知財高裁(3部)令和2年10月6日判決(令和2年(ネ)第10018号)裁判所ウェブサイト〔アクラス事件〕

1.事案の概要

本件は、同人誌製作者であるXが、Yらが、その運営するWEB サイトに、Xが制作した同人誌(本件各漫画)を無断で掲載して いることが、Xの著作権(公衆送信権)を侵害したとして、Yらに 対し、約1億9千万円の損害のうち1000万円を請求した事案で す。原審は、約219万円の限度で、Xの請求を認めたところ、XY ら双方が控訴しましたが、本判決も、原判決の判断を維持し控 訴を棄却しました。本稿では、控訴審でのYらの主張の一部に ついての裁判所の判断を取り上げます。

2.本判決の内容

控訴審においてYらは、本件各漫画は、原著作物(同人誌の 元ネタとなったアニメ)の複製権、翻案権及び同一性保持権を 侵害しており、違法な二次的著作物であるとして、本件各漫画 に法的保護を与えることは許されず、仮に違法な二次的著作物 にも著作権が成立するとの見解に立っても、その権利行使は信 義則違反又は権利の濫用にあたる旨主張しました。

これに対し、本判決は、キャラクターの著作物性や二次的著 作物についての先例であるポパイネクタイ事件(最判平成9年7 月17日、民集51巻6号2714頁)を引用して次のように述べ、Yら の主張を退けました(下線部は筆者によります。)。

(1) 本件各漫画は原著作物の著作権を侵害するものである かという点について(否定)

  •  漫画の「キャラクター」は、一般的には、漫画の具体的表現 から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であっ て、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情 を創作的に表現したものとはいえないから、著作物に当たら ない。したがって、本件各漫画のキャラクターが原著作物のそ れと同一あるいは類似であるからといって、著作権侵害の問 題が生じるものではない。
  • 原著作物は、シリーズもののアニメに当たるものといえると ころ、シリーズもののアニメの後続部分は、基本的に、先行す るアニメを翻案し、先行するアニメを原著作物とする二次的 著作物と解される。このような二次的著作物の著作権は、二 次的著作物において新たに付与された創作的部分について 生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じ ないと解される。そうすると、シリーズもののアニメに対する著 作権侵害を主張する場合には、そのアニメのどのシーンの著 作権侵害を主張するのかを特定するとともに、そのシーンが アニメの続行部分に当たる場合には、その続行部分におい て新たに付与された創作的部分を特定する必要があるもの というべきであるが、Yらはそのような特定をしていないので、 YらのXによる原著作権侵害の主張は、主張自体失当である。

(2) 仮に本件各漫画が原著作物の著作権を侵害する違法な 二次著作物であった場合に、著作権侵害を主張することは許さ れるかという点について(肯定)

  • なお、仮に原著作物のシーンが特定されたとしても、本件各漫 画につき著作権侵害が問題となり得るのは、主人公等の容姿や 服装など基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られるもの であり、本件各漫画の内容に照らしてみれば、主人公等の容姿 や服装など基本的設定に関わる部分以外の部分については、 本件各漫画に二次的著作権が成立し得るものというべきである。
  • そうすると、原著作物に対する著作権侵害が認められない 場合はもちろん、認められる場合であっても、Xが、オリジナリ ティがあり、二次的著作権が成立し得る部分に基づき、本件 各漫画の著作権侵害を主張し、損害賠償等を求めることが 権利の濫用に当たるということはできない。

3.本判決の意義

本判決は、著作物性や二次的著作権についてポパイネクタイ 事件を踏襲したものであり、新たな判断枠組みを示したものでは ありません。ただ、二次創作である同人誌製作者からの著作権 侵害が主張されるという珍しいケースで、傍論ではありますが、 二次創作が原著作物の著作権を侵害している場合であっても、 二次的著作権が成立し得る範囲では、著作権侵害の主張は排 除されないと示した点で実務上参考になり,紹介する次第です。