専利復審及び無効審判部による2021年度特許復審・無効十大審判事件が公示された。専利復審及び無効審判部は、毎年、これらの事件を通じて焦点となる問題に関する法文をめぐって権威ある解釈を示す。化学分野に関わる三件のうち、二件がマーカッシュ・クレームに関する事件である。

マーカッシュ形式のクレームは、化学分野の特許に多く見られる独特な記載形式のクレームとして、特許権の取得および権利行使段階における争いになりやすいクレームである。マーカッシュ形式のクレームは、複数の構成要素で構成された化合物の集合を表しているため、実体審査では、よくサポート要件、単一性要件、新規性要件、進歩性要件などに充足せず拒絶理由となる場合があり、出願者は授権できるために、マーカッシュクレームの保護範囲をさらに特定する補正を行う。特許取得後の権利行使段階では、優先権主張が認められるかどうかが問題となる場合もある。マーカッシュ形式のクレームの優先権主張について、未だに権威ある決定はないが、審査実務では、修正後のマルクーシュクレームの優先権主張が認められる可能性が低い。一方、特許無効審判では、特許クレームの訂正方式に制限されるため、マーカッシュ形式のクレームに対する訂正が訂正要件に充足せず受けられないことが多い。

特許無効審決第48183号(中国専利登録番号CN01820481.3、ファミリーパテントJP4245130B2)は、肺高血圧症治療薬に関し、特許公報において、請求項1は一般式で表される化合物に関し、請求項2~9は、さらに一般式で表される化合物の置換基が選択できる範囲を絞り、言い換えれば、より少ない変数で一般式の化合物を特定する。請求項10および11は、具体的な化合物を限定する。承認された薬品に関連する化合構造は、マーカッシュクレームおよび請求項11の範囲に含まれている。無効審判の請求人によって特許が無効とされる理由の一つは、本特許が、本特許の出願日の前に出願され、且、本特許の出願後に出願公開されたものに対して進歩性を有しないことである。したがって、当案において、優先権主張が認められるかどうかは判定すべき問題になる。無効審判における請求範囲に対する訂正として、特許権者は、請求範囲を承認された薬品の化学構造を含む、2つの化合物のみを含むものに絞り込んだ。従って、優先権に関する判断について、この2つの特定の化合物が優先権を主張できるか否かが判断の焦点となる。これに関して、合議体は、「先願がマルクーシュ形式の一般式を含み、後願が一般式の範囲内の特定の化合物である場合、後願が優先権を主張できるかどうかを判断するのは、先願には当該特定の化合物が明確にまたは暗黙的に記載されるという原則に従わなければならない。先願に明確にまたは暗黙的に記載されていない特定の化合物は、先願の優先権を主張できない」。つまり、優先権書類には、後願の特定の化合物に関する記載がない場合には、優先権における「同一の発明」の要件を判断基準として、優先権を主張できない。

特許無効審決第48183号におけるマーカッシュクレームに対する判断基準が特許無効審決第46047号(中国専利登録番号ZL00818966.8、同部門2020年度特許復審・無効十大審判事件の一つ)は基本的に同じである。審決第46047号では、特許権者が特定の化合物に訂正することで優先権主張が認められなくても、関連する特許の進歩性を認めすべきであるという抗弁によって、自分に有利な審決を取得できた。

上記の事件から、特許権者は、無効審判におけるマルクーシュクレームの優先権の判断基準をめぐって論争を引き起こさないために、かなり保守的な答弁戦略を採ることがわかる。ここで一つの質問をする。もし、訂正後のクレームが依然としてマルクーシュクレームであれば、その優先権の判断はどのように決定すべきか。マルクーシュクレームが優先権を主張できるかどうかは、その訂正方式と密接に関連しているため、本文では、2017年度中国の裁判所による知的財産十大審判事件の1つに示した訂正に関する判決意見に基づいて、マルクーシュクレームの優先権を主張できるどうかを決定する方法について説明してみる。

立法目的の観点から、マルクーシュクレームの設置は、複数の置換基が上位概念を有しないという化学分野の問題を解決することを目的とする。したがって、「合理的」に化合物を集合するのは、マルクーシュクレームの審査プロセスにおいてより重要な問題である。一方、技術研究開発のプロセスの観点から、特許権者が出願する時点で、マーカッシュ形式のクレームで限定される化合物を請求したが、臨床開発前の初期段階であるため、出願者は化学構造と活性との関係を十分に理解するわけではなく、最終的に臨床段階に入り、治療効果を示す化合物を正確に予測することも不可能である。その時点では、マルクーシュクレームの使用を認容することで、出願人が今までの研究結果に基づいて一定の保護範囲を請求する可能性も認められできる。上記の2つの要素を考慮すると、マルクーシュクレームに対する審査は事後判断であり、出願者はマルクーシュ構造を通して将来の研究の方向性について一定の先見性を持たせる必要がある。本文では、マルクーシュクレームへの法的規定の適用を論じて、それらの2つの要素が平衡状態に近づいて行くことに努力する。

まず、合議体が特許無効審決第48183号決定に解釈される原則によれば、特定の化合物が優先権書類に明確にまたは暗黙的に記載されていない場合、後願が先願の優先権を主張できない。合議体が、新規性の判断基準を考慮すべき要素の1つとして上記の解釈を下す。特定の化合物が優先権書類に記載されていない場合、優先権書類のマルクーシュクレームに対して新規性があり、選択発明に構成する可能性があり、したがって、特許権者の優先権主張が認められれば、実際には先行技術の分割点を前進させ、優先権制度の本意に反することになる。

したがって、マルクーシュクレームは、特定の化合物あるいは特定の化合物の集合とは異なる。これは、(2016)最高裁判所再審判決第41号(2017年度中国の裁判所による知的財産十大審判事件)で確認された。最高裁判所は、「マルクーシュクレームは、複数の化合物の集合ではなく、マルクーシュ要素の集合と見なされるべきである。マルクーシュ要素は、特定の状況では単一の化合物を表しているが、一般的に言えば、マルクーシュクレームは共通の効能効果を持つ一種類の化合物として理解すべきである。」

実務では、授権された特許におけるマルクーシュクレームの範囲は、優先権に開示された範囲より小さい範囲であり、あるいは、元の開示範囲をさらに限定してなる範囲である。

前者の場合、補正後と補正前の式で表される化合物を比較すると、より小さい範囲のマルクーシュクレームは、通常、優先権の開示の範囲に比べて新規性があると考えられるため、出願者として、クレームを書くとき、これを考慮に入れる必要があるため、過度の注意義務が課せられ、マルクーシュクレームの化合物を集合する機能が無意味になる。なぜならいえば、実体審査においては、出願者は応答としてクレームを補正し、補正後のクレームが優先権書類に記載されるものと一致していないになることがよくあり、もし、さらに限定するという補正方式によって優先権を主張できなくなると、出願人が発明の内容を早めに公開するモチベーションを失う。この場合、優先権書類に開示された特定の化合物が依然として、補正後のマルクーシュクレームの保護範囲内にある場合、出願人は優先権出願を提出する際に、予測可能的な保護範囲を考案し、複数の特定の化合物も記載され、本発明が実質的に完了していると推定できる。優先権書類に開示された複数の特定の化合物が依然として補正されたマルクーシュクレームに含まれている場合、実体審査中に行われた補正、および、無効審判中に行われた訂正の目的としては、優先日時点でまだ発見されていない先行技術文献を回避できて合理的な且比較的安定な保護範囲を取得することである。したがって、このような補正後のマルクーシュクレームが優先権を主張することは合理的である。2015年の復審決定第103348号(CN200980125974.X、発明名称:ジチエノ[2,3-d:2’,3’-d]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン系の高性能で溶液加工可能な半導体」)も同様の決定を下した。合議体は、特許出願が先願の優先権主張を認めるかどうかは、同一の発明要件を充足するかどうかに依存し、2つのクレームの書き方、ひいては置換基の数を単純に比較することができない。マルクーシュクレームについて、後願が前願に基づいて一部の置換基オプションのみを削除し、新しい発明の主題が現れない場合、後願は優先権を主張できる。この特許出願については、具体的な実施例が補正後のマルクーシュクレームの保護範囲に含まれる。このような補正を認容することにより、出願人の利益を合理的に保護することができ、また、明細書の開示内容ではなく、競合他社の業務行動に基づいて意図的に一般式を補正するという出願人の不合理な意図を防ぐことができる。

後者の場合はより複雑で、優先権と比較して後願のマルクーシュクレームは、保護範囲に重複がある場合、訂正後のマルクーシュクレームには、優先権書類に開示されていないものが含まれるため必ず優先権主張が認められないか。この点に関して、優先権制度を確立する本意の下では、優先権書類に記載されていなければ優先権の対象とならないわけではなく、個別の状況について判断する必要がある。優先権制度を不当な先取りに使用することや、出願者がクレームを書くことに過度の注意義務を要求することもできない。

マルクーシュクレームは、実体審査では補正される可能性が高くて、出願人がクレームを修正する余地が多く、通常、置換基オプションを削除するのが許可できる。ただし、無効審判の段階では、訂正方式に制限があり、マルクーシュクレームを訂正する余地は非常に少なく、置換基の削除はほとんど許可されることができない。 前述の(2016年)最高裁判所再審判決第41号においては、最高裁判所は、「無効審判の段階では、マルクーシュクレームの訂正方式に厳格な制限が必要であり、マルクーシュクレームの訂正を許可するのは、新しい効能や効果を有する一種類または単一の化合物に変更することはできないという原則を守らなければならない、ただし、ケースバイケースで、個別の要因を十分に考慮する必要もある」という見解を示した。

特許権者が無効審判においては、下記の通り請求項1を訂正しよう。

(特許無効審決第48183号から抜粋)

結局、合議体は「またはエステル」を削除するとの訂正のみを受け入れ、他の訂正を受け入れなかった。この見解は最高裁判所によっても支持された。最高裁判所は、特許権者が無効審判で上記の訂正を認容すれば、「訂正後のクレームの保護の範囲を縮めて公衆の権利と利益を損なうことはないとしても、新しい保護範囲が不確実であるため、公衆に安定した期待を与えることができないだけでなく、特許権の権利行使においても安定性を維持する役が立たない。」という見解を示した。

このような検討の下で、マルクーシュクレームの置換基の一部が削除され、保護範囲が狭まり、新しいものを保護範囲に入らない場合、前述の判決における最高裁判所の懸念は払拭することができる。

上記の優先権書類の開示内容の解釈に戻り、一般式の化合物が優先権書類に記載され、対応する具体例が示されている場合、出願人は、優先権書類を提出する際に発明を実質的に完了していると解る。したがって、実体審査または無効審判のいずれにおいても、出願人/特許権者が訂正したマルクーシュクレームに、優先権書類に開示された対応する特定の化合物がまだ含まれている場合、訂正後のマルクーシュクレームによって新しい保護範囲を生み出していなく、そしてその訂正の本質は、出願日または優先日時点に発見されなかった先行技術を回避し、より安定した合理的な保護範囲を得ることと解る。

最後に、どのような規則であっても、「特許として保護を図るため情報開示をする」という特許法の立法目的から切り離すことはできない。無効審判段階では訂正方式に制限される場合、マルクーシュ形式のクレームは特許権者にとって発明を保護するため最善の選択ではない。業界は、特許庁がより多くの案にマルクーシュクレームの審査基準と評価要素を明確化し、マルクーシュクレームの本来の化合物の集合を示す効能を発揮することを期待している。