米国最高裁判所は2018年6月22日、米国外で使われた特許発明から生じる逸失利益の賠償を認める判決を言い渡した。. 事件で最高裁は、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判決を覆し、争点となった法令であるU.S.C. §§ 271(f)(2) 項及び284項について、特許権者には、侵害被疑者の顧客による米国特許発明の海外での使用で生じた逸失利益を賠償する権利が該条文で認められていると判断。事件をCAFCへ差戻した。賛成7名、反対2名で、Thomas判事が判決文を書いた。反対意見はGorsuch判事が書き、Breyer判事がそれに加わった。
事件の背景
事件特許を所有するWesternGecoは、特許でカバーされたシステムを製造していたが、システム自体の販売はしていなかった。その代りに、そのシステムを用いたサービスを海外企業に販売していた。侵害被疑者のIon Geophysicalは、米国内でその特許システムの構成部品を製造し、組み立て用としてその構成部品を海外顧客に販売していた。Ionの顧客らは、その構成部品から組み立てたシステムを用いてWesternGecoに競合するサービスを展開していた。
WesternGecoは、このIonの行為は35 U.S.C. §§ 271(f)(1) 及び (f)(2)に基づく侵害にあたるとして連邦地方裁判所に提訴した。同条文が規定するのは、海外で組み立てた米国特許発明の部品の供給若しくは米国外への輸出についてである。地裁はIonによる特許侵害を認定し、特許損害賠償を規定する35 U.S.C. § 284に基づき(Ionの顧客が米国外で実施したサービス契約に対する)$9,300万ドルの逸失利益、及び(逸失利益裁定のサービスで使用されなかった侵害被疑部品に対する)$1,250万ドルの合理的ロイヤルティを裁定した。これに対しIonは、地裁が認めた逸失利益による損害賠償の判断は誤りであるとし、CAFCに控訴。CAFCは地裁判決を覆し、海外で使用された特許発明に対する逸失利益の賠償は認められない、との判断を下した。
最高裁判決
最高裁は、連邦法の適用管轄は米国内のみであるとする推定は、WesternGecoへの逸失利益裁定を禁じていない、と判断した。だが一方で、「この争点には特許法以外の法令も絡み合っている」ため、284条のような違法行為への一般的損害賠償救済を規定する法令に対する、域外適用否定の推測論(presumption against extraterritoriality)の広義な適用性に関して判断することを明確に拒否した。 WesternGeco, slip op. at 5. 最高裁が今判決に用いたのは、問題となる条文の焦点を特定し、当該焦点に関する行為が米国内で生じたものかを検討する域外適用分析の2ステップ目だった。 Id. 284条の焦点は侵害であり、§ 271(f)(2)の焦点は、米国内若しくは米国から特許発明部品を供給ないし輸出するという米国内での行為に対してである。 Id. at 7. つまり、WesternGecoへの逸失利益裁定は、284条を国内で適用した許容すべき事案である、と結論付けた。Ionの侵害後の海外での行動(構成部品が海外で使用されたこと)は、その侵害に 「付随した偶発的行為に過ぎず」、「域外適用分析を行う上での ‘最重要点’」にはならないとし、Ionの議論を却下した。Id. at 8.
反対意見を示したGorsuch判事は、WesternGecoの逸失利益請求は、決して域外適用否定の推測論に違反するものではないが、特許法が海外で発生した特許発明の使用で生じた逸失利益の損害賠償請求を認めるものではない、と異議を唱えた。 Id., slip op. at 2 (Gorsuch, J., 反対意見) 米国特許がカバーする合法的独占権の範囲はあくまでも米国内で製造、使用及び販売された発明に対してのみであり、海外での使用は侵害とはならないため、損害賠償裁定の根拠とするのは適切ではない、と反論。 Id. at 2-3. また、§ 271(f)(2)は米国で発明を製造する行為をより広義に定めているが、「米国特許の保護範囲は海外に及ぶとの提言はどこにもない」、と主張した。 Id. at 6. さらに、「発明完成品の輸出で271(a)条違反を犯すよりも、発明品の構成部品の輸出で§ 271(f)(2)違反を犯すほうがより多くの逸失利益の賠償が認められる」というのも「異様な結果」である、と主張。Id. at 7. そして、最高裁判決に対しては「他国が自国の特許法及び裁判所に基づく主張をして米国経済を動かそうとする状況を招きかねない」とし、「国際礼譲の原理は、他国の自国の経済を統制する権利を劇的に干渉するような特許法の解釈をしないよう勧めている」と懸念を露わにした。 Id. at 2 and 8.
反対意見について、最高裁判決では「法的侵害と法的侵害に起因する損害賠償とを混同している」、と特徴付けた。§ 271(f)(2)に基づく侵害が立証できれば、海外で逸失した利益の回復は認定でき、特許権者は侵害を被らなかったときと同等の状況にあって然るべきである、としている。最高裁は一方で、「ある特定の案件で、近因等その他の理論が損害賠償を制限若しくは排除する可能性」について意見することを明確に否定している。 Id. at 9, n.3.
結論
本件は差戻審でさらなる審理が行われることになる。Ionにより侵害されたと認められたWesternGeco特許4件のうち3件が特許性なしと特許審判部(PTAB)が決定し、CAFCはそれを支持している。従って、損害賠償の裁定は、PTABの決定に影響されることが予想される。Ionは損害賠償裁定につき、さらなる議論を提示してくる可能性がある。
本判決は、§ 271(f)(2)に規定する侵害で、§ 284に基づく海外で発生した逸失利益に対する損害賠償裁定の指針を打ち出したが、特定の事件での本判決の適用範囲、近因を含む損害賠償論が損害賠償額をどの程度制限するのか、また、Gorsuch判事が懸念する国際礼譲の問題が発生するのか、等、尚も多くの問題を残している。