今月のコラムは、涼しい雨の東京で書いている。ここ1週間、ミーティング続きで忙しかったが、話題の中心はやはり英国の欧州連合(EU)離脱とそのM&Aへの影響だった。全般的に、ブレグジット交渉が完結するまでは、英国でのM&A取引の法的枠組みに変わりはない。

■ブレグジットはM&Aに影響するか

ブレグジットに関する融資条件:海外の買い手の間で、重大な事態の逆転に対する保護条項を売買契約に盛り込もうとする動きが出ると予想する声もある。これは、契約締結から取引完了までの期間が長く、その間に通貨の変動や関税の変更といった重大な経済的変化が起きて取引の経済性に悪影響を及ぼすことを、買い手が懸念している場合に考えられる。

欧州経済領域(EEA)加盟国間の企業合併:英企業とEEA加盟国の企業の合併をめぐる現行のEUレベルでの規制枠組みは、ブレグジット後にはなくなる。これらの規制は、ブレグジット交渉の一部をとなっている。

企業買収:株式公開企業の買収に関する制度は、おおむね現行のままにとどまる見通しだ。これは、EUの企業買収指令(Takeover Directive)を国内法化した英国のテイクオーバー・コード(Takeover Code)の大部分が同指令の導入以前から存在しているためで、同法に大幅な変更の必要性はないだろう。ただし、英国がEEAを離脱すれば、共同管轄のルールを見直す必要がある。

非公開企業のM&A:国内取引や多くの国際取引の法的枠組みは、今のまま英契約法に従うことになる見通しだ。国際取引における英国法の評価の高さが、欧州諸国に実質的に脅かされようになるかどうかは、まだ分からない。M&A取引の一部の分野では、多少の変更があるかもしれない。その1つが紛争解決で、英国の判決をEU加盟国で、またEU加盟国の判決を英国で執行できなくなる可能性もある。その場合、英国の判決を欧州加盟国で執行するためには別途、事前承認が必要となるだろう。仲裁が今より多用されるようになるとの見方もある。

■ブレグジット対策は資産評価段階で審査

デューデリジェンス(資産の適正評価):企業買収では、英国のEU離脱交渉の結果や標的企業への影響の可能性をデューデリジェンスの段階で検討しておく必要がある。標的企業のこれまでの動向とブレグジット対策を審査し、試しておくべきだ。具体的な懸念事項はすべて、売買契約の保証対象に含める必要がある。中でも重要なのは、地理的位置、知的財産、従業員契約、サプライチェーン契約などの分野だ。

契約締結:企業買収プロセスではたいてい、ブレグジットがコメントや懸念事項として話題に上るが、これを持ち出すのは買い主側の取締役会である場合が多い。ブレグジットの重要性や標的企業による対策の進み具合については、デューデリジェンスの過程でわかってくる。通常、交渉の後半になると、ブレグジットの重大性やそれにまつわる懸念は解消し、契約を締結するかどうかの判断にはほとんど影響しない。日本企業はたいてい、グローバル戦略の一環として企業買収を行う。したがって、ブレグジットをめぐる懸念は、標的企業を手に入れ、グローバル戦略を進展させることと比べると、重要性が低い。

8月の気になった取引を以下に挙げる。

●��人グループが買収に積極的だ。先月には2件の買収交渉をまとめている。まず、帝人フロンティア(大阪市)がドイツの自動車内装材大手J.H.ジーグラー(Ziegler)を1億2,500万ユーロで買収すると発表。また、帝人はポルトガルの自動車向け複合材料成形メーカーのイナパル・プラスティコ(Inapal Plasticos)の全株式を取得し、完全子会社化すると明らかにした。

●日本たばこ産業(JT)は、企業買収で競合を煙に巻く戦略だ。同社はロシア4位ドンスコイ・タバック(Donskoy Tabak)の買収手続きを完了し、世界第3のたばこ市場である同国で首位の地位をさらに固めた。取引額は約16億ドルとみられている。

●アステラス製薬は、バイオ医薬品の開発を手掛ける英ベンチャー企業キューセラ(Quethera)を買収し、目の付けどころの良さを示した。キューセラは緑内障を対象とした遺伝子治療プログラムを強みとする。

先週は韓国の仁川(インチョン)で、待望の剣道世界選手権大会が開かれた。世界56カ国が参加する盛大な大会となった。男女とも、団体戦でも個人選でも日本チームが圧倒的に強く、これに続く韓国と共に素晴らしい戦いぶりを見せた。英国もベストを尽くし、男子個人戦の優勝者や女子団体戦の優勝チームを相手によく健闘した。私自身、剣道の多くの伝説的名手と会う機会もあり、全体として素晴らしい体験だった。

Originally published by NNA in August 2018.