1. 改正の背景-現行会社法下におけるバーチャル株主総会
  2. 産競法改正案の概要
  3. まとめー実務上の影響

2021 年 2 月 5 日、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案(以下「産競法改正案」といいま す。)が閣議決定され、第 204 回通常国会に提出されます。この産競法改正案には、上場会社において、物理 的な総会会場を用意せず、すべての株主がオンラインのみで出席する、いわゆる「バーチャルオンリー株主総 会」を可能とする措置が盛り込まれています。

産競法改正案のバーチャルオンリー株主総会に関する部分は公布の日に即施行されることとされており、経 過措置との関係で、上場会社は、2021 年の 6 月に開催する定時株主総会において、産競法改正案に基づくバ ーチャルオンリー株主総会を開催することも選択肢となります。

そこで、本ニュースレターでは、産競法改正案のうち、上場会社のバーチャルオンリー株主総会に関する部分 の内容を解説します。なお、「改正産競法」は、産競法改正案 1 条による改正後の産業競争力強化法を、「改 正産競法による読み替え後の」と記載されている条文は、産競法改正案 1 条による改正後の産業競争力強化 法 66 条 2 項又は 3 項によって読み替えられた条文をそれぞれ意味します。

1. 改正の背景-現行会社法下におけるバーチャル株主総会  

我が国における株主総会の電子化は他国に比べて取り組みが遅れているといわれてきましたが、2020 年 2 月 26 日に経済産業省が「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定・公表し、また、2020 年初頭か らの新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う定時株主総会実務の変容によって、急速に需要・関心が高まってい ます。

しかしながら、現行会社法上は、株主総会の招集にあたって、取締役が、株主総会の日時及び「場所」を決定 して、これを株主に通知しなければならない(会社法 298 条 1 項 1 号、299 条 4 項)と定められており、ここでい う株主総会の「場所」は、株主が現実に株主総会に出席することができる場所でなければならないと解されてい ます。したがって、物理的な総会会場を用意しない「バーチャルオンリー株主総会」は認められないと解されてい ます。

そのため、2020 年の定時株主総会では、物理的な総会会場を用意するとともに、オンラインでの出席も認める 「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」やインターネット等の手段により審議等を傍聴することができる「ハイブ リッド参加型バーチャル株主総会」を活用した会社も一定数見られましたが、多くの会社は、従来型のリアル株主 総会を前提に、株主に来場を控えるよう呼びかけたり、入場制限を実施したりするといった対応で、感染リスクの 低減を図っていました。

米国では、デラウェア州会社法などでバーチャルオンリー株主総会が認められており(認めていない州も存在し ます。)、欧州でも英国などで認められています。また、バーチャルオンリー株主総会を認めていなかったドイツ も、時限措置としてバーチャルオンリー株主総会の実施を認める法律を制定するなど、バーチャルオンリー株主 総会を認める動きが国際的に広がっています。

このような状況下で、2020 年夏以降日本でもバーチャルオンリー株主総会の開催を可能とする立法措置へ の要望が高まっていました(ウェブサイト上でバーチャルオンリー株主総会の開催に向けた関係者の前向きな検 討を求める文書を公表した上場会社もあります。)。今回の産競法改正案はこのような実務の動きを踏まえたも のといえるでしょう。

2. 産競法改正案の概要 

(1) 制度の概

 改正産競法の下では、上場会社は、一定の要件を満たしていることについて経済産業大臣及び法務大臣の確 認(以下「大臣確認」といいます。)を受けた場合には、株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることがで きる旨を定款に定めることができ、これにより、当該上場会社の取締役は「場所」に代えて「株主総会を場所の定 めのない株主総会とする旨」を招集決定において定めることができるようになります。その結果、物理的な総会会 場を用意しないバーチャルオンリー株主総会を開催することができるようになります(改正産競法 66 条 1 項・2 項)。一定の要件とは、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産 業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件をいいますが(改正産強法 66 条1項)、後述するとおり、これらの省令の内容はまだ明らかになっていません。 この改正については、産競法改正案附則 3 条 1 項において経過措置が設けられており、産競法改正案のバ ーチャルオンリー株主総会に関する部分が施行された際において現に上場会社である株式会社が大臣確認を 受けた場合には、バーチャルオンリー株主総会を可能とする定款の定めがあるものとみなすことができるものとさ れています(以下「みなし規定」といいます。)。そのため、上場会社は、産競法改正案が速やかに公布・施行さ れ、かつ大臣確認が得られれば、定款変更のための株主総会決議を要さずに、本年の定時株主総会でバーチ ャルオンリー株主総会を実施することも可能となります。

留意点としては、①対象が上場会社に限られているため、非上場会社はこの制度を利用することができないこ と、②対象が「株式会社」に限られているため上場リート等の投資法人はこの制度を利用することができないこと、 ③大臣確認時点で上記要件を満たしていても、招集決定時に上記要件を満たしていない場合にはこの制度を 利用することができないこと(改正産競法 66 条 2 項。要件を欠いたままバーチャルオンリー株主総会を開催し た場合には招集手続の瑕疵となり、株主総会決議取消事由となると考えられます。)、④上場会社が確認を得 て定款変更を行った場合(又は附則 3 条 1 項に基づいて定款の規定があるとみなされた場合)、裁判所の許可 を得て株主が株主総会を招集する場合(会社法 297 条 4 項)にもバーチャルオンリー株主総会の開催が可能 となることが挙げられます。

なお、改正産競法による読み替え後の会社法 317 条では、バーチャルオンリー株主総会において、通信障害  等により議事に著しい支障が生じる場合には、議長が総会の延期又は続行を決定することができる旨を株主総 会であらかじめ決議しておくことにより、議長の判断で総会の延期又は続行を決定できる旨の規定があります。そ のため、2021 年の定時株主総会において本制度に基づくバーチャルオンリー株主総会を実施する場合、不測 の通信障害等で総会の進行が困難となった場合に備えて、冒頭でこの決議を行っておくことが望ましいと考えら れます。

(2) 本制度利用に必要となる手続及び経済産業省令・法務省令に委ねられている点

上場会社が本制度を利用するためには、一定の要件を満たしていることについて大臣確認を得て、そのうえ で、株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨の定款の定めを設けるための株主総会決議 を行う必要があります(改正産競法 66 条 1 項)。大臣確認を一度取得し、当該定款の定めを設ければ、以後株 主総会ごとに大臣確認を取得する必要はないと考えられます。

みなし規定により、上場会社が 2021 年の定時株主総会をバーチャルオンリー株主総会で実施する場合に は、当該定時株主総会において株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨の定款変更を 行うことはできません(産競法改正案附則 3 条 2 項)。株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることがで きる旨の定款の定めを設けるためには、必ず、物理的な総会会場を用意する通常の株主総会を開催する必要 があります。

なお、みなし規定の適用が認められるのは、産競法改正案のバーチャルオンリー株主総会に関する部分が施 行される日(すなわち公布日)から 2 年を経過する日までの期間のみであるため、来年度以降も引き続きバーチ ャルオンリー株主総会の実施を可能にしておきたい場合には、本年以降に開催される、バーチャルオンリー株主 総会でない株主総会において、株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨の定款変更を実 施しておく必要があります。

また、以下の点については、経済産業省令・法務省令に委任されているため、現時点ではその内容は不明で す。

株主総会を場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化す ることに資する場合に該当するための要件

 大臣確認申請書の記載事項・必要な添付書類等

 招集決定の際に会社法 298 条 1 項各号に定める事項に加えて定めるべき事項(改正産競法による読み 替え後の会社法 299 条 4 項により招集通知にも記載が必要となります)

 バーチャルオンリー株主総会における議事録の記載事項

(3) 施行時期

産競法改正案のバーチャルオンリー株主総会に関する部分は、産競法改正案の公布の日に施行されることと されています(産競法改正案附則 1 条 1 号)。

3. まとめー実務上の影響 

本ニュースレター執筆時点でも、首都圏を中心とする 10 都府県に対して緊急事態宣言が発出され、新型コロ ナウイルス感染症は終息が見通せない状況となっており、本年の定時株主総会においても、引き続き感染拡大 防止対策が不可欠です。本改正を受けて、新型コロナウイルス感染症対策の観点からバーチャルオンリー株主 総会の実施を検討する上場会社も相当数に上ると見込まれますが、大臣確認の手続、招集決定・招集通知・

株主総会参考書類の変更、実際のバーチャルオンリー株主総会実施・運営に向けた体制の整備など、バーチャ ルオンリー総会の実施に向けた負担は相当なものとなることが予想されます。そのため、上場会社の総会担当者 はタイムリーな情報収集や証券代行等のアドバイザーとの連携を含む入念な準備が必要となると考えられます。 国会審議の状況や経済産業省令・法務省令の内容については、今後の動向を注視する必要があります。弊所 でも、本改正については継続的にニュースレターでお知らせする予定です。