【平成31年(行ケ)第10037号(知財高裁R元・8・7)】

【判旨】

本願商標に係る特許庁の不服2018-7529号事件について商標法4条1項8号の判断は正当であるとして,請求を棄却した事案である。

【キーワード】

「他人の氏名」,KENKIKUCHI,商標法4条1項11号

事案の概要

⑴ 原告は,平成29年5月23日,以下の商標登録出願をした(商願2017-69467号。以下「本願商標」という。)。

指定商品:第14類「貴金属製置物,キーホルダー,身飾品(「カフスボタン」を除く。),ペンダント,バングル,指輪,ブローチ,ネックレス,チェーン(宝飾品),ブレスレット,ピアス,貴金属製のベルト飾り,カフスボタン,身飾品用留め金具,時計,宝飾品用チャーム」

第18類「かばん金具,がま口口金,蹄鉄,かばん類,袋物,財布,カード入れ,かばん用ベルト,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,革ひも」第25類「男性用・女性用及び子供用の被服,カフス,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物」

⑵ 原告は,平成30年2月26日付けの拒絶査定(甲23)を受けたため,同年6月1日,拒絶査定不服審判(甲13)を請求した。

特許庁は,上記請求を不服2018-7529号事件として審理し,平成31年1月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年2月25日,原告に送達された。 ⑶ 原告は,平成31年3月25日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

本願商標

事案の概要を参照。

争点

本願商標が,商標法4条1項8号に該当するか否か。

判旨抜粋(証拠番号等は適宜省略する。)

第4 当裁判所の判断

1 取消事由(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り)について

⑴ 「KENKIKUCHI」の文字部分の意味

ア 本願商標は,別紙記載のとおり,翼を広げた鷲又は鷹を黒色のシルエットで表した図形部分と,図形内に配置された「KENKIKUCHI」の文字部分とから構成された結合商標である。

「KENKIKUCHI」部分は,白抜きの大文字の欧文字10字から構成され,各文字の書体及び大きさはほぼ同じで,ほぼ等間隔で1行にまとまりよく配列されている。そして,左端の「K」の文字の右斜め下に向かう線が,左から2文字目の「E」の下部に沿って,同3文字目の「N」の右端の線の下端にほぼ接する位置まで伸び,右端の「I」の文字の終端から左方向に伸びた線が,右から2文字目の「H」から同6文字目の「I」までの各下部(「IKUCH」部分の下部)に沿って,同7文字目(左から4文字目)の「K」の左端の線の下端にほぼ接する位置まで伸びている。そのため,「KENKIKUCHI」部分は,外観上,「KEN」部分と「KIKUCHI」部分に区別して認識されるものといえる。「KEN」部分,「KIKUCHI」部分は,いずれも無理なく一連に発語することができ,前者から「ケン」,後者から「キクチ」の称呼が自然に生じる。 また,証拠(乙1~11)及び弁論の全趣旨によれば,我が国では,パスポートやクレジットカードなどに本人の氏名がローマ字表記されるなど,氏名をローマ字表記することは少なくないこと,氏名をローマ字表記する場合に,「名」,「氏」の順で記載することが一般的であり,パスポートやクレジットカードのように,全ての文字を欧文字の大文字で記載することも少なくないこと,「キクチ」を読みとする姓氏(「菊池」,「菊地」)及び「ケン」を読みとする名前(「健」,「建」,「研」,「賢」等)は,日本人にとってありふれた氏名であることが認められる。 以上によれば,本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は,「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであるから,本願商標は人の「氏名」を含む商標であると認められる。 (中略)

⑵ 商標法4条1項8号の「他人の氏名」

 原告は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」とは,使用する者が恣意的に選択する余地がなく,特定人を指し示す法令上の正式な氏名であって,日本人の氏名の場合,戸籍簿で確定される氏名であり,ローマ字表記は含まれない旨主張する。

しかしながら,同号は,「他人の氏名…を含む商標」と規定するものであり,当該「氏名」の表記方法に特段限定を付すものではない。また,同号の趣旨は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁参照)ところ,自己の「氏名」であれば,それがローマ字表記されたものであるとしても,本人を指し示すものとして受け入れられている以上,その「氏名」を承諾なしに商標登録されることは,同人の人格的利益を害されることになると考えられる。

したがって,同号の「氏名」には,ローマ字表記された氏名も含まれると解される。

⑶ 本願商標の商標法4条1項8号該当性

ア 前記⑴アのとおり,本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は,「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであり,本願商標は人の「氏名」を含む商標であると認められる。 そして,証拠によれば,「キクチ ケン」を読みとすると考えられる「菊池 健」という氏名の者が,北海道小樽市に住所を有する者として,2016年(平成28年)12月版(掲載情報は同年8月24日現在)及び2018年(平成30年)12月版(掲載情報は同年8月16日現在)の「ハローページ(小樽市版)」に掲載され,同時期に発行された他の地域版の「ハローページ」にも,当該地域に住所を有する者として,「キクチ ケン」を読みとすると考えられる「菊池 健」又は「菊地 健」という氏名の者が掲載されていると認められるところ,かかる事実によれば,これらの「菊池 健」及び「菊地 健」という氏名の者は,いずれも本願商標の登録出願時から現在まで現存している者であると推認できる。

加えて,弁論の全趣旨によれば,原告と上記「菊池 健」及び「菊地 健」とは他人であると認められるから,本願商標は,その構成中に上記「他人の氏名」を含む商標であって,かつ,上記他人の承諾を得ているものではない。 したがって,本願商標は,商標法4条1項8号に該当する。

解説

本件は,商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本願商標について,「他人の氏名」に該当すると判断して,商標法4条1項11号1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが,裁判所は当該判断を追認した。 裁判所は,商標法第4条第1項第8号における「他人の氏名」について,最高裁の判例に基づき,「同号の趣旨は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解される」と述べた上で,ローマ字表記された氏名も含まれると判断した。

 そして,裁判所は,「KENKIKUCHI」との構成は,「キクチ ケン」と読みする氏名であるとして,当該氏名と同じ読みの「菊池 健」及び「菊地 健」をハローページから引用して,原告とは他人である上記両名の「他人の氏名」を含む商標であるとして,原告の請求を棄却した。

 これに対して,原告は,特許法第4条第1項第8号の「『氏名』に該当するか否かは,特定人の同一性を認識させるに足りる表記であるか,あるいは,本願商標がブランドとして一定の周知性を有するかという観点から総合的に判断されるべき」との主張を行ったが,裁判所は,「同号は,その規定上,雅号,芸名,筆名,略称については,『著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称』として,著名なものを含む商標のみを不登録とする一方で,『他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」』については,著名又は周知なものであることを要するとはしていない。・・・したがって,同号の趣旨やその規定ぶりからすると,同号の「他人の氏名」が,著名性・希少性を有するものに限られるとは解し難く,また,「他人の氏名」を含む商標である以上,当該商標がブランドとして一定の周知性を有するといったことは,考慮する必要がない」と述べて当該主張を認めなかった。

本件によれば,基本的に氏名が含まれる商標が登録される可能性はほとんどないと思われ,実務上参考になるためにここに取り上げた。