【平成30年(行ケ)第10121号(知財高裁H31・3・12)】

【判旨】

本件商標に係る特許庁の無効2017-890075号事件について商標法4条1項11号の判断を誤ったことを理由として,取り消した事案である。

【キーワード】

キリンコーン,麒麟,キリン,商標の類否,商品の類否,商標法4条1項11号

事案の概要

原告は,平成29年11月13日,本件商標について,商標法4条1項11号,同項15号に該当すると主張して,無効審判を請求し,同請求は,無効2017-890075号事件として係属した。

特許庁は,平成30年7月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同年8月6日,原告に送達された。

本件商標

引用商標

原告(請求人)主張の別紙記載の各引用商標(以下,記載の順に「引用商標1」などといい,併せて「引用商標」という。)のうち,引用商標3,4,7と同一の構成である,以下の「KIRIN」の文字からなる商標,引用商標5と同一の構成である,以下の「麒麟」の文字からなる商標,引用商標と6と同一の構成である,以下の「キリン」の文字からなる商標(以下,併せて「原告ら商標」という。)は,キリングループの業務に係る「ビール,清涼飲料」を表示するものとして,本件商標登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されている商標と認められる。

引用商標1

引用商標2

争点

本件の争点は,本件商標が,引用商標との関係で,商標法4条1項11号に該当するか否かである。

判旨抜粋(証拠番号等は適宜省略する。)

第5 当裁判所の判断

1 分離観察の可否について

(1) 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないときには,その構成部分の一部を抽出し,当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許される場合があり,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

以下,上記判断枠組みに沿って本件商標について,「キリン」の部分を要部として抽出することができるかどうかについて検討する。

(2) 本件商標は,前記第2の1のとおり,本件指定商品を第31類「とうもろこし」とするもので,その構成は,「キリンコーン」の片仮名を茶色で縁取りし,その内側を黄色で表してなるもので,「キリンコーン」の文字が,同一の書体,色彩で横一連に表示されたものである。 もっとも,①本件商標の構成中,「コーン」の文字部分が「とうもろこし」の意味を有する英語である「corn」 の読みを片仮名で表したものであること,②「キリン」の文字部分が,「(a)中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物。(b)最も傑出した人物のたとえ。(c)ウシ目キリン科の哺乳類。」との意味を有していること(乙24),③「キリンコーン」が特段の意味を有しない造語であることからすると,本件商標は,「キリン」と「コーン」とを結合した結合商標と理解することができるものである。

また,上記のように「コーン」が本件指定商品である「とうもろこし」の意味を有する英語である「corn」 の読みを片仮名で表したものであることは,わが国においても広く知られていることからすると,本件指定商品との関係では,本件商標の構成中,「コーン」の文字部分は,本件指定商品そのものを意味するものと捉えられ,その識別力は低いものといえる。 他方で,上記のような意味を有する「キリン」は,本件指定商品との関係で,「コーン」よりも識別力が高く,取引者,需要者に対して強く支配的な印象を与えるというべきである。 そうすると,本件商標の「キリン」の文字部分と「コーン」の文字部分とが,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められず,本件商標から「キリン」の文字部分を要部として観察することは許されるというべきである。

(中略)

2 本件商標と引用商標の類否について

(1) 本件商標から要部である「キリン」の文字部分を抽出した場合,同部分からは「キリン」との称呼が生じるとともに,「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」及び「ウシ目キリン科の哺乳類」との観念が生じる。

この点について,本件審決は,本件商標が茶色と黄色で表示されていることからすると,「キリン」の文字部分は「ウシ目キリン科の哺乳類」のみを表したものとする。しかし,「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」の色彩について,これがはっきりと定まっているわけではないことからすると,本件商標の構成中の「キリン」の文字部分から「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」との観念が生じないとはいえない。

(2) 引用商標は,別紙のとおりの構成からなるものであり,いずれからも本件商標と同じ「キリン」との称呼が生じる上,引用商標1~4,6,7からは「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」及び「ウシ目キリン科の哺乳類」との観念が生じ,引用商標5からは「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」との観念が生じるから,本件商標と引用商標を観念で区別することはできない。

また,「キリン」の片仮名を縦又は横に記載した引用商標1,2,6と本件商標とは,「キリン」の文字部分の色彩や書体に違いはあるものの,本件商標の「キリン」の文字部分とは,「キリン」の文字は同じであるから,外観上,類似するものといえる。

以上に加え,本件指定商品である第31類「とうもろこし」の需要者に一般消費者が含まれることも併せて考慮すると,本件商標と引用商標は,出所について誤認混同を生ずるおそれがある類似する商標というべきである。 (中略)

4 商品の類否について

(1) ア 本件指定商品は,「第31類 とうもろこし」であるところ,商標法施行令別表(以下「政令別表」という。)は,第31類を「加工していない陸産物,生きている動植物及び飼料」と定めている。そして,本件商標登録出願時の平成28年経済産業省令第109号による改正前の商標法施行規則別表(以下「旧省令別表」という。)は,第31類に属するものを1から15に分類し,そのうちの1で「1 あわ きび そば ごま とうもろこし ひえ 麦 籾米 もろこし」として,「とうもろこし」を他の雑穀や穀物と並べて記載していたが,「10 野菜」には,とうもろこしは記載されていなかった。

また,本件商標登録出願時における特許庁の旧審査基準では,「とうもろこし」は,「あわ きび そば ごま ひえ 麦 籾米 もろこし」,「豆」,「米 脱穀済みのえん麦 脱穀済みの大麦」と同一の類似群(33A01)に属するとされていた。

これらのことからすると,旧省令別表第31類1にいう「とうもろこし」は,「穀物」としての「とうもろこし」であったと解するのが相当であり,

「第31類 とうもろこし」とする本件指定商品の範囲は,少なくとも「穀物」としての「とうもろこし」に及ぶものである。

イ また,商標法施行規則別表における細分類の表示は飽くまで例示であるところ,政令別表は,前記のとおり,本件指定商品が含まれる第31類を旧省令別表と定めており,本件商標の出願後に施行された平成28年経済産業省令第109号が,商標法施行規則別表の第31類1中の「とうもころし」を「とうもろこし(穀物)」とし,同類10「野菜」に「とうもろこし(野菜)」を加えたように,第31類の中には,「穀物」としての「とうもうころし」と「野菜」としての「とうもろこし」の双方が含まれるということができる。このことに照らすと,本件指定商品「第31類 とうもろこし」は,「穀物」としての「とうもろこし」だけでなく,「野菜」としての「とうもろこし」も含むと解することが相当である。本件商標に類似群コードとして「33A01」が付されていることはこの認定を左右しない。

ウ 以上の検討からすると,本件指定商品の範囲には,「野菜」としての「とうもころし」及び「穀物」としての「とうもろこし」のいずれもが含まれると解されるのであり,これを前提にして商品の類否の判断をするのが相当である。 (中略)

(2)ア 前記(1)を踏まえて,本件指定商品と引用商標の各指定商品が類似するかどうかを検討するに,指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判断すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主により製造・生産又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の製造・生産又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,類似の商品に当たると解するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。

イ 本件指定商品の範囲に含まれる「穀物」としての「とうもろこし」と,引用商標1の指定商品中の「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」と引用商標4の指定商品中の「豆」とは,いずれも「穀物」に属するものであって,その生産者,販売者が一致することが通常あり得るものと認められるし,その需要者にはいずれも一般消費者が含まれるものである。

したがって,それらの商品に同一又は類似の商標が使用されたときには,同一の営業主の生産又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができ,本件指定商品と,引用商標1の指定商品中の「米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦」及び引用商標4の指定商品中の「豆」は,商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。

ウ 次に,引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」には,「野菜」としての「とうもろこし」が,引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」には「冷凍とうもろこし」が,引用商標4~7の指定商品中の「加工野菜」には,「加工済みスイートコーン」のような「加工済みのとうもろこし」が,引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」には,「炒ったとうもろこし」がそれぞれ含まれるものと認められる。 本件指定商品には「とうもろこし(野菜)」が含まれているから,本件指定商品は,この点において,引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」と同一である。

b また,本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」に含まれる「冷凍とうもろこし」とは,同じ「野菜」としての「とうもろこし」からなるものであって,生産者・製造者,販売者が同一の場合もあり得るものと認められる。 したがって,本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2,4,5の「冷凍野菜」に同一又は類似の商標が使用されたときには,同一の営業主の生産・製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができるから,本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」は,商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。 本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」,引用商標4~7の指定商品中の「加工野菜」,引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」及び引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」とは,「穀物」か「野菜」か,加工の有無,程度又は方法について差異があるとはいえ,いずれも「とうもろこし」からなるものという点では変わりがなく,「とうもろこし(穀物)」と引用商標2~7の上記各指定商品の生産者・製造者,販売者が一致することもあり得るものと認められる。そして,その需要者にはいずれも一般消費者が含まれる。

したがって,本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2~7の上記各指定商品に同一又は類似の商標が使用されたときには,同一の営業主の生産・製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができるから,本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2,4,5の指定商品中の「冷凍野菜」,引用商標4~7の指定商品中の「加工野菜」,引用商標3,5,6の指定商品中の「穀物の加工品」及び引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」は,商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。

解説

本件は,商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本件商標について,引用商標に類似しないとして,商標法4条1項11号1に係る無効原因がないとした。

しかしながら,裁判所は,本件において,特許庁の判断を認めなかったものである。

本件では,本件商標と引用商標との間の類否及び商品の類否が問題となった。

裁判所は,まず,本件商標と引用商標との類否に関しては,「本件商標の構成中,『コーン』の文字部分は,本件指定商品そのものを意味するものと捉えられ,・・・『キリン』は,本件指定商品との関係で,『コーン』よりも識別力が高く,取引者,需要者に対して強く支配的な印象を与えるというべき」であるとした上で,「キリン」について外観,称呼を比較し,さらに,「『中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物』及び『ウシ目キリン科の哺乳類』との観念が生じ,前者の色彩が定まっていないことから,本件商標が黄色であることによって後者の観念のみを生じることはなく,両者の観念も同じであることから,類似していると判断した。

被告は,これに対して,取引の実情として,「ライオンコーン」等と共に販売している旨等を主張したが,裁判所は,単なる販売形態に過ぎず,一般的な事情とは言い難いとして認められなかった。

裁判所は,次に,商品の類否として,本件商標登録出願時の旧省令別表においては,第31類に「10野菜」にとうもろこしが記載されていなかったものの例示過ぎず,その後の改正等を考えると,「穀物」のみならず「野菜」としての「トウモロコシ」も含まれるものとした上で,引用商標の各指定商品と本件商標の指定商品とが類似の商品にあたると判断した。

本件は,商標の類否と商品の類否が共に争われた事例であり実務上参考となると考えられる。