中国経済の迅速な発展に伴い、中国の特許出願件数および特許保有数 が大幅に増加し、権利行使の意識も高まっていることを背景に、特許侵害訴 訟数も年々増えている。また、近年では、巨額の損害賠償を認めた特許侵 害判例もいくつかあり、法的手段を通じて特許紛争の解決を図る企業や個 人はますます多くなっている。特許侵害訴訟が提起された場合、公知技術の 抗弁及び特許の無効審判請求は、特許権者に対抗する手段として、被告に 多く利用されている。 特許の無効審判及び侵害訴訟において、刊行物公知のみでは証明責任を達成できない場合も 少なくない。特に、中国の実用新案出願は実体審査がないため、出願人が、公然実施された公知 技術であることを知りながら、実用新案出願して登録を受けた場合があり、当事者は時には、その 技術が公然実施により公知技術になったことを証明せざるを得ない。 一方、公然実施の判断は、特許無効審判及び侵害訴訟における難題である。刊行物公知に比 べて、公然実施の証拠収集は困難である。公然実施の年月はほとんど、証拠収集時よりだいぶ前 であり、無効審判請求及び侵害訴訟の発生時までは何年間も経ったので、時間の経過に伴って、 関連する証拠がなくなった場合は多い。その結果、当事者双方とも証拠収集及び立証が影響さ れ、十分な証拠を提示することはなかなか困難である。また、公然実施の証拠は通常、資料が繁 雑で、要証事実が相互に交差し、その信ぴょう性、公知性及び証拠群の完全性は判断し難い。さら に、実施行為の多様性及び複雑性の関係で、各種の実施行為の法的属性は容易に判定できず、 その公知性の判断も難しい。したがって、出願前の公然実施をどのように証明すべきか、その証明 基準をどのように把握するかは重要な課題となっている。 I.特許法上の公然実施 公然実施とは、実施により発明が公然知られているか、又は公然知り得る状態となったことを意 味する。中国において、中国特許法の第三回法改正(2009年10月1日から実施)以前は、公然実 施は国内主義を採用していたが、上記法改正後に出願されたものについては、公然実施も世界主 義となっている。