17回目の世界知的所有権の日が来る前に、最高人民法院により北京で記者会見が開催されて、2016年中国人民法院10大知的財産事件と2016年中国人民法院知的財産関係典型的事件50件が公表された。以下は、特許事件とその意義についてのダイジェストである。

最高人民法院が公表した全国の知的財産関係典型的事例50件に含まれている特許事件12件

一.特許民事事件

1.ティッセンクルップ機場系統(中山)有限公司と中国国際海運集装箱(集団)股份有限公司、深圳中集天達空港設備有限公司、広州市白雲国際機場(股份)有限公司の間で争われた発明特許権侵害紛争再審事件〔最高人民法院(2016)最高法民再179号民事判決書〕

意義:製品の説明書が特許法上の意義における公然頒布された刊行物に該当するか否かが明らかにされた。本件において、最高人民法院は、次のように判示している。製品の取扱いとメンテナンスのための説明書は、製品とともに使用者に販売、交付されるもので、使用者及びそれに触れる者にはいずれも秘密保持義務がなく、また、不特定の公衆が得られるものであるから、特許法上の意義における公然頒布された刊行物に該当する。それに記載されている技術的解決手段も、使用者に交付された時に公知になったものとする。

2.昆山山橋機械科技有限公司と天珩機械股份有限公司の間で争われた特許権非侵害確認紛争上訴事件〔江蘇省高級人民法院(2016)蘇民終610号民事決定書〕

意義:知的財産権の非侵害確認の訴えは、被警告者が侵害の警告を受けたにもかかわらず権利者が訴権の行使を懈怠することで被警告者が長期間不安定な状態に置かれたときに司法による救済手段を与えるためのものであり、侵害の警告を濫発する権利者の行為を規制して、安定的な市場事業秩序を守ることをその根本目的とするものである。本件において、最高人民法院は、次のように指摘している。権利者が訴えを取り下げて、被警告者及びその販売客に対する警告を撤回する意思表示をしていても、権利者が前訴を取り下げ、警告を撤回したときに、なお侵害の主張を留保する意思表示をしていて、いつ再び侵害訴訟を提起してくるかを明らかにせず、被警告者が侵害しているか不明な状態を速やかに終わらせる意思を有しない場合には、かかる留保付きの訴えの取下げや警告の撤回では、侵害の警告が送付されたことによる消極的な影響を完全に除去するに足りるとはいえず、この場合に権利者に訴権を行使するよう被警告者が書面により催告をする意味はなくなっているので、被警告者には、直接に非侵害確認の訴えを提起することが認められる。

3.温州寧泰機械有限公司と温州銭鋒科技有限公司の間で争われた発明特許権侵害紛争上訴事件〔浙江省高級人民法院(2016)浙民終506号民事判決書〕

意義:被侵害製品と本件特許の技術的特徴が同一である場合に、人民法院が均等であることを理由に侵害の成立を認定することは、原告の訴訟上の請求の範囲を超えるものではない。同一であっても、又は均等であっても、これらは、侵害成立の具体的な理由であるにすぎず、権利者の訴訟上の請求ではない、と原告は主張していた。技術的特徴同士の同一又は均等は、人民法院が関連する技術的事実を明らかにした上で下す法的判断であるので、権利者自身の解釈と主張に制限されない。権利者が同一侵害を主張していたとしても、人民法院は、具体的事情に応じて均等侵害を理由に侵害の成立を認定することができる。

また、ある機能的な技術的特徴を対比する場合、ある技術的特徴が既にその前に特許の請求項に記載されている技術的特徴を区分したときに1つの相対的に独立した技術的要素として扱われているときは、『最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈』第7条に規定するオール・エレメント・ルールを適用してはならず、その機能を実現する手段を再び技術的特徴に分解して、それを1つの全体として、侵害と訴えられた技術的解決手段のうち相当する技術的特徴と対比しなければならない。

4.イスコル社と寧波市路坤国際貿易有限公司の間で争われた発明特許権侵害紛争事件〔浙江省寧波市中級人民法院(2015)浙甬知初字第626号民事判決書〕

意義:侵害判定の原則がさらに明らかにされた。法律の規定によれば、発明特許権の保護範囲は、その請求項の内容に準じ、明細書及び図面を請求項の内容の解釈に用いることができる。発明特許権の侵害を判断する原則及び基準は、侵害と訴えられた技術的解決手段に、権利者の主張に係る請求項に記載されている全部の技術的特徴と同一又は均等の技術的特徴が含まれているかを審査して、含まれていれば、特許権の保護範囲に属すると認定しなければならない。侵害と訴えられた技術的解決手段に係る技術的特徴を請求項に記載されている全部の技術的特徴と対比して、請求項に記載されている1つ以上の技術的特徴が欠けているか、又は1つ以上の技術的特徴が同一でも均等でもなければ、特許権の保護範囲に属しないと認定しなければならない、というものである。

5.肇慶市衡芸実業有限公司と杭州阿里巴巴広告有限公司、建陽順意貿易有限公司の間で争われた発明特許事件侵害紛争上訴事件〔福建省高級人民法院(2016)閩民終1345号民事判決書〕

意義:ネットワーク環境で権利者が特許権侵害を発見してネットワークサービスプロバイダに発する通知が「有効な通知」であるか否かの認定について、参考にすべき意義を有している。特許権侵害紛争において、ネットワークプロバイダが、侵害の疑いのある商品と特許権の保護範囲を対比した資料のような、侵害を構成することの一応の証拠資料を提供するよう権利者に求めることに合理性はあるのか? この資料がなければ、「有効でない通知」と認定されるのだろうか?

本件において、人民法院は、次のように判示している。発明特許権の侵害判断には高度の専門性があるため、ネットワークサービスプロバイダとして発明特許権侵害の申立人に「侵害を構成することの一応の証明資料」も提供するよう求めることには一定の合理性があるといえるが、これは、発明特許の権利者が苦情申立てをするときには、必然的にまず先に侵害であるかどうかの対比を行い、ネットショップにより販売された商品の技術的特徴とその発明特許の技術的特徴が同一又は均等であるか否かを判断してから、苦情申立てをするか否かを決めるものだからである。悪意による苦情申立てや不当な苦情申立てが著しく増加している現在の事情の下で、ネットワークサービスプロバイダは、特許権者に「侵害の一応の証明資料」を提出するよう求めて、一部の不当な苦情申立てやみだりになされる苦情申立てを形式面から取り除くことで、条件に適う苦情申立てを速やかにネットショップに伝えることができるようにしている。そのようにして、ネットショップの反応に応じて、さらに踏み込んだ措置を講じ、苦情申立ての質を高めることで、ネットワーク環境において知的財産保護の基本的価値が守られるとともに、ネットワークプロバイダとネットショップの法的な利益もある程度守られて、結果的に幅広い消費者が利益を受けて、電子商取引の健全な発展が促進されるようにされている。

6.李占全と趙金山の間で争われた実用新案特許権侵害紛争上訴事件〔山東省高級人民法院(2016)魯民終1684号民事決定書〕

意義:特許権評価報告書の役割が明らかにされた。中国の現行の特許審査制度の中で、実用新案特許は、権利化される際に実体審査がされないので、その効力の安定性が低い。このため、出願日が2009年10月1日以後の実用新案特許について特許権侵害訴訟を提起するとき、原告は、国務院特許行政部門により作成された特許権評価報告書を提出することができ、事件を審理す���上での必要に応じて、人民法院も特許権評価報告書を提出するよう原告に求めることができる。原告が正当な理由なく提出しないとき、人民法院は、訴訟を中断する旨の決定をするか、又は発生する不利益を負担するよう原告に命じることができる。

7.江蘇騰天工業炉有限公司と重慶沃克斯科技股份有限公司、通裕重工股份有限公司の間で争われた発明特許権侵害紛争上訴事件〔山東省高級人民法院(2016)魯民終2427号民事判決書〕

意義:出願日より前の売買契約書で先行技術の抗弁を成立させられるか否かについて、売買契約書と実際に保全される製品とに対応関係が成り立たず、売買契約書中にも本件技術について具体的な説明がされていなければ、本件技術が既に公知であることを証明することはできず、先行技術の抗弁は成立しない。

8.胡崇亮と仏山市南海迪利装飾材料廠、董峰の間で争われた意匠特許権侵害紛争上訴事件〔広東省高級人民法院(2015)粤高法民三終字第517号民事判決書〕(広東省高級人民法院で同時に公表)

意義:本件は、ネットワークにおける証拠に関係するものであるが、QQ空間における画像が公開性を具備するか否かについて、人民法院は、具体的な事情を述べて、使用用途等の異なる各場合に応じて、ネットワークにおける証拠について正確に認定している。

本件について、人民法院は、次のように判示している。QQ空間がパーソナルスペースであれば、個人のプライバシーがあるため、反駁するに足る証拠がない場合、通常、そのQQ空間における画像は非公知の状態にあるものと推定されるが、QQ空間が企業が製品等を普及させるために外部との宣伝・交流をする場であれば、「公開」はその機能を実現するためのありふれた手段であるので、反駁するに足る証拠がない場合、通常、そのQQ空間における画像は公知の状態にあるものと推定される。

侵害と訴えられた製品の画像がQQ空間ですべてのQQユーザーに「公開」されていることが、公衆が知ろうと思えば知ることのできる状態に置かれているか否かについて、『中華人民共和国特許法』第23条第4項に規定する「公衆に知られている」とは、公衆が知ろうと思えば知ることのできる状態に置かれていることをいうので、本件QQ空間のページを検索する方法及び過程の難易は、「公衆に知られている」ことを判断する上での条件となるものではない。QQユーザーが当該画像を知るには、ブラウザのアドレスバーに本件QQ空間のアドレスを入力するなどの方法によらなければならないが、この方法は、ウェブページを使用する上でありふれた手段にあたるので、不特定のQQユーザーがこの方法で当該侵害と訴えられた画像を知ることができる。

これらのことから、侵害と訴えられたデザインは、本件特許の出願日より前に既にQQ空間で国内外の公衆に公開されていて、国内外で公衆に知られていることになるので、先行デザインに該当する。

9.深圳市基本生活用品有限公司と深圳市思派硅胶電子有限公司の間で争われた意匠特許権侵害紛争上訴事件〔広東省高級人民法院(2016)粤民終1036号民事判決書〕(広東省高級人民法院で同時に公表)

意義:本件は、反復侵害行為に厳罰を課した典型的事例であるが、反復侵害と重複起訴の境界が把握し難いという問題もある。第二審人民法院は、反復侵害の構成要件を綿密に分析して、侵害製品を販売する侵害者の行為を事情に即して反復侵害にあたるものと認定して厳罰を課し、良好な法的効果と社会的効果を上げている。

10.クリスチャン・ルブタンと広州ヴァーティーム貿易有限公司、広州ベネフィット化粧品有限公司、広州欧慕生物科技有限公司の間で争われた意匠特許権侵害訴訟前差止事件〔広州知的財産法院(2016)粤73行保1、2、3号民事決定書〕(広州知的財産法院で同時に公表)(広東省高級人民法院で同時に公表)

意義:訴訟前差止めは、当事者の利益を保障する上で重要な措置であるが、現行法では、訴訟前差止めで審査されるべき具体的な内容について明らかにされていない。本件では、既存の法律法規、司法解釈に基づき、特許関係の訴訟前差止申立ての審査に含まれるべき内容として、1.本件特許が安定し有効であるか否か、2.被申立人が現に実施している行為に侵害のおそれがあるか否か、3.差止命令をしないことで申立人の法的な権利利益に回復困難な損害を及ぼすか否か、4.差止命令によって被申立人にもたらされる損失が、差止命令をしないことで申立人にもたらされる損失以下であるか否か、5.差止命令によって社会公共の利益が害されるか否か、6.申立人の提供した担保が有効、適正なものであるか否かの6点が初めて示されている。本件では、差止申立てで審査されるべき内容がすべて示されている以外にさらに、1.「差止命令によって被申立人にもたらされる損失が、差止命令をしないことで申立人にもたらされる損失以下である」という要件に適合しなければ、差止命令をすることができないという見解が示されて、立法の空白が埋められ、2.申立人の法的な権利利益に回復困難な損害を及ぼすか否かの具体的な判断方法が明らかにされるという新しい運用も見られる。

特許事件は、知的財産法院の主な事件であるが、本件は、3つの知的財産法院が設立されて以来初の特許関係の訴訟前差止め、特に渉外事件の訴訟前差止めとして、幅広く注目されている。本件では、差止命令がされてから、被申立人も自ら決定を履行しており、よい社会的効果が見られている。本件は、訴訟前差止めで審査がされる内容及び方法の問題を完全に解決しているので、中国で今後、関連の司法解釈が制定され、関連の立法が推進されるのにも重要な意義が出てくるだけでなく、今後の各種事件における訴訟前差止申立てにも強い指導的役割を有するものとなるだろう。

11.米国・キャタリティック・ディスティレイション・テクノロジーズ社の陕西華浩軒新能源科技開発有限公司による特許権侵害に対する訴訟前証拠保全申立事件〔陕西省西安市中級人民法院(2016)陕01証保2号民事決定書〕

意義:どのような証拠が『中華人民共和国特許法』第67条に規定する証拠が滅失するか、又は以後取得することが困難となるおそれがある場合に該当するのかが明らかにされた。

二.特許行政事件

1.吕漢傑と汕頭市知識産権局、第三者・林明海の間で争われた特許行政処理決定紛争上訴事件〔広東省高級人民法院(2016)粤行終1134号行政判決書〕(広東省高級人民法院で同時に公表)

意義:本件は、知的財産裁判の「三合一」と新行政訴訟法で創設された確認判決が適用された典型的事例であるが、法の適用準則と、行政行為の適法性が行政訴訟で改めて審査されるという立法趣旨から、行政決定がされる上での具体的事情を総合的に考慮して、法律による行政、効率の高い行政、質のよい行政を積極的に促進することが強調されている。