【令和4年2月21日(東京地裁 令和2年(ワ)19889号)】

【事案の概要】

 本件は、原告が、かつて原告の従業員であり、原告を退職した後に被告会社に入社した被告A及び同Bは、原告の取引先に対して原告と被告会社がグループ会社であるとの虚偽の事実を告げるなどし、被告A及び同Bのこの行為は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争、不法行為又は雇用契約上の債務不履行に該当するものであり、原告はこれにより損害を被ったと主張して、被告A及び同Bに対しては不競法4条、民法709条又は平成29年法律第44号による改正前の民法415条に基づき、被告会社に対しては民法715条1項に基づき、連帯して、1616万4000円及びこれに対する平成31年2月1日から支払済みまで上記法律による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

  被告らは、原告に対し、連帯して、1616万4000円及びこれに対する平成31年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

(中略)

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

  証拠(甲5、10の1、2、甲11の1ないし41、甲13、14の1、乙1の1ないし9、乙2の1ないし7、乙3の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

  (1) 原告は、平成29年9月1日、リーディング・ウィンとの間で、リーディング・ウィンが原告に対して別途締結する個別契約において定める業務を委託する旨の業務委託基本契約を締結した(甲13)。

  原告は、上記基本契約及び個別契約に基づき、少なくとも平成30年12月1日から同月31日までの間、リーディング・ウィンに対し、システム開発の業務に従事する技術者を派遣した(甲14の1)。

  (2) 原告は、平成29年12月22日、エフネットとの間で、エフネットが原告に対して別途締結する個別契約において定める業務を委託する旨の業務委託基本契約を締結した(甲10の1)。

  原告は、上記基本契約及び個別契約に基づき、平成30年2月1日から平成31年2月15日までの間、エフネットに対し、プルデンシャル生命株式会社向けのシステム開発等の業務に従事する技術者を派遣した(甲11の1ないし31)。

  (3) 原告は、平成30年4月1日、フューチャーナビゲータとの間で、フューチャーナビゲータが原告に対して別途締結する個別契約において定める業務を委託する旨の業務委託基本契約を締結した(甲10の2)。

  原告は、上記基本契約及び個別契約に基づき、同日から平成31年1月31日までの間、フューチャーナビゲータに対し、システム開発の業務に従事する技術者を派遣した(甲11の32ないし41)。

  (4) 原告は、被告会社の委託を受けて、平成30年12月1日から令和元年5月31日までの間、被告会社に対し、システム開発の業務に従事する技術者を派遣した。被告会社は、原告に対し、これに係る業務委託料を支払った。(乙1の1ないし9、乙2の1ないし7、乙3の1ないし7)

  (5) フューチャーナビゲータの担当者は、平成30年12月17日、被告Bに対し、平成31年1月から着任する4名について、Dの代わりのCが原告に所属することでよいか、その他の3名が「GSD様のグループ会社のメンバー」でよいか、「GSD様のグループ会社」と基本契約を締結したいので、会社名、担当者名及び連絡先を教えてほしい旨記載したメールを送信した。被告Bは、同日、上記担当者に対し、Cが原告に所属し、その他の3名の「所属はグループ会社(株式会社ソフトユージング)です。」と記載し、さらに、担当者は被告A及び同Bであり、被告Aの連絡先として、「以下省略」等と記載した本件メールを送信した。(甲5、11の40、弁論の全趣旨)

 2 争点1(不競法2条1項21号の不正競争又は不法行為の成否)について

  (1) 原告は、被告Bが、フューチャーナビゲータに対し、原告と被告会社がグループ会社である旨の本件メールを送信して虚偽の事実を伝え、被告A及び同Bが、原告のフューチャーナビゲータに対する契約上の地位を奪った行為は、不競法2条1項21号の不正競争又は不法行為に該当すると主張する。

  この点について、証拠(甲9、乙5、7、9)によれば、平成30年9月以降、原告と被告会社との間で、グループ化についての話合いが行われたことが認められる。また、前記1(4)のとおり、原告は、被告会社の委託を受けて、同年12月以降、被告会社に対し、システム開発の業務に従事する技術者を派遣して、被告会社はその業務委託料を支払っているから、その当時、両社は良好な関係にあったということができる。以上に照らせば、前記1(5)のとおり、本件メールの「グループ会社(株式会社ソフトユージング)」との記載が虚偽であるとまでは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

  また、本件メールの上記記載は、単に原告と被告会社がグループ会社であることを指摘するものにすぎないから、原告の営業上の信用を害するとも認められない。

  さらに、前記1(3)及び(5)のとおり、被告Bは、原告において勤務していた平成30年12月17日、フューチャーナビゲータに対し、被告会社の担当者は被告A及び同Bであり、被告Aの連絡先として、被告会社の商号をドメインに含むメールアドレスを記載した本件メールを送信し、原告は、平成31年2月以降、フューチャーナビゲータに対し、システム開発の業務に従事する技術者を派遣していないという経緯が認められるものの、これらをもって、被告A及び同Bが原告のフューチャーナビゲータに対する契約上の地位を奪ったとまでは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

  したがって、原告の上記主張は採用することができない。

  (2) 原告は、被告A及び同Bが、エフネット及びリーディング・ウィンに対しても、原告と被告会社がグループ会社であるとの虚偽の事実を伝え、原告の契約上の地位を奪った行為は、不競法2条1項21号の不正競争又は不法行為に該当すると主張する。

  しかし、そもそも、被告A及び同Bが、エフネット及びリーディング・ウィンに対し、原告と被告会社がグループ会社であると伝えたことを認めるに足りる証拠はない。仮にこれを伝えた事実が認められたとしても、前記(1)と同様、原告と被告会社がグループ会社であるという内容が虚偽であることを認めるに足りる証拠はなく、この内容が原告の営業上の信用を害するとは認められない上、被告A及び同Bが原告のエフネット及びリーディング・ウィンに対する契約上の地位を奪ったことを認めるに足りる証拠もない。

  したがって、原告の上記主張は採用することができない。

  (3) 以上によれば、原告の被告A及び同Bに対する不競法4条及び不法行為に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。

 3 争点2(債務不履行の成否)について

  (1) 原告は、被告A及び同Bが、フューチャーナビゲータ、エフネット及びリーディング・ウィンに対して虚偽の事実を告知し、原告のこれら3社に対する契約上の地位を奪った行為は、原告との雇用契約において定める「在職中又は退職後を問わず、就業中知り得た甲のお客様の情報又は甲のお客様リストを利用して、これを第三者又は自ら営業活動を行わない」という条項に違反すると主張する。

  しかし、被告A及び同Bが、フューチャーナビゲータ、エフネット及びリーディング・ウィンに対して虚偽の事実を告知し、原告のこれら3社に対する契約上の地位を奪ったと認められないことは、前記2(1)及び(2)のとおりである。

  したがって、原告の上記主張は理由がない。

  (2) 原告は、フューチャーナビゲータ等に対して虚偽の事実を告知し、原告の契約上の地位を奪った被告A及び同Bの行為は、原告との雇用契約に付随する信義則上の義務に違反すると主張する。

  しかし、前記(1)と同じく、被告A及び同Bが、フューチャーナビゲータ等に対して虚偽の事実を告知し、原告の契約上の地位を奪ったと認められないことは、前記2(1)及び(2)のとおりである。

  したがって、原告の上記主張は採用することができない。

  (3) 原告は、被告Aが、日立ソリューションズから獲得した技術者1名分の派遣枠について、原告に直接受注させることなく、被告会社を介して原告に受注させたことは、原告との雇用契約に付随する信義則上の義務に違反すると主張する。

  しかし、証拠(乙1の2、8、乙2の2、4ないし6、乙3の2、4ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、被告Aは、日立ソリューションズから技術者1名分の派遣枠を獲得したこと、日立ソリューションズは、被告会社に対し、同派遣枠に係る業務を委託したこと、原告は、被告会社に対し、平成31年1月1日から同年4月30日までの間、同派遣枠に係る業務に従事する技術者派遣をし、被告会社から業務委託料を受領したことが認められる。そうすると、原告は、自らの意思に基づき、被告会社から上記派遣枠に係る業務を受注したものであるから、被告Aが被告会社に同派遣枠に係る業務を受注させたとしても、これが原告の意に反していたということはできず、雇用契約に付随する信義則上の義務に違反するとは認められない。

  したがって、原告の上記主張は採用することができない。

  (4) 以上によれば、原告の被告A及び同Bに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。

第4 結論

  よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

【解説】

 本件は、原告が、原告の元従業員で原告を退職後に被告会社に入社した被告A及びBが、原告の取引先に対して原告と被告会社がグループ会社であるとの虚偽の事実を告げるメール(本件メール)を送信するなどしたことが、不競法2条1項21号の不正競争に該当するなどとして、被告A、B及び被告会社に損害賠償を求める事案である。

 裁判所は、平成30年9月以降、原告と被告会社との間で、グループ化についての話し合いが行われたことがあり、また原告は被告会社の委託を受けて、同年12月以降、被告会社に対し、技術者を派遣して、被告会社はその業務委託料を支払っているから、本件メールが送信された同年12月、両社は良好な関係にあったのであり、本件メールの記載が虚偽であるとまでは認められないこと、及び、本件メールの記載は、単に原告と被告会社がグループ会社であることを指摘するものにすぎないから、原告の営業上の信用を害すると認められない、と判断した。不競法2条1項21号の「虚偽の事実」とは、客観的真実に反する事実のことであり、「営業上の信用」とは、被害者の営業に関する社会の客観的な評価のことであるところ、原告と被告会社がグループ化の話し合いをしていたならば、グループ会社との記載は、客観的事実に反するとまではいえず、また、実際には原告と被告会社がグループ会社でなかったとしても、その記載によって原告の営業に関する社会の客観的な評価を害するとは考えにくいため、裁判所の判断は妥当であると考える。

 不競法2条1項21号の「虚偽の事実」には、主観的見解・批評や抽象論のような価値判断は含まれないとされている[1]が、純粋な価値判断に基づく意見表明なのか、虚偽の事実の表明とみるのか、微妙な場合も見られる。本件の場合は、虚偽の事実とまではいえないことや、営業上の信用を害するとまでいえないことの判断は比較的わかりやすい事例と考えられるが、信用棄損行為の判断についての具体的事例として紹介させていただいた