【大阪高判平成29年9月21日平成29年(ネ)第245号】

【キーワード】

平行輸入、商標権、出所表示機能・品質保証機能、実質的違法性

【判旨】

商標権者の登録商標と類似の標章が付された商品を輸入して販売等することは、当該標章が当該商標権の実質的権利者により付されたものである等の事情からすれば、当該登録商標の出所表示機能・品質保証機能を害することはなく、商標を使用する者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうものではないから、商標権侵害としての実質的違法性を欠く。

第1.事実の概要

1.概要

本件は、以下の商標権の商標権者である控訴人が、その登録商標に類似した標章を付したじゅうたん等の敷物をイランから輸入し、日本国内において販売している被控訴人に対し、商標権侵害を理由に、当該標章等の使用の差止及び損害賠償等を請求した事案です。 具体的には、控訴人は、イラン拠点のZOLLANVARI社(以下「ゾ社」)との間で日本における絨毯等の総代理店契約を締結し、ゾ社から輸入した絨毯等(以下「控訴人商品」)の卸売及び小売販売を行っていました。ゾ社の「ZOLLANVARI」という商標は、日本国内においても取引者・需要者間で広く認識されていましたが、ゾ社は、イランにおいて、同商標の登録の出願を拒絶されたため、商標権を取得していません。控訴人は、当該商標について、特許庁に商標登録出願し、ゾ社による使用等を理由に、一旦、拒絶理由通知を受けたものの、当該商標の使用及び当該出願等をする権限に係るゾ社の証明書を特許庁に提出することで、商標登録査定を受けました。 被控訴人は、自己のウェブサイト上で、以下の被控訴人各標章を使用し、被控訴人標章1が付されたタグを添付した絨毯等(以下「被控訴人商品」)を販売していました。

・本件における当事者の関係図

原審(大阪地判平成28年12月15日平27(ワ)5578号 商標権侵害差止等請求事件)では、被控訴人による上記標章の使用は商標の持つ出所表示機能及び品質保証機能を害するものではなく、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を行うこともないから、外形的に被控訴人の商標権の侵害行為に該当するとしても、実質的違法性を欠くとして、控訴人の請求はいずれも棄却されたため、控訴人が控訴しました。 本件における主な争点は、被控訴人の各標章の使用行為が商標権侵害としての実質的違法性を欠くといえるかどうかです。

第2.判旨(-控訴棄却-)

1.前提の判断 本件では、被控訴人商品に、被控訴人標章1が付されたタグが添付されたものがあり、誰(被控訴人かゾ社か)が当該タグを付したものかも一つの争点となっていました。 裁判所は、各種証拠から、当該商品は被控訴人がゾ社から購入したものであり、ゾ社は、被控訴人に販売した商品が日本国内で販売されることを前提として、被控訴人に対してゾ社の製品を販売したものと認定した上で、上記タグはゾ社が付したものと認定しました。

2.主な争点に関する判断

(1)フレッドペリー判決の引用 その上で、裁判所は、A)被控訴人標章1が付された商品を販売し、販売のために自己のウェブサイトに掲載した行為、及びB)商品の広告に被控訴人各標章を付して被控訴人ウェブサイトに掲載した行為、の商標権侵害の有無を検討するに当たり、次のとおり、真正商品の並行輸入に関して商標権侵害としての実質的違法性を欠くための要件を示したフレッドペリー事件の最高裁判決(最判平15年2月27日民集57巻2号125頁)を引用しました(以下、Bの行為の検討については割愛します。)。 「商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害するが、そのような商品の輸入であっても、 ① 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、 ② 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、 ③ 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、 いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害として���実質的違法性を欠くものと解される(フレッドペリー事件最高裁判決)。」

(2)本件におけるあてはめ そして、裁判所は、上記規範のあてはめとして、上記要件①及び②については、被控訴人商品に被控訴人標章1を付しているのはゾ社であり、そのゾ社は、「「ZOLLANVARI」に関する商標について商標権を取得していない」ものの、控訴人が「ゾ社から権限を授与されて初めて控訴人商標の登録を受けることができた」こと等から、「ゾ社がイランにおいて商標権を有している場合と実質的には変わるところがない」として、「被控訴人が、被控訴人標章1が付された被控訴人商品を輸入した上、これを販売し、販売のために被控訴人ウェブサイトに掲載した行為は、控訴人商標の出所表示機能を害することがないといえる」としました。 また、上記要件③については、「ゾ社が外国における商標権者でなくても、控訴人商品につき、控訴人商標の保証する品質は、控訴人がゾ社を通じて間接的に管理をしていて、そのゾ社が、控訴人商品と同じく日本に輸出して日本において販売される商品として被控訴人商品の品質を管理しているのであるから、被控訴人商品と控訴人商品とは、控訴人商標の保証する品質において実質的に差異がないといえる」とし、「被控訴人商品と控訴人商品の品質が同一とまではいえなくても、控訴人商標の品質保証機能を害することはないというべきである」としました。 そして、結論として、上記Aの行為は、「控訴人商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、また、以上に述べたところによれば、商標を使用する者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうものでもないから、商標権侵害としての実質的違法性を欠くというべきである」としています(上記Bの行為についても同様の判断です。)。

第3.検討

1.はじめに

フレッドペリー事件最高裁判決が、並行輸入が商標権侵害としての違法性を欠く要件として挙げた上記①から③の3つの要件については、すでに裁判実務において定着していると考えられます。本件は、当該要件の運用の在り方を示す一事例として、実務上、参考になるものと思われます。 以下、当該各要件に関して、フレッドペリー事件と本件を対比しつつ、簡単に本件を検討したいと思います。

2.要件①(「真正商品性」)及び②(「内外権利者の同一性」)について

要件①及び②は、それぞれ、「真正商品性」及び「内外権利者の同一性」の要件と言われ、商標機能論にいう出所識別機能の侵害の有無を検討するものです。 フレッドペリー事件で問題となった商品が商標権者の同意なく契約地域外の国にある工場で下請製造されたものであったのに対し、本件では、被控訴人商品はゾ社自身が製造したものであり、フレッドペリー事件よりも2つの要件充足性が認められやすい事案でした。他方で、本件では、ゾ社が商標権を取得しておらず、形式的には、ゾ社は「商標権者」ではありませんでした。もっとも、裁判所は、事実関係に鑑み、ゾ社が実質的な「商標権者」であるとして、上記各要件を充足し、出所識別機能の侵害はないと認定しています。 このように、「商標権者」該当性については、形式的に商標権を有しているかどうかのみならず、実質的に判断されることがあるという点は、今後の参考になるものと思われます。

3.要件③(「内外品質の同一性」)について

要件③は、「内外品質の同一性」の要件と言われており、商標機能論にいう品質保証機能の侵害の有無を検討するものです。 フレッドペリー事件では、上記のとおり、契約中の製造国及び下請けの制限に関する規定に反して製造された商品であることから、商標権者による品質管理が及ばず、登録商標が保証する品質において実質的に差異を生じる可能性があり、商標の品質保証機能が害されるおそれがあるとされました。 これに対し、本件では、商標権者である控訴人が商品の品質管理に直接関与していることを示す証拠の提出はなかったようです。しかし、基本的にはゾ社が日本で販売されることを前提とした商品の品質管理を行っており、控訴人がゾ社を通じて間接的に品質管理を行っていたと認定され、このことをもって、被控訴人商品と控訴人商品とは、控訴人の商標の保証する品質において実質的な差異がないと認定されています。このように、本件では、品質管理について、柔軟に解釈されています。 また、本件では、控訴人商品のゾ社からの購入代金(224~715米ドル/m2)と被控訴人商品のそれ(40~70米ドル/m2)との間には明らかな差がありました。しかし、それぞれの商品について、ゾ社自身が日本において販売される商品として品質管理をしている以上、品質が同一とまではいえなくても、控訴人商標の品質保証機能を害することはないとされています。同一国向けの商品として同一人が品質管理している場合には、商品間の値段に数倍の差があったとしても、要件③が充足される可能性がある点には注意が必要と考えられます。