1.広東加多宝飲料食品有限公司と広州王老吉大健康産業有限公司、広州医薬集団有限公司の間で争われた有名商品に特有の包装‐装飾の無断使用紛争2件〔最高人民法院(2015)民三終字第2、3号民事判決書〕

2.西峡竜成特種材料有限公司と楡林市知識産権局、陝西煤業化工集団神木天元化工有限公司の間で争われた特許権侵害紛争行政処理事件〔最高人民法院(2017)最高法行再84号行政判決書〕

3.福州米廠と五常市金福泰農業股份有限公司、福建新華都綜合百貨有限公司福州金山大景城支店、福建新華都綜合百貨有限公司の間で争われた商標権侵害紛争事件〔最高人民法院(2016)最高法民再374号民事判決書〕

4.国家知識産権局特許審判委員会と北京万生薬業有限責任公司、第一三共株式会社の間で争われた発明特許権無効行政紛争事件〔最高人民法院(2016)最高法行再41号行政判決書〕

5.商務印書館有限公司と華語教学出版社有限責任公司の間で争われた商標権侵害及び不正競争紛争事件〔北京知的財産法院(2016)京73民初277号民事判決書〕

6.沈韋寧、沈丹燕、沈邁衡と南京経典拍売有限公司、張暉の間で争われた著作権帰属‐著作権侵害紛争事件〔江蘇省南京市中級人民法院(2017)蘇01民終8048号民事判決書〕

7.ジャガーランドローバー自動車公開有限会社と広州市奮力食品有限公司、万明政の間で争われた商標権侵害紛争事件〔広東省高級人民法院(2017)粤民終633号民事判決書〕

8.四川中正科技有限公司と広西壮族自治区博白県農業科学研究所、王騰金、劉振卓、四川中昇科技種業有限公司の間で争われた植物新品種権侵害紛争事件〔広西壮族自治区高級人民法院(2017)桂民終95号民事判決書〕

9.鶴壁市反光材料有限公司と宋俊超、鶴壁睿明特科技有限公司、李建発の間で争われた営業秘密侵害紛争事件〔河南省高級人民法院(2016)豫民終347号民事判決書〕

10.北京易査無限信息技術有限公司、于東による著作権侵害罪事件〔上海市浦東新区人民法院(2015)浦刑(知)初字第12号刑事判決書〕

2017年中国人民法院10大知的財産事件の内容紹介

1.王老吉と加多寶の有名商品に特有の包装‐装飾紛争事件

広東加多宝飲料食品有限公司と広州王老吉大健康産業有限公司、広州医薬集団有限公司の間で争われた有名商品に特有の包装‐装飾の無断使用紛争2件〔最高人民法院(2015)民三終字第2、3号民事判決書〕

【事件の概要】2012年7月6日、広州医薬集団有限公司(以下「広薬集団」という)と広東加多宝飲料食品有限公司(以下「加多宝公司」という)は、それぞれ、いずれも有名商品である「赤い缶の王老吉の涼茶」に特有の包装‐装飾の権利を有すると主張し、このため、相手方の生産‐販売する赤い缶の涼茶の商品の包装‐装飾が権利侵害であるとして人民法院に訴えを提起した。第一審人民法院は、「赤い缶の王老吉の涼茶」の包装‐装飾に係る権利を有する者は広薬集団であるので、広州王老吉大健康産業有限公司(以下「大健康公司」という)が広薬集団の許諾を受けて生産‐販売する赤い缶の涼茶は侵害を構成しないが、加多宝公司は本件包装‐装飾に係る権利を有しないことから、同公司の生産‐販売する一面に「王老吉」、もう一面に「加多寶」と表示された赤い缶の涼茶と両面に「加多寶」と表示された赤い缶の涼茶とは、いずれも侵害を構成すると認定した。そして、第一審人民法院からは、侵害行為を停止して、影響を除去するための声明を掲載した上、広薬集団の経済的損害1億5000万元及び合理的な権利行使費用26万元余を賠償すべき旨を加多宝公司に命じるとともに、加多宝公司の訴訟請求を棄却する旨の判決が下された。加多宝公司は、これら2件の事件の第一審判決を不服として最高人民法院に上訴した。最高人民法院の終審判決では、本件における有名商品は「赤い缶の王老吉の涼茶」で、その製品の缶体の「黄色の王老吉という文字、赤い背景色などの色彩、模様及びそれらの配列‐組合せなどの構成部分を含む全体の内容」が有名商品に特有の包装‐装飾であると認定された。広薬集団と加多宝公司のいずれもが赤い缶の王老吉の涼茶に特有の包装‐装飾について権利を有すると主張していることについては、赤い缶の王老吉の涼茶の歴史的発展の経緯、双方の提携背景、消費者の認識及び公平の原則を勘案、参酌すると、広薬集団及びその前身、加多宝公司及びその関連企業の各々いずれもが本件特有の包装‐装飾に係る権利の形成、発展、信用の構築に積極的な役割を果たしているので、本件特有の包装‐装飾に係る権利を完全に一方のみの所有に帰させてしまうと、明らかに公平を失する結果となり、社会公衆の利益を害するおそれがあるので、本件有名商品に特有の包装‐装飾に係る権利については、信義誠実の原則に従って、消費者の認識を尊重し、他人の法的な権利利益を害しないという前提で、広薬集団と加多宝公司の共有とするのが相当である、と最高人民法院は判示している。これらのことから、広薬集団と加多宝公司が互いに相手方の生産‐販売する赤い缶の涼茶商品が他人の有名商品に特有の包装‐装飾の無断使用であるとしていた主張は、いずれも成立しないとされ、広薬集団と加多宝公司の訴訟請求はいずれも棄却された。

【典型的意義】最高人民法院が開廷して審理を公開し、王老吉と加多寶の包装‐装飾紛争2件に判決を言い渡したことは、マスコミ、社会公衆に強く注目された。2件の事件に判決が言い渡された後、人民日報、中国中央テレビ(CCTV)、新華社などの主要メディアは、みなトップニュースとしてこのことを報道し、「法治でウィン‐ウィンを勝ち取り」、「司法の英知」を際立たせた最高人民法院の判決は、世論から高く賞賛された。本件の判決が類似の事件の裁判にも指導的効果を果たすであろうことは、国内外のメディアからも確実視されており、本件は重大なベンチマーク的意義を有すると考えられている。これとともに、判決から放たれている「それぞれの財産権を平等に保護する」という積極的なシグナルは、産業が常に前向きに発展し続けるよう促すものとして、社会各界から受け入れられている。このほか、2件の事件の判決の結果は、双方当事者からも尊重されており、法律効果と社会的効果の一致も実現されている。

2.「楡林市知識産権局」特許権侵害紛争行政処理事件

西峡竜成特種材料有限公司と楡林市知識産権局、陝西煤業化工集団神木天元化工有限公司の間で争われた特許権侵害紛争行政処理事件〔最高人民法院(2017)最高法行再84号行政判決書〕

【事件の概要】西峡竜成特種材料有限公司(以下「西峡公司」という)は、陝西煤業化工集団神木天元化工有限公司(以下「天元公司」という)の製造‐使用する設備がその「内炭外熱型炭物質分解設備」の���用新案特許権(すなわち、本件特許)を侵害しているとして、楡林市知識産権局(以下「楡林局」という)に行政処理を申し立てた。2015年9月1日、楡林局からは、楡知法処字〔2015〕9号『特許権侵害紛争事件処理決定書』(以下「被訴行政決定」という)が交付されて、天元公司は本件特許を侵害しないと認定された。被訴行政決定を下した合議体の構成員には、宝鶏市知識産権局の職員である苟紅東が含まれていたが、同人を本件紛争に係る行政処理に参加させることについて正式な公文書による決定はされなかった上、楡林局の口頭審理記録書にも、西峡公司、天元公司に告知すべき苟紅東の正式な地位及び同人が合議体に参加する理由は記載されていなかった。また、楡林局は、本件特許権侵害紛争について2回口頭審理を行っているが、第2回口頭審理の際に当事者に告知された合議体の構成員と被訴行政決定に署名をした合議体の構成員も異なっていた。これらのことから、西峡公司は、被訴行政決定を不服として行政訴訟を提起した。第一審人民法院からは、行政取締要員の系列内での配置は、行政機関内部の行為にあたり、内部交流制度に反するものでもなく、また、楡林局の現有の職員が不足していたことに鑑みると、陝西省知識産権局に経伺してから、宝鶏市知識産権局の職員を転属させて事件の処理に参加させたことは、特段不当なものでもないので、被訴行政決定は法定の手続に違反するものでないとの判示がされ、被訴行政決定は侵害の実体問題についての認定でも不当なものでないとして、西峡公司の訴訟請求を棄却する旨の判決が下された。西峡公司は、これを不服として上訴を提起したが、第二審人民法院からも上訴を棄却し、原判決を維持する旨の判決が下されたので、なおこれを不服として最高人民法院に再審を申し立てたところ、最高人民法院は、本件に提審をして、被訴行政決定は法定の手続に違反しているので、取り消されるべきものであるとして次の通り判示した。まず、楡林局は、平等な民事主体による本件特許に関する侵害紛争を処理するに際して、実際に、中立的に裁定をするべき地位にあるので、真摯、規範的、公開、平等という手続原則を固く遵守しなければならないところ、合議体の構成員が既に明らかに変更されたという事情の下においてもなお被訴行政決定に署名をしていることは、法定の手続に対する重大かつ明白な違反であると言わなければならない。次に、被訴行政決定を下す楡林局の合議体は、特許行政取締りの資格を有する同局の職員で構成されなければならず、しからざれば、行政取締手続の規範性と厳粛性は保障されよう筈もなくなって、行政取締りの活動を規律する上でも不都合となり、行政取締りの責任を強化する上でも不都合となる。楡林局の提出した陝西省知識産権局調整保護処の所謂回答は、実のところ、同処が同局の上層部に宛てた内部の伺い文書であり、文章番号もなければ、公印もないものである。また、国家知識産権局特許管理司が陝西省知識産権局に『個別事件における取締要員の配置に関する回答書』を下達したのは、被訴行政決定が下された日の後であり、内容から見ても、本件とは直接の関連がないので、いずれも苟紅東が被訴行政決定を下した合議体に参加したことの適法性、有効性を示す証拠とすることができないものである。さらに、楡林局は、口頭審理の際に苟紅東の具体的な地位及び合議体に参加させる理由を当事者に告知したと主張するが、同局の提出した証拠からその主張を証明することができず、また、当事者が合議体の構成員の地位を認めたか否かは、被訴行政行為の手続が適法であるか否かを判定する上での前提や要件とすることができないことである。よって、「西峡公司は、合議体の構成員について異議を有しないので、手続は適法である」とする楡林局及び天元公司の提出する主張は成立しない。

【典型的意義】本件は、特許行政取締りにおける手続の違法の認定と取扱いに関するものである。最高人民法院は、本件において、既に明らかに変更された合議体の構成員がなお被訴行政決定に署名をしていることは、実質的に「審理する者は裁かず、裁く者は審理しない」ことに等しく、法定の手続に対する重大な違反となることを明らかにしている。原則として、被訴行政決定を下す合議体は、特許行政取締りの資格を有するその行政機関の職員で構成されなければならず、他の機関から取締要員の配置転換がされることがあっても、正式に完備された公文書による手続が履行されていなければならない。本件の判決は、行政機関の法による行政を強力に規律して促進し、司法による知的財産保護の主導的役割を世に知らしめるものであるが、『知的財産裁判の分野におけるイノベーション改革を強化することの若干の問題に関する見解』で提起されている「知的財産行政行為に対する司法審査の強化」が十分に貫徹されている典型的事例でもあり、知的財産分野における法治建設を促進し、科学技術イノベーションの法治環境を整備する上で重要な意義を有している。

3.「稲花香」商標権侵害紛争事件

福州米廠と五常市金福泰農業股份有限公司、福建新華都綜合百貨有限公司福州金山大景城支店、福建新華都綜合百貨有限公司の間で争われた商標権侵害紛争事件〔最高人民法院(2016)最高法民再374号民事判決書〕

【事件の概要】福州米廠は、第1298859号登録商標「稲花香DAOHUAXIANG」(すなわち、本件商標)の専用権者で、本件商標は、指定商品を第30類の米として1998年3月に商標登録出願がされ、1999年7月28日に商標登録を受けている。また、2009年3月18日に黒竜江省農作物品種査定委員会から交付された『黒竜江省農作物品種査定証書』には、当該品種は、品種の名称が「五優稲4号」、もとの開発名が「稲花香2号」で、普及地域を黒竜江省五常市平原自流灌漑区として田植え栽培され、地域試験及び生産試験の結果、優良品種として普及させる条件に適合しているので、2009年から普及品種に定めることが決定されたと記載されている。2014年2月18日、福州米廠は、福建新華都綜合百貨有限公司福州金山大景城支店(以下「大景城支店」という)で1袋の五常市金福泰農業股份有限公司(以下「五常公司」という)によって生産‐販売された「喬家大院稲花香米」を公証手続を受けて購入した。米現物のパッケージ正面の中央位置には「稲花香(中抜き書体で、黒色の背景色)DAOHUAXIANG」と大書して表示されていた。福州米廠が、五常公司の生産‐販売し、大景城支店、新華都公司の販売する被訴侵害製品がその商標権を侵害しているとして訴えを提起したところ、第一審人民法院からは、「稲花香」は普通名称を構成しないので、五常公司が許諾を受けることなく本件商標に非常に類似する標章を製品のパッケージで使用することは消費者を容易に惑わし、本件商標権を侵害するものであるとされ、五常公司、大景城支店、新華都公司の行為は侵害を構成すると認定された。しかしながら、第二審人民法院は、五常市という特定の地理的栽培環境から生まれた「稲花香」米は、広く一般的に使用されるようになった普通名称に該当するので、五常公司がその生産‐販売する米製品の包装に「稲花香」の文字及びピン音を使用して米の品種、出所を示す行為は、主観的には善意からのもので、客観的にも誤認混同をもたらすことはなく、正当な使用にあたるというべきであると判示して、第一審判決を取り消し、福州米廠の訴訟請求の全部を棄却する旨判決を変更した。福州米廠は、これを不服として最高人民法院に再審を申し立てたが、最高人民法院は、本件に提審をして次の通り判示した。五常公司には、「稲花香」が法律に定める普通名称に該当することを証明する証拠がなく、また、農作物品種査定規則に定める普通名称と商標法上の意義における普通名称とでは意味が完全には同じではないので、査定公告に付された名称のみを根拠として当該名称が商標法上の意義における普通名称に該当すると認定することはできない。査定公告に付されたもとの開発名は「稲花香2号」であって、「稲花香」ではないので、本件商標が既に先に商標登録を受けている事情の下においては、「稲花香」が法律に定める普通名称であることを直接証明することはできない。結果、最高人民法院によって第二審判決を取り消し、第一審判決を維持する判決が下された。

【典型的意義】本件は、登録商標専用権と品種の名称との間の関係、普通名称の判断基準などの論点に関するものである。本件で関係している「稲花香2号」は、中国の米の主要産地である黒竜江省五常地域の優良水稲品種で、事件の審理は業界からも広く注目され、処理の結果も「稲花香2号」という水稲品種の正常な生産事業活動と市場秩序を規律することにより直接的に関係するものであった。最高人民法院は、法律に定める普通名称と広く一般的に使用されるようになった普通名称との判断基準、登録商標専用権と品種の名称との間の相違、関係などの商標法におけるいくらかの重要な法律問題について詳細に判示することで、この種の事件の裁判基準を明らかにしている。また、登録商標権者と品種の名称の使用者との間の利益関係の衡平もよく図られており、商標権が十分に保護されるという前提で、公平で整えられた市場競争秩序が守られるようにもなっている。

4.「マーカッシュクレーム」特許無効行政紛争事件

国家知識産権局特許審判委員会と北京万生薬業有限責任公司、第一三共株式会社の間で争われた発明特許権無効行政紛争事件〔最高人民法院(2016)最高法行再41号行政判決書〕

【事件の概要】第一三共株式会社は、名称を「高血圧症を治療又は予防するための医薬組成物の製造方法」とする発明特許(すなわち、本件特許)の権利者である。本件特許の請求項は、マーカッシュ形式で記載されていたが、北京万生薬業有限責任公司(以下「万生公司」という)から、本件特許の進歩性欠如等を理由として国家知識産権局特許審判委員会(以下「特許審判委員会」という)に無効審判が請求された。2010年8月30日、第一三共株式会社は、請求項について、請求項1中の「又はその薬用とすることのできる塩もしくはエステル」のうち「もしくはエステル」と、R4を定義しているもののうち「1から6個の炭素原子を有するアルキル基」と、R5を定義しているもののうちカルボキシル基および式COOR5aを除くその他の技術的解決手段と、を削除することを含む訂正を行ったが、特許審判委員会からは、口頭審理の過程で、請求項1中の「もしくはエステル」を削除する訂正は認めるが、その余の訂正は特許法実施細則第68条の関係規定に適合しないので、当該訂正書類は受け入れられない旨が第一三共株式会社に告知された。第一三共株式会社と万生公司のいずれもこれに異議がなく、2011年1月14日、第一三共株式会社は、請求項1中の「もしくはエステル」を削除する訂正後の特許請求の範囲の差替頁を提出した。特許審判委員会は、本件特許の請求項1が証拠1と対比して自明のものでなく、進歩性を有し、特許法第22条第3項の規定に適合すると認定し、第16266号無効審判請求審決(以下「第16266号審決」という)を下して、第一三共株式会社が2011年1月14日に提出した訂正書類に基づいて本件特許権の有効を維持したので、万生公司は、これを不服として行政訴訟を提起した。第一審人民法院も、特許審判委員会が、特許法実施細則第68条の規定に適合しないとして第一三共株式会社が2010年8月30日に提出した訂正書類を受け入れなかったのは特段不当でなく、本件特許の請求項1は証拠1と対比して自明のものでなく、進歩性を有すると認定し、第16266号審決を維持する旨の判決を下したので、万生公司は、またこれを不服として上訴を提起した。結果、第二審人民法院は、マーカッシュクレームは並列的な技術的解決手段の特殊な類型に属するもので、また、第一三共株式会社が2010年8月30日に提出した訂正書類は、本件特許権の保護範囲を減縮するものであるので、特許法実施細則第68条第1項の規定に適合すると認定した。そして、本件特許の請求項に含まれる1つの具体的な実施例の効果は、先行技術の証拠1のうち実施例329の効果に相当するので、本件特許の請求項1は、予期し得ない技術的効果を収めておらず、進歩性が欠如するとして、第一審判決及び第16266号審決を取り消し、改めて審決を下すよう特許審判委員会に命じる判決を下したので、特許審判委員会は、これを不服として最高人民法院に再審を申し立てた。最高人民法院は、本件に提審をする旨の決定をした後、第二審判決を取り消して第一審判決を維持する旨の判決を下したが、次のように判示している。マーカッシュ形式で記載された化合物の請求項は、多くの化合物の集合でなく、一種の上位概念化された技術的解決手段と解されるべきである。訂正によって新しい特性や作用のある種の又は個々の化合物を生じさせてはならないことがマーカッシュクレームの訂正が許される原則とされるべきであるが、同時に個別事件の事情も十分に勘案されなければならない。マーカッシュ形式で記載された化合物の請求項の進歩性判断にあたっては、進歩性判断の基本的方法として特許審査指南に定める「3ステップ法」に従うべきであり、予期し得ない技術的効果は、進���性を判断する上での補助的要素にすぎないので、原則として、「3ステップ法」を踏み越えて、予期し得ない技術的効果を有することを直接適用して特許出願の進歩性の有無を判断することは相当でない。

【典型的意義】本件は、マーカッシュクレームの性質、無効手続における訂正の原則及び進歩性の判断方法などの論点に関するものである。マーカッシュクレームは、化学‐医薬分野の発明特許で比較的特殊な請求項の記載形式であるが、その特有の上位概念化する機能により、これらの分野で日増しに広く利用されるようになっている。マーカッシュクレームの性質、訂正の原則及び進歩性の判断基準などの問題は、化学‐医薬分野における数多くの技術的解決手段の出願や権利化に直接影響するので、業界や学術界から強く注目され続けていた。最高人民法院は、本件において、マーカッシュクレームの性質が、化合物の集合としての性質でなく上位概念化された技術的解決手段であること、マーカッシュクレームの訂正は、新しい特性や作用のある種の又は個々の化合物を生じさせないことを基本的条件としなければならないこと、マーカッシュ形式で記載された化合物の請求項の進歩性判断にあたっては、「3ステップ法」に従わなければならないことを明らかにしている。このため、本件は、上記の重要な法原則を明らかに確認したものとして、化学‐医薬分野における特許出願の書類作成と審査に指導的意義を有している。

5.「新華字典」商標権侵害及び不正競争紛争事件

商務印書館有限公司と華語教学出版社有限責任公司の間で争われた商標権侵害及び不正競争紛争事件〔北京知的財産法院(2016)京73民初277号民事判決書〕

【事件の概要】1957年から現在まで、『新華字典』の通行版本は、商務印書館有限公司(以下「商務印書館」という)から第11版まで継続して刊行されているが、商務印書館により刊行された『新華字典』は、2010~2015年の字典等の書籍市場における平均占有率で50%を超えていて、2016年までの全世界における発行部数で5億6700万部を超えており、ギネス世界記録の「最も人気のある字典」と「最も売れている書籍(定期的に改訂)」となるなど多くの栄誉に輝いている。しかし、商務印書館は、華語教学出版社有限責任公司(以下「華語出版社」という)が『新華字典』の辞書を生産‐販売する行為が、商務印書館の未登録の著名商標「新華字典」を侵害しており、また、有名商品である商務印書館の『新華字典』(第11版)に特有の包装‐装飾を華語出版社が使用する行為が不正競争を構成しているとして、商標権侵害及び不正競争行為の即時停止、影響の除去、経済的損害の賠償を命じる判決を人民法院に請求した。第一審人民法院は、次のように判示した。「新華字典」は、特別な歴史的起源、発展の経緯、長期間に渡って唯一の提供主体、客観的な市場構成を有しており、また、製品とブランドを保持する混合的な属性の商品名は、既に関係消費者において安定的な認識、関連付けを形成していて、商品の出所を示す意義及び役割を有しており、商標としての顕著な特徴を備えている。「新華字典」は、既に全国範囲で関係公衆に広く知られていて、既に大きな影響力と高い知名度を獲得しているので、未登録の著名商標であると認定することができるものであり、華語出版社が字典に「新華字典」を使用することは、他人の未登録の著名商標を複製する侵害行為を構成する。『新華字典』(第11版)に使用されている装飾に現されている文字、模様、色彩及びそれらの配列‐組合せは、商品の出所を識別させ、区別させる役割を有し、特有性を備えるものであるので、華語出版社が類似の装飾デザインを辞典の商品に使用することは、商品の出所について関係公衆の誤認混同を生じさせるに足るものであり、不正競争防止法第5条第2号に規定する不正競争行為を構成する。このため、第一審人民法院から、侵害行為を直ちに停止して、影響を除去した上、商務印書館の経済的損害300万元及び合理的な支出27万元余を賠償するよう華語出版社に命じる判決が下された。

【典型的意義】本件は、未登録の著名商標の保護に関する典型的事例で、事実認定、法適用及び利益衡量などの複雑な問題にも関係するものである。本件では、「新華字典」のような製品とブランドを兼ね備える混合的な属性の商品名が商標としての顕著な特徴を備えるか否かという裁判基準が確立され、「新華字典」に対する関係公衆の認知の程度、「新華字典」の継続して使用された期間、販売数、宣伝範囲及び保護を受けた記録などの多方面の要素を考慮して、原告‐商務印書館の「新華字典」が未登録の著名商標であると認定された。また、「新華字典」に未登録の著名商標としての保護が与えられながらも、そのことと出版業の正常な事業管理秩序、知識‐文化の伝達促進との関係、バランスも重視されたものとなっている。判決でも明らかに指摘されているように、商標を独占して使用する権利に対する商標法の保護は、商標それ自体を対象とするものであって、商標に付随する商品を対象とするものではないので、商標「新華字典」を独占的に使用する権利を商務印書館に認めたことは、字典のような辞書を刊行する専有権までも同公司に与えたものでなく、辞書業界での独占を引き起こすことにはならない。むしろ、商標としての保護を与えることで、商標権者は、品質を保障する法定の義務と知識を伝達する社会的責任とをより一層引き受けるよう促され、出版業の規律と秩序ある発展を促進することにも資すると考えられる。

6.「茅盾直筆原稿」著作権紛争事件

沈韋寧、沈丹燕、沈邁衡と南京経典拍売有限公司、張暉の間で争われた著作権帰属‐著作権侵害紛争事件〔江蘇省南京市中級人民法院(2017)蘇01民終8048号民事判決書〕

【事件の概要】茅盾が1958年に毛筆で書いて創作した書評『談最近的短篇小説(最近の短編小説を語る)』が雑誌社に投稿され、その書評の文章内容が『人民文学』1958年6月号で公表された後、その直筆原稿の原作品は張暉が所持していた。2013年11月13日、張暉が本件直筆原稿を含む複数の物品のオークションを南京経典拍売有限公司(以下「経典拍売公司」という)に依頼したところ、経典拍売公司は、2013年12月30日に、デジタルカメラで撮影した本件直筆原稿の高解像デジタル画像をアップロードし、同公司のウェブサイト及び微博で、画像と文章を組み合わせた態様で直筆原稿を宣伝‐紹介した。公衆は、経典拍売公司のウェブサイトを閲覧すれば、本件直筆原稿の全容を見ることができ、ウェブページのルーペ機能で直筆原稿の各頁の細かな部分まで観察することができていた。さらに、経典拍売公司は、特別展覧の際に本件著作物の原作品を展示して、本件競売品が印刷されたパンフレットを参観者に提供することもしていた。2014年1月5日、本件直筆原稿は、経典拍売公司が開催した2013年晩秋中国書画特別オークションで競売され、訴外者に1050万元の価格で落札されたが、その後、落札者が支払いをしなかったためオークションの取引は不成立となり、本件直筆原稿の原作品は、なおも張暉が所持することになった。オークションが終了した後も、経典拍売公司は、インターネット上で本件直筆原稿を展示し続けていたが、2017年6月までにはそれを削除している。しかし、茅盾の適法な承継人である沈韋寧、沈丹燕、沈邁衡は、張暉及び経典拍売公司による上記の行為が本件直筆原稿の著作権を侵害していると主張して人民法院に出訴した。第一審人民法院からは、本件直筆原稿の情報ネットワーク伝達権を侵害する行為を停止した上、沈韋寧、沈丹燕、沈邁衡の経済的損害10万元を賠償するよう経典拍売公司に命じる判決が下されたが、沈韋寧、沈丹燕、沈邁衡が第一審判決を不服として上訴を提起したところ、第二審人民法院は、次のように判示した。本件直筆原稿は、言語の著作物でもあり、美術の著作物でもあるが、張暉は、本件直筆原稿の適法な所有権者であり、競売によって自己の適法な財産を処分することを選択する権利を有するので、張暉の行為は、本件直筆原稿の著作権を侵害するものではない。一方、経典拍売公司は、美術の著作物としての本件直筆原稿の公表権、複製権、情報ネットワーク伝達権を侵害しているので、侵害を停止して、謝罪し、損害賠償をすべき侵害責任を負うべきである。このため、第二審人民法院から、沈韋寧、沈丹燕、沈邁衡に対し公開で謝罪し、経済的損害10万元を賠償するよう経典拍売公司に命じる判決が下された。

【典型的意義】本件は、美術の著作物のオークション活動において著作権法、物権法、競売法の3つの法律の交錯を調整すべき領域の関係主体の権利義務関係の論点に関するものである。判決では、物権者と著作権者の適法な権利利益の衡平が図られ、知的財産保護についての競売者の注意義務が明らかにされている。また、判決では、美術の著作物の著作権と物権が分離している場合において、原作品の所有者が処分権、収益権、展示権を適法に行使する行為は、いずれも法律の保護を受けるものであり、著作権者には干渉する権利がないが、美術の著作物の原作品の所有者による物権の行使は、当該著作物の著作権者の適法な権利を害しないことが前提とされなければならないことも指摘されている。オークション会社は、物権者の委託を受けた競売者として、物権の保護についての注意義務を負う以外に、さらに、著作権保護についての合理的な注意義務も負担し、慎重に著作権者の権利を回避して、ルールを守って責任を果たしながらオークション活動を行わなければならない。判決では、それぞれの主体の権利の限界が明らかにされているが、物権者と著作権者の適法な権利利益を衡平に保護するという司法の精神も現されていて、競売者が責任を果たす上での合理的な基準によって競売者の注意義務も定められており、厳格に保護するための司法による導きも十分に示されている。

7.「ランドローバー」商標権侵害紛争事件

ジャガーランドローバー自動車公開有限会社と広州市奮力食品有限公司、万明政の間で争われた商標権侵害紛争事件〔広東省高級人民法院(2017)粤民終633号民事判決書〕

【事件の概要】ランドローバー社の関連企業は、中国国内で1996年に第808460号商標について、2004年に第3514202号商標「路虎」(ランドローバー)について、2005年に第4309460号商標「LANDROVER」について、それぞれ相次いで商標登録出願をしているが、これらの商標は、いずれも第12類の「陸上原動機付車両」などを指定商品としていて、高い知名度を有しており、後に譲渡されてランドローバー社の名義となっていた。しかしながら、広州市奮力食品有限公司(以下「奮力公司」という)により、ウェブサイト、実体店舗で同公司の「路虎ビタミン飲料」と関連製品が宣伝‐販売され、「路虎」、「LANDROVER」、「Landrover路虎」及び上下に配列された「路虎LandRover」などを含む被訴標章が包装箱とウェブページの宣伝に使用されていた。また、奮力公司は、2010年に第30類の「非医療用栄養液」と第32類の「アルコールを含有しない飲料」などの商品について商標「路虎LANDROVER」の商標登録出願をしたことがあったが、いずれも商標登録は認められていない。そこで、ランドローバー社が、奮力公司の行為が侵害を構成するとして訴えを提起したところ、第一審人民法院から、侵害を停止した上、ランドローバー社に対し経済的損害及び権利行使のための合理的な支出120万人民元を賠償するよう奮力公司に命じる旨の判決が下された。また、第二審人民法院も、ランドローバー社の提出した証拠は、本件商標が既に中国国内の社会公衆に広く知られていて、著名という程度に達していることを証明するのに既に十分なものであると認定し、被訴侵害行為は、ランドローバー社の本件著名商標が有する顕著性と良好な営業上の信用を希釈化し、ランドローバー社の利益を害するものであるので、差し止められるべきとして、上訴を棄却し、原判決を維持する旨の判決を下している。

【典型的意義】本件は、著名商標を区分を越えて保護することで、知的財産保護を強化した典型的事例である。本件の裁判では、著名商標保護事件において遵守すべき「必要に応じて認定」し、「個別事案において認定」するなどの基本原則が現されている以外に、奮力公司が本件の被訴侵害標章のほかにもさらに大量の有名企業や有名人に関係する商標の冒認登録行為を行っていたことで、主観的な悪意により侵害行為に及んだことが明白であった点がその特別な点である。このため、本件の裁判では、賠償額決定の面でも、120万元という賠償額を決定するにあたっての事実上及び法律上の根拠が全面的かつ極めて詳細に論じられており、悪意をもって商標を囲い込む行為を阻止せんとする司法の態度を世に知らしめるものとなっている。本件には、著名商標の保護を強化して、商標を悪意により冒認登録する行為を規制し、知的財産を尊重するよう社会公衆を導くなどの点で、裁判の指針と模範を示すよい効果があるといえる。

8.「博Ⅲ優」植物新品種権侵害紛争事件

四川中正科技有限公司と広西壮族自治区博白県農業科学研究所、王騰金、��振卓、四川中昇科技種業有限公司の間で争われた植物新品種権侵害紛争事件〔広西壮族自治区高級人民法院(2017)桂民終95号民事判決書〕

【事件の概要】博Ⅲ優273は、品種権共有者を広西壮族自治区博白県農業科学研究所(以下「博白農科所」という)、王騰金、劉振卓として植物新品種権を取得した。博ⅢAも植物新品種権を取得しているが、これは、博Ⅲ優9678、博Ⅲ優273の親で、植物新品種としての博ⅢAの品種権者は博白農科所である。2003年11月2日、博白農科所は、四川中昇科技種業有限公司(以下「中昇公司」という)と『品種使用権譲渡契約書』(すなわち、2003年契約書)を締結して「博Ⅱ優815」、「博Ⅲ優273」の使用権を中昇公司に譲渡して独占的に開発に使用させることを約した。2007年11月16日、中昇公司と博白農科所は、再び『契約書』(すなわち、2007年契約書)を締結して、博白農科所が博Ⅲ優9678、博Ⅱ優815の品種使用権を中昇公司に譲渡して独占的に開発に使用させること(博Ⅱ優815については、広東地域のみに限定)、中昇公司が引き続き博Ⅲ優273の開発使用権を有すること、博白農科所に博Ⅲ優9678、博Ⅱ優815(広東地域のみに限定)の品種権を第三者に譲渡又はライセンスすることは認められず、違反すれば、中昇公司の関連損害を賠償しなければならないことを約し、この契約書が締結されて発効した後、2003年契約書の実施は終了するとしていた。2008年1月7日、博白農科所は、博Ⅲ優9678、博Ⅲ優273を生産事業に用いることを中昇公司に許諾したが、博ⅢAは、博Ⅲ優9678、博Ⅲ優273をかけ合わせるためだけに用いるとされ、その他の商業用途に用いることが認められず、許諾期間は、2008年1月7日から2012年12月31日までとされた。しかしながら、四川中正科技有限公司(以下「中正公司」という)が中昇公司の許諾と「2007年契約書」の定めを根拠として、博Ⅲ優9678、博Ⅱ優815及び博Ⅲ優273などの品種を事業化したので、中昇公司は、2011年11月2日、中正公司、博白農科所のそれぞれに通知書を送付して、博Ⅲ優9678、博Ⅲ優273及び博Ⅱ優815(既に市場から撤退)を生産し、事業化することについて中正公司に与えた許諾を2011年11月2日から打ち切り、関連品種の生産権、事業化権は中昇公司が独占的に所有することを決定した旨を通告した。そして、中昇公司が博Ⅲ優273の開発権を有しており、博白農科所に、博Ⅲ優9678、博Ⅲ優273及び博Ⅱ優815の雄性不稔系と回復系をさらに中正公司に提供することは認められていないので、博白農科所、王騰金、劉振卓、中昇公司は、中正公司が2011年11月2日の後にもなお博Ⅲ優9678、博Ⅲ優273の種子の生産を他人に依頼している行為が侵害を構成すると主張して、人民法院に訴えを提起した。第一審人民法院では、中正公司の行為が本件植物新品種権を侵害していると認定され、侵害行為を停止して、影響を除去した上、経済的損害180万元を賠償するよう中正公司に命じる判決が下されたが、第二審人民法院では、次のように判示された。博ⅢA、博Ⅲ優273の2つの植物新品種には、適法に維持年金が納付されていないことから2013年11月1日に権利の消滅が公告されており、2014年12月4日になって権利の回復がされるも、2015年11月1日にまた適法に維持年金が納付されていないことから権利の消滅が公告されているので、博ⅢA、博Ⅲ優273のこれら2つの植物新品種権が依然有効であると第一審判決が認定したことは本件の事実と一致せず、中正公司の関係上訴理由は成立するものである。賠償額の決定にあたっては、当事者のいずれもが認めた1畝当たりの収量、販売価格及び中正公司の認めた生産面積、中昇公司が突然許諾を打ち切ったことによって中正公司が不可避的に被った損失、侵害の継続期間、本件植物新品種の実施許諾料の金額及び実施許諾の種類、期間、範囲などの具体的事情といった要素を総合的に勘案しなければならない。このため、第二審人民法院は、事情を酌量した結果、中正公司が博白農科所、王騰金、劉振卓、中昇公司の経済的損害40万人民元を賠償すべき旨を決定した。

【典型的意義】本件は、植物新品種権の保護に関する典型的事例である。植物新品種権を侵害する行為は、司法実務上、次の2通りのタイプに分けられる。第1は、品種権者の許諾を受けることなく、権利付与された品種の繁殖素材を商業目的で生産又は販売することで、第2は、品種権者の許諾を受けることなく、権利付与された品種の繁殖素材を商業目的で他の品種の繁殖素材の生産に反復して使用することである。本件は、これら2通りの侵害行為の判定に同時に関係しており、法適用の面で典型性を有するものである。このほか、植物新品種権は、保護期間内に断続的に消滅状態に置かれることがあって、これは、他の種別の知的財産権侵害訴訟には見られない特殊性であるが、本件の裁判は、植物新品種権の保護における特殊な要素を十分に考慮して、侵害行為と賠償額について正しい認定をしているので、類似の事件の裁判に対してルールの手引きのような意義を有している。

9.「反射材料」営業秘密紛争事件

鶴壁市反光材料有限公司と宋俊超、鶴壁睿明特科技有限公司、李建発の間で争われた営業秘密侵害紛争事件〔河南省高級人民法院(2016)豫民終347号民事判決書〕

【事件の概要】宋俊超は、2006年から鶴壁市反光材料有限公司(以下「反光材料公司」という)の従業者として、主に一部の省における販売及び顧客開拓業務を担当していた。反光材料公司は、宋俊超と前後して2件の労働契約を締結し、秘密保持条項と競合制限条項について定めていたほか、その営業上の情報についても秘密保持制度を定め、顧客及び潜在顧客の情報について必要な秘密保持措置を講じるとともに、宋俊超及びその他の従業者にも秘密保持手当を支払っていた。鶴壁市睿欣商貿有限公司(すなわち、鶴壁睿明特科技有限公司の前身で、以下「睿欣公司」という)は、2011年6月22日に設立され、鋼材、建材、小型金物類‐電気器材、塗装鋼板、反射柵を事業範囲としていたが、睿欣公司の営業している間、宋俊超は、宋翔の名で睿欣公司の工商登記手続に関する事務に参与していた。睿欣公司の銀行勘定からは、2011年8月1日から2015年7月31日までの間、睿欣公司と反光材料公司とで複数の取引をした顧客が重なっていて、宋俊超が睿欣公司の口座から個人名義で何度も引き出していることが示されていたので、反光材料公司は、営業秘密の侵害を理由に宋俊超らを人民法院に訴えた。結果、第一審人民法院は、宋俊超、睿欣公司の行為が反光材料公司の営業秘密に対する共同侵害となると認定したが、第二審人民法院も次のように判示している。反光材料公司の提出した取引記録及び顧客の取引伝票によれば、その中の「品種」、「規格」、「数量」から顧客の独特のニーズが示されていて、「取引成立日」から顧客が商品を求めるパターンが反映されていて、「単価」から顧客の価格受容能力と価格成立の最低ラインが示されていて、「備考」から顧客の特別な情報が反映されているということができるが、これらの内容は、反光材料公司の営業上の情報のうち秘密とされる点である。これらの営業上の情報は、そこで関係している顧客が既に反光材料公司と安定的な仕入ルートを形成していて、良好な取引関係を保持しているので、生産事業において有用性を有し、反光材料公司に経済的利益と競争上の優位性をもたらすことのできるものである。また、反光材料公司は、これらの営業上の情報について具体的な秘密保持制度を定め、顧客及び潜在顧客の情報について必要な秘密保持措置を講じ、宋俊超と秘密保持条項、競合制限条項を明確に約定して、宋俊超及びその他の従業者に相当の秘密保持手当を支払っていたことから、反光材料公司がこれらの営業上の情報について合理的な秘密保持措置を講じていたことが証明される。これらのことから、反光材料公司の作成した顧客名簿は、営業秘密を構成すると認定することができる。宋俊超が業務上接触した営業上の情報についての秘密保持義務を含む忠実義務を反光材料公司に対して負っていたにもかかわらず、同公司の関係管理規定並びに顧客名簿の非公知性及び商業的価値を明らかに知りながら、なお反光材料公司の顧客と密かに無断で取引をし、さらに、睿欣公司に頻繁に往来していたことは、反光材料公司の営業上の情報を開示し、使用し、他人に使用させる行為を構成し、反光材料公司の営業秘密を侵害したものというべきである。また、睿欣公司も、宋俊超の掌握していた反光材料公司の保有する営業秘密を不正に取得し、使用したのであるから、宋俊超、睿欣公司の行為は、反光材料公司の営業秘密に対する共同侵害となるが、睿欣公司は既に睿明特公司に変更されているので、侵害責任は、睿明特公司が負担すべきである。

【典型的意義】本件は、営業秘密の保護に関する典型的事例である。営業秘密事件は、証拠が複雑で隠れているため、一般的に審理は非常に困難とされており、特に、従業者の退職等によってもたらされる営業秘密保護の問題は、常に司法実務上の困難な課題であった。本件の判決は、営業秘密事件における「公衆に知られていないこと」、「秘密保持措置」、「商業的価値」及び賠償責任の決定などの重要な法律問題について具体的事情を勘案して詳細かつ全面的な説示をしたものであり、類似の事件の審理に対してルールの手引きのような高い意義を有している。また、本件では、従業者の退職後の秘密保持義務を強調して、信義誠実という価値基準を唱導することにも重点が置かれている。

10.「易査ネット」著作権侵害罪事件

北京易査無限信息技術有限公司、于東による著作権侵害罪事件〔上海市浦東新区人民法院(2015)浦刑(知)初字第12号刑事判決書〕

【事件の概要】被告団体‐北京易査無限信息技術有限公司(以下「易査公司」という)は、「易査ネット」の運営事業者である。同公司の法定代表者兼技術責任者である于東がタッチスクリーン版の小説製品を開発するプランを考案したことにより、易査ネットは、WEB小説のウェブページをWAPウェブページにトランスコードしてモバイルユーザーの閲覧に供している。しかしながら、易査公司のサーバーのハードディスクが公安機関に差し押さえられて、鑑定要員がこれでローカルエリアネットワーク環境下における「易査ネット」を構築したところ、小説を検索して、閲覧し、ダウンロードできることが発見された。さらに、鑑定要員がハードディスクからダウンロードされた798本の小説と玄霆公司が著作権を有する同名の小説とを対比したところ、同じバイト数が全バイト数の70%以上を占めると判断されたものが588本もあった。このことについて、「易査ネット」は、コンテンツサービスでなく、検索及びトランスコードサービスの提供を想定して開発したものであり、ユーザーが検索して閲覧をタップすれば、ソースウェブページがトランスコードされてからハードディスクに一時コピーされてキャッシュが形成され、ユーザーの閲覧に供されるが、ユーザーが閲覧ページを離れると、当該キャッシュは自動的に削除されると被告人及びその弁護人は主張している。しかし、鑑定によって確認された事実から分かるように、「易査ネット」は、その所謂「一時コピー」されたコンテンツを、「トランスコード」をトリガーしたユーザーに伝送した後、直ちにそのコンテンツをサーバーのハードディスクから自動的に削除するものではなく、「コピー」された小説のコンテンツは、なお他のユーザーにより再利用が可能であるため、これらの行為は、トランスコード技術に必要なプロセスを明らかに超えているものである。これらのことから、「易査ネット」は、ネットワークユーザーに本件言語の著作物を直接提供していると認定されるので、易査公司が著作権者の許諾を受けることなく、他人が著作権を有する言語の著作物500件余を「易査ネット」を通じて伝達したことは、情状が重く、著作権侵害罪を構成しているとされた。また、于東も、易査公司の直接の責任者として著作権侵害罪の刑事責任を負うべきとされた。本件において、易査公司及び于東には、自首して、賠償により被害団体の宥恕を得ているなど、酌量して処罰を軽くする情状があったので、人民法院からは、本件犯罪の情状、結果を総合的に考慮して、法に基づき団体を罰金に処し、于東を執行猶予付きの罰金に処する判決が下された。判決が言い渡された後、易査公司、于東は、いずれも上訴を提起していない。

【典型的意義】トランスコード技術は、モバイル閲覧が徐々に普及していくに伴って生まれた技術で、本件は、モバイル閲覧サイトでトランスコード技術を不当に使用することによって著作権侵害罪を構成した事件である。判決では、「トランスコード」技術が実施される上での特徴と必要な限度について詳細な説示がなされ、情報ネットワーク伝達行為の本質に立ち返って、「トランスコード」する行為が罪であるか罪でないかの境界が明らかにされた。本件では、技術が飛躍的に発展していく時代背景にあって、司法による知的財産保護において技術的な中立性を堅持しながら、どのように技術的事実を勘案して、関係技術が法の範囲を超えているか否かを鋭意明らかにするかと、他人の法的な権利��侵害となる基準とがよく現されている。技術を隠れ蓑にしていて、侵害の情状が重く、知的財産犯罪の構成要件に適合する行為については、法に基づき刑事罰が科されるべきである。本件の裁判の結果は、科学技術の進歩によってもたらされた新しいタイプの犯罪行為を人民法院が取り扱うに際しての司法の英知と能力を十分に示し、知的財産権を侵害する犯罪行為を法に基づき取り締まる力と決意を世に知らしめるものとなった。