律に基づいて行う審査機能の行使との間に矛盾は存在しない。
  2. 悪意の冒認出願は、信義誠実の原則に違反し、公平な競争秩序を損ない、原告の合法的な権利・利益に損害を与え、不正競争防止法第2条の規定に違反し、不正競争を構成するものであり、法に基づいて侵害の停止や損害賠償などの法的責任を負うべきであるとし、被告の悪意ある冒認出願行為に対する法的救済措置を確認した。過去のバイエル事件とは異なり、本件の不正競争の認定では、被告が悪意を持って商標権を行使していること(冒認商標に基づく行政訴訟や、プラットフォームに対する商標の削除要請など)を要件としない。
  3. 本件商標は、無効宣告、取消し又は登録不可により無効状態にあるが、冒認出願行為が公平な競争の市場取引秩序を損ない、侵害コストが低いことを考慮すると、侵害を制止しなければ、権利者はその合法的な権利・利益を行政手続によって継続的に維持する必要があり、結果的に公共資源を著しく浪費することになる。被告に冒認出願行為の停止を命じることは、必要不可欠である。
  4. 冒認商標に対して行われた異議申立、無効審判手続、行政訴訟に要した弁護士費用は、原告の経済的損失に該当し、被告はその賠償責任を負わなければならない。本訴訟を提起した原告の弁護士費用は、合理的な費用として補償することができる。
  5. 冒認出願を行った会社の事実上の管理者は、共同侵害を行っており連帯責任を負うべきである。
  6. 商標代理機構が、悪意ある冒認出願の性質を明らかに知りながらも受託したことは、侵害の幇助に該当し、共同責任を負う必要がある。
  7. 同一の商標に対する継続的な大量の冒認出願は、冒認商標ごとの個別の行為ではなく、単一の行為とみなされるべきであり、訴訟の時効は、被告が係争商標の最後の出願を行った時点から起算するべきである。

以上の結論を統合し、裁判所は、被告4者に対し侵害行為の停止を命じ、被告1及び被告3に対し、原告に120万人民元の経済的損失を連帯して賠償するよう命じ、被告2及び被告3に対し、原告に40万人民元の経済的損失を連帯して賠償するように命じました。また、商標代理機構に対し、40%の賠償責任を負担することを命じ、被告4者に対し、全国版のメディアに、影響を排除するための声明を掲載するよう命じました。

本件の被告4者は、上記第一審判決を不服として控訴しており、今後、福建省高級人民法院でさらに審理が行われる予定です。

コメント

本件は、2018年のバイエル事件に続き、中国の裁判所が悪意ある大量の冒認出願を制止した典型的な事例です。注目すべき点として、過去の他の事件では、被告は冒認出願行為後にいずれも、それに対応する使用を行っていました。裁判所はいずれのケースでも、冒認出願行為は、商標使用行為と商標侵害行為の両方があった場合に、信義誠実の原則に違反し不正競争に当たると判断しており、冒認出願行為だけで不正競争に当たるという単独での判断は行っていませんでした。また、今回の判決では、中国の裁判所は、悪意ある登録商標権に対処するための弁護士費用を、原告が損害賠償の一部として請求することを認めました。他にも、本件において中国の裁判所が、商標代理機構が侵害幇助を行ったと確認したことは、本件のハイライトの一つです。本件判決は、被告が単一ブランドに対し長期間にわたって悪意の冒認出願を行っていたこと、行為の違法性を明らかに知りながら(行政訴訟の最終審理後)同一商標に基づき冒認出願を継続していたこと、それぞれの被告が密接な関係にあることなど、本件の具体的な事実との関連が深いものとなっています。しかしながら、悪意ある冒認出願行為の定義、差止の必要性と合理性の分析、弁護士費用を経済的損失とした損害賠償の決定、そして実質的な管理者の共同侵害責任の認定基準と商標代理機構の責任等に関するルールが明確にされたことで、真の権利者に対し、悪意ある大量の冒認出願に対処するために参考となり得る道筋が示されたことは間違いありません。同時に、本件の判決は、悪意の冒認出願行為に立ち向かう中国の決意を反映しており、その差止命令、高額の賠償金、代理人の連帯責任が、冒認出願を行う者とその代理サービス提供者に対して、強い抑止効果を奏することは確実であると思われます。