豊富な消費人口を有するインドネシアは、日本企業にとっても魅力的な市場です。スマートフォンの急速な普及により、イーコマースやスマートフォンアプリ事業が盛り上がりを見せています。これらのオンライン事業は必ずしも現地拠点を必要としないので、日本企業の中にはインドネシアに拠点を設立せずにインドネシア向けのイーコマースやスマートフォンアプリ事業を行っている企業もあります。

しかし、この度の法改正により、①インドネシア向けのオンラインビジネスを実施している企業は、インドネシアに外国商亊駐在員事務所を設立する必要が生じる可能性があります。また、②現地拠点を設立せずに課金制のスマートフォンアプリをインドネシアで提供している場合、ユーザーが購入するデジタルコンテンツやサービスについて、ユーザーから源泉徴収を行う必要が生じる可能性があります。

なお、上記②は、新型コロナウイルスの影響でインドネシア経済が停滞し税収の減少が予想されるところ、政府の「Just stay home」(Di rumah aja)政策により多くのインドネシア人が課金制の動画閲覧サイト等にお金を使っているため、インドネシア税務当局が当該収益に課税の可能性を見出したことが背景にあるともいわれています。

以下では、それぞれにつき説明します。

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記事の内容を動画で解説

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1. オンライン事業者がインドネシアに外国商亊駐在員事務所を設立する必要性

a. 従前の考え方

インドネシア向けのビジネスをクロスボーダーで行う場合には、「現地拠点を設立する必要があるか?」という問題が生じます。このような論点を一般に「Doing Business規制」と呼びます。インドネシアの投資法上、外国投資家がインドネシアで「事業」を行う場合には、有限責任会社を設立する必要があるとされています。インドネシアに工場を作り、従業員を雇ってオペレーションを行うような場合は「事業」にあたることが明らかです。しかし、必ずしも物理的なオペレーション拠点を必要としないイーコマースやスマートフォンアプリの提供が、はたしてインドネシアにおける「事業」にあたるのかは必ずしも明らかではありませんでした。このため、クライアントの皆様からは「このようなオンラインビジネスを行いたいのだが、インドネシアに有限責任会社を設立する必要はあるか?」というご質問を頻繁に頂いていました。

b. 法改正の内容

今年の11月から施行が予定されている商業大臣規則2020年50号は、この点を一定程度明確にしたものと評価できます。すなわち、商業大臣規則2020年50号においては、「外国の電子取引施設運営者は、一定の要件を満たす場合には、インドネシアに代表を置かなければならない」と明記されました(同規則15条1項)。そして、その「一定の場合」は以下のように定められています。

i)1年間で、1000以上の消費者と取引を行った場合
ii)1年間で、1000以上の商品を消費者に対して発送したこと

また、「代表」は、電子取引に関する外国商亊駐在員事務所の形で設置されるものとされました(同規則15条4項)。

したがって、上記要件を満たす日本の電子取引施設運営者は、インドネシアに、電子取引に関する外国商亊駐在員事務所を設置しなければならないことになります。

「電子取引に関する外国商亊駐在員事務所」は、消費者の保護、インドネシアで販売する商品の競争力向上、紛争処理のみを行うことができ、その他の活動に従事することはできないとされています(本規則29条)。

上記に違反し、3度の警告を経ても是正がされない場合には、当該外国事業者はブラックリスト入りし、そのウェブサイト等がブロックされるものとされています(本規則46条3項)。このように、最悪の場合には、インドネシア消費者向けのウェブサイトがブロックされ、事業がストップしてしまう可能性があるため十分留意が必要です。

2. デジタルコンテンツに関する源泉徴収について

税務長官規則2020年12号が2020年6月25日に制定され、2020年7月1日から施行されています。

税務長官規則2020年12号は、外国からインドネシアに対して提供される非有体物やサービス(以下では「デジタルコンテンツ等」と便宜上呼びます)に関する増値税につき規定しています。例としては、インドネシアに拠点を設立することなく、外国からインドネシアの消費者向けに提供される有償のデジタルコンテンツや課金制のスマートフォンアプリ等が該当すると考えられます。

税務長官規則2020年12号において、以下の場合に税務長官は「電子取引事業者」を源泉徴収義務者として指定するものとされています(同規則3条1項)。

i)インドネシアの消費者による購入額の総額が6億ルピア(約480万円)を超える場合
ii)インドネシアにおけるアクセスが1年間で1万2000又は1か月で1000を超える場合

「電子取引事業者」には、①販売者(国内外の両方を含む)、②外国の電子取引施設提供者、③インドネシアの外国電子取引施設提供者が含まれるとされています(同規則1条18号)。このため、日本からクロスボーダーでデジタルコンテンツや課金制のスマートフォンアプリを提供している場合には、当該日本の事業者も源泉徴収義務者に指定され得る点に留意が必要です。