【令和元年(行ケ)第10073号(知財高裁R元・10・23)】

【判旨】

原告が,本件商標につき商標法第4条第1項第7号により商標無効審判請求により無効とした審決の取消訴訟であり,当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】

商標法第4条第1項第7号,公序良俗違反,仙三七

手続の概要及び本件商標

以下,証拠番号については,適宜省略する。

⑴ 原告は,「仙三七」との文字を横書きにしてなる次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。

登録番号 第5935066号

登録出願日 平成28年10月14日 

設定登録日 平成29年 3月24日

商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 第5類 サプリメント

⑵ 被告は,平成30年5月31日,本件商標につき特許庁に無効審判請求をし,特許庁は,上記請求を無効2018-890041号 事件として審理した。

⑶ 特許庁は,上記請求について審理した上,平成31年4月19日,「登録第5935066号の登録を無効とする。」旨の審決(以下「本 件審決」という。)をした。その謄本は,同月27日,原告に送達された。 

⑷ 原告は,令和元年5月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 

争点

争点は,商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)該当性である。 

判旨抜粋

2 取消事由(商標法4条1項7号該当性についての判断の誤り)について

商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を 欠く出願行為に係る商標も含まれると解される。

⑴ そこで,まず,原告による本件商標の登録出願が,被告との関係で義務違反となりうるかについて検討する。

前記・・・の各事実によれば,原告と被告とは,本件商標の登録出願が行われた平成28年10月14日時点を含めて,平成11年頃か ら平成29年10月12日頃までの間,被告が,原告に対し,独占的に本件被告商品やマナマリンなどを卸売りし,原告がこれを薬局薬店 等に販売するという長期間にわたる取引関係にあった。 

かかる取引関係に関して,前記・・・のとおり,原告と被告とは,被告商標 の登録が完了した直後である平成16年3月25日,本件覚 書を締結した。本件覚書の柱書,1条,3条の記載に照らすと,本件覚書は,被告商標として登録された「仙三七」との商標を,本件被 告商品 に付して,販売することを前提とするものであることが明らかである。また,本件覚書には,被告及び原告は,第三者が被告商標の 権利を侵害し又は侵害しようとしていることを知ったときには互いに遅滞なく報告し合い協力してその排除に努めるものとすること(第5条) や,被告及び原告は,信義に基づいて本件覚書を履行するものとし,万一本件覚書に関して疑義が生じた場合には,被告及び原告はお 互いに誠意をもってこれを解決するものとすること(第7条)とする合意が含まれていた。このように,被告が原告に使用許諾して「仙三七」と の商標を本件被告商品に付して販売することとされ,第三者からの被告商標に係る商標権の侵害に対する対策も合意された上で,7条 において信義に基づいて本件覚書を履行するとされていたことに照らすと,本件覚書において,原告自身が,三七人参を原材料とした健康 食品との関連で「仙三七」との商標を商標登録することは全く想定されていないといえる。

以上によれば,長期間にわたり,本件被告商品の卸売りを受けて,これに被告商標と同じ「仙三七」との商標を付して販売し,利益を上 げていた原告は,被告との関係において,被告が「仙三七」との商標の商標権者として,かかる商標を付して本件被告商品を販売すること を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたものということができる。 

そして,原告による本件商標の登録出願は,被告商標と同じく「仙三七」を横書きにしてなる商標について,本件被告商品を指定商品 に含むものとして登録出願するものである。かかる登録が認められることになると,被告は,「仙三七」との商標の商標権者として,第三者に 使用許諾をするなどしてかかる商標を付して本件被告商品を販売することはできなくなり,重大な営業上の不利益を受けるおそれが生じ る

以上によれば,原告の本件商標の登録出願は,上記信義則上の義務に反するものといわざるを得ない。 

⑵ 次に,原告の本件商標の登録出願の経緯及び目的についてみる。

前記・・・のとおり,原告は,上記出願の前後において,被告に対し,被告商標が本件被告商品を指定商品に含んでいない可能性や自 らが本件商標を登録出願することについて何ら告げることはなく,本件商標の設定登録完了から4か月以上経過した後の平成29年8月 18日付けの「申し入れ書」において,初めて,本件商標の商標権者であることを明らかにした上で,原告と被告との本件被告商品の取引 終了を一方的に申し入れるとともに,被告に対し,マナマリンの商標の譲渡やそれを条件とした三七人参の購入などを提案したものである。 これに対し,上記「申し入れ書」の内容に照らすと,原告自身は,当該「申し入れ書」を送付する前に,被告以外の第三者から,本件被 告商品と同種の競合品を購入する段取りを既に整えていたと認められる。

そして,原告は,その後の被告とのやりとりの中で,原告から被告に対する営業譲渡の申入れや被告商標の譲渡の依頼に応じてもらえな かったこと,被告の本件被告商品の仕入れ価格が高額であるために原告独自の商品を生産することにしたことなどをも理由として挙げなが ら,原告としては被告の生産する本件被告商品が原告の希望仕入れ価格に不適格であると判断し,原告にて新しいブランドで生産から 販売を開始することなどを伝えている。

このような原告の言動に照らすと,原告は,「仙三七」との商標が,本件被告商品と同種の商品に付されることによって生じる利益を独占 するべく,被告に本件商標と競合する商標を登録出願されないように注意を払った上で,自らは,同種商品の調達ルートを確立する一方 で,被告との取引関係を終了する準備を計画的に整えながら,本件商標の登録出願及び上記「申し入れ書」の送付に及んだものといえ る。

⑶ 以上によれば,原告による本件商標の登録出願は,被告が「仙三七」との商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはなら ない信義則上の義務を負うにもかかわらず,被告商標が本件被告商品を指定商品として含まない可能性があることを奇貨として本件商 標の登録出願を行い,本件商標を取得し,被告が「仙三七」のブランドで健康食品を販売することを妨げて,その利益を独占する一方 で,その他の商品の取引に関する交渉を有利に進めるという不当な利益を得ることを目的としたものということができる。

このような本件商標の登録出願の経緯及び目的に鑑みると,原告による本件商標の出願行為は,被告との間の信義則上の義務違反 となるのみならず,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである。

そうすると,このような出願行為に係る本件商標は,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」 に該当するものといえる。

解説

本件は,商標登録無効審判請求 において無効とした審決に対する取消訴訟である。 

具体的には,商標法第4条第1項7号 の公序良俗違反の有無が問題となった事案である。 

本件において,裁判所は,原告と被告とが,「長期間にわたり,本件被告商品の卸売りを受けて,これに被告商標と同じ『仙三七』との商 標を付して販売し,利益を上げて」おり「本件覚書において,原告自身が,三七人参を原材料とした健康食品との関連で「仙三七」との商 標を商標登録することは全く想定されて」いないと判断した上で,「原告は,被告との関係において,被告が『仙三七』との商標の商標権者 として,かかる商標を付して本件被告商品を販売することを妨げてはならない信義則上の義務を負っていた」のであり,「原告の本件商標の 登録出願は,上記信義則上の義務に反する」と判断した。 

その上で,裁判所は,「被告商標が本件被告商品を指定商品として含まない可能性があることを奇貨として本件商標の登録出願を行 い,本件商標を取得し,被告が『仙三七』のブランドで健康食品を販売することを妨げて,その利益を独占する一方で,その他の商品の取 引に関する交渉を有利に進めるという不当な利益を得ることを目的とした」ものであり,「原告による本件商標の出願行為は,被告との間の 信義則上の義務違反となるのみならず,健全な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである」と判断した。

本件は,結局のところ,長期間,協力して事業を行っていたところ,本件被告商品が被告商標において保護されていない事を奇貨とし て,このことに気付かれないようにしつつ,本件商標を出願登録した上で一方的に事業の打ち切り等を提案したというものであり,裁判所の 判断は,妥当であると思われる。 

本件は,事例判断ではあるが,公序良俗違反に係る珍しい事案であり,実務上参考になると思われる。