【平成25年6月6日(最一平24(受)349号) 控訴審:平成23年11月24日(大阪高裁平23(ネ)1492号) 第一審:平成23年3月24日(大阪地裁平21(ワ)9595号)】

【判旨】

1 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示した訴えに係る訴訟において,債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断されたため,判決において上記債権の総額の認定がされたとしても,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。 2 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じ,債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができる。

【キーワード】 民法153条,消滅時効、中断

事案の概要

本件は,亡Aの遺言執行者である上告人が,被上告人に対し,亡Aが死亡時に有していた未収金債権(以下「本件未収金債権」という。)の支払を求める事案である。上告人は,既に,本件未収金債権の一部を請求する訴えを提起し,この請求を全部認容する旨の確定判決を得ており,本件訴訟は,その残部を請求するものである。上記の一部請求に係る訴えの提起が残部についても消滅時効の中断の効力を生ずるか否かが争われている。 (事案の時系列) (1)本件未収金債権は,商行為によって生じた債権であり,その消滅時効期間は5年である。 (2)被上告人は,平成12年6月24日,上告人に対し,本件未収金債権につき,残高証明書を発行し,その債務を承認した。 (3)上告人は,平成17年4月16日到達の内容証明郵便で,被上告人に対し,本件未収金債権の支払の催告(以下「本件催告」という。)をした。 (4)上告人は,平成17年10月14日,大阪地方裁判所に対し,被上告人を被告として,本件未収金債権のうち5293万3243円の支払を求める訴え(以下「別件訴え」という。)を提起した。上告人は,別件訴えに係る訴訟において,本件未収金債権の総額は3億9761万2141円であり,その一部である5293万3243円を請求すると主張した。これに対し,被上告人は,本件未収金債権の上記総額には,相殺処理によって既に消滅した分が含まれていると主張した(以下,この主張を「別件抗弁」という。)。大阪高等裁判所は,平成21年4月24日,別件抗弁に理由があると判断した上,現存する本件未収金債権の額は7528万3243円であると認定して,上告人の請求を全部認容する旨の判決(以下「別件判決」という。)を言い渡し,別件判決は同年9月18日に確定した。 (5)上告人は,平成21年6月30日,本件訴えを提起し,別件判決の認定に沿って,現存する本件未収金債権の額は7528万3243円であり,別件訴えに係る訴訟で請求していなかった残部(以下「本件残部」という。)の額は2235万円であると主張して,その支払を請求した。 (6)これに対し,被上告人は,本件残部については,本件催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。

争点

本件残部について、 一 裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるか。 二 裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるか。

判旨抜粋

1~3 ・・・略・・・ 4 所論は,①別件判決においては,本件未収金債権の一部が消滅している旨の別件抗弁に理由があると判断された上,現存する本件未収金債権の額が7528万3243円であると認定されたのであるから,別件訴えの提起は,請求の対象となっていなかった本件残部についても,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずる,②仮に上記①のように解することができなくとも,別件訴えの提起は,本件残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずると解すべきであり,別件訴えに係る訴訟の係属中に本件訴えが提起されたのであるから,本件残部につき確定的に消滅時効の中断の効力が生じているというのである。 5(1)所論①について ア 数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合,当該訴えの提起による裁判上の請求としての消滅時効の中断の効力は,その一部についてのみ生ずるのであって,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない(最高裁昭和31年(オ)第388号同34年2月20日第二小法廷判決・民集13巻2号209頁参照)。そして,この理は,上記訴え(以下「明示的一部請求の訴え」という。)に係る訴訟において,弁済,相殺等により債権の一部が消滅している旨の抗弁が提出され,これに理由があると判断されたため,判決において上記債権の総額の認定がされたとしても,異なるものではないというべきである。なぜなら,当該認定は判決理由中の判断にすぎないのであって,残部のうち消滅していないと判断された部分については,その存在が確定していないのはもちろん,確定したのと同視することができるともいえないからである。 イ したがって,明示的一部請求の訴えである別件訴えの提起が,請求の対象となっていなかった本件残部についても,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるということはできない。 (2)所論②について ア 明示的一部請求の訴えにおいて請求された部分と請求されていない残部とは,請求原因事実を基本的に同じくすること,明示的一部請求の訴えを提起する債権者としては,将来にわたって残部をおよそ請求しないという意思の下に請求を一部にとどめているわけではないのが通常であると解されることに鑑みると,明示的一部請求の訴えに係る訴訟の係属中は,原則として,残部についても権利行使の意思が継続的に表示されているものとみることができる。 したがって,明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり,債権者は,当該訴えに係る��訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。 以下、略

解説

(1)本件は、いわゆる明示的一部請求の訴えの提起と残部についての消滅時効の中断の関係を判示した最高裁判決である。 最高裁は明示的一部請求の訴えにおいて,債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断されたため判決において上記債権の総額の認定がされたとしても,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではないが、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じるとした。このため、債権者は,当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより,残部について消滅時効を確定的に中断することができるとした。 (2)特許権侵害に基づく損害賠償請求訴訟では、原告(特許権者)は、印紙代節約等の観点から、訴訟提起時の損害賠償請求を明示的一部請求とすることが良くある(例えば、訴状の請求の理由では、原告の損害額が数億円を超えるとしながら、請求の趣旨では、その一部のみを請求する。)。この場合、原告は、特許訴訟の「2段階審理」の進行に合わせ、侵害論の結果として裁判所の侵害心証が得られたならば、損害論の審理の前に、請求の趣旨の請求額を(損害額全額に)拡張することになる。 ところで、特許権侵害に基づく損害賠償権の消滅時効は、「損害又は加害者を知った時から3年(民724条)」であるため、特許訴訟の侵害論の審理が長期に及ぶ場合、侵害論についての裁判所の心証開示前に(損害論の審理に入る前に)、上記「3年」が経過してしまうおそれもある。そこで、特許訴訟の場合の一部請求の場合の残部について(裁判所の侵害の心証が得られるならば、いずれ)請求を拡張してこれを請求の趣旨に含めるとしても、それをどのタイミングまでに行う必要があるのかが気になる(もし、残部の消滅時効との関係で、裁判所の心証開示前に全額拡張しなければならないとなると、一部請求が上記印紙代節約に役立たない。)。 この点、本件の判示によれば、数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合、残部に対しては「裁判上の請求に準ずる」消滅時効の中断の効力は生じないが、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り「裁判上の催告として」消滅時効の中断の効力を生じる。通常の特許訴訟であれば「残部をおよそ請求しない」ということはないので、上記特許訴訟の一部請求のケースで言えば、残部部分については「裁判上の催告として」消滅時効の中断の効力を生じ、侵害論の心証開示前に、たとえ上記消滅時効の「3年」に至る行為が生じたとしても慌てて全額拡張をする必要は無く、侵害論の心証開示後に請求を拡張すれば足りると言えそうである。 (3)なお、本件は、上記(事案の時系列)で示したように、催告((3)の平成17年4月16日)→本来の時効完成時期(平成12年6月24日+5年)→前訴訟提起(平成17年10月14日)と進んでいる点に特徴がある。この点に対し、最高裁は、「消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6箇月を経過することにより,消滅時効が完成するというべきである。この理は,第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。」と判断している。訴え提起前に当事者間で書面のやりとりをし、その中で、損害賠償債権についての催告を行っている場合(さらに消滅時効の「3年」に近い場合)には、一部請求とすると残部に消滅時効が完成してしまうケースも有り得るので注意する必要がある。