ここ数か月の間に、米国司法省(DOJ)は、企業のコンプライアンスプログラム及び海外腐敗行為防止法(FCPA)自主的開示プログラムに関するグローバル企業向けの重要なガイダンスを公表した。まとめると、この最近のDOJのガイダンスは、企業が汚職を防止し検出する強力なコンプライアンスプログラムを策定する場合、及びFCPA違
反の恐れを迅速に特定し、改善し、DOJに報告する場合、米国政府から重大な恩恵を受けやすくする。たとえ不正行為が蔓延している、又は上級管理職が関与しているような状況であったとしても、企業の模範的な行動が、訴追の回避又は調査への協力に基づく減免をもたらす可能性がある。
コンプライアンスプログラムガイダンス
2019年4月30日、DOJは、企業コンプライアンスプログラムの評価に関する、具体性の程度が様々な、多数の既存の部門別ソースから引き出した、検察官に対する新たなガイダンスを公表した。このガイダンスは、コンプライアンスプログラムの有効性に関するDOJの変化する見解を反映するため、2017年2月に公表された前ガイダンスにおいて提起された質問を更新し、それに回答している。
取締役会及び経営陣は、調査が発生した場合に、自社のコンプライアンスプログラムが確実に「有効」とみなされるようにするために、DOJから最近出された拡充されたガイダンスを活用するべきである。企業は、コンプライアンスプログラムを評価する際に、3つの基本的な質問に「はい」と答えるべきである。 1) コンプライアンスプログラムは適切に設計されているか? 2) プログラムは効果的にそして誠意をもって実施されているか? 3) コンプライアンスプログラムは実際に機能しているか?
DOJは、司法マニュアルである「企業訴追の諸原則」において、検察官が企業や他の組織を捜査する際に考慮すべき具体的な要素について、詳しく述べている。これらの要素には、違反時と起訴決定時の両方における「企業のコンプライアンスプログラムの適切性と有効性」、及び「適切かつ効果的な企業コンプライアンスプログラムの実施又は既存のプログラムの改善」のための是正努力が含まれている。DOJの2017年のガイダンスは、検察官がそのような評価を行うことを助けるためのいくつかの一般的な質問を提供した。もっとも、それは検察官に、コンプライアンスプラグラムの有効性に関する回答は提供していなかった。
コンプライアンスプログラムの「有効性」は、現在他のDOJのポリシーメモランダム及び連邦量刑ガイドラインにも現れているが、検察官が何を有効とみなすかについての実質的な指針は伴っていない。具体的には、米国の量刑ガイドラインのセクション8B2.1, 8C2.5(f) と 82C.8(11)は、適切な罰金を計算するに際して、不正行為時に企業が効果的なコンプライアンスプログラムを実施していたかどうかを考慮する必要があると規定している。コンプライアンスモニターの選択についてのDOJのメモランダム(Benczkowski メモ)も、検察官に対し、起訴決定時に、企業が「自社のコンプライアンスプログラム及び内部統制システムに重大な投資と改善を行った」かどうか、プログラムが類似の不正行為を防止又は検出することを実証するために「コンプライアンスプログラムの是正的改善」がテストされたかどうか、を考慮するように指示している。
DOJの更新・拡充されたガイダンスは、コンプライアンスへのコミットメントを実証した企業が和解減免に値するかどうかを判断するに際して、連邦検察官が考慮すべきより具体的な要素を記載している。更新されたガイダンスは、司法マニュアル、過去のDOJのメモランダムとガイダンス、連邦量刑ガイドライン、及び多くのDOJの起訴猶予合意と不起訴合意に含まれる情報を大まかに反映してはいるが、検察官が企業のコンプライアンスプログラムが違反時に有効であったのか、起訴の決定又は決議時に有効であるかどうかについて、十分な情報を得たうえでの判断を行うことを助ける詳細を記載している。同様に重要なこととして、同ガイダンスは、企業の取締役会及び経営幹部が、同様の評価をすること及び組織のコンプライアンスプログラムの欠点に対処することを可能にする。
DOJは、コンプライアンスプログラムの評価に関しては、「厳格な公式」は存在しないということを認めている。企業は、自社のコンプライアンスプログラムを自社特定のリスクプロファイルに合わせて策定する必要がある。ただし、その際、コンプライアンスオフィサー、取締役、企業幹部は、検察官が企業のコンプライアンスプログラムを評価する際に3つの「根本的な」質問をすることに留意する必要がある。
1. 企業のコンプライアンスプログラムは適切に設計されているか?
DOJは、適切に設計されたコンプライアンスプログラムは、リスクアセスメント、すなわち企業が「リスクプロファイルを特定、評価、定義したか?」ということによって決まるという立場をとっている。次に、プログラムは、起こり得る様々なリスクにつき適切な精査をなし、適切な資源を注ぎ込んでいるか?検察官は、コンプライアンスプログラムが、企業の事業分野、規制環境、ビジネス環境で発生する可能性が高い特定の種類の不正行為を検出するように適切に設計されているかどうかに着目する。適切に設計されたコンプライアンスプログラムは、多くの場合追加のリスク評価を通じて、定期的に更新される必要もある。
DOJのガイダンスの下で、検察官は次に、関連法の遵守に対する企業のコミットメントを示す行動規範を含む、企業のコンプライアンス方針及び手続を注視する。適切に設計された方針の策定には、適切な年功と関連する事業単位を含む、適切な人員が関わるべきである。このような方針は、包括的で、アクセス可能で、かつ内部統制システムを通じて強化されるものとして作成されるべきである。
DOJのガイダンスは、企業が、統制機能と高リスク職務をもつ従業員のトレーニングに重点を置いた上で、自社の必要性に合わせたトレーニングとコミュニケーションを設計することを要求している。トレーニングとガイダンスは適切な言語で利用可能かつアクセス可能であるべきである。従業員は、不正行為に関する企業の立場を知っておく必要がある。同様に、従業員は、不正行為を報告するための明確で、アクセス可能、かつ秘密が保持された通報手段を持つべきであるし、通報内容を調査するための適切な手続きがあるべきである。そのようなメカニズムは、企業が不正行為を検出及び防止するためのメカニズムを確立したかどうかを評価する際に「証拠」と見なされる。
DOJのガイダンスは、第三者管理及びM&Aをリスク分野としてみており、これらに関し企業が潜在的なコンプライアンス問題を評価・対処するための充実したプログラムを持つことを要求している。
2.プログラムは熱心にそして誠意をもって適用されているか?言い換えれば、プログラムは効果的に実施されているか?
DOJは次に、企業が上級管理職及び中間管理職によるコンプライアンスプログラムへのコミットメントを示したかどうかを検討する。政府にとって、これはおそらく、コンプライアンスプログラムの有効性を評価する上で最も重要な要素の一つであろう。検察官は、取締役会を含む上級管理職が、「会社の倫理基準を明確に示し、それらを明確な表現で伝え広め、模範として厳格な遵守を示したかどうか」を尋ねるであろう。検察官はそれから、中間管理職がこれらの基準を強化したかどうかを評価するであろう。
DOJは、コンプライアンスプログラムが適切な自律性と資源を有しているかも尋ねるであろう。その際、DOJは、組織内に十分な年功と権限があるか、適切に設計されたコンプライアンスプログラムの必要な業務(内部監査を含む)を行うための十分な資源と人員があるか、取締役会又は監査委員会へのアクセスを含む、経営陣からの十分な自律性があるかに重点を置くだろう。
DOJは、遵守と違反のそれぞれに対するインセンティブと懲戒処分にも注意を向けるであろう。適切な人事評価制度を設け、一貫して適用することが重要である。
3. コンプライアンスプログラムは実際に機能しているか?
効果的なコンプライアンスプログラムは、「文書上」のみに存在すればよいわけではない。それらは実際に機能しなければならない。検察官は、特に不正行為が直ぐに検出されなかった状況において、不正行為が特定された時点でプログラムが機能していたかどうかを綿密に調査する。量刑ガイドライン8B2.1(a)が、不正行為それ自体がプログラムに効果がないことを意味するものではないことを明らかにする一方、DOJのガイダンスは、検察官は、コンプライアンスプログラムによる不正行為の特定を、「コンプライアンスプログラムが有効に機能していたということを示す、強い指標」として見るべきであると指摘している。検察官は、企業が不正行為の恐れのある行為を検出したかどうか、またどのように検出したか、そうした行為を調査するためにどのような資源が用意されているか、そして「企業の是正活動の性質と徹底度」を考慮する。
検察官は、コンプライアンスプログラムが継続的なリスク評価、定期的なテスト及び審査を通じて、改善及び発展をし続けたかどうかを評価するであろう。内部監査は、特定されたリスクに基づいて定期的なコンプライアンス監査を実施するべきであるし、コンプライアンス統制はテストされるべきである。さらに、時折ギャップ評価が実施されるべきである。
最後に、企業は特定された根本的な不正行為の分析と是正を行わなければならない。根本原因の分析は、コンプライアンス違反が特定された場合に、適切な改善の範囲と程度を決定するための重要な要素である。
自主的開示ガイダンス
2019年3月8日に開催された米国法曹協会のホワイトカラー犯罪についての年次学会において、反トラスト局長であるBrian Benczkowskiは、DOJのFCPA企業実施ポリシー(Corporate Enforcement Policy)に基づく自主的開示プログラムにつき説明した。 ポリシーには、政府が、「自主的な開示」、「全面的な協力」、「適時・適切な是正」というDOJの基準を満たす企業組織について、訴追免除するという推定が含まれている。しかし、当該ポリシーは、 違反者の性質や違反の深刻さに関し 「加重事由」 が存在する場合には、この推定が否定される可能性があると説明している。
DOJがこのポリシーをどのように適用しているかについての洞察を提供するにあたって、Benczkowskiは、企業はFCPA問題の迅速な調査と自主的開示により、本来であればDOJによる訴追免除を妨げる可能性のある加重事由を克服することができるかもしれないと説明した。同氏は、近時の2つのDOJの訴追免除は、 「不正行為における上級幹部の関与といった加重事由があっても、その他の点において企業の行為が模範的である場合には、当該加重事由が必ずしも訴追免除を排除するわけではない」ということを明確にしていると強調した。
企業は、加重事由が存在する場合に、FCPA違反の恐れのある行為を自主的に開示するか否かについて苦闘してきた。FCPAの企業実施ポリシーは、これに限定されるものではないが、以下のものが加重事由に含まれると述べている。
· 不正行為への企業経営陣の関与
· 不正行為から企業へもたらされた重大な利益
· 企業内での不正行為の広汎性
企業が不正行為の自主的な開示を行い、全面的な協力をし、適時・適切な是正を行ったにもかかわらず、当該企業に対する刑事訴追を必要とする加重事由が存在するとDOJが判断する場合、当該ポリシーは、 (1)政府に対し、 判決を下す裁判官に、米国判決ガイドラインの罰金範囲の下限から50%の減額を行うよう推奨することを求めており、 また(2) もし企業が効果的なコンプライアンスプログラムを実施している場合には、一般的に独立モニターの選任を求めないこととしている。
Benczkowskiのスピーチは、経営陣と取締役会にとって重要な明瞭さを提供する。ある最近のDOJの調査における不正行為は 「企業の最高レベルに達した」 が、同社が取締役会がそれを知ってから2週間以内に自主的開示を任意で行ったため、DOJは訴追免除を行った。Benczkowskiによれば、訴追免除の根拠は、迅速な開示により、DOJが当該行為に関与したとされる同社の元社長及び元最高法務責任者に対して告発することが可能になったということであった。
また、Benczkowskiは、M&Aの文脈における、自主的開示を評価するDOJのアプローチについても説明した。企業の合併や買収の際に企業がFCPA違反の恐れのある行為を発見した場合、DOJは減免を与えるつもりである。自主的開示ポリシーを 「M&Aの文脈に適用することは、そうでなければ、FCPA執行のリスクのために価値ある投資から手を引いてしまうであろう遵法企業による買収行為を萎縮させてしまうことを回避することができる」とBenczkowski は述べた。Benczkowski によれば、DOJは、 「善良な企業組織が、違法行為を永続させるだけかもしれない高リスクの組織に、その分野を譲るということ」 を望んでいない。
結論
DOJは、引き続き企業に有責の個人を特定するよう奨励しつつ、有責個人の行為について企業組織や株主を処罰することから距離を置きつつあるが、企業は、効果的なコンプライアンスプログラムを積極的に構築し、政府から減免を得るために不正行為を報告しなければならない。FCPA違反の恐れのある行為に関与した人物の特定において、時間は極めて重要な要素である。上級幹部が関与している事案の場合、自主的開示が適切か否かを評価するために、取締役会に直ちに情報提供がなされなければならない。経営陣と取締役会は、不正行為の自主的報告をするか否かを検討するに際して、潜在的な加重事由又は要素によって思いとどまるべきではない。企業の問題となる行為への対応が「模範的」である場合には、DOJは訴追免除をする可能性がある。買収後に不正行為が特定された場合、買収企業は迅速に対応し、是正し、自主的報告を検討するべきである。自主的開示の減免は、これらの状況においても依然として適用される可能性がある。