最高裁判所は2017年1月4日付の106年(西暦2017年)台上字第55号民事判決において、その営業秘密保護事件における立証責任分配に関する見解を明らかにした。以下、同裁判所が当該事件において釈明をした法的判断基準の概略を述べる。

一、当該事件において、原告∕上告人たる奇景光電株式会社(ハイマックス・テクノロジーズ、HIMX)は、元従業員(すなわち当該事件の被告∕被上告人)の退職後、当該従業員らが退職届けを出してから退職までの期間に、会社の機密ファイルを自身のメールアドレスに送信し、関連する営業秘密の漏洩を引き起こしたことを発見したとして、以前当該元従業員らと署名していた「従業員秘密保持義務と知的財産移転同意書」(以下「同意書」と称する)の関連規定に基づき、違約金及び損害賠償の支払いを請求した。

二、原審は原告∕上告人敗訴の判決を下した。その認定は以下のとおり。

(一)元従業員らは退職前に、係争ファイルをそれらが使用する外部のアカウントに送信したが、これらの従業員は営業秘密の漏洩行為があったことを否認しており、それは自宅で残業するためにしたことであると供述した。これについて、それらの従業員は、本人もしくは第三者の利益のために、又は業務上の必要性に基づいておらず、係争ファイルを外部に送信したことを当該会社が立証すべきであるが、当該会社は関連する立証をしておらず、被上告人は当該ファイルを残業のために使用したものではないことを問いただすだけで、主観に基づく推論に過ぎず、理由があるとは認めがたい。

(二)原審裁判所もまた、ファイルのアクセス時間、情報の返送の有無、添付ファイルの名称変更、暗号化の有無などについては、いずれも残業の性質又は内容、退職時の担当業務に対する完成度及び個人の仕事習慣により、さまざまな可能性があることから、当該従業員らの残業のためにデータを外部送信したという主張は採用できないことはない。また、データはすでに存在しないなどとの当該従業員らの言葉も採用できないことはない、と判断した。

(三)また、当該会社が提出した電子メールの資料、部門間の調査報告書、メール送受信履歴の取り寄せ依頼に関する第三者であるサーバー業者からの応答書などについて、いずれも営業秘密の内容を確認することはできず、さらには実際の経済的価値及び合理的な秘密保持措置の有無を認定することは難しく、なお、当該会社による証人尋問の請求について、たとえ証人が出頭しても営業秘密が何かを知ることはできないため、証人を召喚せず、並びに関連する損害賠償または営業秘密の削除などの請求はいずれも理由なしと判断した。

三、これについて、最高裁判所は原判決を破棄し、並びに営業秘密事件における立証負担の程度に関する法的判断基準を改めて明らかにした。

(一)「知的財産案件審理法」(中国語「智慧財産案件審理法」)第10の1条第1、2項の規定には「営業秘密の侵害事件について、その営業秘密が侵害を受けた、又は侵害を受けるおそれがあると当事者が主張した事実についてすでに疎明した場合、相手方がその主張を否認した時は、裁判所は相手方に対し、期限を定めてその否認の理由について具体的に答弁するよう命じなければならない」、「前項の相手方が正当な理由なく、期限を過ぎても答弁せず、又は答弁が具体的ではない場合、裁判所は事情を斟酌したうえで、当事者が疎明した内容は真実であると判断することができる」とされている。その立法理由は、営業秘密の侵害に係る民事事件では、侵害の事実及びその損害範囲の証拠が一方当事者に偏在しており、証拠収集が困難であるため、相手方に裁判所へ証拠の提出を促すことができない代わりに、営業秘密の損害を受けた、又は侵害を受けるおそれがあるという事実を主張した者に対し、侵害の事実及び損害額の範囲の全てについて立証責任を負うことを要求することは、被害者が有するべき救済を得ることを難しくするものである。故に、主張する側の立証の証明度を軽減する一方で、相手方に主張する側による疎明について具体的な答弁を求める義務を課している。

(二)本件においては、前述した調査報告書の中で、係争ファイル6通がすでに復元され、残りの12通は復元できなかったことは、原審の認定する事実である。そこで、これらの従業員が退職届けを出した後、なぜ尚も外部にメール送信する必要があるのか、また、残業だとしても仕事の結果についての返信が必要であるというのが人情の常ではないか。また、当該会社が提出した調査報告書にはすでに6通が復元され、それが明らかに営業秘密であると指摘しており、そのファイルの復元過程を証明するため証人尋問を請求した。このような状況において、当該会社の主張する被上告人が営業秘密を侵害した事実についてまだ疎明義務を尽くしていないと言えるかどうかは、尚も疑いの余地がある。当該会社がすでに疎明義務を尽くしたと判断したが、従業員らが否認した場合には、その具体的な答弁義務を尽くさせるため、当然そのファイルの復号化(暗号の解除)を行うとともに、並びに残業状況について説明するよう命じなけれなならない。

(三)このほかに、係争ファイルが外部送信された後、これらの従業員がすでに削除したか否かは、積極的事実に属するもので、従業員は立証責任を負うべきである。しかし、原審ではこれらの従業員による立証を経ずに、直ちにこれらの従業員による係争ファイルはすでに存在しないとする抗弁などが採用できるとしたことも、軽率な判断の嫌いがある。

(四)最後に、当事者が申し出た証拠について、不必要と認める場合を除き、裁判所は証拠調べをしなければならないことが、「民事訴訟法」第286条に明文化されている。いわゆる不必要とは、当事者が申し出た証拠が、証明すべき事実(要証事実)と関係ない、又は主張の事実が真実だとしても、裁判所の心証形成の裁判の基礎にも影響するに足りないことを指す。当事者の申出の趣旨に基づいて、ある証拠方法と要証事実に関連性がある場合、結果を得るのは困難で、必要ないとして取調べをしないとの予断をしてはならない。故に当該会社が証人尋問を請求して証人に6通の復元メールの内容を陳述してもらうことは、被上告人が営業秘密を侵害したか否かと関連性があるものである。原審はたとえ証人が出頭しても営業秘密とは何かを確実に知ることはできないため、証人を召喚する必要がないと勝手に判断したことは、権利侵害被疑者の具体的答弁義務を無視するものである。

上述した事件の内容から、営業秘密が侵害を受けた事件において、権利者は証拠収集が困難であることが常であるため、「知的財産案件審理法」第10の1条第1、2項の規定ですでに権利者の立証する証明度を軽減させ、相手方に具体的な答弁義務を課すことで、営業秘密の保護が十分に図られることが分かる。この見解の釈明は、今後の権利者の主張について、大いに引用及び参考に値するものである。