前回に続き、中国知識産権局専利復審委員会による2015年の復審無効十大判例のうち、化学、生物、医薬分野の審決の概要と解説を行う。

3、「グリベックの消化管間質腫瘍治療の用途」に関する特許無効審判事件

特許番号:ZL01817895.2(CN1276754C)

参考用ファミリー公報:特表2004-512328(日本語)

特許権者:ノバルティス(NOVARTIS、スイスの医薬企業)

無効審判請求人:正大天晴、江蘇豪森(中国の大手ジェネリック会社)

審決結果:全部無効

判例の概要と意義:

本特許に関するグリベックは、当初、慢性骨髄性白血病治療薬として開発され市販されたが、更なる研究により、消化管間質腫瘍(GIST)を治療する用途が発見され、本特許はスイスタイプクレームで権利化された。

本特許は進歩性を有さないという理由で全部無効とされたが、無効審判における焦点は、進歩性ではなく、本特許の優先日と同月(ただし具体的な発行日は未記載)に発表された期刊論文の公開日の確定にある。中国専利法審査指南によれば、発行日は当該月の最終日であると推定される。しかし復審委員会は機械的にこの規定を採用することをせずに、当該論文を発表した期刊行物の広告欄の記載を考慮して、当該期刊行物の発行が本特許の優先日の前であることを確定できる、と考えた。

当該特許の無効審判において、合議体は審査指南の刊行物発行日の推定に関する規則(実体審査中、該規則が出願人に有利)を機械的に適用することをせず、双方の当事者が提出した公開日に関する大量の証拠に関して十分な検討を行った。これにより、無効審判においても一定の「民事事件」の性質があることが示された。

4、「グリセリンからジクロロプロパノールを生産する方法」に関する特許無効審判事件

特許番号:ZL200480034393.2(CN101356270B)

参考用ファミリー公報:特許第4167288号(日本語)

特許権者:ソルヴェイ(SOLVAY、ベルギーの化学企業)

無効審判請求人:江蘇揚農化工集団有限公司

審決結果:全部無効

判例の概要と意義:

当該特許に関する発明は典型的な要素代替発明に属し、その発明と先行技術の相違点は、単に用いる触媒剤のコハク酸をアジピン酸及びグルタル酸へ置き換えただけである。特許権者はその出願の実体審査段階で、比較データを提出し、登録査定を受けていた。復審委員会は、無効審判段階で、上述の比較実験データは一方(権利者側)が完成させたもので、証拠として認められない、と考えた。

実務においては、実体審査で比較実験データを提出し、先行技術に対して進歩性を有することを証明することはよくなされることである。もし審判段階で、一方(権利者側)が完成させた実験データというだけで証拠として認めず、当該特許を無効としてしまうと、行政行為の前後の不一致(審査・審判の不一致)を引き起こすこととなってしまう。そこで復審委員会は、無効審判において十分ロジックを検討し、以下のポイントを明確にした。

(1)補足実験データの提出により確認できる技術効果そのものは、明細書中に当初から記載されたものでなければならない

(2)出願日後に完成した実験データは、出願当時における先行技術に対する貢献を証明することはできない

(3)本特許明細書に記載の各実施例の間に複数の相違点があるとき、その効果の差異がその複数の相違点の中の一つから得られたものであると認定することはできない

筆者は、この無効審決が要素代替型発明の明細書作成において指導的な意義を果たすと考える。つまり、特許出願前に先行技術を検索した上で、特許明細書には、要素の代替により得られる効果を確実に記載すべきである。

5、「冷延鋼板」に関する特許無効審判事件

特許番号:ZL200780009180.8(CN101400817B)

参考用ファミリー特許:WO2007/111188(日本語)

特許権者:JFEスチール株式会社

無効審判請求人:新日鉄住金株式会社

審決結果:一部無効

判例の概要と意義:

当該特許の当事者双方は日本企業であり、二度の無効審判を経て、権利は最終的に一部無効となった。当該特許の無効審判における焦点は、成分要件と性能パラメータ要件の両方で限定された製品の請求項に対して、先行技術に当該成分要件を満たした製品が開示されていたとき、どのように性能パラメータ要件を満たすかを確認すべきか、その挙証責任を当事者にどのように負担させるか、であった。

請求人は第1回目の無効審判において、証拠1に開示された鋼材が、本特許で限定する性能パラメータを備えているかについて十分に証明しなかった。請求人は第2回目の無効審判において、補助的な証拠を補充し、証拠1に開示された当該鋼材の製造方法から見て、必然的に対応する性能パラメータを有することを確定できることを証明した。復審委員会はこれに基づき、関連する技術案が新規性を有さず、本特許を一部無効とした。

パラメータ限定の請求項に対しては、実体審査において、先行技術となる製品が本発明のパラメータ要件に適合しないことを挙証する責任は出願人側にあるが、これは審査官が実験能力を有しないこととのバランスを考慮したものである。しかし、民事関係対等の双方当事者による無効審判プロセスでは、当該挙証責任を当事者間で如何に負担させるかが問題となり、これまでの紛争で議論となってきた。本案中、復審委員会は上述の挙証責任が請求人側にあり、特許権者側にはないことを明確にした。

本案のもう一つの焦点は、「一事不再理」の原則の理解である。2回の無効審判それぞれの無効理由は、「請求項1は証拠1により新規性を有しない」であった。ここで復審委員会は、以下の原則を明確にした。

第1回目の無効審判で「その無効理由は成立しない」と判断したとしても、それにより「当該請求項が証拠1に対して新規性を有する」ことを認定したわけではない。それは単に「現在の証拠は当該請求項の新規性を否定するには十分でない」ことに過ぎない。請求人が十分に挙証責任を果たさなかったことによる不利な結果は、当該無効審判に限られる。請求人は新しい補助的証拠を補充して同じ請求項の新規性に対して再度無効審判を請求した場合、「一事不再理」には当たらない。

これらの判例はこれまで実務において議論されてきた点を明確にしており、今後の実体審査や無効審判実務に影響を与えていくと考えられる。