北京知的財産法院で2014年11月6日の建院から2017年6月30日までに終結した特許事件1,813件を分析したところ、特許民事紛争682件(全体の37.6%)、特許行政紛争1,131件(全体の62.4%)が含まれている。特許民事事件のうち、特許権侵害紛争は668件、特許権帰属紛争は14件で、特許行政事件のうち、特許権無効行政紛争は758件、特許出願拒絶査定不服審判行政紛争は335件、その他の特許行政紛争は38件であった。これらの既済状況から北京知的財産法院の現時点の特許裁判活動がある程度反映されている。

1特許権侵害紛争は、決定の形式での終結が多く、判決の形式で終結する事件では原告の勝訴率が高い

特許権侵害紛争668件のうち、判決の形式で終結したものは142件しかなく、他は調停の形式で終結したものが4件で、その余の552件はすべて決定の形式で終結しており、決定で終結したものは全体の78.1%にも達する。その主な原因は、侵害訴訟で係争特許の安定性が問われて、一部の原告が特許を無効にされることを懸念して自ら訴えを取り下げていることと、一部の原告の訴えでその特許権が無効にされたため法院に却下を決定されていることにあるが、これら以外にも、当事者が調停又は和解をした後で訴えを取り下げているものや、法院の釈明によって訴えを取り下げているものも少なからぬ割合を占めており、このことは、現在では判決が特許民事紛争を解決する終局的な形式ではなくなり、多元的に紛争を解決しようとする意識や方式にまださらに向上の余地があることを示している。ただし、判決の形式で終結した142件の事件のうち、原告が勝訴したものは計116件で、勝訴率は81.7%にも達する。

2特許紛争の件数と地域経済の発展水準は正相関している

民事主体同士で生じる特許紛争は、特許権を侵害するケースに見られるだけでなく、他人の特許権について無効審判請求をするケースにも同じように見られる。(1)特許権侵害紛争:特許権侵害紛争668件のうち、中国大陸地域では計186名の権利者が594件の訴えを提起しているが、所在する権利者数で上位3位は、北京69名(全体の37.1%)、広東34名(全体の18.3%)、浙江15名(全体の8.1%)の順となっている。

北京市内では計69名の権利者が253件の訴えを提起しているが、総体経済で全市上位2位にある海淀区と朝陽区に主に集中しており、それぞれ18名と14名である。また、合計37名の外国、香港、マカオ、台湾の権利者が74件の訴えを提起しているが、権利者数で上位2位は、それぞれ日本8名、米国6名である。被告所在地の分布から見ても、北京、広東、浙江が同じように数で上位3位となっている。(2)特許権無効行政紛争:判決で終結した特許権無効行政紛争576件のうち、中国大陸地域では計延べ614人が特許権無効審判請求をしており、そのうち、広東は延べ154人、北京は延べ92人、浙江は延べ59人、上海は延べ59人である。

外国、香港、マカオ、台湾からは計延べ20人が特許権無効審判請求をしており、そのうち、米国は延べ6人、日本は延べ5人で、いずれも上位2位となっている。これらの侵害紛争と無効紛争の状況を総合的に考慮すると、法院の所在地であるという要因が北京の係争主体の数に及ぼした影響を割り引いても、特許紛争の件数と地域経済の発展水準には明らかな正相関関係が認められ、地域経済が発達しているほど特許紛争も多発していることをこれらのデータから明らかにすることができる。

3特許民事紛争と特許行政紛争で関係する技術分野に差異がある

特許の技術分野情報が示されている142件の民事裁判書のうち、各技術分野の事件数及び割合は、国際特許分類表(IPC分類)の分類基準でそれぞれ生活必需品43件(30.3%)、電気28件(19.7%)、処理操作・運輸17件(12.0%)、固定構造物17件(12.0%)、化学・冶金15件(10.6%)、物理学14件(9.9%)、機械工学6件(4.2%)、繊維・紙2件(1.3%)となっている。

特許の技術分野情報が示されている720件の特許権無効及び特許出願拒絶査定不服審判に係る行政裁判書のうち、各技術分野の事件数及び割合は、特許民事紛争と比較していくらか異なっており、それぞれ化学・冶金143件(19.9%)、処理操作・運輸133件(18.5%)、電気114件(15.8%)、機械工学104件(14.4%)、生活必需品102件(14.2%)、物理学58件(8.1%)、固定構造物55件(7.6%)、繊維・紙11件(1.5%)となっている。これらのデータから、特許民事紛争と特許行政紛争では、関係する技術分野においてある程度差異があることが明らかにされており、例えば、生活必需品、電気など現在、特許権侵害紛争が多発している技術分野に属するものでは、その分野の権利者の権利行使意識も強く、特許技術の運用も活発であるが、化学・冶金、処理操作・運輸などの多くは、パテントポートフォリオが既に完成しているか又は現在形成中の分野に属している。

4国内外の権利者で明らかな差異がある

主に次の2つの点に表れている。(1)主体の種別:特許権侵害訴訟を提起した186名の中国大陸地域の権利者のうち、法人は120名、自然人は66名で、両者の比率は約1.8:1であった。

一方、特許権侵害訴訟を提起した37名の外国、香港、マカオ、台湾の権利者のうち、法人は34名、自然人は3名で、両者の比率は約11:3.1であった。中国の現行の特許制度では特許権の付与がされやすくなっているが、これらのデータから、中国大陸地域の自然人は、特許権を取得して権利行使をする上で明らかな優位にあって、特許訴訟において無視できない力となっていることが示されており、これも、「大衆による起業、万民によるイノベーション」の特許分野における具体的な表れといえる。(2)特許権の種別及び分野:中国大陸地域の権利者が保有する特許権の種別は、件数の割合で順に意匠特許(51.7%)、発明特許(29.8%)、実用新案特許(18.5%)となっている。外国、香港、マカオ、台湾の場合では、件数の割合で順に発明特許(75.7%)、意匠特許(21.6%)、実用新案特許(2.7%)となっている。また、特許権侵害訴訟を提起した件数で上位10位の権利者のうち、中国大陸地域では、合計8名の権利者が主に家具、かばん類、日用品の分野に関して意匠特許権を主張しているが、発明特許権を主張した権利者は2名のみで、関連する製品はそれぞれ防火材料と搾汁機であった。外国、香港、マカオ、台湾では、合計7名の権利者が主に通信、コンピュータ、自動車部品などの分野に関して発明特許権を主張しているが、その他3名の権利者が意匠特許権を主張している。さらに注目に値することとして、中国大陸地域の権利者にせよ、外国、香港、マカオ、台湾の権利者にせよ、いずれも実用新案特許権での権利主張を選択した権利者は少ない(これらの権利者の保有する特許権の種別における割合はそれぞれ18.5%、2.7%)上、勝訴率も38.9%しかなくて、発明特許と意匠特許の勝訴率より著しく低く、これらは、権利行使において弱いものとなっている。

5特許権侵害の賠償額が上昇し続けている

権利者は、計116件の特許権侵害紛争で勝訴していて、獲得する侵害の賠償額も著しい上昇傾向にあり、2015年、2016年、2017年上半期の平均賠償命令額は、それぞれ35万元、102万4000元、110万3000元となっている。

賠償請求額が法院に認容された割合から見ると、中国大陸地域の権利者の2015年の平均賠償請求額は63万5000元、平均賠償命令額は28万3000元、平均賠償認容率44.6%であった。2016年には、平均賠償請求額は187万7000元(前年同期比で195.6%の増加)まで上がり、平均賠償命令額は108万1000元(前年同期比で282.0%の増加)、平均賠償認容率は57.6%(13ポイント上昇)に達した。2017年上半期では、権利者の平均賠償請求額は126万4000元、平均賠償命令額は110万8000元、平均賠償認容率はさらに87.7%まで上昇した。外国、香港、マカオ、台湾に関連する事件では、サンプルデータが少ない(計10件)ため統計の意義に乏しいが、平均賠償認容率も同じように明らかに上昇する傾向にある。これらのデータから、司法による知的財産保護を引き続き強化せんとする北京知的財産法院の確固たる決意が十分に表されている。

これらの勝訴判決のうち、判決で侵害の差止めが命じられていない事件も9件あるが、そのうち、3件は特許権の存続期間が満了したもので、3件は被告が市場事業者にすぎないもので、2件は原告が侵害の差止めを請求していないもので、1件は侵害行為が既に停止されているもので、国益上、公益上の考慮から判決で侵害の差止めが命じられなかったものはなかった。しかし、標準必須特許紛争など多くの者の利益の関係する事件が増加していくに伴って、法院で将来、この点でのいくらかの進展があるかは注目に値する。

6北京以外の地域と外国、香港、マカオ、台湾の主体も平等に保護されている

判決で終結した特許権侵害紛争のうち、中国大陸地域の権利者は、129件の事件のうち106件で勝訴しており、勝訴率は82.2%である。そのうち、北京の権利者は、47件の事件のうち39件で勝訴していて、勝訴率は83.0%であるが、北京以外の地域の権利者も、82件の事件のうち67件で勝訴していて、勝訴率は81.7%で、北京の権利者の勝訴率と殆ど拮抗している。外国、香港、マカオ、台湾の権利者は、13件の事件のうち10件で勝訴しているが、勝訴率は76.9%で、中国大陸地域の権利者の勝訴率よりやや低くなっている。

しかしながら、賠償命令額では、外国、香港、マカオ、台湾の権利者が獲得する平均賠償額は102万2000元で、中国大陸地域の権利者が同時期に獲得する平均賠償額75万7000元を明らかに超えるものとなっている。これらのデータを総合すると、北京知的財産法院は、特許の保護において、北京内外、中国内外の各主体の差別的でない平等な取扱いをほぼ実現しているという一応の結論を導き出すことができる。

7司法審査は、全体的に権利者により有利である

一方で、特許権侵害の賠償額が上昇し続けていることは、司法に特許の価値が十分に認められていることを示しており、このことは、既存の権利者と潜在的な権利者にイノベーションを強化して、生産を拡大するよう奨励することにも資する。他方では、判決で終結した特許権無効行政紛争576件のうち、国家知識産権局審判委員会に特許権の有効が維持された事件は233件(全体の40.5%)、特許権が無効にされた事件は343件(全体の59.5%)あったが、これらの審決が司法手続に移行した後、北京知的財産法院では、特許権の有効を維持する旨の審決が34件(発明13件、実用新案12件、意匠9件)取り消され、特許権を無効とする旨の審決が44件(発明17件、実用新案21件、意匠6件)取り消されている。司法審査がされた後の取消状況を総合的に考慮すると、特許権の有効が維持された事件の件数は243件、特許権が無効にされた事件の件数は333件にそれぞれ修正され、両者の比率はそれぞれ42.2%、57.8%となっており、司法審査がされた後で特許権の有効が維持された割合は1.7ポイント上昇している。

また、特許出願拒絶査定不服審判行政紛争335件のうち、北京知的財産法院では、審決計27件が取り消されて、取消率は8.1%で、北京知的財産法院が設置される前の同種の事件の取消率よりも高くなっている。このような事情からは、北京知的財産法院が特許権の取得及び保護について全体的に積極的、肯定的態度であることが示されている。それとともに、裁判の専門化、技術調査官、人民陪審員の専門化などの裁判体制改革の恩恵を受けて、裁判官の司法能力も実質的に向上していて、司法審査もより権威ある効果的なものとなっており、司法による知的財産保護の主導的役割が各々の細かい分野で具体的に現れているところである。

8原告、被告のいずれともが外国、北京以外の地域の者である事件の件数が増加し続けている

既に終結した特許民事紛争のうち、原告、被告のいずれともが外国の者である事件は、2015年には1件しかなかったが、2016年には3件まで増加した。北京知的財産法院の現時点の事件受理状況から見ると、この種の事件は、将来、増加傾向を保ち続けるものと思われる。また、原告、被告のいずれともが北京以外の地域の者である事件は、2015年には計51件あったが、2016年には65件まで増加して、2017年上半期には48件終結しており、同じように毎年明らかな増加傾向を見せている。

注目に値することとして、中国大陸地域の権利者が特許権侵害訴訟を提起した事件594件で関係した計622名の被告のうち、北京の被告は348名で、全体の55.9%しかないが、このことは、北京以外の地域の被告の割合が44.1%に達することを意味している。外国、香港、マカオ、台湾の権利者が特許権侵害訴訟を提起した事件74件で関係した計93名の被告のうち、北京の被告は39名で、全体の41.9%しかないが、北京以外の地域の被告の割合は58.1%にも達している。中国の法律では、被告の住所地が主な管轄の連結点と定められている事情の下で、北京以外の地域の被告の割合がかくも高くなっていることは、国内外の権利者が北京知的財産法院を選択して特許民事訴訟を追行することの方を希望しており、北京知的財産法院が知的財産訴訟の優先地としての地位を徐々に確立しつつあることを示しているといえる。