令和元年改正会社法は、いよいよ3月1日に施行されることになりました。今回は、改正会社法によって新設された「株式交付」に関する税制面での対応についてご紹介します。

株式交付とは、他の株式会社(株式交付子会社、Targetの意味でT社と呼びます。)を子会社とするために、株式会社(株式交付親会社、Purchaserの意味でP社と呼びます。)が、当該他の株式会社(T社)の株式を譲り受け、これに代えて、当該株式の譲渡人に対して、当該株式会社(P社)の株式を交付する組織再編行為です(会社法2条32号の2、774条の2以下)。イメージは、次の図のとおりです。

※)株式交付親会社からの対価は、一部に株式交付親会社の株式が含まれていればよく、現金等他の種類の財産と組み合わせて交付することが可能(会社法774条の3第1項5号)。

【出典:佐藤修二編著・岩田合同法律事務所著『税理士のための会社法ハンドブック〔2021年版〕』(第一法規、2021)〔野口大資執筆部分〕214頁の図を転載】

株式交付は、自社株式を対価とする買収(いわゆる株対価M&A)を可能とするものです。株対価M&Aによれば、買収者にとっては現金の支出がなく、また、対象会社の株主は、買収後の買収会社の株式を保有することになるので、買収によるシナジーを含め、買収後の買収会社及び対象会社の成長や業績向上からもたらされる利益を享受できるなど、現金による買収とは異なるメリットがあると言われています。

 ところが、現行の税制では、(合併、会社分割、株式交付・株式移転については、いわゆる組織再編税制において課税繰延措置が設けられているのとは異なり)株式交付については、何らの税制措置も講じられていません。そうすると、上記でいうT社株主がT社株式を手放し、代わりにP社株式を取得する際、課税の対象とすべき株式の交換取引があったものとして、T社株式とP社株式の時価評価額の差額(たとえば、T社株式の時価が100、P社株式の時価が120であれば、差額の20)につき、譲渡益課税がなされることになります。このような課税が起こるのであれば、株式交付の利用は実際にはほとんど行われないことになるでしょう。そこで、株式交付に伴って生ずるT社株式とP社株式の交換について、課税繰延措置を設けることが期待され、経済産業省からもその旨の税制改正要望がなされていました。

 昨年12月に閣議決定された令和3年度税制改正大綱においては、株式交付について課税繰延措置を講ずる方向が示されました。その骨子は、株式交付のうち、その対価の80%以上を買収者の自社株式(上記でいうP社株式)が占めるものについて、T社株式の対価としてP社株式が交付される限度で課税を繰り延べる、というものです。これは、株式交付においては、自社株式以外に現金等を対価に使用することも可能であるところ(会社法774条の3第1項5号)、現金等を対価とする場合には、課税すべき利益の実現があると見ざるを得ない、という考え方を基礎としたものであろうと推察されます。すなわち、対価のうち80%以上を自社株式が占めるならば、株式交付の取引全体としては、単に株主が入れ替わるだけであり、株式の交換取引については課税すべき利益の実現が無いと整理できる、ただし、その場合であっても、株主が現金等を受け取った部分(対価のうち20%以下の部分)については、利益の実現があり、課税すべきである、という考え方なのだと思われます。

 税制改正は、通常ベースであれば、本年3月末までに改正法が成立し、4月1日から施行されるはずです。今後、株式交付の制度を利用した株対価M&Aが活発化し、わが国経済の活性化につながることが期待されます。