【出典:IPR DAILY】

2017年11月、北京市知識産権法院は、「MLGB」商標に低俗な意味があるため、商標登録を取り消すとの判決を下した。一審判決が下された後、原告の上海俊客貿易有限公司(以下、「上海俊客公司」という)は判決を不服として、上訴を提起した。このほど、北京市高級人民法院は「上訴を棄却し、一審判決を維持する」との二審(終審)判決を下した。

本件の係争商標は2011年12月28日に登録を認められた(関連情報は上表のとおり)が、2015年10月9日に第三者が商標評審委員会に商標登録の無効宣告を請求した。商標評審委員会は、「係争商標はローマ字からなる「MLGB」であり、当該ローマ字の組み合わせには、「媽了個逼」(中国語の下品な罵倒語)の意味があり、インターネットなどのソーシャルプラットフォームで広く使用されている。この略語には、下品でかつネガティブな意味合いがあり、商標として使用すると、社会主義の道徳、風習を害し、社会に悪影響を及ぼす虞がある」と判断し、改正前の『商標法』第10条第1項第8号により、係争商標の登録を無効とする決定を下した。上海俊客公司は、商標評審委員会が下した決定を不服として、北京知識産権法院に訴訟を提起した。【判決番号:(2016)京73行初6871号--商標無効宣告請求行政紛争】

インターネット環境の下で形成され固定化した意味をもつ「ネット言葉」が『商標法』第10条第1項第8号に規定する「社会主義の道徳、風習を害するもの」に該当するかどうかについて、合議廷では意見が分れた。しかも、この問題は異なる価値観の取捨選択にも関係している。本件では少数意見を明示することで、合議廷が判決を下す際に考慮した様々な要素が完全に反映され、また、法院が立法主旨に基づいて価値判断をする際の根拠が深く分析された。

合議廷の少数意見は、「インターネット流行語として、「MLGB」で「媽了個逼」を表現するという現象が形成された時間は長くなく、インターネット環境に限られた、主に若者が使用する言葉であって、日常生活では一般的でないため、「MLGB」に「媽了個逼」という固定化された意味があるとは言えない。社会の道徳、風習は大多数の人の認識によって決まるため、一部の人が「MLGB」で「媽了個逼」を表現しているからといって、両者に固定的な関連性があると認定することはできない」というものであった。

一方、合議廷の多数意見は、「標識の意味の識別範囲は、その意味が影響を与える範囲と必ずしも同じではなく、標識の特定の意味が影響を及ぼす範囲は、その意味が認識されている範囲に限定されない。特定の層にとってのみネガティブな意味を持つ標識であっても、社会全体の道徳、風習に影響を及ぼすこともある。既存の証拠は、青少年のソーシャルプラットフォームでは「MLGB」で「媽了個逼」を表現することが一般化しており、「MLGB」を見たときにすぐ「媽了個逼」を連想するため、「MLGB」が「媽了個逼」を指すことはすでに固定化された概念となっていることを示している。インターネットのソーシャル活動は、青少年の生活で不可欠な部分となっており、特に青少年は新奇性追求心や反抗心が強く、まだ世界観、人生観、価値観の形成段階にある。係争商標は被服、靴、帽子などの商品について登録・使用されるが、広告宣伝などの証拠によると、そのセールスポイントは、「ファッション」、「個性」、「トレンド」であり、ターゲットは青少年である。係争商標は、青少年にとって低俗な意味があるため、登録の維持は、低俗さ、奇抜さをファッションとして追いかける悪しき誘因となる虞がある。この悪しき誘因は、直接青少年に影響を及ぼし、その有害な結果として、必ず社会全体の道徳、風習に悪影響を及ばすことになる」というものであった。

したがって、北京知識産権法院は、原告の上海俊客公司の請求を棄却する判決を下した。

  • 原告の上海俊客公司が決定を不服として北京知識産権法院に訴訟を提起した理由は下記の通りである。
  1. 係争商標「MLGB」は、中国国内のアパレルファッションブランドであるNPCのオリジナルブランドであり、「MLGB」は「My Life’s Getting Better」の意味で、日本語訳は、「人生がより良いものになる」であり、社会主義の道徳、風習を害する意味は存在しない。
  2. 中国語のピンインは中国のみで使用され、中国以外の国又は地域では使用されていない。係���商標の「MLGB」は、インターネット環境では「媽了個逼」の意味で使用する者はいるが、それは少数の素養が高くない者に限られ、公衆に広がったり、一般的に使用されたりする程度には達していない。しかもインターネット用語の意味は一般的に固定化されていないため、「MLGB」と「媽了個逼」の間に固定的な対応関係があることを証明することはできない。中国語には、ローマ字の組合せを中国語のピンインの頭文字として考える習慣はなく、司法機関は善良な観点から当事者と公衆の認識を理解すべきであって、このような「低俗」な連想をするように公衆を誘導すべきでない。
  3. 係争商標「MLGB」は40種類の商品全てにおいて商標登録が許可されている。多数の類似した状況の商標も既に商標局に登録が認められているため、商標評審委員会も同じ基準を取るべきである。係争商標「MLGB」の登録が認められた後、商標権付与行為の真実性、合法性に対する信頼に基づき、上海俊客公司は、ブラント構築に多額の資金を投入してきた。被告による係争商標の取り消しは、上海俊客公司が長年蓄積してきたブランドの信用及び市場価値を毀損するものである。したがって、法院に訴訟に係る決定の取り消しと商標評審委員会に決定のやり直しを命じるよう求める。
  • 被告の商標評審委員会の主張:
  1. 係争商標はローマ字からなる「MLGB」であり、当該ローマ字の組み合わせはインターネットソーシャルプラットフォームで広く使用され、「媽了個逼」というネガティブな意味を持ち、商標として使用することは社会主義の道徳、風習を害し、社会に悪影響を及ぼす虞がある。
  2. 原告の上海俊客公司は、「MLGB」は「My Life’s Getting Better」を意味すると主張したが、その意味が広く知られていることを証明する証拠はない。
  3. 商標の個別審査原則に基づき、その他の商標の登録状況を、本件の審査の根拠とすることはできない。商標の無効宣告請求手続きは、当事者の請求に基づいて開始されるため、係争商標がその他の商品区分で取り消されていないことを、本件の審査の根拠とすることはできない。係争商標は、『商標法』第10条第1項第8号に規定されている「社会主義の道徳、風習を害するもの」に該当する。訴訟に係る決定の事実は、すでに明らかで、条文の適用は正確であり、手続きは合法であると判断されるため、法院に原告の訴訟請求を棄却するよう求める。
  • 登録商標に対し無効宣告を提起した第三者の主張:
  1. 係争商標が使用されるのは中国であり、中国語の言語環境では、係争商標を「My Life’s Getting Better」と認識せず、「媽了個逼」と認識してしまう。
  2. 上海俊客公司の係争商標登録には悪意がある。本件の係争商標のほかに、上海俊客公司は「caonima」、「草泥馬」(中国語の罵倒語)など多数の品がない商標を登録している。上海俊客公司の実質的支配者は有名な芸能人で、上記商標を登録する目的は、自身の知名度を利用し注目を浴びるために、青少年の間に「下品な」ファッショントレンドを作り出し、不適切な利益を獲得することにある。
  3. 係争商標は、第25類の靴、帽子などの商品を指定商品として登録されている。これらはいずれも公衆が公の場で使用する商品であり、係争商標自体の悪影響が拡大しやすいため、法院に原告の訴訟請求を棄却するよう求める。
  • 第三者が商標評審委員会に提出した証拠は下記の通りである。
  1. 「一個由網路引發的盤點和隨筆雜談」、「1W拍寶馬—2005年網路第一大騙局—易趣尋寶活動(轉載)」、「國足後防大將狼狽犯規染黃爆粗『MLGB』,太TM快了」などの関連するウェブページのファイル。これらは、「MLGB」という言葉が、係争商標の登録出願日よりも前に既に下品な罵倒語の略語として使用されており、現在も一般公衆に「MLGB」が依然として下品な罵倒語の略語であると認識されていることを証明するものである。
  2. 「沒想到MLGB居然是個牌子」(MLGBがブランドだとは思わなかった)、「MLGB是什麼牌子?」(MLGBってどんなブランド?)、「MLGB,原來是個牌子」(MLGBはなんとブランドだった)などの関連するウェブページのファイル。これらは、「MLGB」を商標として、被服、帽子にプリントすることは、公衆に受け入れられず、社会に悪影響を及ぼすことを証明するものである。
  • 北京市高級人民法院の二審判決【(2018)京行終137号】

中国のインターネットユーザー数の規模の大きさ、インターネットと公衆の生活との密接な関係などや、インターネット環境で既に「MLGB」を悪影響の有る意味として使用する特定の層が存在するという現状を鑑みて、積極的にインターネット環境を浄化し、ポジティブな主流文化と価値観を確立するよう若者世代を導くためにも、法的にグレーな方法で「三俗」(低俗/下品/世俗に媚びる)に迎合する行為を防止し、司法が主流文化の意識継承と価値観誘導においてその役割を果たすには、係争商標自体がネガティブで、下品な意味を持つものであると認定すべきである。

同時に、上海俊客公司は係争商標を使用する際に、英語による標記を一緒に使用したが、係争商標を出願すると同時に、「caonima」等の商標も出願していることから、世俗に媚びるという方法で不良文化に迎合する意図があることは明らかであり、実際の使用においても、係争商標について、低俗、俗悪な商業宣伝をしたという状況がある。

これにより、北京市高級人民法院は上訴を棄却し、原判決を維持する判決を下した。