目次

Ⅰ    電気通信事業法改正のポイント/松本 絢子、井ノ上 奈莉子、平原 将人

Ⅱ    個人情報保護・データ保護規制 各国法アップデート/岩瀬 ひとみ、五十嵐 チカ、菊地 浩之、松本 絢子、河合 優子、菅 悠人、村田 知信

Ⅰ 電気通信事業法改正のポイント

2022 年 6 月 17 日に、電気通信事業法の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)が公布された。改正法の大きな柱として、①ブロードバンドサービスに関するユニバーサルサービス制度の整備、②利用者情報の適正な取扱いに係る制度整備、③卸   協議の適正性の確保に係る制度整備、④IP 網への移行を踏まえた接続制度の在り方に係る改正が挙げられる。以下では、改正法の概要、改正に至った背景及び改正をふまえた留意点等について概説する。改正法は公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされているが(附則 1 条本文)、現時点では未定である。

1. ブロードバンドサービスに関するユニバーサルサービス制度の整備

(1) 背景

社会全体の情報化が進むとともに、FTTH等のブロードバンドサービスの利用は年々増加している。また、新型コロナウイルス感染症対策を契機とした社会経済活動の変化により、テレワークや遠隔教育、遠隔医療などのデジタル活用の場面が増加してお   り、政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」実現のためにも、全国的な情報インフラの整備は急務となっている。

そのような中でも条件不利地域(過疎地、辺地、離島等)においては情報インフラの整備が遅れており、近年、総務省は、地方自治体や電気通信事業者等による光ファイバー導入のための費用の一部補助を行うことで情報インフラの整備を推進してきた。しかし、条件不利地域等においては、有線ブロードバンド導入後の維持管理費や更新費が事業者の負担となる場合も多く、サービスの適切・公平かつ安定的な提供、ひいては情報インフラの「維持」が課題となっている。

また、改正前の電気通信事業法(以下「旧法」という。)では、固定電話、公衆電話、緊急通報を国民生活に不可欠な電気通信 サービスと位置付けて「基礎的電気通信役務」(ユニバーサルサービス)として規定し、条件不利地域においてユニバーサルサービスを維持するためのコスト(赤字の一部)を補塡するため、その他の事業者に負担を求める「ユニバーサルサービス交付金制 度」を設けていたが、その対象は電話サービスのみであり、ブロードバンドサービスは対象外とされていた。

こうした状況の下、総務省は、情報通信審議会の答申を受け、2020 年 4 月に「ブロードバンド基盤の在り方に関する研究会」を設置し、ブロードバンドサービスに関するユニバーサル制度の在り方について議論がなされた。

(2) 改正の概要

改正により、基礎的電気通信役務の新たな類型(第二号基礎的電気通信役務)として、有線ブロードバンドサービスが追加され (改正法 7 条 2 号)、全国のブロードバンドサービス事業者が負担する負担金を原資として、不採算地域の有線ブロードバンドサービス事業者に対して交付金を交付する制度が新設された。電気通信事業者からの負担金の徴収や支援の対象となる有線ブロー   ドバンドサービス事業者に対する交付金の交付については、電話に係る交付金制度と同様、「基礎的電気通信役務支援機関」で   ある電気通信事業者協会により実施される(改正法 107 条 2 号、110 条の 4、110 条の 5)。

(ア) 新たにユニバーサルサービスの対象となるブロードバンドサービス

新たにユニバーサルサービスの対象となるブロードバンドサービスは、総務省令で具体的に規定されることとなるが(改正法 7 条 2 号)、通信速度、遅延の程度及び料金体系の 3 点を総合的に考慮し、FTTHとCATV(HFC方式)となることが予定されている。なお、4G等の携帯ブロードバンドサービスについては、①少なくとも現時点においては、テレワーク等を継続的・安定的に利用   するための手段としては、必ずしも十分でない場合があること、②新たな交付金制度の対象としなくとも、事業者間の競争を通じ た自主的な取組みにより、全国的なサービス提供が確保されると想定されること、③基地局までの光ファイバー網が維持されてい  れば、無線部分の維持費用は大きな負担とならないことから、新たな交付金制度の対象にはしないこととされている。

(イ) 一般支援区域と特別支援区域

新たな交付金制度は、不採算地域における有線ブロードバンドサービスの安定的な提供の確保をその主たる目的としつつ、有線ブロードバンド未整備地域の解消促進や公設公営・公設民営から民設民営への転換促進もその副次的な目的とされている。 そのため、改正法では、総務大臣は、①純粋に当該地域における有線ブロードバンドサービスの提供を維持することを目的として  支援対象とする「一般支援区域」と、②それに加えて、未整備地域の解消促進等の特別の政策的要請も踏まえて支援対象とする

「特別支援区域」の 2 種類の支援対象区域を区別して指定することができる(改正法 110 条の 2)。一般支援区域については、市場に委ねたのではサービスが維持されない可能性が高い区域であるものの、自らの経営判断で当該地域におけるサービス提供   を開始したとの想定の下、当該事業者の部門別収支に照らして支援の必要性が認められる場合に限って支援対象となる。他方、   特別支援区域については、市場に委ねたのではサービスが維持されない可能性が極めて高い区域であり、交付金によって維持費用の支援が行われることを前提に、当該地域でのサービス提供を新たに開始するものであるとの想定の下、当該事業者の部門別収支を問わずに支援対象とされる。

(ウ) 支援対象事業者と負担対象事業者

新たな交付金制度に基づき支援対象となる電気通信事業者(第二種適格電気通信事業者)は、有線ブロードバンドサービス事業者の申請により、総務大臣が指定することができる(改正法 110 条の 3 第 1 項)。他方、負担金の負担対象事業者は、ブロードバンドサービス事業者のうち、事業規模が政令で定める基準を超える者である(改正法 110 条の 5 第 1 項)。なお、改正法では、有線・無線を問わず、ブロードバンドサービス事業者全般が負担金を負担することとされている。

(エ) 有線ブロードバンドサービスを提供する電気通信事業者に課される義務

改正法下では、現行の電話に係る制度と同様、サービスの適切・公平かつ安定的な提供を確保するため、ユニバーサルサービ  スである有線ブロードバンドサービスを提供する事業者に対して、①契約約款の届出義務(改正法 19 条 1 項)、②業務区域内における役務提供義務(25 条 2 項)、③技術基準適合維持義務(41 条 2 項)等が課されている。

2. 利用者情報の適正な取扱いに係る制度整備

(1) 背景

情報通信技術を活用したサービスの多様化やグローバル化に伴い、電気通信事業者における、利用者情報の漏えいや不適正   な取扱い等に係るリスクの高まりを受け、総務省は、「電気通信事業者ガバナンス検討会」を開催し、議論を行った。

旧法下では、通信の秘密以外の利用者情報については、適正な取扱いを確保するための仕組みは整備されておらず、事業者の自主的な取組みに委ねられていた。このため、利用者がウェブサイトの閲覧やアプリの利用を行う際に、利用者の意思によら ずに、利用者の端末設備に保存された閲覧履歴などの利用者情報が広告会社等の第三者に送信される状況が生じており、利用者が安心して電気通信役務を利用できず、電気通信サービスに対する信頼が損なわれていると問題視されていた。

(2) 改正の概要

改正法では、(ア)大規模な電気通信事業者に対して、特定利用者情報の適正な取扱いを義務付けるとともに、(イ)電気通信事業者等が利用者情報を第三者に送信させようとする場合、利用者に確認の機会を付与することとしている。

(ア) 大規模事業者に対する特定利用者情報の適正な取扱いの義務付け

総務大臣は、総務省令で定めるところにより、内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して、「利用者の利益に及ぼす影響が大きいもの」として総務省令で定める電気通信役務を提供する電気通信事業者を、「特定利用者情報」を適正に取り扱うべき事業   者として指定することができる(改正法 27 条の 5)。「利用者の利益に及ぼす影響が大きいもの」の基準としては、利用者数が1,000 万人以上(国内の総人口の約 1 割程度)である場合などが想定されている。

指定された電気通信事業者には、①「情報取扱規程」の策定と総務大臣への届出(27 条の 6)、②「情報取扱方針」の策定と公表(27 条の 8)、③特定利用者情報の取扱状況に係る評価(毎事業年度の実施)(27 条の 9)、④特定利用者情報統括管理者の選任と総務大臣への届出(27 条の 10)が義務付けられる。また、総務大臣は、特定利用者情報の適正な取扱いを確保するために必要があると認めるときは、指定した電気通信事業者に対し、情報取扱規程の変更を命ずることができるとともに、情報取扱規程   を遵守していない電気通信事業者に対し、その遵守を命ずることができるほか(27 条の  7)、上記義務や命令への違反等に対する罰則も設けられている(186 条、188 条)。

また、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業」(第三号事業)についても、総務大臣が総務省令で定めるところにより指定する者により提供される「検索情報電気通信役務」(検索サービス)と「媒介相当電気通信役務」(SNS)が新たに電気通信事業法の適用対象とされた(164 条 1 項 3 号括弧書き)。

(イ) 利用者情報に係る利用者への確認の機会の付与

電気通信事業者等が閲覧履歴等の利用者情報を第三者に送信させようとする場合、通知又は公表、同意の取得又はオプトアウト措置のいずれかの方法により、利用者に確認の機会を付与する必要がある(27  条の  12)。具体的には、電気通信事業者又は第三号事業を営む者のうち「内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないもの」として総務省令で定める電気通信役務を提供する者に対し、利用者情報を外部送信する指令を与える電気通信を送信する場合には、  事前に外部送信されることとなる利用者情報の内容、当該情報の送信先等について利用者へ通知又は公表することを義務付け    ている。但し、①利用者が電気通信役務を利用する際に送信することが必要となる情報、②電気通信役務を提供する電気通信事   業者等の設備を送信先とする情報、③外部送信されることについて利用者が同意している情報、④オプトアウト措置(利用者の求めに応じて利用者情報の送信等を停止する措置)を提供・公表しているが、利用者がその適用を求めていない情報については、通知又は公表の対象から除外している。電気通信事業者等がこの規定に違反した場合には、総務大臣による業務改善命令の対  象となり得る(29 条 2 項)。

3. 卸協議の適正性の確保に係る制度整備について

(1) 背景

電気通信事業者が電気通信役務の提供に当たって他の電気通信事業者の設備を利用する場合には、主に「接続」と「卸電気 通信役務」(以下「卸役務」という。)による利用形態が存在するが、従来は料金等の提供条件について厳格なルールが適用される

「接続」と、原則非規制の「卸役務」の形態が並立することにより、提供条件等の適正性確保と柔軟な設備利用のバランスが図られてきた。しかし、近年、卸役務の形態による提供が拡大しており、卸料金の適正性が課題となっている。そこで、接続による代替が実質的に困難なおそれがある卸役務における卸料金の適正性の検証が進められるとともに、本来は事業者間協議が有効に 機能することで料金その他の提供条件の適正化が自律的に進むことが望ましいことから、電気通信市場を巡る動向に応じた公正 な競争環境の整備が図られることとなった。

(2) 改正の概要

現行の卸協議を巡る交渉環境を改め、相対協議を基本としつつも、卸元事業者の交渉上の優位性及び情報の非対称性を是正   し、より協議が実質的・活発に行われるための環境整備を図ることとされた。具体的には、(ア)特定卸電気通信役務の提供義務、    (イ)特定卸電気通信役務に係る情報提示義務、及び(ウ)各義務に係る担保措置としての命令が追加された。

(ア) 特定卸電気通信役務の提供義務

特定卸電気通信役務(第一種指定電気通信設備又は第二種指定電気通信設備を用いる卸電気通信役務のうち、電気通信事業者間の適正な競争関係に及ぼす影響が少ないものとして総務省令で定めるもの以外のものをいう。)を提供する電気通信事業   者(以下「卸元事業者」といい、卸元事業者から特定卸電気通信役務の提供を受ける事業者を「卸先事業者」という。)は、正当な理由がなければ、その特定卸電気通信役務の提供を拒んではならない(改正法 38 条の 2 第 2 項)。また、特定卸電気通信役務の提供に関する契約締結を申し入れたにもかかわらず、卸元事業者が協議に応じず又は協議が調わなかった場合、総務大臣 は、卸先事業者の申立てにより、協議開始及び再開命令を出すことができる(39 条・35 条 1 項準用)。

(イ) 特定卸電気通信役務に係る情報提示義務

卸元事業者は、特定卸電気通信役務の提供に関する契約の締結の申入れを受けた場合において、当該申入れをした電気通 信事業者(卸先事業者候補)から、金額の算定方法その他特定卸電気通信役務の提供に関する契約の締結に関する協議の円滑  化に資する事項として総務省令で定める事項を提示するよう求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない    (改正法 38 条の 2 第 3 項)。当該義務に違反したときは、総務大臣による業務改善命令の対象となり得る(同 4 項)。

4. IP 網への移行等を踏まえた接続制度の在り方

(1) 背景

音声通信における接続形態について、2021 年 1 月以降順次、PSTN(Public Switched Telephone:公衆交換電話網)から IP 網への移行を開始し、2025 年 1 月までに移行を完了させる予定であり、移行後は POI(Point of Interface:他事業者との接続点)が今までの都道府県単位ではなく、原則、東京、大阪の 2 か所となる。他方で、インターネット接続サービス等のIP 通信の役務の提供のために ISP 事業者等が NGN に接続する方式としては、現状、PPPoE(Point-to-Point Protocol over Ethernet)接続とIPoE(Internet Protocol over Ethernet)接続が並存している。PPPoE 接続の場合は、接続が都道府県ごとであり、かつ接続するISP 事業者は、その都道府県ごとにサービス提供が可能であるが、現在増加傾向にある IPoE 接続の場合は、全国向けのサービス提供が前提となっている。かかる背景を踏まえ、第一種指定電気通信設備制度の適用範囲について見直しがなされた。

(2) 改正の概要

(ア) 第一種指定電気通信設備制度を適用する事業者の範囲

制度を適用する事業者の範囲については、従来、都道府県を単位として、加入者回線総数の 50%を超える規模の加入者回線を有する事業者を算出していたが、IP 網への移行等に伴いネットワーク構成及び接続の実態が都道府県単位ではなくなってきていること等を踏まえて見直しがなされた(改正法 33 条 1 項参照)。具体的には総務省令に委ねられているが、各事業者での業務区域(例えば東日本・西日本)での算定とすることが想定されている。

(イ) 第一種指定電気通信設備制度の適用対象となる設備の範囲

制度の適用対象となる設備についても、従来、都道府県単位で加入者回線と一体として設置されている設備を対象としていたが、IP 網への移行等によりネットワーク構成が都道府県単位ではなくなり、接続点についても東京、大阪の 2 か所に移行していくことが想定される現状を踏まえ、都道府県単位の限定を撤廃することとされた(改正法 33 条 1 項参照)。

5. 今後に向けて

デジタル化の急速な進展に伴い、電気通信事業を取り巻く環境はめまぐるしく変化し、情報インフラ及び電気通信サービスの円滑かつ安定的な提供が極めて重要となっている。今般の改正により地域格差が是正され、「デジタル田園都市国家構想」の実現に近づくとともに、利用者に対する十分な情報提供により安心して利用できる体制が整備されることが期待される。改正の具体的な内容は総務省令に委ねられているところも多いことから、今後制定される総務省令等の内容を引き続き注視しておく必要があ る。

Ⅱ 個人情報保護・データ保護規制 各国法アップデート

1. 中国

  • 2022 年 6 月 24 日、「ネットワーク安全標準実践ガイドライン - 個人情報越境取扱活動安全認証規範」が公布、施行された。当該規範は、個人情報保護法 38  条により、個人情報の越境移転を行うために必要とされる方法の一つである専門機関による個人情報保護認証制度について定めたものである。

当該認証制度は、①多国籍企業又は同一の経済、事業エンティティに属する子会社若しくは関連会社間の個人情報越境取   扱活動、又は②個人情報保護法 3 条 2 項に定める個人情報取扱活動(即ち、中国国外において、中国国内の自然人に製品若しくはサービスを提供するため、又は中国国内の自然人の行為を分析し若しくは評価するために中国国内の自然人の個人情報を取り扱う活動)に適用される。

上記①の場合には中国国内の会社が、上記②の場合には外国会社が中国国内で設立した専門機構又は指定した代表が認証の申請を行うことができる。

また、個人情報取扱者と中国国外の個人情報受領者は、当該認証制度の認証を受けるだけではなく、法的拘束力や執行  力を有する書面を締結し、両者ともに遵守すべき個人情報越境取扱規則を制定する必要がある。

  • 2022 年 6 月 30 日、「個人情報越境標準契約規定(意見募集稿)」が公表され、2022 年 7 月 29 日まで意見募集が行われた。同規定(案)は、個人情報保護法 38 条により、個人情報の越境移転を行うために必要とされる方法の一つである国家ネットワーク情報部門の制定した標準契約の内容及び標準契約の締結その他の手続の実施によって越境移転を行うことが  できる個人情報取扱者について定めるものである。

2. 香港

  • 2022 年 6 月 13 日、PCPD(香港の個人情報保護委員会)は、「個人データプライバシーの保護 - 不動産管理業界のためのガイダンス」を更新した。同ガイダンスは、居住者や訪問者の個人データの収集、訪問者の ID  カード番号の記録、訪問者の記録、居住者の苦情の取扱い、監視カメラに関する通知、個人データの適切な保存、スマートテクノロジーの利用といった項目に関するガイダンスを提供している。

3. 欧州

  • 2022 年 6 月 30 日、欧州データ保護評議会(EDPB)は、個人データの越境移転の手段としての認証に関するガイドラインを公表し、3   ヶ月のパブリックコンサルテーションに付した。同ガイドラインは、既に公表され確定している認証に関するガイドラインを、認証を越境移転の根拠として用いる観点から補充する位置付けのものであり、認証を行う際の基準に含まれるべき   項目などについて解説がなされている。
  • 2022 年 7 月 18 日、英国一般データ保護規則(UK GDPR)を含む英国のデータ保護法を改正する法案が、英国議会に提出された。法案は、全体としては現行のデータ保護法により生じている事業者及び消費者の負担を軽減することを志向した  内容となっており、主たる改正点として、データ主体の権利行使への対応を拒絶することができる基準の具体化、代理人選任義務の削除、データ保護責任者(Data protection officer)の選任義務の削除と上級責任者(Senior responsible individual)の選任義務の新設、データ処理記録簿に記録することが義務付けられる内容の変更、Cookie 規制における同 意取得義務の例外の拡張、越境移転規制の柔軟化等が提案されている。
  • 2022 年 7 月 12 日、欧州データ保護評議会は、ロシア連邦への個人データの移転に関する意見を公表した。同意見では、ロシア連邦に個人データを移転する場合には、欧州司法裁判所によるSchrems Ⅱ事件判決に従い、越境移転のための保護措置の有効性に影響し得る法制度や実務による影響を評価し、評価の結果必要と判断される場合には補完的措置を講じ   る必要がある旨が指摘されている。加えて、ロシア連邦に対する個人データの移転の適法性について調査を行っているデータ保護当局も存在している旨も述べられている。かかる意見が公表されたことを踏まえると、ロシア連邦へ  GDPR  の適用対象となる個人データの移転を行おうとする場合には、慎重に適法性を評価する必要があると考えられる。

4. 米国

  • 2022 年 5 月 29 日、メリーランド州の個人情報保護法(Personal Information Protection Act。なお、同法は 2008 年に制定されたデータ侵害通知法の一つである。)を改正する法律が成立した。現行法では、データ侵害時の影響を受けた個人への通知の期限は、調査完了後 45 日以内とされていたところ、改正により、侵害を発見してから 45 日以内となる等、各種通知の期間が短縮される。なお、州司法長官への通知の期限は変更されていないが、個人への通知に先立って行われる必要が  ある。また、州司法長官への通知内容に関して、改正法は、少なくとも、州内に居住している影響を受けた個人の数、侵害の内容、侵害に関して事業者が講じた又は講じる予定の措置、及び、個人への通知のフォームとそのサンプルが含まれなければならないと定める。改正法は 2022 年 10 月 1 日に施行される。
  • 2022 年 7 月 8 日、カリフォルニア州の CPPA(California Privacy Protection Agenecy Board)は、CCPA/CPRA の規則の制定手続を開始した旨通知し、規則案の一部を公表した上で、8 月 23 日までの間パブリックコメントの募集を行った。また、同州の CPPA のボードは、米国の連邦レベルでの個人情報保護法である American Data Privacy and Protection Act (ADPPA)の法案 1に関し、CCPA/CPRA よりも保護レベルが低い部分のある ADPPA が州法に優先することについて懸念を示しているようである。

5. インドネシア

  • インドネシアでは現在、個人データ保護に関する法令(PDP 法案)の制定に向けた検討が進められているところ、国会は2022 年 7 月 6 日、国会での PDP 法案に関する議論が 2022 年 8 月には完了する見込みであることを公表した。PDP 法案の内容のうち、独立監督当局の設置などの多くの点についてインドネシア政府と合意に至っているとのことである。もっとも、インドネシアでは政府が公表した見込みが実現しないことは珍しくないため、PDP  法案がいつ頃法律として制定されるのかについては未だ不透明である。
  • 2022 年 7 月 13 日、インドネシア通信情報省は、行政制裁に関する大臣令案を公表し、2022 年 7 月 26 日までパブリックコメントが募集されていた。当該大臣令案は、データ保護に関する遵守要件等の電子システム事業者の義務を定めているほか、これらの義務違反に対して通信情報省が罰金や事業の一時停止等の行政制裁を課すことができる旨を定めている。