創立17年の米国大手ソーシャルメディアのフェイスブック(Face Book)は、2021年10月28日に社名を「Meta」に変更すると共に「メタバース」を今後の中核事業にすることを正式に発表した。「メタバース」という概念は、既に今後の科学技術発展の新たなトレンドになっている。このほかにも、著名な大手スポーツ用品メーカーのナイキ(NIKE)も、密かにメタバース市場への参入に向けた布石を打っている。日本特許庁(JPO)と米国特許商標庁(USPTO)のウェブサイトの資料によると、ナイキは、バーチャルグッズの取引に使用する商標として、10月25日に日本、10月27日と28日に米国で《NIKE》、その著名なスローガンである《JUST DO IT》及び自社ブランドを象徴するマーク《 (スウッシュ)》、《AIR JORDAN》及び図形《 (ジャンプマン)》等、計7件の商標登録出願を行っている。

 この「メタバース」の流れは、同様に中国市場も席巻している。中国メディアの金色財経の報道によると、中国国内で登録された《元宇宙(メタバースの中国語訳)》商標は計3167件あり、2021年9月以降、《元宇宙》関連の商標が2939件出願された。中国のIT大手企業のテンセント・ホールディングス(Tencent Holdings、以下「テンセント社」という)は、早々とこのビジネスチャンスを嗅ぎ付けて早い段階で布石を打ってきた。2020年2月に、テンセント社は「最初のメタバース関連銘柄」と呼ばれる、メタバースの概念を取り入れたオンラインゲーム作成プラットフォーム『ロブロックス(Roblox)』の1.5億米ドルのシリーズG資金調達に出資しただけでなく、中国国内のロブロックスの代理権も獲得した。中国企業情報検索プラットフォームの「天眼査(Tianyancha)」アプリによると、テンセントテクノロジー(Tencent Technology、深セン)有限公司は、2021年9月3日に《王者元宇宙》、《天美元宇宙》の商標をそれぞれ第45類の社会的サービス、第38類の電気通信サービスへの使用を指定して登録出願している。これらの商標の案件状態はいずれも出願中である。一部のメディアでは、テンセント社が登録出願したメタバース関連の商標は百件に達したのではないかと報道されている。

台湾でも同様にメタバースブームが巻き起こっている。現在既に、あるテクノロジー会社が、2021年10月19日に《元宇宙METAVERSE》の商標をインターネットマーケティング、仮想通貨取引、コンピュータによる製図などへの使用を指定して商標登録出願している。台湾知的財産局の商標検索システムで、《元宇宙》をキーワードとして検索したところ、2021年11月5日の時点で、有効な新規出願案が28件との検索結果が出た。しかし、知的財産局の関係者は、これに対して「《Meta》、《Metaverse》、《元宇宙》等の用語は、背景があって一般の人々が使っているため、一般の人々に受け入れられている共通の意味があれば、専用権の取得は難しい。ただし、出願人が指定した商品及び役務が、当該用語の本来の意味と大きく異なる場合、登録が認められる可能性がある。逆に、ソフトウエア、インターネット又は携帯電話のゲームなどの関連商品及び役務への使用を指定した場合、登録の可能性は低い」と述べた。

メタバースとは、ユーザーがその中で文化、ソーシャル、娯楽などの様々な活動を行うことができる没入型の仮想空間のことである。既にナイキ、テンセント社がオンラインゲーム・プラットフォームと提携しているほか、最近では著名な高級ブランド品メーカーであるグッチ(Gucci)も、オンラインゲーム・プラットフォームのロブロックス(Roblox)内に、グッチ・ガーデン(Gucci Garden)と呼ばれるネットショップを開設し、プラットフォームの専用通貨「Roblox」で購入可能なバーチャルなグッチ商品を販売している。このことから分かるように、仮想世界の発展に多くの業界が期待している。今回、ナイキ、テンセント社などが仮想世界で使用する商標の登録出願を積極的に行ったのは、ビジネスチャンスを勝ち取るためと同時に、新しい時代に対応して、他人が許可なく勝手に自社のブランド商標を使用するのを防ぎ、自社の商標を保護するためでもあると容易に推測される。但し、興味深い例として、世界的に大ヒットした戦争をテーマとしたシューティングゲーム「コール・オブ・デューティ(Call of Duty)」の開発・販売企業であるアクティビジョン社(Activision Blizzard Inc)が、長期にわたってゲームで軍用車両ハンヴィー(Humvee)のトレードドレス及び名称を無断で使用したため、ハンヴィーの商標権者であるAMゼネラル社(AM General LLC)から米国で商標権侵害で訴えられたが、裁判所が芸術創作を理由に表現の自由は保護されるべきであるとし、さらに混同誤認についても明らかに誤認を生じさせるには至らないとの判断を下したことで、アクティビジョン社が商標権侵害の責任を免れたことがある。今後、仮想世界のバーチャルグッズを指定商品とした登録商標が、現実世界において他人によって同一又は類似の商品に使用された場合、商標権者が相手方に商標権侵害の行為があったと主張できるのか、また、仮想世界で商標権が侵害された場合、どのように現在のルールに従って判断し、賠償を求めればいいかなど、メタバース参入の風潮の中で、今後発生するであろう様々な問題について議論を深めていく必要がある。