ロンドンでは夏時間も終わり、昼が短く夜が長くなってきた。クリスマス休暇前 にさまざまな取引や投資を完了しようと、誰もが準備に取り掛かっている。

私は といえば、全国農業協同組合連合会(JA全農)とJAグループの農林中央金庫 (農林中金)による買収取引(下記参照)を完了したばかりだが、他にも産業分 野の買収案件やIT(情報技術)分野の売却案件、その他さまざまな事項や機会 が目白押しで、全速力の日々が続きそうだ。ブレグジット決定とトランプ氏当選 を経た今も、ロンドンには次々とM&Aのチャンスが浮上し、日本からの買い手 も増えている。日本企業は他社の例に倣うことを好むが、英国で買収を手掛ける 企業の例はますます増え続けている。(ナイジェル·コリンズ/M&A専門弁護 士)

最近いくつかの取引で、顧客から保証による保護だけでなく損失補償による保護 も求められた。これは最も広い意味での保護に当たる。つまり、あらゆる保証へ の違反に対し、損失補償に基づく賠償請求が可能となるのだ。事実上、売買契約 の何ページにも及ぶ保証を、そっくり損失補償に転換するようなものだ。英国で はこうした慣例はなく、取引で用いられるのを見たこともなければ、こうした協 議をしたことも い。

保証:株式や資産の購入契約には通常、多くの保証が盛り込まれる。保証とは、売却対象の企業や事業について、売り手が買い手のために行う告知のことだ。保 証は通常、会計、従業員、不動産、年金、知的財産権などに関する詳細事項を含 め、売却対象の企業や事業に関するあらゆる事項を対象とする。

保証には主に2つの役割がある。1つは、保証の内容が事実と異なっていた場 合、損害賠償による救済を提供すること。もう1つは、売り手に対し、認識して いる問題点を包み隠さず買い手に開示するよう促すことだ。

損失補償:これは売り手が買い手に対し、特定の法的責任が生じた場合に、その 法的責任に基づく補填(ほてん)を行うと約束するものだ。損失補償の目的は 大まかに言えば、特定の事象や事項のリスクを買い手から売り手に移行し、買い 手がその事象や事項について全額を回復できるようにすることだ。損失補償は通 常、保証では買い手が損害を回復できない可能性がある場合に用いられる。例え ば、買い手が契約書に署名する前に当該事項について認識している場合や、損害 賠償請求が行えない場合などだ。

売り手は広範な交渉の末、買い手が懸念する特定のリスクに限り、損失補償を提 供することがある。例えば、売り手が英歳入関税庁(HMRC)から追及されか ねない異例の個人税構造を利用していたり、未解決の訴訟を抱えている場合など だ。

保証違反に対する損害賠償請求が認められるのは、保証内容が事実と異なり、そ の結果、買収した企業や事業の価値が下がったこと(例えば時価総額の低下な ど)を、買い手が証明できる場合に限られる。一方、損失補償では、企業価値が 影響を受けたかどうかに関係なく、損失を全額回復できる。

最近の注目すべき取引を挙げる。

  • JA全農と農林中金は、英国の食品卸会社SFGホールディングスの全株式 を共同で取得した。SFGは世界各国の食品を国内の小売·卸売会社に販売す る。海外事業の拡大に努めるJA全農と農林中金にとって、これは欧州で初め ての企業買収となる。英国の食品および食品流通業の人気は依然として高い。
  • 印刷業界の動きも引き続き活発だ。コンピューター周辺機器やソフトウエアを 手掛けるミマキエンジニアリング(長野県東御市)は、デジタル印刷関連装置 などを展開する伊ラ·メカニカ(La Meccanica)を買収。テキスタイル·アパ レル市場向けのデジタルオンデマンド印刷事業を拡大する狙いだ。
  • 世界最大手を目指す独炭素製品大手SGLカーボンは、中国産の安価な鉄鋼と の競争に直面し、かねて黒鉛電極事業の買い手を探していたが、このほど同事 業を昭和電工に3億5,000万ユーロで売却 ることで合意した。取引は2017年 前半の完了が見込まれている。

私自身は、日本·東南アジア出張の途に就いたところだ。今回は東京から香港、 シンガポールを回る。英国や欧州、東南アジアでの将来的な買収·売却に関する 協議が主な目的だが、いつも通り時間を見つけて剣道の先生から稽古を受けるつ もりだ。一方、英国では私の留守中に、剣道の英国代表チームの人選が行われて いる。今年は誰が抜擢されるのか、楽しみにしている。