【平成29年(ワ)第22543号(東京地裁H30・12・27)】

【判旨】 ランプシェードを指定商品とする立体商標に係る商標権を有する原告が,被告各商品を販売する被告に対して,差止め,廃棄等の請求を行ったところ,当該請求が認められた事案。

【キーワード】 立体商標,ランプシェード,商標法第36条第1項及び同2項,同法第3条第1項第3号,同法第4条第1項第7号,同項第18号

事案の概要

本件は,ランプシェードを指定商品とする立体商標に係る商標権を有する原告が,被告に対し,被告による別紙1被告商品目録記載1ないし7の各商品(以下「被告商品」と総称する。)の販売が商標権侵害に当たると主張して,商標法36条1項及び2項に基づく被告商品の譲渡等の差止め及び被告商品,その構成部品の廃棄並びに民法709条,商標法38条2項に基づく損害賠償金1837万4400円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原告商標

 原告は,次の立体商標に係る商標権(以下「原告商標権」といい,その商標を「原告商標」という。)を有している。

登録番号 第5825191号 出願日  平成25年12月13日 登録日  平成28年2月12日 登録商標 以下に記載の形状(以下,当該形状を「原告標章」という。) 指定商品 第11類 ランプシェード

被告標章及び被告の行為

被告は,被告商品を中国から輸入し,ウェブサイトを通じて販売しており,平成28年2月12日から平成29年2月末日までの販売数は449個である。被告商品は上掲した被告標章目録記載の形状(以下「被告標章」という。)を有する。

争点

原告商標と被告商標は同一であるか,原告商標の指定商品である「ランプシェード」と被告商品は類似するか,原告商標に無効理由があるか(商標法3条1項3号該当性,同法4条1項7号該当性,同項18号該当性)。 (他の争点に関しては,省略する。また,以下証拠番号は適宜省略する。)

判旨抜粋

1 争点⑴(原告商標と被告標章は同一であるか)について 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告標章及び被告標章は共に構成要素①ないし⑤(ただし,被告標章の構成要素④のシェードの直径は比が2.95:50:21:11である。)を有することが認められ1,原告標章と被告標章はランプシェードの直径の比について若干の相違があるものの,標章全体を見た際に判別し得る相違点とはいえず,原告標章と被告標章の外観は同一であると認められる。また,原告商標及び被告標章はいずれも何らかの観念ないし称呼が生じるとはいえず,これらが相違するものともいえない。 そうすると,原告商標と被告標章は,外観が同一であり,観念及び称呼において区別されないと認められる。また,原告商標と被告標章につき,商品の出所を誤認混同するおそれがないとするような取引の実情等があるとは認められない。なお,被告は,被告商品を販売するに当たり,原告商品が正規品であることや被告商品がリジェネリック・リプロダクト品であることを強調し,原告商品等に比べて低価格で販売していたと主張するが,それらの事情が上記取引の実情等に当たるとは認められない。 以上によれば,原告商標と被告標章は同一であると認められる。 2 争点⑵(原告商標の指定商品である「ランプシェード」と被告商品は類似するか)について 対象となる商品が指定商品に類似しているか否かは,問題となる商品の製造業者,販売店ないし販売場所,需要者,用途等を総合考慮し,これらの商品に同一又は類似の商標が使用された場合に出所の混同を生ずるおそれがあるか否かによって判断すべきである。 被告商品は照明用器具であるところ,照明用器具は主にランプシェードと電球取付部によって構成され,ランプシェードにその他の部品が組み合わされた照明用器具が店舗やウェブサイト上で販売されるのであり,ランプシェードとその完成品である照明用器具は販売店ないし販売場所,需要者が重なるといえること,ランプシェードに照明用器具以外の用途はないことからすれば,ランプシェードと照明用器具は商品としての関連性が極めて強く,これらの商品に同一又は類似の商標が使用された場合に出所の混同を生ずるおそれは高いといえる。 したがって,ランプシェードと照明用器具である被告商品は類似すると解するのが相当である。 (中略) 3 争点⑶-1(商標法3条1項3号該当性)について ⑴ 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア 原告商品の販売状況 (中略) イ 原告商品の取扱い地域 (中略) ウ 原告商品の広告宣伝等 (中略) エ 原告商品の出版物等への掲載 (中略) オ 受賞歴 (中略) ⑵ 検討 ア 原告商標は,ランプシェードに採用し得る一形状である原告標章のみからなるものであり,商標法35 条1項3号に該当することは当事者間に争いがなく,本件においては,原告商標が同条2項の「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」(自他商品識別力を有する商標)に該当するか否かが争われている。 ここで,商品の形状のみからなる商標が,使用により自他商品識別力を獲得したといえるか否かは,当該商品の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。 イ 原告商標について検討すると,構成要素①ないし⑤を有する原告標章は一般的なランプシェードの形状としてありふれたものであるとはいえず,特徴的な形状として需要者に対して強い印象を与えるものといえる。遅くとも昭和51年に日本国内における販売が開始され,日本全国で約40年間にわたり継続して販売されており,平成11年から平成26年までの間の原告商品の販売数量は7万4627台であり,販売数量は増加傾向にあること(⑴,ア,イ),ヤマギワ又は原告日本法人が定期的に全国の多数の顧客に対して配布していた商品カタログにおいて,原告商品の写真や原告商品が世界のロングセラー商品であること等の説明が掲載され,原告標章を印象づける広告が繰り返しされていること(同ウ),多数の出版物において,原告商品の写真や説明25 文が掲載され,原告商品が世界のロングセラー商品であり,原告標章が優れたデザインであることが強調されていること(同エ),原告商品が平成9年度通商産業省選定グッド・デザイン外国商品賞を受賞したこと(同オ),高等学校の教科書にも原告商品の写真や説明文が掲載されていること(同カ)が認められ,これら原告商品の販売状況や広告宣伝状況等の事実からすると,原告商品は日本を含む世界のロングセラー商品として長年にわたり,原告やその関連会社が販売する代表的な商品として,インテリアの取引業者や照明器具等に関心のある一般消費者に認識されていると認めることができる。なお,被告商品を含む,原告標章と同一又は類似の形状の同種商品が日本国内外において販売されていたことはうかがわれるものの,そのような商品が日本国内において一般的に流通していたことを認めに足りる証拠はない。 以上によれば,ランプシェードとして特徴的な形状を有する原告標章からなる原告商標は,原告商品の形状として使用された結果,原告の業務に係る商品であることを表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたといえ,これに反する被告の主張は採用することができない。 ウ したがって,ランプシェードの立体的形状である原告商標は,商標法3条2項の「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」(自他商品識別力を有する商標)に該当し,原告商標に同条1項3号の無効理由があるとは認められない。 4 争点⑶-2(商標法4条1項7号該当性)について 被告は,原告は被告及びその関連会社による被告商品の輸入差止め等の業務妨害を行うために原告商標を登録したのであるから,原告商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(法4条1項7号)に当たると主張する。 ここで,原告は,被告が被告商品の販売を開始した後に原告商標を商標出願し,原告商標を取得後,直ちに被告及び被告の親会社に対する被告商品等の輸入差止めを申し立てたと認められる。しかし,ロングセラー商品であり,世界的に高い評価を受けている原告商品のブランド価値を守るため,原告が,需要者の間で自らの業務に係る商品であることを表示するものとして認識されている原告商標について商標登録を行い,原告商品の模倣品(被告は,被告商品が原告商品のリジェネリック・リプロダクト品であると公表している。)である被告商品の輸入差止めの申立て等を行うことは何ら不当なことではなく,上記商標登録の目的が不正なものといえないことは明らかである。そして,他に原告商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であると認めるに足りる証拠はなく,原告商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるとはいえない。 したがって,原告商標に商標法4条1項7号の無効理由があるとは認められない。 5 争点⑶-3(商標法4条1項18号該当性)について 被告は,原告標章は,周辺の人の顔がはっきりと認識できる明るさを保ちつつ,光源のまぶしさによる不快感をほぼ完全に排除し,手元にも必要十分に明るくすることができるという機能を確保するために不可欠な立体的形状であると主張する。しかしながら,ランプシェードの形状は,シェードの枚数,形状,向き又はそれらの組合せなどにおいて複数の選択肢があり,原告標章も複数の選択肢があるランプシェードの形状の一つであり,上記機能を達成するためのランプシェードの構造が原告標章のみに限られることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告商標に商標法4条1項18号の無効理由があるとは認められない。

解説

本件は,商標権に係る差止め,損害賠償請求である。本件の原告は,自らの商標権に係る標章に,被告が販売している標章が類似しているとして,差止め,廃棄2等の請求を行ったものである。 裁判所は,原告商標と被告標章が同一であるかについて,原告の主張をそのまま受入れ(被告も積極的には争っていない。),同一であると判断した。 裁判所は,「ランプシェードに照明用器具以外の用途はないことからすれば,ランプシェードと照明用器具は商品としての関連性が極めて強く,これらの商品に同一又は類似の商標が使用された場合に出所の混同を生ずるおそれは高い」と判断した。被告は,これに対して,原告が原告商標の登録出願の仮定において,指定商品をランプシェードに変更したことから,原告商標が照明用器具に及ばないと主張したが,裁判所は,「対象となる商品が指定商品に類似しているか否かは,これらの商品に同一又は類似の商標が使用された場合に出所の混同を生ずるおそれがあるか否かによって判断すべき」として主張を退けた。 無効理由については,商標法第3条第1項第3号3に該当することは原告,被告間に争いはなく,裁判所は,同条第2項に該当することを,原告商品の販売状況,原告商品の取扱い地域,原告商品の広告宣伝等,原告商品の出版物等への掲載,受賞歴について,認定し,自他商品識別力を有するに至ったと判断した。 このほかに,裁判所は,原告の公序良俗に反するとの主張や,機能を確保するために不可欠な立体的形状であるとの主張を排斥した。 本件は,立体商標に係る商標権の権利行使が認められた事例であり,実務上参考になると思料する。