【東京高判平成16年9月30日平16(行ケ)66号】

【要旨】 進歩性の判断における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提として行われるものであり,相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,また,一致点の認定をどの程度の抽象度において行うかは,審決において共通部分を考慮して,適宜なし得ることである。

【キーワード】 引用発明の認定,上位概念化

事案の概要

1.事案の概要 本件では,本願発明(特表特開平5-347068号)と引用例(特開平3-273564号公報)に基づき認定した引用発明を上位概念化して一致点を認定した点が争点となった。

2.本願発明の内容 本願発明の内容は,以下のとおりである。 【請求項9】 情報記録媒体である光ディスクにレーザ光を照射してデータの再生を行う光学的情報再生装置において,光ディスクを回転させる回転手段と,データエラーが生じたことを検知する検知手段とを備え,初期設定では前記回転手段により最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生を行い,データの再生を行っている途中で前記検知手段によりデータエラーを検知する度に前記回転手段により回転数を低下させてデータの再生を行い,前記検知手段によりデータエラーを検知しないときは,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行うことを特徴とする光学的情報記録再生装置。 本願発明は,ディスクの性能に応じて決定される回転数より速い回転数で駆動されることによってトラックはずれが発生したとき,そのディスクの性能の範囲内で可能な限り速い回転数によるデータの記録・再生が行えるようにする発明である。

3.審決の内容 審決は,本願発明と引用発明の一致点及び相違点を下記のとおり認定した。

<一致点>

情報記録媒体である光ディスクにレーザ光を照射してデータの再生を行う光学的情報再生装置において,光ディスクを回転させる回転手段と,データエラーが生じたことを検知する検知手段とを備え,初期設定では前記回転手段により最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生を行い,データの再生を行っている途中で前記検知手段によりデータエラーの発生により,前記回転手段により回転数を低下させてデータの再生を行い,回転数を低下させる以外は,そのままの回転数で前記光ディスクを回転させてデータの再生を行うことを特徴とする光学的情報記録再生装置。

<相違点>

データエラーの発生により光ディスクを回転させる回転手段の回転数を低下させる場合が,本願発明では,「データエラーを検知する度」であるのに対して,刊行物1の発明では,「誤り訂正を行った回数が所定値より多く,セットされている光磁気ディスクが低速回転モードで記録されたものであるとき」であり,そのままの回転数で光ディスクを回転させてデータの再生を行う場合が,本願発明では,「検知手段によりデータエラーを検知しないとき」であるのに対して,刊行物1の発明では,「誤り訂正を行った回数が所定値より少ないとき」である点。

争点

刊行物1の発明の「初期状態」は,本願発明の「初期設定」に相当すると認定することは許されるか。

判旨

原告は,審決の「刊行物1の発明の「初期状態」は,・・・本願発明の「初期設定」に相当」するとの認定は誤りであるとし,その根拠として,本願発明の「初期設定」は,3段階以上の回転数を設定できるうちの最も大きい回転数を設定するというものであり,刊行物1の発明の「初期状態」とは,異なるものであると主張し,同様の理由で,審決の「刊行物1の発明の初期状態の「高速モード」は,「低速モード」より高速で光磁気ディスクを再生するから,本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」に相当する。」(審決書5頁5段)との認定は誤りである,と主張する。 確かに,本願発明の「初期設定では・・・最大回転数で前記光ディスクを回転させながらデータの再生を行い,データの再生を行っている途中で・・・データエラーを検知する度に・・・回転数を低下させてデータの再生を行い」(請求項9)との構成において,「データエラーを検知する度」が複数回であることを前提とした構成であるとすると,「初期設定」における「最大回転数」とは,3段階以上の回転数における最も大きい回転数を意味することになる。これに対し,刊行物1の発明は,誤り訂正を行った回数が多い場合には,高速回転モードから低速回転モードに下げるとの構成であり(甲5号証),同発明における高速回転モードは,初期状態のものであり,最大の回転数のものであるものの,2段階の回転モードを前提とするものである。 しかし,刊行物1の発明における「初期状態」とは,文字どおり,最初の状態のことであり,同発明においては,高速回転モードで記録されたディスクの場合に加え,低速回転モードで記録されたディスクの場合でも,高速回転モードで再生を行うように設定されているのであるから(甲5号証),前記「初期状態」の高速回転モードは,ディスクの種類に関わらず,ディスクが最初に回転するモードであって,その意味で本願発明の「初期設定」に相当する,と解することも可能である。また,刊行物1の発明は,「高速回転モード」と「低速回転モード」とを有し,二つのモードのうち「高速回転モード」は,光磁気ディスク装置が設定し得る最大の回転数で回転されるモードであって,二つのモードの中で,最も大きい速度という意味で,刊行物1の発明における「高速回転モード」が本願発明の「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」ことに相当する,と解することも可能である。このように考えれば,審決の一致点の認定に誤りはない。そして,審決は,本願発明の「データエラーを検知する度に」の構成については,これを相違点として認定し,この相違点については,「刊行物2,3に記載されているように,エラーの生じる度毎に,段階的に光磁気ディスクの回転手段をさげていくことにより,できる限り光磁気ディスクの高速回転を維持し,・・・ように構成することは,当業者が容易に推考できたことと認められる。」(審決書6頁3段)と判断しているところである。

進歩性の判断における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提として行われるものであり,相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,また,一致点の認定をどの程度の抽象度において行うかは,審決において共通部分を考慮して,適宜なし得ることである。

本件における一致点の認定についても,どの程度の抽象度によって行うかは審決が適宜行うことができるのであり,審決の上記一致点の認定に誤りはないのである。すなわち,本願発明の「データエラーを検知する度に」との構成を踏まえて「初期設定」及び「最大回転数」との構成を解釈すれば,原告が主張するような一致点の認定の誤りを指摘することが可能となるものの,本件の審決のように一致点を認定した上で,「データエラーを検知する度に」との構成を相違点として認定し,この相違点に係る構成の容易想到性について判断すれば,3段階以上の回転数に係る構成の容易想到性についても,上記構成と裏腹のものとして,同時に判断することになるのである。したがって,審決が,刊行物1の発明の「高速回転モード」が,本願発明における「初期設定」に相当し,また,「最大回転数で光ディスクを回転させながらデータの再生を行う」にも相当すると認定した上で,本願発明の「データエラーを検知する度に」の構成については,これを相違点として認定し,相違点についての判断の中で,これについての判断を示したものである以上,審決には,相違点の看過はなく,一致点認定の誤りもないということができるのである。

検討

以上の判決の内容によれば,本願発明と引用発明の一致点の認定において,本願発明と引用発明の技術的意義の差異を看過して,一致点を認定することは許されないが,本願発明と引用発明の両者を包含する上位概念を一致点と認定すること自体が許されないわけではない。 例えば,上位概念であるAの下位概念がa1,a2であり,本願発明がX+a1,引用発明がX+a2である場合に,一致点・相違点の認定において,①両者の一致点をX+Aを備える点と認定し,相違点をAが本願発明はa1であるのに対し引用発明はa2であると認定すること,②両者の一致点をXを備える点と認定し,相違点をAが本願発明は更にa1を備えるのに対し引用発明は更にa2を備える点と認定することのいずれの認定をすることも可能である。 一方,①の場合に,a1,a2を相違点と認定しなかった場合は,相違点の判断を誤ったことになることから,本願発明と引用発明に対し上位概念化がされて一致点が認定された場合,本願発明及び引用発明の技術的意義の差異を看過して上位概念化がされていないかどうか慎重に検討する必要がある。 本判決では,本願発明の「初期設定」と引用発明1の「初期状態」を一致点として認定したとしても,本願発明の「データエラーを検知する度に」の構成を相違点として認定していることから,引用発明の認定に誤りはないと判断された。