【知財高判平成31年2月28日(平成30年(行ケ)第10162号)】

【キーワード】

公然実施

事案の概要

本件は、無効審判の不成立審決が取り消された事案である。争点は、公然実施無効(新規性・進歩性)であった。審判では、審判請求人が提出したカタログ、サンプルシートが本件特許出願前に作成され、配布されたとは認めることができないとして、公然実施が認められなかった。それに対して、本判決は、チラシの一つが、原告被告を同じくする別事件(商標権侵害差止等請求事件)において被告から提出されたものであるとして、これをもとに本件特許発明の公然実施が認められた。

本件特許発明

「【請求項1】(本件発明1)

ロープと貝にあけた孔に差し込みできる細長の基材(1)と,その軸方向両端側の夫々に突設された貝止め突起(2)と,夫々の貝止め突起(2)よりも内側に貝止め突起(2)と同方向にハ字状に突設された2本のロープ止め突起(3)を備えた貝係止具(11)が基材(1)の間隔をあけて平行に多数本連結されて樹脂成型された連続貝係止具において,前記多数本の貝係止具(11)がロープ止め突起(3)を同じ向きにして多数本配列され,配列方向に隣接する貝係止具(11)のロープ止め突起(3)の先端が,他方の貝係止具(11)の基材から離れて平行に配列され,隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として,2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにしたことを特徴とする連続貝係止具。」

主な争点

本件特許発明と同一の構成が記載されたチラシが、本件特許出願前に頒布されたものであるかどうか。

裁判所の判断

「第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(新規性判断の誤り)について

(1)ア 前記���2の3(1)の本件審判における原告らの主張によると,原告らは,本件審判において,甲55と同一の内容及び同一の添付物のチラシが複数作成され,頒布されており,甲41の4は,そのうちの一つの写しである旨主張していたのであるから,写しである甲41の4と甲55の原本に当たるものは,同一であることを前提に主張していたものと解される。

 そして,本件審決は,甲41の4につき,原告らが「甲41の4に現れているつりピンロールは公然に頒布された物品に係るもので,本件特許は公然知られた発明である」旨主張していることを挙げた上,「甲第41号証の4又は同号証で示されたつりピンロールが本件特許の遡及日前に頒布されたものと認めることはできない。」と判断している。 したがって,本件審決は,結論としては,前記第2の3(2)のとおり,甲2に記載された発明,甲4に記載された発明又は甲55に記載された発明を引用発明とする新規性違反の有無について判断しているが,甲41の4を引用発明とする新規性判断の誤りについても判断していると認められる。

 イ 証拠(甲41の4・5,甲69)及び弁論の全趣旨によると,被告は,被告外1名を原告,原告ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件において,当該事件の原告訴訟代理人弁護士C及び同Dが平成19年5月22日に東京地方裁判所に証拠として提出した甲41の4及び証拠説明書として提出した甲41の5を,その頃受領していること,甲41の5には,甲41の4の説明として,「被告シンワのチラシ(2006年用)」,「写し」,作成日「2006(平成18)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨記載されていることが認められるところ,甲41の4には,「2006年販売促進キャンペーン」,「キャンペーン期間 ・予約5月末まで ・納品5月20日~9月末」,「有限会社シンワ」,「つりピンロールバラ色 抜落防止対策品」,「サンプル価格」,「早期出荷用グリーンピン 特別感謝価格48000円」などの記載があり,複数の種類の「つりピン」が記載されており,その中には,5本のピンが中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のもの(つりピンロールバラ色と記載された部分の直近下に写し出されているもの)があることが認められる。

上記「つりピン」の形状は,証拠(甲41の3~5)及び弁論の全趣旨により,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日に,甲41の4とともに,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に証拠として提出したと認められる甲41の3に「つりピンロール(バラ色)抜落防止対策品」として記載されているピンク色の「つりピン」と,その形状が一致していると認められる。証拠(甲41の3~5)及び弁論の全趣旨によると,甲41の3は,甲41の4と同じ証拠説明書による説明を付して,提出されたものであると認められ,「2006年度 取扱いピンサンプル一覧」,「有限会社シンワ」,「早期出荷用」などの記載がある。

また,証拠(甲41の1~5)及び弁論の全趣旨によると,甲41の4は,上記商標権侵害差止等請求事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日に,甲41の4とともに,「被告シンワのチラシ(2005年用)」,「写し」,作成日「2005(平成17)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨の証拠説明書による説明を付して,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に提出したと認められる甲41の1と,レイアウトが類似しているところ,甲41の1には,「2005年開業キャンペーン 下記価格は2005年4月25日現在の価格(税込)です。」,「有限会社シンワ」,「当社では売れ残り品は販売しておりません。お客様からの注文後製造いたします。」などの記載がある。

以上によると,甲41の3及び4は,いずれも,原告シンワが,被告の顧客であった者に交付したものを,平成19年5月22日までに,被告が入手し,原告シンワが,被告の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠であるとして,上記商標権侵害差止等請求事件において,提出したものであると認められる。

そして,甲41の4の上記記載内容,特に「販売促進キャンペーン」,「納品5月20日~」と記載されていることからすると,甲41の4と同じ書面が,平成18年5月20日以前に,原告シンワにより,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客に配布されていたことを推認することができる。

ウ また,前記イの認定事実及び弁論の全趣旨によると,甲41の4に記載されている,5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のものは,原告シンワにより見込み客に配布されていた前記イの甲41の4と同じ書面にも添付されていたと認められる。

エ 前記の5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のものの形状は,両端部において折り返した部分の端部の形状が,甲41の4では,下から上へ曲線を描いて跳ね上がっているのに対し,本件特許に係る図面(甲119)の図8(a)では,釣り針状に下方に曲がっている以外は,上記図8(a)記載の形状と一致している。

そして,上記図8(a)は,本件発明に係るロール状連続貝係止具の実施の形態として記載されたものである。 オ そうすると,前記イ,ウ及びエの5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線が連通する形で連結された形状のものは,形状については,本件発明1の構成要件にある形状をすべて充足する。そして,証拠(甲41の1~5)及び弁論の全趣旨によると,その材質は,樹脂であり,「つりピンロール」とされていることから,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,ロール状に巻き取られることが可能な可撓性を備えているものと認められる。したがって,甲41の4に記載されている「つりピン」は,本件発明1の構成要件を全て充足すると認められる。

また,上記の「つりピン」は,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接した位置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープとの関係では,2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの直径よりも広くなるから,本件発明2の構成要件も全て充足すると認められる。

さらに,上記の「つりピン」が,ロール状に巻き取られるものであることは,上記のとおりであるから,上記の「つりピン」は,本件発明3の構成要件も全て充足すると認められる。

カ したがって,本件発明1~3は,本件原出願日である平成18年5月24日よりも前に日本国内において公然知られた発明であったということができ,新規性を欠き,特許を受けることができない。

・・・(中略)・・・

(3) 以上のとおりであって,本件発明は,本件原出願日前に日本国内において公然知られた発明であるから,特許を受けることができない(特許法29条1項1号)。」

検討

 特許無効審判では、公然実施を示す資料(チラシ、サンプルシート)が、本件特許出願前に頒布、販売されたものであることが認定できないとして公然実施による新規性欠如が認められなかった。

 それに対して、本件判決では、原告が提出したチラシ(本件特許発明に相当する製品のチラシ)のうちの一つが、本件特許出願前に頒布されていたことが認められるとして公然実施による新規性喪失を認め、特許無効審判請求不成立審決を取り消した。

本件で興味深いのは、原告が提出したチラシ(甲44の3)が、実は、原告被告を同じくする商標権侵害差止等請求事件において、被告側(商標権侵害差止等請求事件では原告)から提出されたものであったという点である。本件判決では明示されていないものの、別事件において被告が提出したものであることも加味したうえで、当該チラシが出願前に頒布され、当該チラシに掲載されていた製品が出願前に販売されていたことを認定したものと考えられる。

一般論として、特許無効審判では公然実施無効が認められにくく、公然実施により特許を無効にするには審決取消訴訟まで視野に入れた方が良いといわれることがあるが、本件はそのことを裏付ける事例の一つではないかと思われる。