【東京地裁平成29年6月28日・平成27年(ワ)第24688号】

【キーワード】 不正競争防止法2条1項1号,商品等表示,形態,周知性,知的財産権,工業所有権,特許権,実用新案権

第1 事案の概要

本件は,原告が被告に対し,被告が製造・販売する別紙物件目録1ないし3記載の商品(以下「被告商品」という。)が,原告の商品等表示として周知な別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という。)の形態と類似し,誤認混同のおそれがあるとして,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号,3条1項に基づき,被告商品の製造・販売等の差止め,同法3条2項に基づき,被告が占有する被告商品の廃棄及び被告商品を製造するために使用した金型の除却,同法4条,5条2項に基づき,5568万2000円及びこれに対する平成27年9月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 本稿では,紙面の都合上,不正競争防止法2条1項1号の1要件である周知性が,実用新案権による独占状態に由来する周知性であってもよいのかどうかという論点に関する判示のみを取り上げる。

第2 判旨(下線は筆者による)

「被告は,本件における原告の周知性の主張は,実用新案権1ないし3の存在による独占状態に基づく周知性を主張しているにすぎないこと,本件において「第三者の同種競合製品が市場に投入されて相当期間が経過した」わけでもないこと,日進化成が,遅くとも平成20年2月5日には原告商品と同一の形態を有するプラスチック製充填物を販売しており(乙6,乙7),少なくとも実用新案権3の存続期間が満了した後は,独占的な販売状態にあったとは認められないことを主張しているため,この点について判断をする。」

「特許権や実用新案権等の知的財産権の存在により独占状態が生じ,これに伴って周知性ないし著名性が生じるのはある意味では当然のことであり,これに基づき生じた周知性だけを根拠に不競法の適用を認めることは,結局,知的財産権の存続期間経過後も,第三者によるその利用を妨げてしまうことに等しく,そのような事態が,価値ある情報の提供に対する対価として,その利用の一定期間の独占を認め,期間経過後は万人にその利用を認めることにより,産業の発達に寄与するという,特許法等の目的に反することは明らかであ���。もっとも,このように,周知性ないし著名性が知的財産権に基づく独占により生じた場合でも,知的財産権の存続期間が経過した後相当期間が経過して,第三者が同種競合製品をもって市場に参入する機会があったと評価し得る場合など,知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭された後で,なお原告製品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情が認められる場合であれば,何ら上記特許法等の目的に反することにはならないから,不競法2条1項1号の適用があるものと解するのが相当である。」 「原告商品のうちS-O型については昭和54年6月23日に実用新案権1の存続期間が満了した。そして,被告商品の販売を開始した平成24年12月までには,約30年と相当長期間が経過しているから,第三者が同種競合商品をもって市場に参入する機会は十分にあったと評価し得るものであり,実用新案権1を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭されていたものというべきである。また,・・・実用新案権1の存続期間が満了した昭和54年6月23日以降も,原告は,S-O型について,広告・宣伝を継続し,文献や業界誌にも多数掲載されていた事実が認められること,・・・上記昭和54年6月23日以降も,継続的・独占的に大量に製造・販売を続けていたといえることからすると,S-O型につき,昭和54年6月23日まで実用新案権1が存続していたとしても,その後,実用新案権1を有していたことに基づく独占状態の影響がなくなった後の原告の営業努力によって,原告商品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情があるものと認められる。 また,・・・原告商品のうちL型,M型,S型については昭和57年12月4日に実用新案権2の存続期間が満了した。そして,被告商品の販売を開始した平成24年12月までには,約30年と相当長期間が経過しているから,第三者が同種競合商品をもって市場に参入する機会は十分にあったと評価し得るものであり,前記S-O型と同様に,実用新案権2を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭されていたものというべきである。また,・・・実用新案権2の存続期間が満了した昭和57年12月4日が経過した以降も,原告は,L型,M型,S型について,広告・宣伝を継続し,文献や業界誌にも多数掲載されていた事実が認められること,・・・上記昭和57年12月4日以降も,原告は継続的・独占的に大量に製造・販売を続けていたといえることからすると,上記原告商品につき,昭和57年12月4日まで実用新案権2が存続していたとしても,その後,実用新案権2を有していたことに基づく独占状態の影響がなくなった後の原告の営業努力によって,原告商品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情があるものと認められる。 さらに,・・・原告商品のうちS-Ⅱ型,LL型,L-Ⅱ型については,平成9年2月26日に実用新案権3の存続期間が満了した。そして,被告商品の販売を開始した平成24年12月までには,約15年と相当長期間が経過しているから,第三者が同種競合商品をもって市場に参入する機会は十分にあったと評価し得るものであり,実用新案権3を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭されていたものというべきである。・・・実用新案権3の存続期間が満了した平成9年2月26日が経過した以降も,原告は,S-Ⅱ型,LL型,L-Ⅱ型について,広告・宣伝を継続し,文献や業界誌にも多数掲載されていた事実が認められること,・・・上記平成9年2月26日以降も,原告は,継続的・独占的に大量に製造・販売を続けていたといえることからすると,上記原告商品につき,平成9年2月26日まで実用新案権3が存続していたとしても,その後,実用新案権3を有していたことに基づく独占状態の影響がなくなった後の原告の営業努力によって,原告商品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情があるものと認められる。」

「この点に関し被告は,日進化成が,平成20年2月25日には原告商品と同一の形態を有するプラスチック製充填物を販売していた事実をもって,原告が独占的な販売をしていたわけではないと主張する。 しかし,平成20年2月時点では,原告商品は既に実用新案権の存続期間が満了してから相当期間が経過していること,日進化成の販売実績や広告等の状況などは明らかではなく,日進化成の商品が原告商品と同一の形態を有するとしても,原告商品の形態が,商品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの判断を妨げる事情とはいえない。

以上のことから,被告の上記主張は採用することができない。」

第3 検討

商品形態が「商品等表示」に該当するといえるためには少なくとも周知性が必要であるところ(本判決の「原告商品の形態の「商品等表示」該当性」に関する判示等を参照),当該周知性が,工業所有権の保護期間における独占状態に基づき取得されたものでよいのかという点については,考え方に争いがある1。この点について本判決は,「知的財産権の存続期間が経過した後相当期間が経過して,第三者が同種競合製品をもって市場に参入する機会があったと評価し得る場合など,知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭された後で,なお原告製品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情が認められる場合」には,不競法2条1項1号による保護を成し得る旨判示した。

過去の裁判例においては,本判決と同様の考え方を採用しつつも,当該事案において「知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭された後で,なお控訴人製品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情」が認められないと判断した判決が存在する(東京高判平成15年4月8日・平成15年(ネ)第366号)。当該判決からは,具体的にいかなる状態であればかかる事情が認められ得るのかについては不明であったところ,本判決はこれと同様の考え方に基づき当該事情があると認めた事案であるため,いかなる場合にかかる事情が認められるのかを検討するに際し,参考になる裁判例といえよう。 なお,本判決の考え方に従うと,立体商標についても同様の議論があてはまることとなり,他の知的財産権による独占状態の影響が払拭された後でなければ商標法3条2項に適用が認められないこととなり得る。 しかしながら,本判決の考え方に対しては,「商品等表示」該当性が認められるか否かは,需要者がどのように受け取るかによって決まるものであって,不正競争防止法2条1項1号の保護法益が侵されているのであれば,原告は保護されるべきといった趣旨の反論もなされているところであるため2,今後の動向が注目される。