2018年12月10日に、米国クアルコム(Qualcomm)は、中国福州中級人民法院が、Appleによるクアルコムの2つの特許の侵害を認めて、Appleの4つの中国の子会社に対しiPhoneの販売差し止めを命じる2件の予備的差止命令(Preliminary Injunctions)を出したと発表した。差止対象は、iPhone 6S、iPhone 6S Plus、iPhone 7、iPhone 7 Plus、iPhone 8、iPhone 8 Plus及びiPhoneXなど計7機種であり、この7機種の販売数は、iPhoneの中国での販売数の10%~15%を占めている。クアルコムはこれら2つの特許は既に中国国家知識産権局によって有効と認定されており、Appleの前記の全機種のiOSにおける機能がクアルコムの2つの特許技術を侵害していると主張した。

 この2つの非標準必須特許は、ユーザーが写真のサイズや見え方を調整して再フォーマットする機能に関するものと、ユーザーのスマートフォンでアプリケーションを表示、操作する時にタッチスクリーンを使用してアプリケーションを管理する機能に関するものである。

 2018年11月30日に法院が下したこの裁定は、中国では始めてのものであり、この予備的差止命令は、Appleとクアルコムとの間の長期にわたる法的紛争の最新の展開でもある。ここ数年、クアルコムは中国での特許侵害について、Appleを相手に既に十数件もの訴訟を提起してきた。この2件の特許のほかに、クアルコムの特許のその他の類似紛争事件も、中国や世界のその他の管轄区域で審理中である。

クアルコムは自社のウェブサイトで、「クアルコムは常にお客様との関係を重視し、長年にわたり信念を把持してきた。Appleはクアルコムの知的財産権の恩恵を受け続けているにもかかわらず、クアルコムに賠償することを拒否している。中国法院の差止命令はクアルコムの特許ポートフォリオの強さをさらに証明するものである」と主張した。

 中国はAppleの主要市場の一つであり、Appleの2018年の営業収益の20%近くは中国市場からもたらされたものである。Appleは、権利侵害とされている2つの特許は、旧バージョンのiOS 11を搭載したiPhoneのみに使用されており、現在販売されているiPhoneは全てiOS 12を使用しているので、クアルコムの特許を侵害していないとして、この販売差止令の範囲について疑問を呈した。

 Appleは、「Apple製品の販売を差止めるというクアルコムの行動は、世界の監督管理機関によって違法行為が調査されている同社の危険な動きの一つである。iPhoneの全機種は今後も引き続き中国で購入することができる。」との声明を発表した。声明発表のほかに、Appleは翌日(12月11日)、販売差止命令を覆すために、直ちに法院のこの裁定に対して上訴を提起した。

 実際、Appleとクアルコムの紛争には長い歴史がある。かつて両社は密接な協力関係にあり、クアルコムがAppleにチップを提供していた。しかし、Appleはクアルコムが市場の独占位を利用して不当なライセンス料(10億ドル)を請求したとして、スマートフォンのチップのライセンス料の支払いを拒否し、クアルコムを相手に訴訟を提起した。

 クアルコムは、Appleによるライセンス料の支払い拒否を不満として、米国国際貿易委員会(ITC)にiPhoneの輸入差止を求めた。これにより、両社は果てしない法律戦に突入した。2017年9月、クアルコムが、同社の技術を使用したiPhoneの中国での「製造・販売」の全面差止を求めて北京知識産権法院に訴訟を提起しことで、戦火が中国全土に広がった。

 技術的な観点からすると、クアルコムが持っている特許は、3G/ユニバーサル移動通信システム規格(UMTS)と4G/LTE規格を採用する全てのスマートフォンに対し、その技術を使用する「ライセンス料」を徴収することができる。そのため、Apple製品はクアルコムのチップを使用しているか否かにかかわらず、このライセンス料を支払わなければならない。Appleはこのことに対して非常に不満を抱いており、クアルコムが自社のチップ事業を違法な方法で育成していると考えている。

 この事件は中国の法院で起こったものではあるが、「米国企業が米国企業を訴える」事件である。Appleとクアルコムは、両社とも世界のエレクトロニクス業界で中核的な地位にある国際的なテクノロジー大手メーカーであり、今の米中貿易戦争の最中、どんな小さな異変でもサプライチェーン市場全体に影響を与える可能性がある。

 実は、特許ライセンス料に関するクアルコムとAppleの間の紛争について、2017年10月に台湾公平交易委員会も、クアルコムが台湾・韓国のスマートフォンメーカーに不当な特許ライセンス料を請求したとして、234億台湾ドルの罰金に処す裁定を下したことがある。中国では罰金額が60.88億人民元で、韓国では1.03兆ウォンであった。

 事件は雪だるま式に発展し続けてきた。2018年12月14日の台湾鉅亨網の報道によると、12月13日にクアルコムは、Appleに更なる圧力をかけて、和解交渉に持ち込むため、2018年に新機種のiPhone XS、iPhone XS Max及びiPhone XRの販売差���を求めて、中国法院に新たな訴訟を提起した。

 Appleは、中国法院の判決結果に基づくと、Appleのスマートフォンはソフトウェアをアップグレートすれば、販売差止命令を回避できると発表した。しかしながら、クアルコムは、差止命令は製品自体に対するもので、オペレーティングシステムに対するものではないとして、Appleの説明を否定した。それと同時にクアルコムは12月12日に法院にiPhone8の開封と販売の録画証拠を提出し、販売差止命令を受けたスマートフォンを販売し続けるAppleの行為は、中国法院が下した販売差止命令に違反していると主張した。

 12月13日の英国『フィナンシャル・タイムズ』は、クアルコムが同じ特許に関して、Appleの3つの新機種iPhoneについて、北京法院、青島法院、広州法院に訴訟を提起したことで、この一連の訴訟が世界最大のスマートフォン市場(中国)におけるAppleスマートフォンの信用と販売に打撃を与えるだろうと報じた。ただ、英国『フィナンシャル・タイムズ』が入手した法院の裁決のコピーには、iOSの具体的なバージョンについての言及はなかった。

 ドイツのある法院でも、Appleによるクアルコムの5つの特許に対する侵害訴訟を審理中である。これらの特許はiOSのspotlight検索とバッテリー管理機能に関するものである。

 これらの訴訟について、多くの特許代理人が独自の見解を出している。Appleはクアルコムに賠償を払い、スマートフォンの販売差止めは公衆の利益に合致しないと主張して、最終裁決に対して上訴を提起できると考える者もいれば、中国が販売差止命令を発することは、Appleによるクアルコムの知的財産権に対する侵害を確信したことの表れであると考える者もいる。産業界は、Appleが公然と法院の差止命令に違反し続ければ、Appleと中国政府との関係がさらに悪化するとみている。

 Appleはクアルコムとの権利侵害訴訟から脱却するために、チップの独自研究開発に着手し、クアルコムの所在地であるサンディエゴで通信モジュール関連の人材を募集する準備を開始した。さらにはIntelとの協力を放棄して、自社の開発製品をiPhoneに使用して、製品ライン計画の完成度を上げる考えである。実際に、Appleは自社製チップの製造を目指して、2014年から次々とクアルコム及びブロードコムからワイヤレス通信関連のエンジニアを積極的にヘッドハンティングしてきたが、iPhoneに内臓されている通信モジュールのチップの複雑さから、関連人材を採用したとしても長い時間が必要で、少なくとも2021年までは大きな進展はないとみられている。したがって、2020年に発売される最初の5G iPhoneは、Intelの5Gチップを採用する予定である。

 ある研究では、Appleの研究開発が成功すれば、世界的なチップサプライメーカー、特にクアルコムとIntelに影響が出るだろうと指摘している。AppleはIntelのチップに切り換えたが、Intelの部品性能は、クアルコムの部品に及ばず、クアルコムのチップのダウンロード速度はIntelのチップより40%も速く、アップロード速度も20%速いとの研究結果もある。そのため、Appleが独自でチップの開発研究を始めたことは意外なことでもない。

参考資料: https://www.qualcomm.com/news/releases/2018/12/10/qualcomm-granted-preliminary-injunctions-against-apple-china