【平成29年7月19日判決(東京地裁 平成25年(ワ)第25017号)】

【判旨】 被告の従業員であり且つ本件各発明の(共同)発明者であった原告が、被告の保有する本件各特許(本件発明A~H)に関し、本件各発明に係る特許を受ける権利を被告に承継させたとして、被告に対し、相当の対価(不足額)合計1億9807万8808円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案において、原告の本件請求は、本件発明Aに係る相当の対価(不足額)合計 1251万2259円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして、請求を一部認容した事例。

【キーワード】 職務発明,相当の対価

1 事案の概要

(1)経緯 原告は,平成6年4月1日から平成18年9月15日まで(被告子会社への出向期間を含む),被告に雇用され,研究員として勤務した。原告の被告における職務内容は,液晶用バックライトに関する研究開発及び量産化対応等であった。 被告は,電気機器用各種製品及び光学機器用各種製品等の製造,加工,並びに販売等を目的とする株式会社である。 被告の職務発明規程では,被告から発明者に,出願時対価(出願時奨励金)や登録時対価(登録時奨励金)のほか,発明の実施実績を評価した結果に基づく実績補償金(実施褒賞金)を支払うことなどが規定されていた。被告は,本件発明A~Hに係る実施品である製品を自ら製造・販売(自己実施)しており,本件特許A~Hについて第三者へのライセンスは行っていない。 被告は,原告に対し,被告の職務発明規定等に従って,本件発明A~Hについて,それぞれ,出願時奨励金,登録時奨励金及び実施褒賞金(以下,これらを併せて「既払金」という。)を支払った。 原告は,本件発明A~Hの発明者ないし共同発明者であるところ,本件発明に係る特許を受ける権利を被告に承継させたことの「相当の対価」の不足分として,被告に対し,合計1億9807万8808円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した。当該請求額のうち大半は,本件発明Aに関するものであり,原告の計算によれば合計13億8467万8968円にも登る相当の対価のうち,一部請求として1億8042万5110円を請求したものである。 なお,本事案における原告の請求は,平成16年法律第79号による改正前の特許法第35条第3項(下記)に基づくものである。

※特許法第35条(平成16年法律第79号による改正前)

(職務発明) 第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。 2 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定の条項は、無効とする。 3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。 4 前項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。

(2)本件発明の技術分野 本件発明は,液晶用バックライトに関するものであるが,光源の配置方式として大きく分けて導光式(LED導光式)と直射式(LED直射式)とが存在する。前者は,光源からの光を導く導光板を用いる方式であり,後者は,発光面直下に光源を配置する方式である。 LEDを光源とする場合には,発光面の輝度ムラ(LEDの直上部が明るく,そこから離れるに従って暗くなること)が問題となる。 LED導光式は,LEDを導光板の側面に配置し,適切に導光することにより,輝度ムラのない発光面を得ることができる。この方式は,バックライトの薄型化には適するが,発光面の面積以上の大きさの導光板が必要となり,光源の配置場所や使用数が限定されるため,大型化や高輝度化には課題が多いとされており,携帯端末やノートパソコンなどの用途に向く。 LED直射式では,LEDを覆うレンズを使用しないこともあるが,ほとんどが輝度ムラを改善するため,レンズを使用する。このレンズには,LEDと一体化したもの(封止樹脂レンズ)と,LEDとは別体の光拡散レンズレンズ(レンズ使用)とがある。光拡散レンズは,光学機能により「全反射レンズ」と「屈折レンズ」に分類され,後者は,出射面の形状により「凹面あり」と「凹面なし」に分類される。LED直射式は,光源を増やすことが容易であることなどから,大型化や高輝度化には適するが,輝度ムラを均一化するために光源と光を拡散させる拡散板を一定距離以上離す必要があるため,バックライトの薄型化には不向きであるとされており,テレビや大型モニタなどの用途に向く。 本件発明Aは,LED直射式における光拡散レンズ(レンズ使用)のうち,「屈折レン���」で「凹面あり」に分類される技術に関する発明であり,本件発明Bないし同Hは,導光式に係る技術に関する発明である(下図参照)。

※液晶用バックライトの技術分類

2 争点

本件では,(1)本件発明Aに係る相当の対価の額(争点1),及び(2)本件発明Bないし同Hに係る相当の対価の額(争点2)のそれぞれについて, ア 独占の利益の額 イ 被告の貢献度 ウ 共同発明者間における原告の貢献度 エ 遅延損害金の起算日より後の期間売上高に基づいて算定される相当の対価に関する中間利息の控除の要否 が争点となった。更に,「ア 独占の利益の額」の算定に当たり,本件発明Aについては, (ア)A実施品の期間売上高(A非実施品の存否を含む) (イ)超過売上率(売上高のうち法定通常実施権の行使による売上高を超える割合) (ウ)仮想実施料率(従業者等が特許を受ける権利を使用者等に承継させずに,自ら特許を受け,第三者に実施許諾したものと想定した場合に見込まれる実施料率) が争点となり,本件発明Bについては, (ア)超過売上率 (イ)特許寄与率(実施品の製造販売に複数の特許が用いられる場合における独占の利益に対する各特許の寄与率) (ウ)仮想実施料率, が争点となった。

3 裁判所の判断

(1)相当の対価の算定方法 最初に,裁判所は,特許法第35条第3項における「相当の対価」の算定方法について,①相当の対価の請求権は特許を受ける権利の承継時に発生し,②相当の対価の額とはその時点における客観的に相当な額をいうが,③その算定にあたっては承継の後に生じた事情を考慮することができる,とした(下線部は筆者付与。以下同じ。)。

1 相当の対価の算定方法について

(1) 特許法35条3項によれば,従業者等は職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ,又は使用者等のため専用実施権を設定したときは,相当の対価の支払を受ける権利を有するものとされ,同条4項によれば,その対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならないものとされている。そして,当事者間に特段の合意等がない限り,相当の対価の請求権は,特許権を受ける権利若しくは特許権の承継又は専用実施権の設定(以下,これらを併せて「承継等」という。)の効力が生じた時に発生し,相当の対価の額は,その時点における客観的に相当な額(期待値)をいうものと解するのが相当である。

しかしながら,その算定に当たっては,承継等の効力が生じた時より後に生じた事情,例えば,特許権の設定登録がされたか否か,当該発明の実施又は実施許諾によって使用者等が利益を受けたか否か,利益を受けた場合のその額,使用者等がその利益を受けるについて貢献した程度等は,上記時点における客観的に相当な対価の額を認定するための資料とすることができると解するのが,相当である(なお,被告規定等に基づく登録時奨励金や実施褒賞金の支払に際しても,これらの事情が参酌されているところである。)。

(2) 本件のように,使用者等(被告)が従業者等(原告)から職務発明について特許を受ける権利(又はその持分)を承継して,特許を保有するに至り,かつ,当該特許について第三者に実施許諾せず,当該発明を自己実施している場合,相当の対価は,次のように算定するのが相当である。 ① 当該発明の実施品の期間売上高(当該特許権の存続期間満了までの予測値を含む。)に,超過売上率及び仮想実施料率(当該実施品に複数の特許が使用されているときは,超過売上率,仮想実施料率及び特許寄与率)を乗じて,独占の利益(当該発明により使用者が受けるべき利益)の額を求める(ただし,相当の対価の支払時期を基準として中間利息を控除すべきである。)。 ② 上記①により求められる独占の利益の額に,使用者等(被告)の貢献度(これには,その発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれると解するのが相当である。)に応じた額を控除して(すなわち,発明者〔共同発明の場合は,共同発明者全員〕の貢献度を乗じて),発明者(共同発明の場合は,共同発明者全員)に支払われるべき相当の対価の額を求める。 ③ 当該発明が共同発明の場合は,上記②により求められる額に,共同発明者間における原告の貢献度を乗じて,原告に支払われるべき相当の対価の額を求める。

(2)本件へのあてはめ(本件発明A) そして,本件発明Aの相当の対価(争点1)については,本件特許Aの登録に至る経緯(出願経緯,審査経過等),特許出願後の研究開発及び製品開発,製品の量産化に至る経緯,代替技術・競合品,のそれぞれについて,証拠に基づく事実認定を丁寧に行った後,各争点について下記のとおり判示した。

ア 期間売上高について(A非実施品の存否等について)

裁判所は,A非実施品は存在し,且つ当該A非実施品について特許権Aによる独占の効果は及ばないとして,原告の主張を退けた。なお,期間売上高の計算に関する詳細部分は非公開となっているため,本稿では割愛する。

(ア) A非実施品について

a 原告は,「LE-Cap」の全てがA実施品であって,A非実施品は存在しない旨主張するので,まず,この点について検討する。

(a) 原告は,A非実施品が存在しないと推認すべき事情として,秘密保持に関する契約の締結後に被告から被告開示品及びその図面の提供を受けたが,原告の分析によれば,●(省略)● しかし,以下のとおり,●(省略)●困難である。

・・・(中略)・・・

他方,被告は,●(省略)●と確認できる旨主張しており(平成28年10月11日付け第15準備書面,平成29年2月27日付け第18準備書面),被告が採用した手法(●(省略)●が,本件発明Aに係る特許請求の範囲を含む本件特許Aの明細書等(乙17,18参照)の記載に照らし,不合理であるとはいえない●(省略)●。)。 なお,原告の主張(第17準備書面)によっても,A実施品であることに争いのない製品と被告開示品とは,表面形状の凹み形状部分の広さ,レンズの厚みなどの点に一定の差異があり(同準備書面2頁,6頁),これらが同一の製品ではないことは,優に認められるところである。 そうすると,被告開示品が●(省略)●,A実施品であるとの原告主張は採用することができず,かえって,被告開示品は,●(省略)●と推認するのが相当というべきである。・・・(中略)・・・

(c) 以上によれば,●(省略)●以降,A非実施品を製造販売していたとの被告主張が不合理なものであるとはいえず,被告主張に係るA非実施品の売上高の全部又は一部がA実施品の売上高であったと認めることは,困難である。 b 原告は,A非実施品が存在するとしても,本件特許Aによる独占の効果が事実上及んでいるとみるべきであるから,その売上高を相当の対価の算定の基礎とすべきである旨の主張もする。 しかし,前示のとおり,A非実施品は,●(省略)●

また,弁論の全趣旨によれば,発明A’の特徴的部分についても上記と同様の見方が妥当すると考えられる。 そうすると,A非実施品は,本件発明Aの特徴的部分を備えているといえないのであるから,同発明との関係では代替技術と位置付けるのが相当であり,これについて,本件特許Aによる独占の効果が事実上及んでいるとみることは,困難というべきである。 ・・・(中略)・・・

したがって,A非実施品に本件特許Aによる独占の効果が事実上及んでいるとの原告主張も,採用することができない。

イ 超過売上率について 超過売上率については,被告による実施品の製造・販売が行われた時期を3つの期間に分け,各期間について下記のとおり超過売上率を認定した。

イ 超過売上率について

(ア) 被告が本件発明Aを自己実施したことによる超過売上げについて検討するに,前記(1)の認定事実(とりわけ,「LE-Cap」が開発された当初は,LEDを光源とするバックライトを使用した液晶テレビにおいて,LED直射式を採用する競合企業自体が少なかったものの,大手液晶メーカーにおいて光拡散レンズの採用が決定されたことなどから量産化が検討され,被告の有する技術力が売上に寄与したものであることが認められること,液晶バックライト市場において,導光式と直射式の各シェアはほぼ半分ずつであったものの,そのうちのLED直射式という限定された市場をみる限り,本件発明Aの代替技術といえるようなものはほとんどないかったこと,その後,被告がA非実施品の製造販売をするようになったことなど)を総合考慮し,超過売上率を次の3つの時期に分けて検討する。

① 開発された当初(平成21年度)から大手液晶メーカーに採用され,量産化が進んだ時期(平成23年度から平成25年度)(第Ⅰ期)

② A非実施品が販売され,A実施品と併用されている時期(平成26年度から平成30年度)(第Ⅱ期)

③ 技術の陳腐化に加え,LED光源そのものの性能の向上,光拡散レンズの性能向上などにより光拡散レンズ数の使用数が必然的に減少することが予測される時期(平成31年度から特許期間満了の平成36年3月まで)(第Ⅲ期)

第Ⅰ期については,液晶テレビのバックライトにおいてLED光源を利用し,LED直射式を採用するという限定された市場においてではあるが,「LE-Cap」が●(省略)●程度の高い市場占有率を有していたと認められることなどを考慮し,超過売上率を40パーセントとみるのが相当である。 第Ⅱ期については,「LE-Cap」の約半分がA非実施品であり,代替製品が市場シェアの半分を奪ったといえることなどを考慮し,超過売上率を第Ⅰ期の半分の20パーセントとみるのが相当である。

第Ⅲ期については,技術の陳腐化などを考慮し,超過売上率を第Ⅱ期の半分の10パーセントとみるのが相当である。

ウ 仮想実施料率について

仮想実施料率についても,超過売上率と同様に第Ⅰ期~第Ⅲ期に期間を分け,下記のとおり認定した。

ウ 仮想実施料率について

(ア) 仮想実施料率についても,超過売上率と同様の事情を考慮し,第Ⅰ期ないし第Ⅲ期に分けて検討するのが相当である。 第Ⅰ期については,本件特許Aの内容及び実施料率の相場(前記前提事実(2),別紙1「本件特許目録」記載1及び同2,別紙2-1,別紙2-2)のほか,前記(1)の認定事実(とりわけ,LED直射式のバックライト市場という限定的な市場ではあるが,「LE-Cap」の市場占有率が極めて高いことなど)を総合考慮し,3パーセントとするのが相当である。

また,第Ⅱ期については,上記に加え,A非実施品が販売され,A実施品とほぼ同数を占めるようになっていること(前記前提事実(4)ア(イ),前記ア),光拡散レンズを搭載する液晶テレビ本体の価格は減少傾向にあること等を考慮し,仮想実施料率を第Ⅰ期の3分の1である1パーセントとし,第Ⅲ期については,更に技術の陳腐化等の事情を考慮し,第Ⅱ期の半分の0.5パーセントとするのが相当である。

なお,実施料率については,統計資料として「発明協会研究センター編『実施料率〔第5版〕』」及び「株式会社帝国データバンクの『知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書』」が下記のとおり参照されている。

発明協会研究センター編「実施料率〔第5版〕」(乙4)では,「電子・通信用部品」の分野における実施料率の平均値(平成4年度から平成10年度)は,イニシャル・ペイメントありの場合が3.5パーセント,イニシャル・ペイメントなしの場合が3.3パーセントであり,最頻値は,イニシャル・ペイメントありの場合も,イニシャル・ペイメントなしの場合も,1パーセントであるとされている。 また,上記文献に基づいて集計を行ったとする,株式会社帝国データバンクの「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書」(甲15)では,我が国における「ラジオ・テレビ」の技術分野におけるロイヤルティ料率(平成4年度から平成10年度のイニシャル・ペイメントなしの場合)の平均値,最頻値,中央値が,それぞれ5.7パーセント,1.0パーセント,2.0パーセントであるとされている。

なお,上記の期間売上高,超過売上率,仮想実施料率について,原告は弁理士に計算鑑定書(甲77鑑定)を証拠として提出したが,下記のとおり,前提となる事実認識が妥当でないなどとして採用できないとされた。

b 原告は,弁理士Aⅷ(以下「Aⅷ弁理士」という。)���成の鑑定書(甲77。以下「甲77鑑定」という。)に基づいて縷々主張するが,甲77鑑定は,当事者双方の準備書面や被告の提出に係る書証(特許Aに係る特許公報を除く。)をおよそ参酌することなく作成されたものであり(弁論の全趣旨),少なくとも,Aⅷ弁理士が検討した被告及びA実施品に関する資料が客観性のあるものと認めるには足りず,したがって,同弁理士の意見の前提とされている事実認識自体が適正妥当なものとは認め難いのであり,同弁理士の法的見解の当否にかかわらず,これを採用することは,困難というべきであって,甲77鑑定に基づくA実施品の売上高に関する原告の主張も,採用することができない。

エ 被告の貢献度について

被告の貢献度については,下記のとおり,95%を下回らないと認定された。

(3) 被告の貢献度(共同発明者の貢献度)について 前記認定事実によれば,被告は,原告が研究に従事する前から,「LE-Cap」の開発研究をテーマとしていたこと,特許Aの出願後も,Aⅳを中心として研究が続けられていたこと,「LE-Cap」の売上が急激に伸びたのは,特許Aの登録から5年以上経ってからであり,このことは特許の成立だけでは「LE-Cap」の高い市場占有率を確保できなかったことを裏付けているといえること,より性能の高い製品化や量産化,月産数億個に及ぶ大量の受注を受ける体制が整って初めて売上高が急激に伸びたこと,この点はさらに,量産化の技術や大手液晶メーカーへの営業,被告独自の販売戦略などの点における被告の貢献が大きく寄与しているものとみられることなどが認められ,これらの事情を総合考慮すれば,共同発明者の貢献度は5パーセント(被告の貢献度を95パーセント)と認めるのが相当であり,被告が主張する種々の事情を考慮しても,これを下回るものとは認め難い。

オ 共同発明者間における原告の貢献度について

詳細は割愛するが,共同発明者間における原告の貢献度については,発明Aの特徴的部分に対する原告の創作的な貢献度を始めとする諸般の事情を考慮の上,70パーセントと認定された。

カ 小括(本件発明Aの相当の対価の不足額)

上記のとおり,本件発明Aについて相当の対価の額を算定し,既払金を控除した結果,本件発明に係る相当の対価の額(不足額)は1251万2259円と算定された。

(3)その他の発明について

本件発明B〜Hについても,本件発明Aと同様の手法により相当の対価の額が算定されたが,いずれも既払金額を下回るものであるとして,不足額は0円と認定された。結果,原告の請求のうち,本件発明Aについての不足額1251万円2259円に係る請求のみが認容され,その余の請求については棄却がされた。

4 検討

特許法における職務発明規定は,平成16年改正法(平成年月より適用)により大幅に改定がされ,相当の対価に関する基準の策定・対価額の決定等が所定の手続に則って行われている限り,使用者(企業)の算定した金額を上回る相当の対価を従業員が請求することは難しくなった(特許法第35条第7項。下記参照)。

※特許法第35条(現行法)

(職務発明) 第三十五条 (第1項〜第3項は省略) 4 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。 5 契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。 6 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする。 7 相当の利益についての定めがない場合又はその定めたところにより相当の利益を与えることが第五項の規定により不合理であると認められる場合には、第四項の規定により受けるべき相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

本件は,上記改正前の特許法における職務発明規定に基づく請求であるものの,相当の対価を算定する際の手順及び考慮要素,事実認定の方法等について参考になる部分が多い。 ただし,相当の対価の請求権の発生時期が「権利の承継時」とされていることや,一般債権の消滅時効が10年(民法第167条第1項)であることを踏まえると,本稿執筆時点(平成30年4月)において,改正前に発生した相当の対価請求権の多くは時効により消滅しており,今後は同一の法律構成にかかる判決はあまり出てこないと思われる。