目次

Ⅰ ソーラーシェアリングビジネスのスケールと資金調達について

Ⅱ 近時の法令改正におけるアグリテック(企業)への影響

Ⅰ ソーラーシェアリングビジネスのスケールと資金調達について

(前号からの続き)

4. ソーラーシェアリング成立のための法的要件

(1) 農地の取得及び確保

前号にてもご説明させていただきましたが、営農型発電設備とは、農地に支柱を立てて、営農を継続しながら上空部分に設置す   る太陽光発電設備等の発電設備をいうこととされており(「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度の取扱いについて」(平成 30 年 5 月 15 日 30 農振第 78 号農林水産省農村振興局長通知)(以下「平成 30 年通知」といいます。)第 1)、ソーラーシェアリングは、このうち営農型太陽光発電設備を利用して、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組のことを指します。

したがって、(当然のことながら)ソーラーシェアリングを行うためには、事業者は農地を取得する又は農地の利用権を確保する 必要があります。この点、法人が農地を取得する場合及び(賃借権や使用借権の設定を受けて)農地の利用権の確保をする場合   の要件の概要は以下の表のとおりです。

上記のとおり法人が農地を取得するためには、当該農地を取得する法人は①事業要件 1、②議決権要件及び③業務執行役員要件を充足した農地所有適格法人である必要があり(農地法 3 条 2 項 2 号)、(賃借権や使用借権の設定を受けて)利用権の確保

をする場合にも農地法の要件を充足する業務執行役員等を確保する必要があります(同条 3 項 3 号)。したがって、法人がソーラーシェアリングに参入する場合には、上記要件を考慮の上、農地に係る権限確保の方法を検討することが必要となります。ま た、いずれの方法を検討するにせよ、農業/耕作・養畜事業に常時従事する人材を確保する必要がある点には留意が必要です。

(2) 一時転用期間

営農型太陽光発電設備を設置するためには、その支柱の敷地部分については一時農地転用許可が必要となり(平成 30 年通知第 1)、当該一時転用の期間は原則 3 年で最長でも 10 年とされています。現在、多くの太陽光発電に対してプロジェクト・ファイナンスを行う際の融資期間は 20 年程度とされ、一時転用許可の期間が当該融資期間をカバーすることができない点がソーラーシェアリングがプロジェクト・ファイナンスを受けるにあたっての大きな課題の一つである点は前号にてご説明したとおりです。

この点、現状、ソーラーシェアリングを行う事業者がプロジェクト・ファイナンスを受けるにあたっては、通常のプロジェクト・ファイナンスと比較してエクイティを厚くすることなどによって、プロジェクト・ファイナンス・ローンを 10 年で加速償還することを要求されることもあるようです。しかし、一時転用許可については以下の要件を全て満たす場合は、再度一時転用許可を受けることができ   るとされています(農林水産省作成の令和 3 年 7 月付「営農型発電設備の実務用 Q&A(営農型発電設備の設置者向け)」(以下「営農 Q&A」といいます。)問 15)。

①    営農の適切な継続が確保されていること

②    荒廃農地を再生利用する場合以外の場合は、下部の農地での単収が同じ年の地域の同じ農作物の平均的な単収と比較し  ておおむね 2 割以上減収していないこと

③    荒廃農地を再生利用する場合は、下部の農地の全部又は一部が農地法 32 条 1 項各号のいずれにも該当していないこと

④    生産された農作物の品質に著しい劣化が認められないこと

そして、下部の農地にて適切に営農が継続されている場合には、一時転用許可を取り消す合理的な理由はないと思われ、実際  に、令和 2 年度に新たに営農型太陽光発電設備を設置するために、新規に転用許可を受けた件数は 779 件であるのに比較して、許可期間の更新を受けた件数も 633 件となっており(更新の申請件数の総数は不明)、相当程度の件数が更新を受けていることが窺えることに加え、許可期間の更新の件数は右肩上がりに増加しています 。したがって、ソーラーシェアリングの事業者からすれば、一時転用許可の更新を受けられることも踏まえた融資期間での融資をすることを検討する投資家が現れること(及び一   時転用許可のサイドの許可が得られないリスクの緩和・代替手法の考案)が望まれます。

なお、10 年以内の一時転用許可期間が認められるための要件については前号でご説明したとおりですが、令和 2 年度に 10 年以内の一時転用許可期間の要件を満たすものとして一時転用許可が認められた事案は 391 件あり、このうち 331 件は担い手が下部農地で営農を行うことによって要件が満たされています   。担い手には、認定農業者及び新規就農者が含まれますが(平成30 年通知別表(1)イ及びウ)、①認定農業者となるためには都道府県知事の同意を得て農業経営基盤の強化の促進に関する基本的な構想を制定している市町村の区域内において、農業経営基盤強化促進法  12  条に基づき農業経営改善計画の認定を受けることが必要であり、②新規就農者となるためには、新たに農業経営を営もうとする青年等 が青年等就農計画を作成して認定を受ける必要があります(同法 14 条の 4 第 1 項)。

また、この一時転用許可期間については立法上の解決も検討の余地がありうるところであり、前号「II 近時の法令改正におけるアグリテック(企業)への影響」においても言及しましたが、特にアグリテックを用いて営農が適切に継続されることを継続的にモニタリングすることができる仕組みが確立することは、一時転用許可に関する規制が改正される足掛かりとなる可能性があります。

(3) 単収要件

一時転用許可を受けるためには、発電設備の下部の農地において営農の適切な継続が確実と認められることが必要であり、具体的には、当該農地における単収が、同じ年の地域の平均的な単収と比較しておおむね 2  割以上減少していないこと等が求められます(平成 30 年通知第 2.(2).ウ.b)。また、単収要件が充足されない場合には、営農型発電設備を撤去するよう指導がされる可能性もあり、プロジェクト・ファイナンスにあたっては融資期間中、いかにして営農を維持・継続させるかという点が重要な要素と なっています。この点については前号にて説明したとおりです。

単収要件を確保するための一つの方法は、農業及びソーラーシェアリングに関して知見を有する企業と(バックアップ)ファーミング・マネジメント契約を締結することです。これによって、投資家から見たスキームの安定性が確保されるとともに、事業者が設立した農地所有適格法人等の農業遂行能力に疑義が生じた場合には、営農の一部又は全部を知見を有する事業者に委託するこ とができるようになります。なお、令和 2 年度において、営農型太陽光発電設備の下部農地での営農に支障があったものは 14% 存在しているとのことであり、そのうち 71%が単収減少によるもののようです  。このようなケースに対しては農地転用許可権者が改善指導を行っているとのことですが、令和元年度時点では設備の撤去等の命令が出された事例はないようです 。

また、単収要件に関連して、発電設備の下部の農地で栽培する農作物については原則として制限はありませんが、新規農作物  の栽培を検討している場合や農業収入が減少するような農作物の転換の場合には、慎重な対応が必要です。

5. ソーラーシェアリングの参入形態

ソーラーシェアリングに参入するためには、上記の成立要件を満たす形での法的スキームを検討する必要があり、その参入のためには複雑な法務対応が必要になります。これを踏まえ、詳細は次号にてご説明しますが、ソーラーシェアリングに参入するた   めには、①地域の大企業やコーポレート PPA を検討する大企業等の信用力に依拠したコーポレート・ファイナンスを用いる手法と ②プロジェクト・ファイナンスを用いる手法に二分されることが予想されます。次号では、これらのスキームの説明を行います。

Ⅱ 近時の法令改正におけるアグリテック(企業)への影響

(前号からの続き)

2. 改正投資円滑化法におけるアグリテック企業への投資方法

(1) 改正投資円滑化法(農林漁業法人等に対する投資の円滑化に関する特別措置法)の成立の背景

旧投資円滑化法では、天候不順のリスクや生産活動が長い等の事情から、外部から投資を受けるのが難しい農業者への投資 を促すべく、日本政策金融公庫や民間の金融機関が、農林水産大臣の承認を受けた投資会社やファンドを通じて、農業法人に 投資できると定めていました。一方で、農林漁業や食品産業の分野では、輸出のための生産基盤構築・施設整備やスマート農林 水産業による生産性向上等の新たな動きに対応するための資金需要が生じていること等に鑑み、改正投資円滑化法では、投資 対象を農業法人だけではなく、「農林漁業又は食品産業の事業者の事業の合理化、高度化その他の改善を支援する技術の開発 又は提供を行う事業活動」を行う企業等にも対象を拡大しました(改正投資円滑化法施行規則 1 条 1 項、改正投資円滑化法 2 条 5 項)。すなわち、この改正によって、AI やロボットなどを使ったスマート農業の技術開発をする企業等に投資対象が拡大すること になりました。

(2) 改正投資円滑化法におけるアグリテック企業への投資

アグリテック企業への投資を行うことを考えている株式会社や投資事業有限責任組合は、農林水産省令で定めるところにより、 当該アグリテック企業についての投資育成事業に関する計画(以下「事業計画」という。)を作成し、これを農林水産大臣に提出し て、その事業計画が適当である旨の承認を受けることができます(法 3 条 1 項)。この承認を受けた株式会社及び投資事業有限 責任組合は、日本政策金融公庫から、そのアグリテック企業の投資育成事業を営むのに必要な資金の出資を受けることができま す(法 8 条 1 項)。すなわち、承認を受けた株式会社及び投資事業有限責任組合日本政策金融公庫の出資を受けることで、投資 リスクを分散してアグリテック企業に出資することが可能となっております。

3. 農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン(令和 4 年 3 月一部改正)

戦略的イノベーション創造プログラム「次世代農林水産業創造技術」や農業データ連携基盤 WAGRIの推進及びスマート農業実証プロジェクト によって、スマート農業の展開が徐々に進んでいます。一方で、①スマート農業技術の導入初期コストが高額であること、②農業データの連携が不十分であり農業経営にデータを活かしきれていないこと、③技術の進展に応じた規制・制度の見直しの必要性等、スマート農業の課題も浮き彫りになっています。そして日々発展するスマート農業技術とその発展に伴う課題に機動的に対応していくため、法的拘束力が無く改訂の容易なガイドラインの策定が急速に進んでいます。

たとえば、上記課題①に対しては、「農業支援サービス提供事業者が提供する情報の表示の共通化に関するガイドライン」により、サービスの内容や料金、オプション、手続き等、サービス提供事業者が表示すべき情報、表示することが望ましい情報等の   指針を策定することによって、農業者等が農業支援サービス提供事業者を適切に選択・活用できる環境の整備が目指されていま  す。また、課題②に対しては、「農業分野におけるオープン API 整備に関するガイドライン ver1.0」により、農業者が利用する農業用機械等から得られるデータについて、企業やシステムの垣根を越えたデータ連携のためのルールが策定されました。さらに、課題③に対しては、「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」「自動走行農機等に対応した農地整備の手引き」 「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」等が続々と策定され、農業現場の特性を踏まえた自動走行農機や農業用ドローンを活用推進するための規制や制度の見直しが進んでいます。

ガイドラインはあくまで法的拘束力の無いルールですが、補助対象経費の要件となる場合がある などガイドラインを遵守することによってスマート農業支援を受けやすくなる体制が整備されつつある上、今後税制上の優遇措置などにも影響があることが予   想されます。

本稿では、近年一部改正或いは策定が行われたガイドラインのうち特に重要性が高い、「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)を取り上げます。

(1) 本ガイドラインの概要及び適用範囲

本ガイドラインは、ロボット技術を組み込んで自動的に走行又は作業を行う車両系の農業機械の安全性を確保することを目的と   し、ロボット農機 に使用者が搭乗せずに無人で自動走行させる方法 によって、屋外ほ場等の開放系での農作業に用いるトラクター(衛星測位情報を利用して自動走行 するもの)・茶園管理用自走式農業機械・田植機(衛星測位情報を利用して自動走行するもの)・自走式草刈機(衛星測位情報を利用して自動走行するもの)・自走式小型汎用台車(衛星測位情報を利用して自動走行   するもの)に適用されます。本ガイドラインの特徴は、上記全ての農機を対象とした共通事項及び農業機械の種類別に規定された   追加遵守事項の 2 部で構成されていることです。

なお、本ガイドラインは、農業におけるロボット技術の使用状況、安全技術の進展状況、新たなロボット農機の開発状況等を踏まえて、今後も必要に応じて修正することとされています。

(2) 共通事項

①    安全性確保の原則

ロボット農機の使用等に係る死亡事故等の重大事故を生じさせてはならず、その他の事故の頻度も可能な限り低減することを安全性の目標として掲げ、ロボット農機のリスクアセスメントと、その結果に基づく保護方策の立案 及びリスク低減効果の検証を反復することが方法として示されるとともに、多重安全の考え方 が示されています。

②    使用上の条件

使用者の条件として、ロボット農機の使用にあたり、製造者等又は販売者等が実施する訓練等を受け、製造者等、販売者等又は導入主体から提供される使用上の情報等を十分理解した者であることが使用者の条件となっています。また、使用上の条件と    しては、定められた目的・場所でのみロボット農機を自動走行させること、ほ場等内に第三者が侵入しないよう警告看板の設置等   により注意喚起を行うこと、使用者は、激しい降雨等の視界不良時や障害物の存在等により使用者がロボット農機を監視するこ とが難しい環境では自動走行させないことなどが列挙されています。

③    安全性確保のための関係者の取組

安全性確保のために各関係者が取り組むべき事項は、製造者等、販売者等、導入主体、使用者等といった関係者の種類毎 に、ロボット農機の製造、販売、導入、仕様の各フェーズにおけるリスク軽減・把握措置、情報提供、安全対策、管理・使用条件な   どを詳細に規定しています。

(3) 農業機械の種類別追加事項

本ガイドラインでは、さらに各農業機械が共通事項に追加して遵守すべき事項についても、トラクター、茶園管理用自走式農業機械、田植機、自走式草刈機、自走式小型汎用代車の種類毎に、必要なリスクアセスメント及び使用上の責任(転倒・転落事故防  止、衝突回避、飛散物等に関する措置)等について規定しています。

(4) ガイドライン遵守によるメリット・デメリット

現時点で、本ガイドラインを遵守することによる税制上の優遇や補助金の支援等のメリットはありませんが、ほ場等内でロボット農機を使用する上での安全配慮義務や注意義務の違反の有無が判定される際に、本ガイドライン上の遵守事項が考慮される可  能性はあると考えられます。

次稿でも引き続きアグリテックを取り巻く規制法令等に扱うこととします。