概要

2018年8月13日、トランプ大統領による署名を経て、外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018)(「FIRRMA」)が成立しました。FIRRMAは、外国人投資家による米国事業への投資に関して、対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States)(「CFIUS」)が過去10年以上にわたり実施してきた審査手続きを初めて改正するものです。新法は、投資家によるCFIUSへの審査申請書類の提出は「任意」とする既存プロセスの大部分をそのまま残しています。一方で、FIRRMAにより、CFIUSの審査対象となる投資範囲が拡大されたほか、重要な技術やインフラを所有する特定の事業に対する投資について審査手続きが義務づけられることとなりました。

FIRRMA成立後も変更されない点

  • CFIUSとその基本的機能

CFIUSは、複数の連邦政府機関で構成される委員会で、財務長官(Secretary of the Treasury)が議長を務めます。同委員会の役割は、米国の国家安全保障を害する恐れがある「対象取引(covered transactions)」の審査と調査を行うことです。CFIUSの調査は、取引当事者がCFIUSに審査申請書類を提出するか否かにかかわらず実施されることがあります。同調査の結果、対象取引には国家安全保障を脅かすリスクがあると判断された場合、CFIUSが、取引当事者に対して、こうしたリスクの緩和条件に同意するよう求める可能性があります。また、取引当事者が同条件に同意しない場合や、CFIUSが当該対象取引に関する判断を大統領に委ねることを選択した場合には、大統領が当該取引の停止、禁止または終了を命じる権限を有します。

  • 外国人による米国企業・事業の合併または買収(敵対的買収も含む)は「対象取引」であり続けます。

FIRRMA成立前は、「ジョイントベンチャーを通じて実施されるものも含めて、最終的に外国人が米国事業を支配し得る、外国人による合併または敵対的買収(takeover)も含めた買収」のみが、「対象取引」としてCFIUSによる審査の対象とされていました。ここで言う「外国人」とは、外国市民、外国政府もしくは外国企業、またはそのいずれかにより支配される事業体を意味します。また、「米国事業」とは、通商を支配する者の国籍にかかわらず、(米国)州際通商に従事する事業体を意味しています。

上記の定義上、「対象取引」として分類される可能性のある取引の当事者は、同取引のクロージング前に、CFIUSに審査申請書類を任意提出することを検討すべきです。

  • CFIUSの検討事項にも変更はありません。

FIRRMAにより改正されなかったエクソン・フロリオ法(Exon-Florio Act)第721(f)条は、対象取引の審査でCFIUSが検討すべき事項として次のものを定めています。

· 国防要件を満たす国内生産および国内産業による生産能力

  • テロ行為支援国、ミサイルもしくは大量破壊兵器拡散の懸念国、または米国���国益に対して軍事 的脅威となり得る地域向けの軍需品、軍装備品または軍事技術の販売に及ぼす影響

  • 米国の国際的技術統率力に及ぼす影響

  • 国家安全保障関連上「重要なインフラ」または「重要な技術」(各定義は後述)に与える影響

  • 対象取引の結果、外国政府が米国事業に対する支配力を得ることになるか否か

  • 該当国による破壊兵器不拡散政治体制への順守、テロ対策への協力歴、およびテクノロジーを軍 事用途に転用する可能性

  • 国産エネルギーおよび重要資源にかかわる長期計画ならびに重要必須要件

申請書類の任意提出を検討する取引当事者は、当該取引がもたらす政治的影響や同取引に関するメディア上の批評などに基づき、CFIUSがより厳重に審査や調査を行う可能性があること、また実際問題として、そのような政治的影響やメディアでの批評が審査結果を左右する可能性があることに留意すべきです。

  • ほとんどの書類提出が、従来同様、任意とされています。

FIRRMA成立前における、CFIUSの審査・調査を受けるための申請書類の提出は、完全に「任意」によるものでした。この点は、現在も基本的に変わりませんが、下記パイロット・プログラムに該当する取引は例外となります。なお、CFIUSは、取引当事者に対してCFIUSへの審査申請を要請する権限を保持しており、審査申請がなされたか否かにかかわらず、対象取引に対して措置を講じることができる点は注意が必要です。現在に至るまでを振り返ると、対象取引のクロージング後に、CFIUSが取引当事者に不利なリスク緩和条件を課したり、または大統領に取引終了命令の発行を提案したりしないよう、(全当事者ではないにせよ)多くの当事者が申請書類を任意で提出する傾向にありました。

  • 提出書類は、従来同様、機密文書・情報として扱われます。

CFIUSの審査を受けるために提出された情報および文書は、従来同様、今後も機密文書・情報として扱われ、一般に公開されることはありません。

FIRRMA成立により変更された点

  • CFIUSの審査対象となる投資範囲が拡大されました。

FIRRMA成立前にCFIUSが行っていた審査は、外国人が対象取引を通じて米国事業を支配し得るような取引に限られていました。そのため、米国事業の支配権に影響のない投資や(企業や事業自体の買収ではなく)特定資産や権利の買収に関連した投資のほか、既存の投資に変更が生じることで外国人に米国事業の支配権を与えるような投資においては、CFIUSに審査権限はありませんでした。このような制限により、本来であれば慎重に審査されるべきであった特定の対米外国投資が、前述のような明らかな資産・株式の売却・合併に対してCFIUSが行っていた綿密な審査を受けることなく、許可されていました。

FIRRMAは、以下のカテゴリーをCFIUSの管轄範囲に加えることにより、「対象取引」の定義を実質的に拡大し、CFIUSの審査プロセスで生じていた歪みに対処しようとしています。

  • 特定の不動産: 港湾に所在する、もしくは米国軍事施設に近接する米国不動産または国家安全 保障に関わる他の不動産物件の購入・投資で、当該購入・投資により、外国投資家が、合理的に 機密情報を収集する能力を取得したり、または同不動産物件が外国による監視を受けるリスクにさ らされたりする場合。本カテゴリーは、市街地の個人住宅および不動産を明示的に除外していま す。

  • 特定の「その他投資」: 特定の米国事業に対する「その他投資」で、米国事業の支配権を外国人 に付与する点ではFIRRMA成立前の基準には達しないものの、(a)重要な非公開技術情報への アクセス、(b)取締役会の構成員・オブザーバーとなる権利もしくは取締役選任権、または(c)米国

    市民に 関わる機密個人情報、重要な技術もしくは重要なインフラの処分に関する実質的な意思決定への関与を提供する投資。問題の米国事業が「重要なインフラ」を所有・運営・製造したり、あるいは同インフラに供給・サービス提供をしたり場合、「重要な技術」を生産・設計・試験・製造・加工・開発する場合、または米国市民の機密個人情報を保持・収集したりする場合に限り、CFIUSの管轄権が本項の「その他投資」に適用されます。なお、「その他投資」の一部に関しては、現在、CFIUSへの報告が義務づけられるに至っています。(詳細は下記ご参照)

  • 既存の投資内容に生じる変更: 米国事業に対して行っている既存投資において外国人が保持し ている権利に変更が生じることで、米国事業を外国人が支配することになる場合、または前項で 言及した種類の投資に至る場合。

  • 審査の回避を意図して構築された取引: CFIUSによる審査の回避を意図して構築されたその他 取引、譲渡、合意または取決め。

  • 審査期間が延長され、申請手続きが改革されました。

FIRRMAは、CFIUSによる審査プロセスの効率性と確実性を向上させるため、2段階から成る審査プロセスに変更を加えました。

  • 審査申請前: CFIUSの審査を受ける取引当事者は、審査申請書類をCFIUSに提出する前に、 まずは同書類のドラフト(草案)を提出してアドバイスを受けることを強くお勧めします。取引当事者 が、当該取引が「対象取引」であると明記した場合、CFIUSは、ドラフトを受領してから10営業日 以内にフィードバックすることが義務づけられています。これまでにCFIUSへの審査申請に関与 したことのある弁護士によれば、ドラフトについてアドバイスを受けるまでに最長30日の遅延が見 られたケースもあったとのことで、今回の変更により大幅な改善が期待できるものと思われます。

  • 正式な審査申請書類の提出: 当事者は、審査申請前に受け取ったフィードバックに基づいて、ド ラフトを修正・最終化し、正式な審査申請書類をCFIUSに提出します。ちなみに、CFIUSへの審 査申請に関与したことのある弁護士曰く、CFIUSが正式な申請書類の受領を確認するまでに最長 30日を要したことがあったそうです。

  • 審査期間: 新法は、従来の30日間を上回る45日間の審査期間をCFIUSに認めています。

  • 調査期間: 審査期間の終了時に、CFIUSが取引に関して調査実施を決定した場合、当該調査 は45日以内に完了されなくてはなりません。調査期間は、「特別な状況」において、さらに15日 間の延長が認められています。FIRRMA成立前は、CFIUSが制定法上の45日という期限を遵守 することができないという理由だけで、提出済みの申請書類を取り下げ、再提出するよう、取引当 事者が要求されたこともあったと報告している弁護士もいます。

  • 特定の投資に関して、申告書(Declaration)の提出が義務づけられることとなりました。

FIRRMA第1706条は、新たな取引タイプを規定し、これらの取引タイプに関してはCFIUSへの報告を義務づけています。同取引タイプには、外国人による米国事業への下記投資が含まれます。

  • 「重要なインフラ」を所有・運営・製造・供給したり、または同インフラにサービスを提供したりする米 国事業。「重要なインフラ」 とは、「物理的であるか実質的であるかを問わず、米国にとって極めて 重要なシステムおよび資産で、同システムまたは資産の毀損・破壊が国家安全保障を弱体化させ る効果を有するもの」を意味します。

  • 下記「重要な技術」のうちの一つもしくはそれ以上を生産、設計、試験、製造、加工または開発する 米国事業。

米国軍需品リスト(U.S. Munitions List)記載の防衛物資もしくは国防業務、米国輸出規制品目リスト(Commerce Control List)に記載され且つ多国間管理体制(国家安全保障、大量破壊兵器・核の拡散防止、もしくはミサイル技術に関連する理由を含む)により規制されている品目、地域安定もしくは通信傍受にかかわる理由により規制されるもの、連邦規則上で制限されている特定の核装置・部品・構成品・材料・ソフトウェア・技術、選択剤および有毒物質、ならびに2018年輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)により規制されている先端技術・基盤技術を含む。

  • 米国市民の機密個人情報を保持または収集する米国事業で、このような情報が国家安全保障を 脅かすような手段で利用される場合。

「対象取引」が上記のカテゴリーの一つに該当する場合で、(1)外国政府から実質的な投資を受けている外国人投資家が、直接的か間接的かを問わず、米国事業において相当な持分を取得する場合、または(2)「パイロット・プログラム対象取引」である場合には、申告書の提出が義務づけられています。(申告書は、従来の審査申請書類よりも簡易な内容で基本的に5ページ以内のものです。)

この「パイロット・プログラム対象取引」ですが、米国財務省が指定する特定の産業に限定されています。パイロット・プログラムに関する規則では、次のものが「パイロット・プログラム産業」とみなされ、申告書提出義務の対象となります。

  • 航空機の製造

  • 航空機エンジンおよびエンジン部品の製造

  • アルミナ精製および第一次アルミニウムの生産

  • ボールおよびローラー・ベアリングの製造

  • コンピューター記憶装置の製造

  • 電子計算機の製造

  • 誘導ミサイルおよび宇宙船の製造

  • 誘導ミサイル、宇宙船推進ユニットおよび推進ユニット部品の製造

  • 装甲戦闘車、戦車および戦車構成部品の製造

  • 原子力発電

  • 光学機器およびレンズの製造

  • その他基礎無機化学薬品の製造

  • 上記以外の誘導ミサイル、宇宙船部品および補助装置の製造

  • 石油化学製品の製造

  • 粉末冶金部品の製造

  • 電力用変圧器、配電用変圧器および特殊変圧器の製造

  • 一次電池の製造

  • ラジオ・テレビ放送機材および無線通信補助設備の製造

  • ナノテクノロジーの研究および開発

  • バイオテクノロジー(ナノバイオテクノロジーを除く)の研究および開発

  • アルミニウムの二次精錬および合金化

  • 調査・探知・航法(ナビゲーション)・誘導・航空/航海システムおよび機器の製造

  • 半導体および半導体関連機器の製造

  • 半導体製造装置の製造

  • 蓄電池の製造

  • 電話装置の製造

  • タービンおよびタービン発動装置ユニットの製造

なお、米国財務省が定めた規則は、特定の投資ファンドを介する投資と航空機関連投資とを申告書提出義務の対象から除外しています。

申告義務を負う取引当事者は、(従来の審査申請書類の代わりに)申告書を提出することが可能です。FIRRMA第1706条は、対象取引のいかなる当事者に対しても申告書の提出を認めることを意図していますが、パイロット・プログラムに関する暫定規則は、申告義務を負わない取引当事者が任意で提出する申告書は受け付けないとしています。一方で、取引の種類にかかわらず、対象取引に関与するいずれの当事者も、自らの意思で従来の審査申請書類を提出できるとされています。

  • 申請料金の徴収が認められました(が、まだ実施されていません)。

CFIUSはこれまでのところ、申請料金の徴収に関する規則を発行していませんが、FIRRMA自体は、取引額の1パーセントまたは300,000米ドル(年間インフレ調整されることがある)のいずれか低い方に相当する申請料金を徴収する権限をCFIUSに付与しています。

審査申請書類を任意提出するか否かを決定するには

対象取引がパイロット・プログラムの適用範囲に含まれない限り、従来同様、CFIUSの審査申請は任意で行うことができます。なお、クロスボーダー投資の当事者は、CFIUSに審査申請を任意提出するか否かを決定する際、複数の要素を検討する必要があります。

  • CFIUSによる審査手続きが取引のスケジュールや計画に影響を与えますか?

FIRRMA成立前にCFIUSの審査手続きに関与したことのある弁護士は、追加調査が必要とされない場合でも、審査プロセスに3-4ヵ月を要することがあったと報告しています。また、追加調査が行われる場合には、さらに1ヵ月を要することもあったようです。(ちなみに、CFIUSが提出された審査申請を取り下げ、再提出を要求した場合などは、それ以上の期間を要しました)。このように長期間を要した理由の一つは、審査申請前のプロセスにおける遅延にありました。しかしながら、FIRRMAにより、現在は審査申請前の準備期間が10営業日に制限されているため、審査申請前の遅延は改善されるものと思われます。一方、CFIUSの審査期間は、30日から45日に延長され、特別な状況下では最高60日まで追加調査を行うことが認められることとなりました。従って、審査期間の延長による遅延が生じれば、外国人投資家は、投資または買収入札手続きにおいて米国内��買手に遅れを取ることとなり、市場での競争力を大幅に失う恐れがあります。

  • 対象取引の当事者がCFIUSに審査申請をしない場合でも、CFIUSが自主的に調査を実施する可能性はありますか?

対象取引の当事者により審査申請がされなかった場合でも、CFIUSは調査を実施することができます(それは、たとえ取引のクロージング後であっても可能です)。審査および調査実施後に、当該取引が国家安全保障上のリスクを有していると判断された場合、CFIUSは、取引当事者に対して同リスクの緩和を義務づけるか、または大統領に取引終了命令の発行を提案するか、いずれかの手段を勧告することができます(いずれの場合も、一時的な買収者に多大な経済的負担を生じさせる可能性があります)。審査の任意申請を行うか否かにかかわらず、CFIUSによる審査が予測される場合、当事者は、自身にとってより有利な審査・調査結果となるよう、できる限り望ましい形で取引を構築し、CFIUSに誠意を示すことを検討してもよいかもしれません。

CFIUSが自主的に審査・調査を実施する可能性を判断する際、当事者は、エクソン・フロリオ法(Exon-Florio Act)第721(f)条に規定されている要因(上記ご参照)を参考にするとよいでしょう。また、当事者が投資目標を達成する上で政府と重要な契約を締結する必要があるか否か、取引の根本が政治上の機密性を帯びるものであるか否か、当該取引がメディアで大きく取り上げられているか否か、または米国内の有力な別当事者と入札で争う可能性があるか否かについても検討してもよいかもしれません。

  • CFIUSによる審査で取引が認可されると、必要となるその他規制当局からの承認を取得しやすくなりますか?

CFIUSから取引の認可を得た当事者は、米国の国家安全保障に影響を与えるような投資について懸念するその他当局からも承認を受けやすくなることがあります。

クロスボーダー投資に生じ得る影響

FIRRMAがもたらす最も重要な影響は、CFIUSによる審査の対象となる「対象取引」範囲の拡大にあると言えるでしょう。中国およびロシアなどの国々が米国所有の特定の技術的資源に興味を持つ戦略的ライバルとみなされる今日の地政学的環境においては、こうした国々の当事者が、重要なインフラ・技術を所有・運営する米国事業や、米国政府および軍事施設と密接な関係を維持しながら運営する米国事業への投資を試みる際に、CFIUSに付与された新たな権限が萎縮効果として働く可能性があります。当然ながら、上記国々の投資家が関与する取引では、米国内の投資家が関与する取引に比べ、クロージングまでにより多くの時間を要する上、費用も嵩むことになります。さらに、当該投資家にとって好ましくないリスク緩和条件が課される可能性はもちろん、CFIUSによりクロージングが阻止される可能性もあるとなれば、投資の萎縮は尚更と言えるかもしれません。

一方、日本、カナダ、英国および欧州連合加盟国などの友好国からの投資が国家安全保障を脅かすリスクは、より低いものと受け取られるかと思います。しかし、CFIUSの管轄権が拡大されたことにより、CFIUSへの審査申請で要求される申請のタイミングおよび取引コストが、友好国の投資家が有する競争力に不利益を生じさせる可能性は否定できません。今後、新たなパイロット・プログラムの下でより合理化された申請手続きが策定されれば、ロー・プロファイル(注目を集めないような)取引において、友好国の投資家がCFIUSの承認を得ることがより容易になるかもしれません。しかしながら、パイロット・プログラムの適用範囲が暫定規則で限定されている産業を超えて拡大されるまでは、大部分の取引が従来の申請制度の下で処理されることになります。

CFIUSの管轄の対象となり得る対米投資を計画する方は、投資の初期段階で弁護士および取引アドバイザーを雇用し、CFIUSへの審査申請を行うことで予想されるコストやリスクを評価するとともに、投資家にとって望ましく、且つ取引の全当事者に合意可能な取引条件を検討することをお勧めします。