訴願又は行政訴訟(日本の無効審判審決取消訴訟に相当)の段階で新たな商標登録の取消し、異議申立又は無効審判などの無効理由の追加主張の可否は、実務上重要な課題である。これに対し、知的財産裁判所は否定的見解を示した。

「知的財産案件審理法」(中国語「智慧財産案件審理法」)第33条第1 項には、商標登録の無効、取消し、又は専利権(日本の特許権、実用新案権、意匠権を含む)の取消しに関する行政訴訟において、当事者が口頭弁論終了前に、同一の無効又は取消理由について提出した新たな証拠について、知的財産裁判所は依然としてこれを参酌しなければならない、と規定されている。提出された新たな証拠は、新たな無効理由をも含むものと解すべきであるという主張がある。

知的財産裁判所は105年度(西暦2016年)行商訴字第34号行政訴訟事件の判決で、以下のような見解を示した。「商標法」第63条第1項各号では、商標登録後、かかる商標が法定の登録取消理由に該当するときは、商標主務官庁は、職権で又は請求により、その登録を取消しなければならない、と明文で規定されている。この条文の規定により、商標主務官庁が登録商標が法定の登録取消理由に該当したと判断したにもかかわらず、職権でその登録を取消せず、或はいかなる第三者も登録商標が登録取消理由に該当したと認めたが、商標主務官庁による認定結果が異なった場合、第三者は法定の登録取消理由をもって商標登録の取消審判を請求することができる。主務官庁が取消審判請求不成立(請求棄却に相当)の審決を行った場合、法により法定の争訟手続を提起することもでき、すなわち、行政による自己審査(訴願手続)、司法審査(行政訴訟)の手続を経て、商標主務官庁による商標登録の取消審判請求に関する判断を審理することである。ただし、憲政秩序下の権力分立原理に基づき、商標主務官庁の職権による法定の登録取消理由の存否の判断も第三者による登録の取消請求も経ていないものの、裁判所は、行政訴訟において、他の法定の登録取消理由が存在する可能性があるとして、商標主務官庁による特定の法定登録取消理由に関する請求不成立の処分を取り消すことができない。そうすると、法制度においては、商標主務官庁の法定の権限と責任を維持できることで、行政機関による初回の判断を経ていない事項を、直接行政訴訟の審理範囲に置いており、不必要な法律争点が派生し、最終的に行政訴訟の審理を遅延させることまでには至らない。第三者ないし公衆の権益は、別途商標登録の取消審判を請求することによって、合理的な保障も得られるようになる。

また、知的財産裁判所は、以下のように具体的に説明した。原告は本件起訴前の商標登録取消審判請求の段階において、係争商標の取消理由は「商標法」第63条第1項第4号のみを主張しており、同項における他号に及んでうなかったが、訴願段階に至って初めて訴願理由書に同項第5号の取消理由を併せて指摘し、さらに裁判の審理中に係争商標は同項第5号の事情に該当するものであることを何度も争い続けていた。原告自身も、訴願段階になってから、初めて同項第5号の主張をしてきたことを自認した。原告による同項第5号の取消理由に関する主張は、智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)で初回の判断を経ておらず、また、原告も法定の手続に従って請求できるにもかかわらず、これを理由にして原処分及び訴願決定の適法性を指摘して、裁判所に併せて審理を請求することは、上述の説明に基づけば適法ではない。原告は、その主張する同項第4、5号の理由の原因事実がいずれも同一であり、智慧局にはもともと法により職権で登録を取り消す職責があり、また、職権で証拠を取り調べる法定の義務もあるため、異なる条項に属する取消理由を異なる案件においてそれぞれ審理すると、行政及び司法資源を無駄するという理由をもって指摘してきた。しかし、前述したとおり、「商標法」第63条第1項第4、5号は確かに異なる法定の取消理由であり、たとえ原告が主張する基礎となる原因事実が同一であったとしても、同一の基礎となる原因事実に対して異なる法律条項を適用するときに、異なる商標登録取消審判の請求権の行使となり、その訴訟物がすでに同一ではなくなるため、智慧局による初回の判断を経ておらず、直接に本件の行政訴訟手続において併せて審理を行うことができない。また、行政機関はもともと職権で証拠を取り調べる法定の義務があったものの、これから行政機関が行政争訟手続においてその答弁範囲を、請求及び初回の判断をまだ経ていない事項に拡大しなければならないことを導き出すことができない。よって、原告の上記主張も理由がない。本件の審理範囲及び訴訟物について、原告による「商標法」第63条第1項第4号に基づく登録商標取消審判請求を不成立とする原処分及び原処分を維持する訴願決定が違法か否かのみに限られるべきである。係争商標が「商標法」第63条第1項第5号の法定の登録取消理由があるか否かには及ばない。

裁判所はさらに以下の見解を強調した。「知的財産案件審理法」第33条第1項の規定により、行政訴訟における新たな証拠提出が認められるため、行政機関による初回判断が必要とされる原則を緩和することとなるが、依然として同一の無効又は取消理由に限られ、異なる取消理由にまでは拡大されていない。よって、原告はこれに基づいて新たな取消理由も併せて、裁判所の審理範囲及び訴訟物に取り入れるよう請求することができない。