【平成29年(行ケ)第10034号(知財高裁H29・8・8)】

【判旨】 本願商標に係る特許庁の不服2016-15097事件について商標法4条1項11号の判断が正当であるとして、原告の請求を棄却した事案である。 【キーワード】 商標の類否判断、ハーベイ ボール、商標法4条1項11号

事案の概要

(1) 原告は,平成27年7月22日に,下記の本願商標(以下,単に「本願商標」という。)について,指定商品を「第25類 被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」として商標登録出願(商願2015-74154)をし,その後,平成28年1月18日付けで,指定商品を「第25類 被服」のみとする補正をしたところ,平成28年7月26日付けで拒絶査定を受けたので,同年9月16日に,不服審判請求をした(不服2016-15097号)。 (2)特許庁は,平成28年12月27日に,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,この審決は,平成29年1月18日に,原告に送達された。原告は,当該審決の取消訴訟を提起した。 【本願商標】

指定商品:第25類 被服

【引用商標】

指定商品:「第20類 クッション,座布団,まくら,マットレス」,「第24類 布製身の回り品,かや,敷き布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び「第25類 被服」

指定商品:「第25類 被服」

指定商品:「第25類 被服,仮装用衣服」

指定役務:「第35類 織物及び寝具類(まくら・マットレスを除く)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,布製身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

審決の理由

審決の理由は,本願商標は,登録商標である別紙記載の引用商標1~4(これらを総称して「引用商標」という。)と類似し,また,本願商標の指定商品「被服」は,引用商標1~3の指定商品と同一又はそれに含まれるものであり,引用商標4の指定役務と類似するから,商標法4条1項11号に該当し,商標登録を受けることができないとするものである。

争点

本願商標が、商標法4条1項11号に該当するか。

判旨抜粋

1 本願商標の商標法4条1項11号該当性について ⑴ 本願商標について ア 本願商標は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いた図形(本願図形)と,その円輪郭の右下部分にわずかに重なるように,筆記体で右上がりに横書きした「Harvey Ball」の文字からなるものである。そして,本願図形は,一見して人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識されるものであり,本願商標中の主要部を構成上占めているのに対し,その図形部分に若干重なるように表された「Harvey Ball」の文字部分については,ありふれた筆記体で書されている上,図形部分に比してかなり小さく表示されている。また,本願図形と文字部分はわずかに重なるが,文字部分によって隠された図形部分の円輪郭線は全体の4分の1にも満たない上,「Harvey」と「Ball」の文字部分の間に外縁部の円弧の一部が見えていることもあいまって,本願商標からはその図形部分の円輪郭線を明確に認識することができる。 以上からすると,本願商標と引用商標との類否判断に際して,本願図形を要部として取り出すことができるというべきである。 (中略) ⑵ 引用商標について ア 引用商標1は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなるものであり,そのような外観的特徴から,簡潔,かつ,象徴的に人の笑顔を描いたものであることを印象付けるものである。 イ 引用商標2は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなる図形を表し,その上部に「LOVE EARTH」の文字を上向き弧状に表してなるものである。そして,その図形部分と文字部分は上下に段を異にし,間隔を置いて配置されていることから,視覚上分離して認識されるものである。また,文字部分は全体として「地球を愛する」程度の意味合いを認識させるものの,それ自体が,人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に描いたものと認識される図形部分と,直接的な観念上のつながりがあるということはできない。 そうすると,引用商標2は,その構成における図形部分と文字部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,本願商標と引用商標との類否判断に際して,視覚上,最も強く印象に残る図形部分を要部として取り出すことができるというべきである。 ウ 引用商標3は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を二つ並べ,その中には瞳を思わせる白抜きの点を配し,その下には口と思しき両端��がりの弧線を描いてなるものであり,そのような外観的特徴から,簡潔,かつ,象徴的に描いた人の笑顔であることを印象付けるものである。 ⑶ 本願商標と引用商標1~3との類否 本願図形と,引用商標1~3の図形部分を比較すると,これらはいずれも,互いに円輪郭,円輪郭内部に配された二つの小さい黒塗りの縦長楕円形及びその下方に配した両端上がりの弧線を基本的な構成要素とし,これらによって円形の顔に目と口を有する人の笑顔を,簡潔かつ,象徴的に描写したものと看取される点において外観的な印象を共通にするから,類似するものと認められる。細部において相違する点があることは,この判断を左右するものではない。 したがって,本願商標と引用商標1~3は,類似するものと認められる。なお,仮に,本願商標や引用商標1~3がハーベイ・ボールの創作に係るマークと認識されることがあるとしても,そのことは,本願商標と引用商標1~3との類似性に関する上記判断を左右するものではなく,本願商標が「Harvey Ball」の文字部分を含むとしても変わるものではない。 ⑷ 本願商標と引用商標1~3の各指定商品 本願商標の指定商品は,「被服」であるところ,引用商標1~3の指定商品は,「被服」又はそれを含むものであるから,指定商品は同一である。 ⑸ 小括 以上によると,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するから,引用商標4について判断するまでもなく,登録を受けることができない。

解説

本件は、商標権出願に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、上記引用商標について類似しているとして、商標法4条1項11号1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所は,特許庁の判断を追認した。 裁判所は、本願商標を分析し(本解説では、細かい事実認定については一部割愛している。),本願商標は,「円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いた図形(本願図形)と,その円輪郭の右下部分にわずかに重なるように,筆記体で右上がりに横書きした『Harvey Ball』の文字」からなると判断した上で,「本願商標は,その構成中の本願図形を分離,抽出して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず」,本願図形を取り出すことができると判断した。 その上で,本願図形と,引用商標1~3の図形部分を比較し,「円形の顔に目と口を有する人の笑顔を,簡潔かつ,象徴的に描写したものと看取される点において外観的な印象を共通にするから,類似するものと認められる」と判断した。 原告は,原告の本願図形については,広く使用され,単なる図形であって,識別力を有しないと主張した(引用商標1~3があるにも関わらず,原告は計308件の登録商標を有している。)が,裁判所は,本願図形が「一見して人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識される」ものであるとして,原告の主張を認めなかった。 一般人が,本願商標を見れば,本願図形がもっとも印象に残るとの裁判所の判断は,妥当であろう。

以上 (文責)弁護士 宅間仁志