【知財高裁平成29年2月23日平28(ネ)10009号・平成28(ネ)10033号

(審東京地裁平成27年12月10日平成27年(ワ)第2587号・平成27年(ワ)第7096号)】

【キーワード】

不正競争防止法2条1項1号,形態,商品等表示,吸水パイプ,周知,需要者,不正競争防止法2条1項15号,虚偽の事実,告知,過失

第1 事案の概要

 第1事件は,観賞用水槽内の水を排出するための吸水パイプである原告各製品を販売する控訴人が,同様の吸水パイプである被告各製品を販売する被控訴人に対し,被告各製品の形態は控訴人の商品等表示として広く認識されている原告各製品の形態と類似しており,その販売は不正競争防止法(平成27年法律第54号による改 正前のもの。以下「法」という。)2条1項1号所定の不正競争に当たると主張して,法3条に基づき被告各製品の譲渡等の差止め及び廃棄を,法4条に基づき損害 賠償金543万1200円及びこれに対する不正競争の後の日である平成27年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 第2事件は,被控訴人が,控訴人が多数の小売店等に対し本件文書を送付した行為が虚偽事実の告知として法2条1項14号(現15号)所定の不正競争に当たると主張して,控訴人に対し,①法3条1項に基づき上記不正競争に係る事実の告知等の差止めを,②法4条に基づき損害賠償金100万円及びこれに対する不正競争の後の日である平成27年1月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。」 本稿では,紙面の都合上,不正競争防止法2条1項15号については損害賠償請求にかかる判示についてのみ取り上げる。

 

 

 

第2 判旨(下線は筆者による)

1 原告各製品の形態が商品等表示に当たるかについて

 「不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにある。 同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容 器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,例外的に,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,同法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる 顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が,特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要する(周知性)ものと解するのが相当である。そして,同号の不正競争は,自己の商品又は営業を他人の商品又は営業と混同させる行為を規制したものであり,被疑侵害物品又は営業を周知な商品等表示の付された他人の商品又は営業と混同する者は,被疑侵害物品又は営業の需要者であるから,商品等表示が周知であるか否かは,被疑侵害物品又は営業の需要者を基準として判断すべきである。」 「原告各製品の特徴のうち,①全体が無色透明なガラス製吸水パイプであること,②長い方の下端が丸まって閉塞していること,③長い方の下端外面に水平なスリット状の吸水口が複数併設されていること,という形態上の特徴は,原告各製品以外の他社製品には見られないものであるから,被告各製品販売開始前までに,特別顕著であるといえるか否かはさておき,原告各製品が有する,他の同種商品とは異なる特徴的な形態であったということができる。」 「①被告各製品は吸水パイプであって水草栽培のみならず魚の飼育にも用い��ことができること,②その包装に記載された説明からは小魚を飼育する水槽で用いられることが予定されていること,③魚の飼育を趣味とする者が訪れる店舗で販売されること,④通信販売でも熱帯魚飼育用品に分類され,小魚を飼育する水槽で使用することを前提とする説明文が付されていることからすれば,被告各製品の需要者は,水草栽培を趣味とする者ばかりではなく,魚の飼育を趣味とする者を広く含むと解される。 他方,原告各製品を含む控訴人の製品は,高額な宣伝広告費を費やし,各種雑誌に掲載されるなどして,主に水草栽培を趣味とする者を対象として宣伝広告された。しかし,原告各製品の上記①~③の形態のうち,②長い方の下端が丸まって閉塞していることについては,雑誌に掲載された広告の写真上も判然としないことが多く,閉塞していることが文章でも説明されておらず,③水平なスリット状の吸水口があることについては,雑誌の一部に説明文が付されているものの,その時期は平成15年と同19年に限られ,写真上も判然としないことが多い。 また,原告各製品が掲載された雑誌のうち,「アクア・ジャーナル」及び「アクアプランツ」は,水草栽培を趣味とする者を対象とした雑誌であるから,魚の飼育を趣味とする者が購読することは少ないと考えられ,「月刊アクアライフ」は,魚の飼育を趣味とする者が購読すると認められるが,頒布部数は不明である。さらに,水草栽培を趣味とする者の市場は水草を含む観賞魚市場全体の1割程度であるものと推測されることに加え,原告各製品の販売数は年間900本程度と,吸水用パイプの市場規模全体は不明であるものの,圧倒的に少ない販売数と考えられる。」 「以上のことからすれば,被告各製品の需要者である水草栽培を趣味とする者及び魚の飼育を趣味とする者の間で,原告各製品の形態が周知となったと認めることはできない。」

 

 

 

 

2 不正競争防止法2条1項14号の不正競争に基づく損害賠償請求の可否について

「不正競争防止法2条1項14号の不正競争といえるためには,「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」を告知したことが必要であるところ,本件文書に記載された事実が「虚偽の事実」であるか否かについて判断する。 本件文書には,①控訴人は,従前から控訴人の製品と類似する製品が他社より販売され, 特に悪質な場合には,法的措置を含めた対応をしてきたこと,②悪質な場合の例として,他社に対して判決により法に基づいて模倣品の販売等の差止めが認められた事例を示した後,被控訴人に対して原告各製品の模倣品の販売中止,損害賠償,在庫の破棄を求めて警告文を送付したこと,③控訴人は,今後も,控訴人の製品と類似する製品を取り扱う業者に対しては同様の措置をとること,が記載されている。 この記載によれば,本件文書では,本件通知書などと異なり,被控訴人が不正競争行為を行ったと明示的な指摘がなされているわけではないが,控訴人が悪質な場合に法的措置を含めた対応をしており,実際に法に基づいて差止めが認められた事例に続いて,被控訴人に対して模倣品の販売の差止め等を求める警告文を送付したことが示されている以上,この文書に接した読者は,その全体の趣旨から,被告各製品は原告各製品の商品等表示として周知である形態と類似の形態を採用したものであって,被控訴人の被告各製品販売は不正競争行為に該当することが指摘されているものと理解することができる。他方,原告各製品の形態は需要者の間で周知であったとは認められないから,商品等表示とはいえず,被控訴人の被告各製品の譲渡等は不正競争行為に該当するものではない。 よって,本件文書は,「虚偽の事実」を記載したものであり,本件文書を送付することは,これを受領した控訴人の販売特約店に対し,被控訴人の信用を害する虚偽の事実を告知するものと認められる。そして,控訴人と被控訴人は,観賞用水槽の吸水パイプという同一用途の商品を扱うものとして競争関係にあるから,控訴人による本件文書の送付は不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当すると認められる。」 「被控訴人は,不正競争防止法4条に基づき,控訴人に対し,損害賠償を求めるから,控訴人の不正競争行為が故意又は過失によるものか否かについて判断する。 控訴人による本件文書の送付行為が不正競争行為となるのは,・・・本件文書から,被告各製品は原告各製品の商品等表示として周知である形態と類似の形態を採用したものであって,被控訴人の被告各製品販売は不正競争行為であると指摘していると理解されるからである。 別件訴訟において,控訴人の販売する水草用ハサミ等の製品の形態が商品等表示に該当すると判断され,控訴人による類似の製品を販売した業者に対する販売差止請求が認められており,しかも,被告各製品の販売開始前には,ガラス製で先を塞ぎスリットを入れた吸水パイプは控訴人の製品しか存在しなかったから,控訴人が,原告各製品についてもその形態の商品等表示性が認められると考える相応の根拠があるといえる。また,被控訴人は,それまでガラス製で先を塞ぎスリットを入れた吸水パイプは控訴人の製品しか存在しなかった市場において,これらの特徴を有する被告各製品を販売したものであるから,控訴人が,被告各製品は,原告各製品の商品等表示である形態と類似の形態を採用したものであると考える相応の理由が認められる。さらに,被告各製品の販売者は被控訴人とは別の業者が表示されており,JAN企業コードも第三者のものが使用されていたから,被告各製品を販売することが違法であると販売者が認識し,販売者が被控訴人であることを隠したい意図があると,控訴人が推測する合理的な根拠も認められる。 以上からすれば,控訴人は,別件訴訟において勝訴したのと同様に,原告各製品についてもその形態の商品等表示性が認められ,これを模倣した被告各製品の販売行為が不正競争行為であると認定されると判断し,本件文書の送付に至ったものと認められ,上記判断には,相応の合理的根拠があるといえるから,本件文書の送付につき,控訴人に故意及び過失があったと認めることはできない。したがって,被控訴人の損害賠償請求は,理由がない。」

第3 検討

 本件では,まず「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)該当性に関する判断のうち,いかなる需要者において「周知」である必要があるかを判示した点が注目される。商品形態の「商品等表示」該当性については,①そもそも「商品等表示」に該当するか否かの判断において周知性が要求されることが多く(近時の裁判例として,東京地裁平成29年8月31日・平成28年(ワ)第25472号を参照),またこれとは別に,②不正競争防止法2条1項1号本文記載の要件としての「周知」性要件も存在する。本判決はいずれの周知性について判断したものであるかは定かではないが,「商品等表示が周知であるか否かは,被疑侵害物品又は営業の需要者を基準として判断すべきである。」旨判示した1。そして,被告製品の需要者は水草栽培を趣味とする者ばかりではなく,魚の飼育を趣味とする者を広く含むとしたうえで,原告各製品が掲載された雑誌のうち,「アクア・ジャーナル」及び「アクアプランツ」は,水草栽培を趣味とする者を対象とした雑誌であるから,魚の飼育を趣味とする者が購読することは少ないことを指摘している。かかる判示からは,周知性立証においては,被告側の製品の需要者における周知性を示す証拠の収集が重要であることが分かる。 また,「商品等表示」であると主張する形態が周知性立証に用いる証拠上判然としない旨指摘されている点からは,「商品等表示」に該当すると主張する形態が証拠上読み取れることが必要であることも分かる。商品形態の「商品等表示」該当性を主張する場合には,特別顕著性を満たすために他に存在しなかった形態を「商品等表示」であると主張していく必要がある一方,かかる形態が周知性立証に用いる証拠上あらわれている必要があり,「商品等表示」の特定も重要な要素といえるだろう。 さらに,本件訴訟においては,被控訴人から控訴人に対する不正競争防止法2条1項14号(現15号)に基づく損害賠償請求について,原審とは異なる判断がなされている点も注目される。すなわち,原審は控訴人の過失を認め同号に基づく損害賠償請求を認容したが,控訴審は,控訴人の過失が否定され,損害賠償請求が棄却されている。本件では,控訴人の別商品について過去に裁判において「商品等表示」該当性が認められたことがあることや,控訴人が「商品等表示」該当性を有すると主張した原告各製品の形態が,過去に原告各製品しか存在しなかったこと等を参酌して過失を否定しており,「虚偽の事実の告知」が認められつつも過失が否定される一例を示したものとして参考になるといえるだろう。

以上 (文責)弁護士 山本真祐子