商標審判委員会:第1956795号図形商標に関する取消審判審決書

審判請求人(取消請求人):上海仟果企業管理有限公司

被審判請求人(被取消請求人):騰訊科技(深圳)有限公司

請求人は、第1956795号図形商標(以下「審判商標」という)取消事件について商標局の商標撤三字[2016]第Y010622号决定を不服として、2017年01月20日に当委員会に審判を請求した。当委員会は、法に基づき受理した後、『商標審判規則』第6条の規定に従って、合議体を組織して法に基づき審理を行い、ここに審理を終結した。

概略

被請求人の提出した証拠によっては、完全な証拠の連鎖を形成して、審判商標が審判請求のされた役務について所定の期間内に真実かつ有効な商業的使用をされたことを証明することができないので、審判商標は、審判請求がされた役務について商標登録を取り消されるべきものである。

改正前の『中華人民共和国商標法』第44条第4号、『中華人民共和国商標法』第54条、第55条の規定に従って、当委員会は、次の通り審決をする。

審判商標は、審判請求がされた広告、事業の管理に関する助言、事業に関する指導及び助言、事業に関する情報の提供、販売促進のための企画及び実行の代理、経理事務の代行の役務について商標登録を取り消されるべきものとする。

騰訊科技(深圳)有限公司が商標登録を受けた第1956795号のペンギンの図形商標は、最近、「3年間継続して使用されていない」ことで商標審判委員会により取消審決が下された。騰訊公司のこのペンギンの図形は、非常に高い知名度を有していたので、それが3年間継続して使用を停止されていたことで商標登録を取り消された事件は、幅広い注目を受けた。

以下、商標登録を取り消された区分である第35類と、取消審決書において触れられている権利者の提出した使用の証拠との2点から評釈をすることで、何をもって商標の真実かつ有効な商業的使用とするかと、どのようにすればできる限り広い商標の保護を受けながら3年間不使用により商標登録を取り消されるリスクをできる限り回避できるかについて、読者がさらに一層理解する上での一助としたい。

事件の典型性:使用は、登録商標がその効力を維持する上での中核的要素であり、著名商標とて例外ではあり得ない。

商標登録が取り消された原因の検討

騰訊公司の役務の内容、性質、特徴についての一般消費者の認識をもって、商品‐役務分類における第35類の役務の特徴と、権利者の提出した使用の証拠に対する商標審判委員会の審査意見とを勘案すると、ペンギンの図形が第35類の役務について不使用により商標登録を取り消されたことの合理性が見えてくる。

騰訊公司の役務は、第35類に含まれる役務と関連性を有するが、当該区分の役務に求められる属性及び特徴を完全に備えているとはいえない。

『類似商品‐役務区分表』においては、第35類の役務の全体が広告、事業の管理、事業の運営、事務処理と説明されていて、具体的に次の通り注釈がされている。

第35類には、主として、人又は組織が提供するサービスであって:

商業に従事する企業の運営若しくは管理に関する援助、又は

商業若しくは工業に従事する企業の事業、若しくは、商業機能の管理に関する援助

を主たる目的とするもの及び広告事業所であって、すべての種類の商品又はサービスに関するあらゆる伝達手段を用いた公衆への伝達又は発表を主に請け負うものが提供するサービスを含む。

この類には、特に、次のサービスを含む:

他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く)、顧客がこれらの商品を見、かつ、購入するために便宜を図ること。当該サービスは、小売店、卸売店、自動販売機、カタログによる注文又はウェブサイト若しくはテレビのショッピング番組などの電子メディアによって提供される場合がある;

通信又は登録に係る文書の記載、転記、作成、編集、整理及び数学的又は統計的な資料の編集を行うサービス;

広告代理店が行うサービス並びに案内書の直接の又は郵送による配付及び商品見本の配付のようなサービス。この類は、他のサービスに関連する広告、例えば、銀行貸付に関する広告又はラジオによる広告について適用する。

周知のように、騰訊公司の主な製品は、微信、Q���などのような主に公衆に提供される通信コミュニケーションのプラットフォームである。インターネット経済が高度に発達した市場背景では、公衆が事業の管理又は運営の職務を果たす上で、これらのプラットフォームが重要な役割を果たしているので、騰訊公司の役務の内容が第35類の役務と関連性を有することは否定できない。しかし、これらの役務は、事業の管理又は運営の職務を果たすための手段又は方法の一つであるにすぎないので、騰訊公司が他人の事業の管理又は運営に直接参画して実質的な事業に関する助言を提供していたとみなすには不十分なものである。従って、これらの役務が、第35類の役務として有しているべき属性及び特徴を完全に有していたか否かは、議論の余地があるだろう。

また、指定役務の内容の選択に不備があると、権利者が使用の証拠を提出するのに困難をもたらす。

取り消された登録商標は、第1956795号のペンギンの図形商標であるが、当該商標の具体的な指定役務の内容は次の通りである。

1.広告、2.事業の管理に関する助言、3.事業に関する指導及び助言、4.事業に関する情報の提供、5.販売促進のための企画及び実行の代理、6.職業のあっせん、7.コンピュータによるファイルの管理、8.コンピュータデータベースへの情報構築、9.コンピュータへの記録、10.経理事務の代行。

取り消された登録商標の指定役務の内容には、第35類の殆どすべての類似群が含まれているので、当該区分においてできる限り広い保護を受けることを望んでいた出願人の意図を見てとることは難しくない。

しかしながら、これらの具体的な役務項目のうち、経理事務の代行、事業の管理に関する助言、事業に関する指導及び助言などは、公衆が普通イメージする騰訊公司の役務と明らかに相違するものであるので、これらの具体的な役務項目には、選定された時から既に、権利者が使用の証拠を収集して提供する上である程度の困難や障害があったのではないかといえる。

その一方で、第35類の標準的な役務には、取り消された登録商標の指定役務以外にも、同様の保護範囲となって権利者の役務により近いその他の役務があったにもかかわらず、権利者は、それを指定することをしていない。例えば、ウェブサイト経由による事業に関する情報の提供、広告タイムの貸与、電気通信への加入契約の取次ぎなどであるが、権利者が出願に係る役務項目をもっと慎重に選択していれば、少なくとも一部の役務は取消しを免れて残すことができた可能性も考えられる。

証拠の形式的内容の不十分さ

上述した権利者の核心的な役務内容が第35類の役務としての条件に適合しなかったとしても、権利者がすべての指定役務の項目について商標登録を取り消されたという結果は、やはり意外というべきであろう。権利者は、少なくとも「広告、事業に関する情報の提供、販売促進のための企画及び実行の代理」などの役務項目については、商標登録を維持することができた筈である。商標登録を取り消された商標が指定役務について「全部取消し」とされた原因には、権利者の提出した証拠に問題があったことが推測される。

商標審判委員会の取消審決から、権利者の提出した使用の証拠には、主に次のような問題があったのではないかと推測される。すなわち、

審判商標が現れていないこと、

証拠が自分で一方的に作成したものであること、

証拠の形式において随意性が高く、傍証に欠け、証明力が弱いこと、である。

登録商標の不使用取消しにおける使用の証拠については、取消請求のされた登録商標が証拠に現れていることが求められる。取り消された登録商標は、ペンギンの図形で、この子ペンギンはよく知られているが、我々がチャットをするQQソフトで毎日のように現れる以外には、殆ど顔を出すことはないのではないかと思われる。況してや、幅広い訳でもない事業の管理又は運営の役務に権利者が使用するものについては、言うまでもない。また、商慣習から言っても、宣伝広告資料以外、通常の事業活動においては、多くの場合、契約書、伝票、領収書に文字によって商標が記載されているものであり、商標の図形が直接付されているケースは非常に少ない。

このため、権利者が使用の証拠を収集し用意する上で感じたであろう困難と無念は察するに余りあるが、自分で一方的に作成した証拠が多すぎ、契約書、領収書などの傍証も欠き、証拠の形式も随意のもので関連性に乏しいのは、やはり遺憾と言わざるを得ない。これらの不備は、役務商標の使用の証拠を提出する上でよくある問題であるが、使用の証拠の収集と組立てをもう少し周到にすることができれば、恐らくは、一部の役務についての商標登録は維持されることができたのではないかと思われる。

ペンギンの図形商標が商標登録を取り消されたことで発生し得る権利者の不利益

著名商標と認定されることも難しくなって、ペンギンの図形商標はこのまま商標登録を取り消されてしまうのであろうか? 実は、権利者はさほど心配するには及ばない。

まず、商標審判委員会から下された取消審決は、最終的な決定ではなく、商標権者には、知的財産法院に行政訴訟を提起する法的な権利がある。

次に、取消審決が効力を生じたとしても、権利者は、依然としてペンギンの図形商標を使用し続けることができる。商標法の規定によれば、中国の商標登録には任意登録の原則が採用されているので、商標登録が義務付けられる個別な商品以外には、第35類を含むその他の商品及び役務について未登録の商標でも同じように使用することができる。

注目されるのは、ペンギンの図形商標が第35類の役務について商標登録を取り消された後、この図形は、なお商標法の保護を受けることができるのかという点である。解答は、然りである。

商標審判委員会の取消審決で説示されているように、テンセントペンギンの図形商標は、早くも2006年には、広く関係公衆に知られている程度に達していると人民法院に認定されており、商標局も2009年には、第38類のメッセージの送信のための通信、コンピュータ端末による通信、電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供についてのQQの当該商標が広く関係公衆に知られている程度に達していると認定しているので、テンセントペンギンの商標は、少なくとも第38類の役務については著名商標となる程度に達しているといえる。

幅広い公衆の日常生活と密接に関連する役務の著名商標として、テンセントペンギンの図形商標は、同じように公衆の生活と密接に関係する第35類の事業の管理又は運営などの役務にまで保護を拡張する十分な必要性と合理性があると考えられるので、騰訊公司は、第35類の商標専用権を喪失したとしても、なお商標法第13条の関係規定に基づいて、他人による同一又は類似の商標の登録及び使用を禁止することができる。

それとともに、権利者は、当該登録商標を取り消された後も、第35類でペンギンの図形又は当該図形を含む商標標章について改めて商標登録出願をするなどの他の救済手段を有している。

総評

第35類は、商標の区分のうち非常に重要な区分の一つである。事業の管理をする殆どすべての企業は、運営をしていく上でいずれも当該区分中の役務と直接的にであれ間接的にであれ関わりを生じることになる。騰訊公司は、中国でも最先端のインターネット付加価値サービスプロバイダで、その営む業務は、第35類の役務と疑いなく関連性を有するものである。また、現時点では権利者から所定の要件を具備する使用の証拠が提出されていないとしても、このことをもって、当該商標が実際に使用されていない、或いは実際に使用する意図を持っていないと認めるには不十分であるといえる。

登録商標の不使用取消制度の目的は、遊休商標を整理して、商標の使用を権利者に促すことにあるのであって、商標権者に対する懲罰的措置にあるのでなく、況して、他人が市場競争において利用することのできる手段とするためにあるのでは決してない。登録商標の不使用取消しの審査がされるにあたっては、事実を重視して、証拠に依拠するという前提で、既に形成された市場秩序、商標秩序も十分に尊重され考慮されなければならないであろう。

テンセントペンギンの図形商標が第35類で商標登録を取り消されたのであれば、商標の所有者は、改めて商標登録出願をするか、又は著名商標として保護を受けるなどの手段で引き続きその権利を守ることができるが、権利行使のコストも必然的に増大し、効力も弱いものとなる。このことによって、他人が同じ市場で類似の商標を使用して消費者の混同を惹起する可能性も考えられるが、かかる状況の発生は、商標法の立法趣旨と不使用取消制度の設けられた目的に明らかにもとるものと思われる。