【平成29年8月31日判決(平成27年(ワ)第36981号)】

【ポイント】

特許権侵害の告知・流布が不正競争防止法2条1項15号の不正競争に該当するかが争われた事例

【キーワード】

不正競争防止法2条1項15号,侵害警告の違法性、信用毀損行為、不正競争

事案

本件は、被告が特許第4455666号を有する特許権者であり、原告が特許権侵害の疑いのある行為をしていたところ、被告が、「原告ソフトウェアにおけるパスワード登録システムの使用が特許第4455666号に係る被告の特許権を侵害し、又は侵害するおそれがある」旨を原告ソフトウェアのユーザ企業に告知・流布した。原告は、この行為が不正競争防止法2条1項15号に該当する旨主張して、被告に対し、上記告知・流布の差止めと、損害賠償の支払、謝罪広告の掲載を求めた事案である。

東京地裁の判断

東京地裁は、告知・流布された内容について、「各書状及び本件メールの送付先及びその内容に照らせば,これらの書状等に原告に関する直接的な記載が見当たらないことを考慮しても,当該書状等について,一般的な被告の製品の販促文書であると解することはできず,原告ソフトウェアの使用が・・・特許権を侵害する旨を原告ソフトウェアのユーザに指摘する文書であると解するのが相当である。したがって,上記各書状及び本件メールは,原告の「営業上の信用を害するもの」に該当する。」と判示した。

そして、本件特許は無効理由が存在するとして、本件書状及び本件メールの内容は「虚偽の事実」の告知に該当するとし、「本件全証拠によっても,本件特許1の無効理由について調査した事実は認められないから,被告が特許権侵害の有無について十分な法的検討をした上で上記各書状等を送付したと認めることはできない。また,上記各書状等の内容は,専らニフティシステムの利用が特許権侵害に該当することを前提にライセンス契約の締結を求めるというものであり,少なくとも,本件書状4及び本件メールは,被告が,ニフティを自社製品の製造者ではなく原告ソフトウェアのユーザという第三者であることを確定的に認識した上で,同社に対して送付したものである。このような上記各書状等の送付に至る経緯に照らせば,その内容及び態様が社会通念上必要と認められる範囲であるとも,正当な権利行使の一環であるとも認めることはできない」と判示し、被告の行為が不正競争に該当すると判断した。

検討

本件は、特許権者が、特許権侵害が疑われる行為について、「特許権侵害のおそれがある」旨の告知・流布をしたこと自体が、違法と判断された事例である。違法と判断された理由としては、当該告知の相手方が原告ソフトウェアのユーザであったこと、特許侵害を告知する内容であったこと、現実には特許は無効であったこと、及び、当該無効性について被告が十分な調査をしていなかったこと、等が挙げられる。 この論点についての裁判所の立場は、侵害警告行為���ついて侵害を確信する相当な理由があったのなら、この過失を否定する形式説と、これとは別に、権利行使として相当といいうる侵害警告は正当行為であるとして、違法性自体をダイレクトに否定する相当説が、対立しており、現在も二つの説の裁判例が併存している。

本件は、いずれの判断枠組みを採用したかの明示はないものの、考慮事情からすると相当説に親和性のある考え方を採用していると思われる。

特許権侵害の疑いのある行為を見つけた場合の対処策として、①侵害警告や、②侵害のおそれの告知・流布を行うケースが、しばしば見受けられるが、裁判例の潮流も変化していることもあり、細心の注意を払って行為を検討すべき論点である。