【平成29年(行ケ)第10168号(知財高裁H30・2・20)】

【判旨】 本件商標に係る特許庁の無効2016-890051号事件について商標法4条1項15号の判断を誤ったことを理由として,取り消した事案である。 【キーワード】 MiSOYA,味噌屋,商標法4条1項11号

事案の概要

【事案の概要】 ⑴ 原告は,下記本件商標の商標権者である。 ⑵ 被告は,平成29年1月25日,本件商標の指定商品及び指定役務中,第43類「飲食物の提供」(以下「本件指定役務」という。)について,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとして,その登録を無効とすることを求めて,商標登録無効審判請求をした(無効2017-890007号)。 ⑶ 特許庁は,上記請求について審理した上,平成29年7月12日,「登録第5851277号の指定商品及び指定役務中,第43類「飲食物の提供」についての登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。

【本件商標】 商標登録 第5851277号 商標の構成 以下のとおり 登録出願日 平成27年6月26日 設定登録日 平成28年5月20日 指定商品及び指定役務 第29類「食用油脂,乳製品,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。),かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,チャウダー,チャウダーのもと,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,豆,食用たんぱく」, 第30類「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー,ココア,氷,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,みそ,ウースターソース,グレービーソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ,角砂糖,果糖,氷砂糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,ごま塩,食塩,すりごま,セロリーソルト,うま味調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,春巻き,春巻きの皮,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,パスタソース,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用グルテン,食用粉類」, 第35類「トレーディングスタンプの発行,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,輸出入に関する事務の代理又は代行,広告用 具の貸与,求人情報の提供,飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」,第40類「食料品の加工,食料加工用又は飲料加工用の機械器具の貸与,浄水装置の貸与,ボイラーの貸与,業務用加湿器の貸与,業務用空気清浄器の貸与,暖冷房装置の貸与」及び第43類「飲食物の提供,業務用加熱調理機械器具の貸与,業務用食器乾燥機の貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,食器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,おしぼりの貸与,タオルの貸与」

【引用商標】

 

争点

 本件の争点は,本件商標が,引用商標との関係で,商標法4条1項11号に該当するか否かである(原告は,このほかに本件審決に係る請求人適格を争っているが,この点については省略する。)。

判旨抜粋(証拠番号等は適宜省略する。)

 原告は,本件指定役務と引用商標の指定役務とが類似するとしても,本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断は誤りであると主張するので,以下,検討する。 なお,引用商標1の指定役務「中華料理を主とする飲食物の提供」及び引用商標2の指定役務「ラーメンの提供」は,本件指定役務「飲食物の提供」に含まれるものと認められる。 (1) 本件商標と引用商標の類否について ア 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品又は役務に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 そして,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないけれども,商標の構成部分の一部が,取引者,需要者に対し商品又は��務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。 イ 本件商標について 本件商標は,前記・・・のとおりの構成であり,黒塗り長方形のほぼ中央の白抜きされた部分に,文字及び落款が大きく表記されているところ,その文字部分は,「MiSOYA」のローマ字を赤色の毛筆風の書体で表記したものであり(「O」の部分のみが黒色で表記されている。),また,その落款には,赤色の背景に白抜きで「味噌屋」の漢字が,樽の図形と共に表されている。 さらに,本件商標は,上記の部分を挟んで,上部に角が丸い横長の長方形の白抜き部分に「RAMEN」の黒色のローマ字,及び,下部に角が丸い横長の長方形の白抜き部分に「みそや」の黒色の平仮名を横書きしてなるものである。 我が国において,外来語以外でも同一語の漢字表記と平仮名(又は片仮名)表記又はローマ字表記が併用されることが多く見られる事情があることに照らすと,中央に大きく太字で表された「MiSOYA」の文字部分は,落款中の「味噌屋」の文字と,下部に表された「みそや」の文字の称呼をローマ字で表記したものと理解されるのが自然である。そして,落款中の「味噌屋」の文字部分は,「味噌」の文字が「調味料の一つ。赤味噌・白味噌などの種類がある。」を,「屋」の文字が,「その職業の家またはその人を表す語。「花屋」「八百屋」。家号や雅号。」を意味する語であることから,全体として「味噌を売る店」を指し,そのような意味合いを理解させるものである。また,「飲食物の提供」という本件指定役務との関係においては,味噌味の飲食物を提供する店との意味合いを認識させるものであるといえる。このことは,中央に大きく太字で表された「MiSOYA」の文字部分についても同様である。 これに対し,本件商標の構成中,上部の「RAMEN」の文字部分は,「ラーメン」,「拉麺」の語を連想させるもので,その称呼をローマ字で表記したものと理解するのが自然であり,「味噌屋」及び「MiSOYA」の文字部分と,外観上まとまりよく一体に表現されているものとは認められない。そして,「ラーメン」,「拉麺」は,「中国風に仕立てた汁そば」(甲10)を意味する語であり,本件指定役務との関係においては,飲食物として提供される対象の一つであって,役務の質を表すものであるから,自他役務の識別標識としての機能を有しないか,又は,極めて弱いものであるといえる。さらに,「RAMEN」の文字部分については,「MiSOYA」の文字と比較してかなり小さく表記されており,注目されにくいことも考慮すると,出所識別標識としての称呼,観念が明確には生じないというべきである。 そして,ありふれた形状・色彩の長方形の図柄に,「MiSOYA」の文字が,最も注目されやすい書体で目立つ位置に付されているのであるから,本件商標に接した取引者,需要者は,「味噌屋」及び「みそや」の文字と相まって,その称呼をローマ字で表記したと理解される「MiSOYA」の文字に強く印象付けられ,これを役務の出所識別標識として認識するものと認められる。 そうすると,本件商標の構成中,上部の「RAMEN」の文字部分と,「味噌屋」及び「MiSOYA」等の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているということはできず,本件商標の構成部分の一部である,落款中の「味噌屋」の文字,中央に大きく表された「MiSOYA」の文字及び下部に表記された「みそや」の文字に照らし,本件商標からは「ミソヤ」の称呼が生じるものと認められる。 また,本件商標からは,上記のとおり,「味噌を売る店」との観念を生じるとともに,「味噌味の飲食物を提供する店」との観念も生じ得るものであると認められる。 ウ 引用商標について (ア)引用商標1について 引用商標1は,前記・・・のとおり,ややレタリングされた書体で「味噌屋」の漢字を縦書きしてなるものであり,「味噌屋」の文字と同様に,「ミソヤ」の称呼を生じ,「味噌を売る店」の観念を生じるものである。また,「味噌屋」については,引用商標1の指定役務である「中華料理を主とする飲食物の提供」との関係においては,味噌味の中華料理を主とする飲食物を提供する店との意味合いを認識させるものといえる。 (イ)引用商標2について 引用商標2は,前記・・・のとおり,右側に小さな文字で「ら~めん工房」と縦書きし,その左側に,一文字分下げたところから,ややレタリングされた書体で「味噌屋」の漢字を縦書きしてなるものである。 そして,引用商標2の構成中,「ら~めん」の文字部分は,「中国風に仕立てた汁そば」等を意味する語であり,「工房」の文字部分は,「美術家や工芸家などの仕事場。アトリエ」等を意味する語であるから,全体として,「ラーメンを作るところ」を指し,そのような意味合いを理解させるものである。そうすると,「ら~めん工房」の文字部分は,「ラーメンの提供」という指定役務との関係においては,役務の質又は役務の提供の場所を表すものというのが相当であって,自他役務の識別標識としての機能を有しないか,又は,極めて弱いものであり,出所識別標識としての称呼,観念が明確には生じないというべきである。これに対し,「味噌屋」の文字部分は,指定役務との関係において,直ちに,具体的な役務の質や提供の用に供する物を表すものということはできず,相応の自他識別力を有するものであるといえる。 したがって,引用商標2の構成中,「ら~めん工房」の文字部分と,「味噌屋」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているということはできず,引用商標2の構成部分の一部である,「味噌屋」の文字に照らし,引用商標2からは「ミソヤ」の称呼が生じ,「味噌を売る店」の観念を生じるものである。また,「味噌屋」については,引用商標2の指定役務である「ラーメンの提供」との関係においては,味噌味のラーメンを提供する店との意味合いを認識させるものといえる。 エ 小括 本件商標と引用商標1及び2とでは,外観を異にするものと認められるものの,称呼としては,本件商標が少なくとも「ミソヤ」との称呼を生じるのに対し,引用商標1及び2も「ミソヤ」との称呼を生じるものであると認められる。また,観念についても,本件商標からは,全体として「味噌を売る店」との観念を生じるとともに,本件指定役務との関係においては,味噌味の飲食物を提供する店との観念も生じ得るものといえるのに対し,引用商標1からは,「味噌を売る店」の観念を生じるとともに,引用商標1の指定役務との関係においては,味噌味の中華料理を主とする飲食物を提供する店との観念も生じ得るものといえる。さらに,引用商標2からも,「味噌を売る店」の観念を生じるとともに,引用商標2の指定役務との関係においては,味噌味のラーメンを提供する店との観念も生じ得るものといえる。 したがって,本件商標と引用商標1及び2とは,称呼と観念とは共通するものと いうことができる。 オ 取引の実情について 引用商標の指定役務「中華料理を主とする飲食物の提供」及び「ラーメンの提供」は,前記のとおり,本件指定役務「飲食物の提供」に含まれるものであるところ,本件指定役務及び引用商標の指定役務は,いずれも基本的には,さほど高価とはいえないものを含む日常的に消費される性質の商品(飲食物)の提供であり,その需要者は,高度の注意力をもって役務の提供を受けるとは限らないから,本件指定役務については,引用商標と同一営業主の提供に係る役務と誤認され,役務の出所について誤認混同を生じるおそれが否定し難いといえる。また,本件指定役務は引用商標の指定役務を包含する役務であり,その取引者,需要者には,広く一般の消費者が含まれるから,役務の同一性を識別するに際して,その名称,称呼の果たす役割は大きく,重要な要素となるというべきである。なお,一般の消費者としては,商標の外観を見て役務の出所を判断することも少なくないと考えられるものの,我が国において,外来語以外でも同一語の漢字表記と平仮名(又は片仮名)表記又はローマ字表記が併用されることが多く見られる事情があることなどを考慮すると,本件指定役務及び引用商標の指定役務の需要者にとって,図形等がほとんど使用されず,文字のみが主体となる商標において,文字種が異なることは,本件商標と引用商標が別異のものであることを認識させるほどの強い印象を与えるものではないといえる(しかも,本件商標が,平仮名,漢字又はローマ字を書してなるものであるのに対し,引用商標は,漢字を書してなるもの(引用商標2では平仮名を含む。)であって,「味噌屋」の文字部分については,本件商標と引用商標に共通するものといえる。)。 そうすると,本件商標と引用商標の類否を判断するに当たっては,上記のような取引の実情をも考慮すると,外観をさほど重視することはできず,外観及び観念に比して,称呼を重視すべきであるといえる。 カ まとめ 以上によれば,本件商標と引用商標は,称呼において同一であり,両商標からは同一又は類似の観念を生じるものといえるから,本件指定役務の需要者にとって,引用商標と同一の称呼を生じる本件商標を付した役務を,引用商標を付した役務と誤認混同するおそれがあるものと認められる。

解説

 本件は,商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本件商標について,引用商標に類似するとして,商標法4条1項11号 1に係る無効原因があるとした。 本件において,裁判所は,特許庁の判断を是認したものである。 本件では,本件商標と,引用商標1及び同2の外観は,大きく異なっていると思われる。しかしながら,裁判所は,氷山印事件の規範に従い,取引の実情として, ① ラーメンの提供等の「飲食物の提供」は,「さほど高価とはいえないものを含む日常的に消費される性質の商品(飲食物)の提供であり,その需要者は,高度の注意力をもって役務の提供を受けるとは限らない」 ② 「取引者,需要者には,広く一般の消費者が含まれるから,役務の同一性を識別するに際して,その名称,称呼の果たす役割は大きく,重要な要素となる」 ③ 「一般の消費者としては,商標の外観を見て役務の出所を判断することも少なくないと考えられるものの,・・・図形等がほとんど使用されず,文字のみが主体となる商標において,文字種が異なることは,本件商標と引用商標が別異のものであることを認識させるほどの強い印象を与えるものではないといえる」 ことを認定して,外観をさほど重視することができないと判断した。 原告は,アンケート結果等を示して,反論しているが,裁判所は,いずれも重視しなかった。 本件は,外観が異なる商標についての裁判所の判断であり,実務上参考となると考えられる。