【東京地裁平成30年1月22日判決(平成27年(ワ)第25780号,反訴平成29年(ワ)第13193号)】

【判旨】

被告から地盤改良装置の製作を受託した原告らが,当該装置に係る特許出願を行った被告に対し,本件各発明はいずれも原告らによる共同発明であるとして,本件各発明について原告らが特許を受ける権利の共有持分を2分の1ずつ有していること及び被告会社が特許を受ける権利を有しないことの各確認を求めるとともに,被告会社が原告Aを発明者として記載しないまま本件特許出願をしたことは発明者名誉権侵害の不法行為を構成するとして,被告会社に対し,損害賠償を求めた(本訴)ところ,被告会社が,原告Bに対し,自らが本件各発明の発明者ではない旨の宣誓を求めた(反訴)事案。裁判所は,本件各発明の発明者を被告会社の従業員ら及び原告らの5名であると認定したほか,被告会社による原告Aの人格的利益の侵害を認めるなどして,本訴請求を一部認容し,反訴請求を棄却した。

【キーワード】

発明者,特許を受ける権利,特許法第38条

1 事案の概要及び争点

原告らは,地盤改良装置等の建設機械の開発・製造等を業とする個人事業主であり,被告は,コンクリートブロック及びセメント製品の製造・開発等を業とする株式会社である。 原告Aは,平成25年9月12日,被告に対し,被告から製作依頼を受けていた地盤改良装置の掘削ヘッド部分であって,地表面に対して垂直方向の回転軸を有し地表面と略平行となるように設けられた水平掘削翼と,水平掘削翼の回転軸と直角の回転軸を有し地表面と略垂直となるように設けられた2つの横掘削翼とからなり,これにより地盤を上方から見て正方形状に掘削することができることを特徴とする掘削ヘッド(以下「本件角堀掘削ヘッド」という。)を納品した。 被告は,平成26年1月29日,本件角堀掘削ヘッドを備えた地盤改良装置について特許出願(本件特許出願)をした。本件特許出願の願書の発明者欄には,本件各発明の発明者として,被告の従業員であるD,E,F及び原告Bの氏名が記載されていたが,原告Aの名前は記載されていなかった(原告Aは原告Bの父親である。)。

※本件の地盤改良装置(本件明細書より抜粋)

【特許請求の範囲】 【請求項1】 地盤を撹拌しセメントミルクを混合し硬化させて基礎杭を構成するためのものであって, 先端部に該セメントミルクを噴射するノズル,進行方向に掘削するための先端掘削翼,及び該先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼を,該先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたことを特徴とする地盤改良装置。

【図面】

被告は,地盤改良装置の製作を原告らに依頼する際,原告らに対し,掘削面を上面視四角形状にする目的で,地表面に対して垂直方向の回転軸の先端に地表面と略平行の掘削翼を取り付けた構成に加え,同回転軸と直角の回転軸を有し,その先端に地表面と略垂直となるように2枚の回転掘削翼を設ける構成としてはどうか,ギアとして車のデファレンシャルギアなどを用いれば,直角な回転軸も備えることができるのではないかなどと話し,参考資料の提供を行うなどしていたことから,本件各発明を着想し,具体化したのは被告従業員であり,原告らは本件角堀掘削ヘッドの発明者に該当しないと主張した。 これに対し,原告らは,被告がそのような具体的着想を提供したことの客観的証拠はなく,本件各発明の発明特定事項は全て原告らが着想し,具体化したものであるから,本件各発明は(被告従業員を含まない)原告らの共同発明であると主張した。

2 裁判所の判断

まず,裁判所は,特許法上の「発明者」の意義について,ウォーキングビーム事件最高裁判決における「発明の完成」に係る判示を引用しつつ,発明の特徴部分につき当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要すると判示した。

※判決文より抜粋(以下同じ)

ア 発明者の意義について 「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうから(特許法2条1項),「発明者」というためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に関与することを要する。 そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度まで具体的,客観的なものとして構成されていなければならず(最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照),また,特許法が保護すべき発明の実質的価値は,従来の技術では達成し得なかった技術的課題を解決する手段を,具体的構成をもって社会に開示した点に求められる。これらのことからして,「発明者」というためには,特許請求の範囲の記載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的,客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者であることを要するというべきである。

次に,裁判所は,本件各発明のうち本件発明1(請求項1)の特徴部分について,先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けるなどして,簡単に矩形状に杭を構築できるようにした点にあると認定した(下記参照)。

本件発明1は,「地盤を攪拌しセメントミルクを混合し硬化させて基礎杭を構成するためのものであって,先端部に該セメントミルクを噴射するノズル,進行方向に掘削するための先端掘削翼,及び該先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼を,該先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたことを特徴とする地盤改良装置。」との特許請求の範囲により画される発明である。 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0006】ないし同【0009】の記載によれば,本件発明1は,従来技術が有する課題(地盤を攪拌し,セメントミルクを注入して杭を生成する地盤改良装置において,先端の攪拌翼〔掘削翼〕が回転するタイプであるため,重複して掘削する必要があり,また,部分によりセメントの強度が異なるとの問題)を解決するため,従来技術の構成(進行方向に掘削するための先端掘削翼)に加えて,先端部にセメントミルクを噴射するノズル及び先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けたとの構成を採用することにより,簡単に矩形状に杭を構築できるとの作用効果を生じ,上記課題を解決するものであり,これらの構成が本件発明1の特徴的部分ということができる。

そして,本件で両当事者から提出された証拠等によれば,被告従業員らが原告らに対し,本件角堀掘削ヘッドの製作を依頼するに際し,従来型の先端掘削翼を有する掘削装置に,デファレンシャルギアなどを用いて回転軸と直角の回転軸を持たせこれに2枚の横掘削翼を設ける構成としてはどうかなどと提案し,指示した事実が認められるとして,被告従業員らは本件発明1の特徴的部分に通じる着想を,上記の依頼日に先立ち有していたと認定した(下記参照)。

しかるところ,前記認定事実(⑴エ,なお⑵イも参照。)によれば,被告は,平成22年1月10日,原告らに対して被告が新たに調達するリーダレス型のベースマシンに取り付けるオーガモーターや掘削ヘッドの製作を依頼するに際して,市場に一般に流通していたツインブレード型の地盤改良装置を参考に,現在1号機や2号機で使用されている先端掘削翼を有する掘削装置に,デファレンシャルギアなどを用いて回転軸と直角の回転軸を持たせこれに2枚の横掘削翼を設ける構成としてはどうかなどと提案し,指示していることが認められるから,被告従業員らは,同日に先立ち,水平掘削翼と,これと直角に回転する回転軸に設置された横掘削翼とから構成されるという,本件発明1の特徴的部分に通じる着想を有していたものと認められる。

一方で,裁判所は,被告従業員らが提供した着想は,当業者が具体的,客観的なものとして構成し,反復して実施することが自明とはいえず,当該着想の具体化にあたっては原告らも相応に創作的な貢献を行ったとして,本件発明1の発明者は被告従業員ら及び原告らの5名であると認定した(本件各発明の他の発明についても同様)。

もっとも,被告は,原告らに対し,上記の基本的な構成のアイデアを示し,参考資料としてパワーブレンダー型地盤改良装置とツインブレード型地盤改良装置のパンフレットを交付したにとどまり,これを超えて,簡易な模型や図面等を提供したとの事実は何ら認められないところ,前記認定事実(⑴エ,オ)のとおり,原告らは,これら基本的な着想を基に使用するべきギアを決めるなどして仕様を定め,本件見積書やCAD図を作成して本件角堀掘削ヘッドの構成を具体的に決定し,また製作においては地盤改良装置等の重機の製造等に長年従事してきた原告Aをもっても半年以上の期間を要し,さらに,現実に動作する製品を製作するにはギアの調整等に試行錯誤を要したことなどからしても,被告が平成25年1月10日に原告らにした着想の開示さえあれば,これを具体的,客観的なものとして構成し,反復して実施することが,当事者にとって自明程度のものにすぎないということはできない。そうすると,被告従業員らにより示された本件発明1の特徴的部分の着想を当業者が実施可能な程度に具体化する過程において,原告らが相応に創作的な貢献をしたものと認めるのが相当である。 したがって,本件発明1は,その特徴的部分の着想から具体化に至る過程において,被告従業員ら及び原告らがそれぞれ創作的に貢献したものと認められるから,その発明者は,被告従業員ら及び原告らの5名である。

また,被告が本件各発明の特許出願に際し,原告Aを発明者として記載しなかったことについては,少なくとも過失が認められるとして,当該過失による損害として慰謝料30万円(+弁護士費用3万円)を認定した。

上記1のとおり,原告Aは本件各発明の共同発明者であるところ,前記前提事実(第2,2⑶)のとおり,被告は,本件特許出願に際して,本件各発明の発明者として原告Aの氏名を記載していない。この点に関して,原告Aが,本件特許出願に関し,本件各発明の発明者として自らの氏名を記載しないことを了承したと認めることが困難であることは,前記⑵エのとおりであり,被告には,原告Aの氏名を記載しなかったことにつき,少なくとも過失が認められる。 被告の上記行為は,原告Aが本件各発明について発明者として記載されるべき人格的利益を侵害するものとして不法行為を構成するというべきであり,これにより原告Aが受けた損害を賠償する責任を負う。 そこで,原告Aが受けた損害につき検討すると,原告Aが本件各発明の共同発明者と認定する本判決が確定すれば,原告Aは本件特許出願書類中の発明者の表記を訂正できる可能性があること,本件特許出願が公開されたのは平成27年8月3日であること,原告らは本件特許出願が公開される前に自ら本件角堀掘削ヘッドを基にした発明について特許出願しており,原告らを発明者とする同特許出願は,平成28年5月30日には公開されていることなどなどの事情によれば,発明者として記載されるべき人格的利益を侵害されたことによる原告Aの損害としては,慰謝料30万円,弁護士費用相当額3万円の合計33万円を認めるのが相当である。

その他,本件では,被告から原告Bに対する反訴として,本件各発明について自らが真の発明者でない旨の宣誓を求める訴えが提起され,原告らは当該請求について訴えの利益がないとして却下すべきと主張していたが,裁判所は,当該請求は現在の給付の訴えであるとして訴えの利益は認めつつも,原告Bも本件各発明の発明者であると認められるとして反訴請求は棄却した(詳細については割愛する)。

3 検討

本件では,「発明者」の該当性について,「特許請求の範囲の記載により画される技術的思想たる発明のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分(特徴的部分)につき,これを当業者が実施できる程度にまで具体的,客観的なものとして構成する創作活動に現実的に関与した者」との判断基準が示された。当該判断基準は,「着想を具体化した者が発明者であり,単なる課題の提示や抽象的な着想の提供を行った者は発明者でない。」とする従来の裁判例の傾向に沿うものであり,今後も「発明者」の該当性を判断する上での実務上の指針になると思われる。 一方で,本件のあてはめにおいて,裁判所は,「先端部にセメントミルクを噴射するノズル及び先端掘削翼の回転軸と直角の回転軸を持つ横掘削翼を,先端掘削翼より根本側に中心軸を挟んで向かい合って少なくとも2つ設けた」点が本件発明1の特徴部分であると認定し,さらに「被告従業員らは,同日に先立ち,水平掘削翼と,これと直角に回転する回転軸に設置された横掘削翼とから構成されるという,本件発明1の特徴的部分に通じる着想を有していた」とまで認定しておきながら,被告従業員らだけでなく,原告らも本件各発明の発明者であると認定した。原告らが行った,ギアの選定をはじめとする本件角堀掘削ヘッドの仕様の具体化は,いずれも本件各発明の構成要件に反映されていないものであることからすると,裁判所の上記判断にはやや疑問も残るところである。 上記のとおり,��明者の認定には微妙な判断が要求され,事案の性質によってはこれを正確に予測することは困難である。したがって,実務においては,発明に関する権利の帰属について予想外の判断が下されることを避けるため,予め契約書等において権利の帰属先を明確に定めておくことが望ましい。