米国で資産を買収する際には、通常の場合、承継会社の責任(successor liability)が生じ得る4つの主要分野がある。これらの分野とは、当職らの間で「承継会社の責任に関する4E」(各分野の頭文字がEで始まるため)と呼んでいる、すなわち(1) 雇用 (employment)、(2) 従業員給付 (employee benefits)、(3) 環境関連事項 (environmental)、および(4) 輸出(export)である。

当事務所が取り扱ったことのある承継会社の責任については、以前にも概要を記載したことがあるが、その中でとりわけ従業員給付(employee benefits)に関しては、次のように解説した。

承継会社の責任は、米国における組合年金や非組合員の退職給付プランについても、買収者に生じ得る。どれだけのデューデリジェンスを実施すれば、従業員給付金に関する分野で生じ得るすべての責任を明確にできるかは定かではないが、米国の買収対象企業が組合年金プランに拠出してきた場合で、特に、買収取引のクロージング後に組合が存続しないような形態の取引の場合は、かかる組合年金プランから脱退する時に生じ得る未積立給付債務(withdrawal liability)について理解しておくことが重要である。なお、買収取引のクロージング時に、買収者が、組合年金プランにおける債務の支払を済ませておけば、後になって脱退時の未積立給付債務を負担する必要がなくなる。

前述のような当事務所のアドバイスは、Heavenly Hanna LLC対Hotel Union & Hotel Industry of Hawaii Pension Plan事件(891 F.3d 839, 2018 EBC 194023 (9th Cir. 2018))で、米国連邦第9巡回区控訴裁判所が下した判決からも分かるとおり、今もなお正論のようである。

Hotel Union & Hotel Industry of Hawaii年金制度(「本プラン」)は、ハワイのホテル従業員を対象とした複数事業主制度(multiemployer plan)である。Ohana Hotel Company, LLC (「オハナ」)は、同社の従業員との団体交渉協約に従って、本プランに拠出していた。

Heavenly Hanna LLC、その関連会社であるGreen Tree ManagementおよびAmstar-39(総称して「Amstar」)は、オハナの資産に関する買収契約を締結した。本買収契約書には、オハナが複数事業主制度の拠出金を支払っていたことが記載されており、Amstarが、本プランの存在とオハナが同プランの加入者であったことを認識していたことも記載されてた。

また、裁判所は、次の点にも言及した。

「Amstarは、過去に複数事業主制度を扱った経験があるほか、複数事業主制度に加入していたホテルを所有し、運営していたこともあった。さらにAmstarは、過去の事業取引でも、その代理業者に『複数事業主制度の下でAmstarに責任が生じ得るか否か』問い合わせるように指示したことがあった。」

本買収契約は、オハナに対し、同社の本プランへの未納拠出金に関してAmstarに通知書を提出することを義務づけていたが、Amstarは通知書を受け取っていなかったため未納拠出金については調査しなかった。

さらに裁判所は、Amstarは、クロージング前に弁護士のアドバイスも受けていたが、かかるリーガル・アドバイスには誤りがあり、「明示的債務の引継ぎ(についてのアドバイス)が不在で、買い手はかかる[脱退時の]債務を引き継がない。」という内容のものであったことも指摘した。その上、Amstarには、4人のメンバーから編成されたデューデリジェンス・チームがあり、当該ホテル(オハナ)、関連書類およびホテルの状態などの調査を担当していたことにも言及した。

買収取引のクロージングの10日前に、オハナは、本プランへの拠出を止めており、クロージング時には正式に本プランから脱退していた。オハナが本プランから脱退したことによって、オハナには従業員退職所得保障法(ERISA)による脱退時の未積立給付債務(withdrawal liability)が生じた。本プランは、同プランの脱退時の未積立給付債務として、Amstarに757,981ドルの払込を要求した。Amstarは、そのうちの372,780ドルは、本件債務請求に対して異議申立て・反訴する前に支払っていた。

地方裁判所は、Amstarがかかる脱退時の未積立給付債務について「現実の通知(actual notice)」を受け取っていなかったため、Amstarは当該債務に対する責任を負わないと判示した。

しかし、連邦第9巡回区控訴裁判所は、地方裁判所の判決を覆し、「現実の通知」は資産の買い手にかかる債務を課すための必要条件ではないと判示した。代わりに、控訴裁判所は、脱退時の未積立給付債務に対する責任が資産の買収者にあることを確認するに当たって、同裁判所では「擬制認識(constructive notice)」を基準とすると述べた。前述の事実に基づき、控訴裁判所は、Amstarには擬制認識があったため、脱退時の未積立給付債務を負担する責任があると判断した。

したがって、資産の買い手が次の項目に該当する場合は、脱退時の未積立債務を負うことになる。(1) 買い手が承継者(会社)の資格を有していること、(2) 関連する年金プランの積立金額が不足していること、および(3)相当の注意を払い、相当な努力をする(特定の状況で通常予測される注意と努力)買い手が、かかる脱退時の未積立給付債務(withdrawal liability)について認識していたであろうこと。

控訴裁判所の本判決は、「擬制認識(constructive notice)」が資産の買収者に年金プラン脱退時の未積立給付債務を負担させるに十分な条件であるという他の司法管轄区の判断と一致するものである。

以上から、企業の買収をする際に、買い手とその弁護士にとって、かかる買収までの過去5年間に、売��手が組合年金プランの拠出金を払い込んでいたか否かを調査・判断し、かかる年金プランからの脱退時の未積立給付債務の負担額を売り手から買い手に支払わせることが重要である。そうすることで、買い手は、売り手から受け取った当該負担額をかかる年金プランの脱退時の未積立給付債務の支払に充当することができ、非常に高額な予想外の出費を回避することができる。

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