世界的なCOVID-19流行への対応と「ニュー・ノーマル」パラダイムへの適応が求められる中、本シリーズでは、ヘルスケア・ライフサイエンス産業におけるM&A(企業の吸収・合併)と投資分野で何が起きるのかを模索し、備えることに重点を置きたい。

ヘルスケア・ライフサイエンス産業は、需要と供給の観点で(特に、高齢者の増加、慢性疾病患者の増加、医療技術の革新と進歩、及び発展途上市場でのヘルスケア・システムの拡大等により)依然堅固な産業である。コロナ禍以前において、着実な数のM&Aが見られ、2019年には、日系大手の武田薬品工業がアイルランドに本社を置くシャイアー社を770億ドルで買収したが、これは日系医薬品メーカーによる史上最大の海外企業買収であった。また、Bristol-Myers Squibb社によるCelgene社の買収は、930億ドルにも上り、世界規模のメガディールでさえあった。コロナ禍以前に当事務所がオックスフォード・エコノミクス社と共同でまとめた「グローバル取引案件予報」(Global Transactions Forecast)では、ヘルスケア分野のM&A総額は2,670億ドルであり、2021年にはほぼ3,500億ドルまで増加することを予測した。

 

グローバルレベルでは、コアな医薬品の統合と、ノンコアな事業の売却から成る、高コストで、既存の基準を打ち破るようなビジネスモデルが見られた。また、地域レベル、国内レベルでは、デジタル技術がヘルスケア分野を含め、様々なセクターに好機をもたらす傾向が見られる。医薬品と医療機器分野の大手プレーヤーは、新しい技術とスタートアップ会社の買収により多様化を進め、医薬品、医療機器と技術の両面で事業と商品提供を強化している。同様に、技術会社は、医薬品・医療機器分野へ事業拡大し始めている。コロナ禍の経験は、デジタルヘルスを含むヘルスケアが利益を生む事業であり、このセクターへの投資拡大と参入が増えていることを確証させた。

COVID-19後に「ディスラプション」傾向は続く?

ディスラプションは続くであろう。確かに、コロナ禍により、企業や投資家は、成長戦略、ターゲット、M&A実施についてより慎重に検討するようになったことは否定できない。しかし、移動制限や事務所の閉鎖等ビジネス上の混乱からすれば、コロナ禍によるディスラプションは、コロナウィルスと戦うための抗ウィルス薬、モノクローナル抗体、ワクチン、診断法、医療用品と器具への投資の関心の向上等、新しい好機をもたらした。

コロナ禍によるディスラプションが加速させたもう一つの潜在的な成長領域は、デジタルヘルスケア又は「ヘルステック」である。詳しくは、当事務所の遠隔医療シリーズの記事(英語)を参照されたい。この分野における技術的ニーズと需要がより明確になり、自宅にいる患者に遠隔診断と治療ができ、更にはデバイスを利用し健康情報を正確に確認・分析したり、患者への直接薬品配達が可能となったりすば、コロナ禍のディスラプションによりヘルステック企業やスタートアップの価値が高騰することが見込まれる。

さらに、事業やポートフォリオを多様化させている既存の技術企業からコングロマリットまで、ヘルスケア分野に参入するであろう。

上記の傾向は、アジアとタイにおいてよくあてはまる。大手コングロマリットは、事業を多様させるため、有機的に(例えば、既存技術をベースに商品ラインナップをヘルスケア分野に拡大するなど)、又は合併・買収で、戦略的成長イニシアチブとして、ヘルスケア分野の企業とともに同分野への投資機会を探索し始めている。

2020年もM&Aや投資活動が続くと予想されるもう一つの分野は、ジェネリック医薬品とバイオシミラーに関連する産業である。これは、価格設定の圧力から、タイを含め世界各国政府は、高価な医薬品に代わるジェネリック医薬品とバイオシミラーを促進せざるを得ないためである。確立したジェネリック医薬品メーカーは、新薬への投資や依存が不要なため、人気のターゲットである。

2020年も2021年も、ヘルスケアとライフサイエンス分野でM&A・投資活動が継続的に成長する見込みである。新規プレーヤーにとっても既存プレーヤーにとっても、法律及び規制の観点から、この分野のM&Aと投資のニュアンスを理解することが重要である。

次回は、コロナ禍の中、ヘルスケアとライフサイエンス分野におけるデューデリジェンス実施、買収後の統合、取引契約の準備とアプローチをいかに行うべきかについて、紹介させていただきます。

 

当事務所のサポート

当事務所のヘルスケア&ライフサイエンス・チームは、熟練した産業専門家から構成され、小規模だが複雑な取引から、ライセンシング取引、合弁契約、販売代理・供給契約、製造委託、マーケティング、及び様々な企業法務関連の案件まで、ご要望の取引・薬事規制関連案件に対し、業界特有の事情を踏まえたアドバイスを提供いたします。当事務所のヘルスケア&ライフサイエンス弁護士は、日常的にタイ食品医薬品局等とやり取りを行う科学分野の専門家から成る薬事規制サービス・チームと共に、タイ市場での商品発売における規制要件を満たす上でのお手伝いをさせていただいております。

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