東京地方裁判所民事第46部(柴田義明裁判長)は、令和元年(2019年)6月18日、特許料の追納期間経過後の追納が認められるための「正当な理由」(特許法112条の2第1項)の意味について、法改正の経緯などを考慮し、要旨、一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情により、追納期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなかった場合をいう旨の見解を示し、結論として、「正当な理由」がなかったとした特許庁の判断を支持しました。

追納期間経過後の追納が認められるための実体的要件は、かつて「特許権者の責に帰することができない理由により」という厳格なものであったところ、国際調和の観点から、平成23年改正法により、現在の「正当な理由」に緩和された経緯があります。改正後の規定の解釈及びそのあてはめを示したものとして、実務の参考になると思われます。

ポイント

骨子

  • 特許法112条の2第1項にいう「正当な理由」があるときとは,原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情により,同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特許料等を納付することができなかった場合をいうと解するのが相当である。

判決概要

東京地方裁判所民事第46部
令和元年6月18日
平成30年(行ウ)第424号 異議申立棄却決定取消請求事件
特許第4637825号 「ダクトのライニング」
裁判長裁判官 柴 田 義 明 裁判官 安 岡 美香子 裁判官 佐 藤 雅 浩

解説

特許料(年金)とは

特許権の設定を受け、維持するためには、特許料(年金)を納付しなければなりません(特許法107条1項)。本稿執筆時点における特許料の年額は、以下のとおりです。

毎年2,100円に1請求項につき200円を加えた額
毎年6,400百円に1請求項につき500円を加えた額
毎年19,300円に1請求項につき1,500円を加えた額
毎年55,400円に1請求項につき4,300円を加えた額

原則と���て、第1年から第3年までの特許料は、特許査定の送達から30日以内にまとめて納付し、第4年以降は、前年以前に納付することとされています(特許法108条)。

特許料は、第三者でも支払うことができ、また、本来特許料を納付すべき者に対して一定の範囲で償還を求めることができます(特許法110条)。

特許料の追納

特許料を納付期間内に納付しない場合、直ちに特許権が消滅するわけではなく、6か月以内であれば、追納が認められます(特許法112条1項)。ただし、この場合には、特許料と同額の割増特許料を納付しなければなりません(同条2項)。

(特許料の追納)

第百十二条 特許権者は、第百八条第二項に規定する期間又は第百九条若しくは第百九条の二の規定による納付の猶予後の期間内に特許料を納付することができないときは、その期間が経過した後であつても、その期間の経過後六月以内にその特許料を追納することができる。

前項の規定により特許料を追納する特許権者は、第百七条第一項の規定により納付すべき特許料のほか、その特許料と同額の割増特許料を納付しなければならない。

仮に追納期間にも特許料を追納しなかった場合、以下の各規定に従い、特許権は遡及的に消滅したものとみなされます。

(特許料の追納)

第百十二条 (略) 特許権者が第一項の規定により特許料を追納することができる期間内に、第百八条第二項本文に規定する期間内に納付すべきであつた特許料及び第二項の割増特許料を納付しないときは、その特許権は、同条第二項本文に規定する期間の経過の時にさかのぼつて消滅したものとみなす。

特許権者が第一項の規定により特許料を追納することができる期間内に第百八条第二項ただし書に規定する特許料及び第二項の割増特許料を納付しないときは、その特許権は、当該延長登録がないとした場合における特許権の存続期間の満了の日の属する年の経過の時にさかのぼつて消滅したものとみなす。

特許権者が第一項の規定により特許料を追納することができる期間内に第百九条又は第百九条の二の規定により納付が猶予された特許料及び第二項の割増特許料を納付しないときは、その特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす。

特許権消滅後の特許料追納と特許権の回復

特許料追納期間を経過したことによって特許権が消滅したとみなされるに至った場合においても、特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて「正当な理由」があるときは、以下の特許法112条の2第1項に基づき、一定期間に限り、特許料及び割増特許料の追納が認められます。

(特許料の追納による特許権の回復)

第百十二条の二 前条第四項若しくは第五項の規定により消滅したものとみなされた特許権又は同条第六項の規定により初めから存在しなかつたものとみなされた特許権の原特許権者は、同条第一項の規定により特許料を追納することができる期間内に同条第四項から第六項までに規定する特許料及び割増特許料を納付することができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、その特許料及び割増特許料を追納することができる。

平成23年改正と「正当な理由」

かつての特許法は、追納期間経過後の特許料の追納について、「特許権者の責に帰することができない理由により」との厳格な要件を定めており、これを充足するのは、天変地異のような場合や、万全の注意をもってしてもなお避けられないような場合に限られると解されていました。

裁判例としても、特許料の納付を受託していた特許事務所が特許料納付のリマインダを誤発送したために特許料が納付されなかった場合に追納が許されるかが争われた事案で、上記要件の充足を否定したものがあります(東京地判平成16年9月30日平成16年(行ウ)第118号)。

他方、特許法条約(PLT)12条(相当な注意を払ったこと又は故意でないことが官庁により認定された場合の権利の回復)は、以下のとおり定め、特許権の回復について、「状況により必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず当該期間を遵守することができなかった」といった、より緩やかな条件を規定しています。

締約国は、自国の官庁に対する手続上の行為のための期間を出願人又は権利者が遵守しなかった場合において、当該期間を遵守しなかったことがその直接の結果として出願又は特許に係る権利の喪失を引き起こしたときは、次のことを条件として、当該官庁が当該出願又は特許に係る当該出願人又は権利者の権利を回復する旨を定める。

(i) その旨の申請が規則に定める要件に従って当該官庁にされること。

(ii) 規則に定める期間内に、(i)に規定する申請が提出され、かつ、当該自国の官庁に対する手続上の行為のための期間が適用された全ての要件が満たされること。

(iii) (i)に規定する申請において当該期間を遵守しなかった理由を明示すること。

(iv) 状況により必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず当該期間を遵守することができなかったものであること又は、当該締約国の選択により、その遅滞が故意でなかったことを、当該官庁が認めること。

そこで、平成23年改正特許法は、国際調和の観点から従来の規定を改め、「正当な理由」という緩和された要件を定めるとともに、追納が認められる期間も延長しました。

回復特許権

特許法112条の2第1項によって特許料及び割増特許料の追納が認められた場合には、同条2項により、特許権が遡及的に回復します。

(特許料の追納による特許権の回復)

第百十二条の二 (略)

前項の規定による特許料及び割増特許料の追納があつたときは、その特許権は、第百八条第二項本文に規定する期間の経過の時若しくは存続期間の満了の日の属する年の経過の時にさかのぼつて存続していたもの又は初めから存在していたものとみなす。

ただし、上記規定で回復した特許権の効力は、特許料の追納期間経過後回復前の行為には及ばないものとされています(特許法112条の3)。

特許料追納の却下と不服申立て手続

特許庁が、特許料追納期間経過後の追納について、特許法112条の2第1項の「正当な理由」を欠くと判断したときは、追納にかかる手続を却下します。この却下処分に対する不服申立てにつき、特許法は固有の手続きを規定していないため、行政法の通則によることになり、具体的には、行政不服審査法(行審法)に基づく「審査請求」(行審法2条)と、行政事件訴訟法(行訴法)に基づく「処分の取消しの訴え」(行訴法3条2項)のいずれかを用いることになります。

これらの手続は、いずれも行政庁の処分に対する不服申立手続きである点で共通しますが、審査請求は、行政庁による比較的簡易な手続で救済を受けることを目的とするものであるのに対し、処分の取消の訴え(処分取消訴訟)は、裁判所という中立的機関による救済を受けるためのものである点で異なります。

なお、特許審判や、特許異議申立の制度は、行審法に基づく審査請求の特則に相当するものといえ、また、審判の審理対象については訴訟に先立ち審判が前置される点や審決取消訴訟の第一審の管轄裁判所が東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)とされている点などにおいて、行訴法に対する特則という面もあるといえます。

行政不服審査法の改正と不服申立て類型の一本化

行審法に基づく行政処分に対する不服申立手続きとしては、かつて、行政庁の処分に対する不服申立として、処分をした行政庁に対して申し立てる「異議申立て」と、処分をした行政庁の上級庁に申し立てる「審査請求」の2種類が存在していました。

しかし、両者が併存していると、申立手続きの過誤が生じやすく、また、その過誤に起因して申立期間を経過してしまうといった問題があったことから、平成26年の行審法大改正に際し、審査請求に一本化されました。現在では、申立先が処分庁であるか上級庁であるかを問わず、審査請求の申立てを行うことができます。

審査請求に対する決定と不服申立て

行審法上の審査請求の決定に対しては、行訴法に基づき、裁判所に不服申立てをすることができます。これは、「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」と定める憲法76条2項第2文を背景にした制度で、原則としてすべての行政処分が司法審査の対象となるという「概括主義」の考え方に立脚しています。

この場合の具体的な訴訟の類型として、審査請求の決定は行訴法3条3項の「裁決」に該当するため、同条項の「裁決の取消の訴え」(裁決取消訴訟)によることとなります。

他の手続期間徒過救済制度

なお、平成23年の特許法112条の2第1項の改正以降、特許法における手続期間徒過の救済制度の整備が進められました。具体的には、平成26年改正特許法においては、出願審査の請求が手続期間徒過の救済手続の対象に追加されたほか、優先権の主張を伴うことができる特許出願をすべき期間を徒過した場合についても、「正当な理由」を要件とする優先権の回復が認められることになりました。また、平成27年改正特許法は、国際特許出願の特許管理人の選任等も救済の対象に追加しました。

同種の救済手続は、特許法のほか、実用新案法、意匠法、商標法においても整備されており、特許庁は、令和元年6月21日、これら産業財産権四法の救済手続の運用について、「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン」を公表しました。同ガイドラインは、その目的について以下のとおり述べています。

このガイドラインは、救済規定に関し、救済要件の内容、救済に係る判断の指針及び救済規定の適用を受けるために必要な手続を例示することにより、救済が認められるか否かについて出願人等の予見可能性を確保することを目的としています。

事案の概要

本件の原告らは、特許第4637825号「ダクトのライニング」の特許の特許権者であり、特許料の納付手続は、特許事務所に委託していました。ところが、同特許の第4年の特許料納付に際し、特許事務所に対する特許料納付の指示が不明確であったことに起因して特許料が納付されず、追納期間も経過したため、特許権が消滅したものとみなされるに至りました。

特許権が失効したことに気づいた原告らは、特許法112条の2第1項に基づき、特許料及び割増特許料の追納をしようとしましたが、特許庁は、これを却下しました。原告は、この却下処分に対し、平成26年改正前の行審法に基づき異議申立てをしましたが、特許庁は、これに対しても棄却の決定をしました。

そこで、原告らは、特許庁における却下処分及び棄却決定の取消しを求めて東京地方裁判所に訴えを提起しました。原告らの主張の趣旨としては、原告らは世界的なランキングに掲載される有力な特許事務所を選任して特許料の納付を委託し、特許料納付が確実に行われるよう体制を整備していたのであるから、原告らには「正当な理由」がある、というものでした(他にもう1つ争点がありますが、本項では省略します。)。

手続的には、却下処分の取消訴訟は処分取消訴訟に、棄却決定の取消訴訟は裁決取消訴訟にそれぞれ該当し、両者は、行訴法19条1項に基づき併合審理されました。

判旨

判決は、以下のとおり述べて、「正当な理由」の具体的意味について、「原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情により、同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特許料等を納付することができなかった場合」をいうとの考え方を示しました。

特許法112条の2第1項は,同法112条4項の規定により消滅したものとみなされた特許権の原特許権者は,同条1項の規定により特許料を追納することができる期間内に特許料等を納付することができなかったことについての「正当な理由」があるときは,経済産業省令で定める期間内に限り,その特許料等を追納することができると規定する。

この規定は,平成23年法律第63号による改正前の特許法112条の2第1項では,期間徒過後に特許料等を追納できる場合について原特許権者の「責めに帰することができない理由」により追納期間内に特許料等を納付できなかった場合と規定していたところ,国際調和の観点から,より柔軟な救済を可能とすることを目的として,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件につき,特許法条約の規定を踏まえて「Due Care(相当な注意)」の概念を採用したものであると解される。

これらを踏まえると,特許法112条の2第1項��いう「正当な理由」があるときとは,原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情により,同法112条1項の規定により追納することができる期間内に特許料等を納付することができなかった場合をいうと解するのが相当である。

この考え方のもと、判決は、以下のとおり、本件の具体的な事実のもとでは「正当な理由」は認められないとの判断をしました。

原告らは,本件特許事務所から平成25年11月に本件特許権について第4年分の年金のリマインダの送付を受け,電子メールに添付した本件注文書によって,本件特許事務所に対して本件特許権の第4年分の年金納付の指示をしたと主張する。

しかし,上記電子メールや本件注文書には特許番号が記載されておらず,また,特許番号に代替し得る本件特許権を特定するための情報は全く記載されていなかった。特許番号を記載しなかった理由は,原告らの年金納付担当者の気力がなかったというものであった。かえって,本件特許権の第4年分の年金の納付期間の終期が平成25年12月3日であったにもかかわらず,電子メール及び本件注文書には,年金納付を指示する特許権の年金が第17年分のものであり,その納付期間の終期が同月16日であることをうかがわせる記載のみがあった。本件特許事務所は原告らの特許権について多数の特許出願及び更新手続を管理しており,その特許権の中には年金の納付期間の終期が前同日のものが含まれていた。

更に,本件特許権について年金納付の指示をしたのであれば,本件特許事務所からそれに対応してその指示の受領の通知と本件特許権についての請求書等が送付されるところ,そのような通知や請求書の送付はなく,原告らがそれに気付くことはなかった。

これらによれば,本件注文書に「2013年11月15日付けの最終連絡に基づく」旨が記載されていて,原告ら主張のとおり同最終連絡に仮に本件特許権の年金納付の要否を尋ねる旨の記載があったとしても,原告らは,年金納付をする特許権を容易に特定することができ,また,本件特許事務所が管理する原告らの特許権には年金納付をする必要がある別の特許権があるにもかかわらず,本件注文書やその電子メールをもって,本件特許事務所に対し年金納付の対象の特許権が本件特許権であることを明確に認識できる形でその納付を指示したとは到底いい難い。そして,原告らは,年金納付の指示をすれば当然あるはずの請求書の送付等がないことを看過していた。原告らについて,本件において,一般に求められる相当な注意を尽くしても避けることができないと認められる客観的な事情があるとは認められない。

さらに、判決は、以下のように述べ、特許料納付の委託に有力な特許事務所を選任していたことで「正当な理由」がある、との原告らの主張も排斥しました。

前記のとおり,本件特許権の年金の納付についての原告らの指示が明確であったとはいい難く,また,その後,原告らは,当然あるはずの請求書の送付等がないことを看過していたのであって,本件特許事務所を選任したことによって「正当な理由」があるとはいえない。

結論として、判決は、原告の請求を棄却しました。

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本判決は、平成23年改正特許法112条の2第1項の「正当な理由」について解釈を示し、実際のあてはめをしたものであり、実務上参考になるものと思われます。